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2章、第二王子は魔王ではありません
52、ざまぁみろと言ってやる(後半)
しおりを挟む第二王子パーニスは、王城の方角を見た。
『アンテナとネジの塔』は、国民の生気や魔力をごく少量ずつ収集し、アルワースに送る仕掛けのある塔だった。仕掛けは、王都内にいれば王族なら容易に操作できる。
パーニスは仕掛けを逆流させた。
民から塔へ、塔からアルワースへと流れる活力の流れを、アルワースから塔へ、塔から民へと流れるように。
『……!? なんだ、仕掛けが逆流している!? 誰が――』
異常事態に気付いたアルワースが騒ぎ出している。
パーニスは目の前の魔王の刃をかいくぐりつつ、大地に手をついた。
手のひらから闇魔法を地中に注げば、国中に巡らされたアルワースの根に届く。
根から闇に染め、意識を落としてやるまで、そう時間はかからなかった。
『お、お前、第二王子……まさか――』
アルワースからもらった枝から声が聞こえる。
自分から切り離した枝を介して遠隔で会話するとは、器用な魔法だ。真似したら婚約者といつでも会話できそうでワクワクする――じゃなくて。
「ははっ、アルワース。ようやく気付いたようだが、もう遅い」
『おい、やめろ。戻せ。わしの力を吸うな! この前、枝を配ったばかりなんだ。魔王も仕掛けを弄ったから、わしは今ボロボロで……』
声が弱まっていき、途絶える。
会話する余力も尽きたのだろう。
「木は枯れるものだ、アルワース……ざまぁみろ」
さて、魔王討伐もしなければ。
体は軽く、意識は冴えている。
回避も受け流すこともたやすく、危険を感じることがない。
魔王が放った炎の波を、水の魔法で相殺し。
魔王がもたらした闇の煙を光の魔法で晴らし、閃く凶刃を余裕で回避して、大胆に前進する。
「――ハッ!」
横に一閃させたパーニスの刃が、魔王の脚を傷つける。人形魔法で「鳴け」と命じれば、魔王の喉が震えた。
「ギャアアアアアアア‼」
生物の持つ本能に警鐘を鳴らし、聞く者すべてに恐怖を誘うおぞましい咆哮が、空気を震撼させる。
「きゃっ」
「ひぃ……っ」
民が耳を塞ぎ、怯える。
それでいい。魔王は、恐ろしい存在であれ。
王子は勇ましく死神の鎌を振り上げた。
望みは、願いは、誓いは、明確だった。
――救世を。勝利を。
【演出する】
刃と刃が衝突して、離れ、再びぶつかる。
その動きが、加速する。
一度、二度、三度。
金属が連続で音をたて、打ち合いの音で世界を支配していく。見守る皆の聴覚をそれだけで埋め尽くしていく。
【これは、見世物だ】
斬撃が肉を断ち、骨を砕く。
ぶつかり合う魔力の余波で黒薔薇邸の残骸がさらに崩れた。
黒薔薇邸に住む貴族、外務大臣とイアンディールには悪いが、あの2人もパーニスにとって不快なことをやらかしてくれたのだからお互い様だ。許してもらおう。
それだけ強大な相手だったのだ、激しい戦いだったのだ、と言う証拠にも、なるだろう。
「そろそろ締めるか」
決着は誰の目にもわかりやすいようにと意識して――パーニスの刃は、魔王の胸を貫いた。
「断末魔をあげろ」
「……ッ、アアアアアアアアッ」
人形魔法や属性魔法を併用して、演出を加える。
魔王の全身が煙のようになって、空気に溶けるように消えていく――勝利を感じた民が目を輝かせている。
「やったか!?」
という声も聞こえる。
それは、異世界だとフラグだと散々言われているやつなんだよな。
記憶を取り戻したパーニスの頭には、実は異世界の知識がある。
苦笑しそうになるのを堪えつつ、パーニスは表情を引き締めた。
民が「格好良い」と憧れる、理想の英雄を演じなければならない。
さあ、仕上げといこうか!
「魔王はこの俺、第二王子パーニスが滅ぼしたぞ!」
パーニスは威風堂々と声をあげた。
「愛するマギア・ウィンブルムの民よ。秘めていたことを打ち明けよう。実は、俺は建国の英雄アークライトの生まれ変わりである。警戒されずに成長し、確実に魔王マギライトを仕留めるために、生まれ変わりであることを隠してきたのだ」
割れるような歓声が湧く。疑う者は、誰もいない。
――――これで、英雄王子の完成だ。
「魔王マギライトは討伐した。そこで、もうひとつ重大な話を聞いてほしい。守護大樹アルワースについてだ」
英雄王子は、演説した。
「守護大樹アルワースは弱っている。それは魔王のせいもあるが、あまりにも長い年月、我が国を支え続けて精神が摩耗したせいでもある。というのも、実は、アルワースは元を辿ると人間の魔法使いであった」
守護大樹は人々にとって神に等しい存在だ。
しかし大事なのは「神ではない」という点だった。
「何百年も国を守護し続けたのは驚異的で、その献身には頭が上がらないが、人間の精神には、やはり限界がある。アルワースは魔王の存在が心配で無理して生き続けてきたが、魔王を討伐して安心できれば、その長い人生を終わりにするつもりだと俺に話してくれた」
もちろん、アルワースはそんなことを言っていないが、奴の意識は闇魔法で閉ざしてある。本人から反論がこないので、言いたい放題だ。
「そ、そんな」
「守護大樹様が……」
民はショックを受けつつも、「限界ならばどうしようもない……」「長い間、無理して頑張ってくださっていたことに感謝せねば……」という声が聞こえてくる。
善良で好ましい反応である。
「愛する王国の民よ。優しい皆の心を、俺は本当に愛しく思っている」
パーニスは、彼らに美しい物語を贈った。
かつて、アルワースが虚偽で民を導いたように。
「アルワースは、『魔王討伐が成功したら、自分の根は錬金術で自然の土に変え、地上に出てる樹木の部位は解体し、建築材や畑の肥やしにしろ』と言っていた。死してなお、その身を余すところなく我が国の糧として提供してくれるアルワースに敬意を示し、ありがたく活用させていただこう!」
だいたい、陸地を支えるだけなら、根っこはともかく地上に出てる部分は無くてもいいじゃねえか。
内心でつっこみを入れつつ、パーニスは演説を締めくくった。
「我々は守護大樹にずっと寄りかかって生きてきたが、もう自立できる! 助け合って生きていこう!」
さらば、旧友よ。
俺の完全勝利だ。
もう一度言おう――ざまぁみろ!
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