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2章、第二王子は魔王ではありません
44、不言実行と寸劇のメロンパン(残り46袋)
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パーニス殿下はドアを背にして、なんと床に座り込んだ。
門番みたいだ。王子なのに。
「お邪魔してます、パーニス殿下。イアンディールはイタズラをしただけで……」
「知ってる」
「あっ、ご存じなんですね? じゃあ、イアンディールをあまり酷い目に遭わせたりはしないですよね?」
「そうだな」
あっ、笑顔だ。爽やかな笑顔だ。大丈夫そうだ。
さすがパーニス殿下。何があっても怖くない。安全、安心。
よかったよかった。
「きゅうー」
ルビィも「こわくないよ」とアピールするように愛らしく鳴いて、私の肩にのぼってくる。
可愛い。
「よかったです。ちょっと心配だったので」
「そうか。俺も心配していた」
「あ~~、そうだったんですね。さすが、お優しい」
そうだよね。そもそも、イアンディールはパーニス殿下の配下で、ランチ会の仲間でもあるんだもの。
パーニス殿下は床に落とした袋を拾い、テーブルに置く作業を開始した。
「手伝いますよ」
「ありがとう。ひとつやろう」
「どうも……」
袋の中身はメロンパンだった。さすがに今食べる気にはならないけど、ありがたくお持ち帰りすることにしよう。
それにしても、メロンパンがいっぱいある。
1つ、2つ、3つ……46袋。
「そういえば、殿下。知ってると仰いましたが、何をどのくらいご存じですか?」
「イアンディールの家に兵を派遣する程度の内容は把握しているぞ」
「手配がお早いですね」
コンコン、とドアがノックされている。
開けないのかな、と見ていると、パーニス殿下は眉を寄せた。
「だいたい、イアンディールは説明調すぎるんだ。閉じ込めちゃったと言うより実際に閉じ込めてしまえばいい」
「はあ、なるほど。不言実行精神ですね。ところで私は閉じ込められるのがあまり好きではありません」
「得意分野なのに?」
情報通なのはわかるけど、 なんで私が得意分野だと話したのを知ってるんだろう。
クロヴィスが話したのかな?
あと、ドアのノックが続いているけど?
「マリンベリー。お前が『重いのが困る』と言っていたので、俺は軽くなろう」
「どういう意味でしょうか? ダイエット?」
「言いたいことが山ほどあるが、俺は言わない。イタズラくらい可愛いものだ。兄上も思い出作りをさせてやれと煩いし」
「なるほど。イージス殿下は思い出作りがお好きですね」
ここにいないもう一人の殿下に思いを馳せていると、本人の声がドアの向こうから聞こえてきた。
「パーニス。乱暴はいけないよ。パーニス、兄さんと話そう。監禁はいけない」
イージス殿下だ。
ドアの向こう側で、たぶん心配してくれている、気がする。
「イー……むぐっ?」
名前を呼ぼうとすると、伸びてきた手に口が塞がれた。
目を白黒させて見ると、パーニス殿下が「黙っているように」と目配せをして変な寸劇を始めるではないか。
「俺も我慢してるのに……何が思い出だ。めちゃくちゃにしたいだと。そんなもん、俺が一番思っているというのに」
わざとらしい大声だ。
しかも、妙に感情が入っている。演技が上達しましたね、殿下。
そしてこれはイタズラですね。
じゃれるように私を抱っこして、そのままベッドに寝てしまった。
「兄上にはうんざりだ。しばらく放置しておこう。昼寝だ、昼寝」
「イタズラしてる場合じゃないと思いますよ、殿下。魔王とか……」
抱き枕みたいに抱っこされている。
本気で昼寝しそうな気配だ。目を閉じてる。
「魔王は捕縛に向かわせた。外務大臣はイアンディールともども自宅謹慎を命じて親子の交流時間をもっと持つように命じよう」
「きゅう」
ルビィが枕元で尻尾をポフポフと降らしている。
パーニス殿下は余裕たっぷりに言葉を紡ぎ、私の髪を一束手に取って口付けをした。
そして、本当にそのまま寝入ってしまった。
「え、ええ――……」
すう、すうと規則正しく繰り返される呼吸は穏やかで、寝ているフリをしているようにはとうてい見えなかった。
信じられない。この状況で?
それにしても端正な寝顔だ。白銀の睫毛が綺麗。
軽くひらかれた口元なんて無防備で――あまりじろじろ見てはいけない感じがする。やめておこう。
でも、密着していると目のやり場にも困るよね。
呼吸に合わせて上下する胸板とか。喉ぼとけとか。
――目を閉じよう。
「……」
そうこうしているうちに、気づけば私も眠気を誘われて、うとうとと微睡んでくる。
人間というのは、「こんな状況で?」と思っても横になって目を閉じていると、意外と眠ることができるらしい――――すやぁ……。
門番みたいだ。王子なのに。
「お邪魔してます、パーニス殿下。イアンディールはイタズラをしただけで……」
「知ってる」
「あっ、ご存じなんですね? じゃあ、イアンディールをあまり酷い目に遭わせたりはしないですよね?」
「そうだな」
あっ、笑顔だ。爽やかな笑顔だ。大丈夫そうだ。
さすがパーニス殿下。何があっても怖くない。安全、安心。
よかったよかった。
「きゅうー」
ルビィも「こわくないよ」とアピールするように愛らしく鳴いて、私の肩にのぼってくる。
可愛い。
「よかったです。ちょっと心配だったので」
「そうか。俺も心配していた」
「あ~~、そうだったんですね。さすが、お優しい」
そうだよね。そもそも、イアンディールはパーニス殿下の配下で、ランチ会の仲間でもあるんだもの。
パーニス殿下は床に落とした袋を拾い、テーブルに置く作業を開始した。
「手伝いますよ」
「ありがとう。ひとつやろう」
「どうも……」
袋の中身はメロンパンだった。さすがに今食べる気にはならないけど、ありがたくお持ち帰りすることにしよう。
それにしても、メロンパンがいっぱいある。
1つ、2つ、3つ……46袋。
「そういえば、殿下。知ってると仰いましたが、何をどのくらいご存じですか?」
「イアンディールの家に兵を派遣する程度の内容は把握しているぞ」
「手配がお早いですね」
コンコン、とドアがノックされている。
開けないのかな、と見ていると、パーニス殿下は眉を寄せた。
「だいたい、イアンディールは説明調すぎるんだ。閉じ込めちゃったと言うより実際に閉じ込めてしまえばいい」
「はあ、なるほど。不言実行精神ですね。ところで私は閉じ込められるのがあまり好きではありません」
「得意分野なのに?」
情報通なのはわかるけど、 なんで私が得意分野だと話したのを知ってるんだろう。
クロヴィスが話したのかな?
あと、ドアのノックが続いているけど?
「マリンベリー。お前が『重いのが困る』と言っていたので、俺は軽くなろう」
「どういう意味でしょうか? ダイエット?」
「言いたいことが山ほどあるが、俺は言わない。イタズラくらい可愛いものだ。兄上も思い出作りをさせてやれと煩いし」
「なるほど。イージス殿下は思い出作りがお好きですね」
ここにいないもう一人の殿下に思いを馳せていると、本人の声がドアの向こうから聞こえてきた。
「パーニス。乱暴はいけないよ。パーニス、兄さんと話そう。監禁はいけない」
イージス殿下だ。
ドアの向こう側で、たぶん心配してくれている、気がする。
「イー……むぐっ?」
名前を呼ぼうとすると、伸びてきた手に口が塞がれた。
目を白黒させて見ると、パーニス殿下が「黙っているように」と目配せをして変な寸劇を始めるではないか。
「俺も我慢してるのに……何が思い出だ。めちゃくちゃにしたいだと。そんなもん、俺が一番思っているというのに」
わざとらしい大声だ。
しかも、妙に感情が入っている。演技が上達しましたね、殿下。
そしてこれはイタズラですね。
じゃれるように私を抱っこして、そのままベッドに寝てしまった。
「兄上にはうんざりだ。しばらく放置しておこう。昼寝だ、昼寝」
「イタズラしてる場合じゃないと思いますよ、殿下。魔王とか……」
抱き枕みたいに抱っこされている。
本気で昼寝しそうな気配だ。目を閉じてる。
「魔王は捕縛に向かわせた。外務大臣はイアンディールともども自宅謹慎を命じて親子の交流時間をもっと持つように命じよう」
「きゅう」
ルビィが枕元で尻尾をポフポフと降らしている。
パーニス殿下は余裕たっぷりに言葉を紡ぎ、私の髪を一束手に取って口付けをした。
そして、本当にそのまま寝入ってしまった。
「え、ええ――……」
すう、すうと規則正しく繰り返される呼吸は穏やかで、寝ているフリをしているようにはとうてい見えなかった。
信じられない。この状況で?
それにしても端正な寝顔だ。白銀の睫毛が綺麗。
軽くひらかれた口元なんて無防備で――あまりじろじろ見てはいけない感じがする。やめておこう。
でも、密着していると目のやり場にも困るよね。
呼吸に合わせて上下する胸板とか。喉ぼとけとか。
――目を閉じよう。
「……」
そうこうしているうちに、気づけば私も眠気を誘われて、うとうとと微睡んでくる。
人間というのは、「こんな状況で?」と思っても横になって目を閉じていると、意外と眠ることができるらしい――――すやぁ……。
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