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2章、第二王子は魔王ではありません
43、ヤリ部屋へようこそ! 出して?
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六果の二枝、6月2日。
「マリンベリーちゃん、 入り口の段差に気を付けてね」
「あ、はいっ」
イアンディールに案内されて、私は【フクロウ】のアジトに入った。
地下空間は広くて、天井の高い。
もうひとつの街みたい。
でも、ところどころが不自然な土の壁と魔法の結界で塞がれている。
じーっと見ていると、見覚えある2人組が近づいてきて膝をついた。
金髪のレオと茶髪のエド、だっけ?
レオが勢いよく頭を下げて、「地上では失礼しました!」と謝ってくる。
「あれは『壊れた』場所です……放置していると他の区域に水が押し寄せてきて、大変なことになってしまうんです」
エドが説明して、頭を下げる。
レオ、エドの2人が一緒になって頭を下げた姿勢で静止すると、イアンディールが2人を紹介してくれた。
「レオは他国から来て【フクロウ】に入った新人で、礼儀を叩きこまれてる最中なんだ。こっちのエドはレオの親戚で、教育係。あと、あっちの柱の陰にいるのは情報屋」
いろんなメンバーがいるんだなぁ。
「この部屋はお茶を楽しむ部屋。中へどうぞ。お姫様」
「いろんなお部屋があるんですね……」
お茶を楽しむお部屋は、テーブルセットだけではなくベッドまであった。
「寝泊りできるんだ、ここ。仮眠室とかヤリ部屋と呼ばれたりもしてる。鍵もかけられるんだよね」
「槍部屋?」
ガチャリとドアを閉めて、イアンディールは片手の人差し指を自分の唇に当てた。
そして、その人差し指をクイッとドアに向けた。
ドアは内側から鍵がかけられるみたいだけど、鍵はかかっていない。
「……?」
なんだろう。
「僕は今、鍵をかけたよ。君をこの部屋に閉じ込めちゃった」
「えっ」
どう見ても鍵はかかっていないけど?
「閉じ込めたの。マリンベリーちゃん。もっと嫌がって」
「え、えー……?」
目配せされている。
そういうフリをしろってこと?
もしかして、私が「閉じ込められるのは得意分野」と言ったので閉じ込めごっこしてる?
「だ……出してー?」
調子を合わせてみると、イアンディールはにっこりした。
「いい子、いい子」
子供扱いする調子だ。何考えてるんだろ。
首をかしげていると、ドアの外でゴトッと音がした。人がいる……。
ここは【フクロウ】のアジトだ。
当然、閉じ込められてもすぐ助けられるよね。鍵もかかってないし。
他の人に「閉じ込めた」という嘘が信じられちゃうとどうなるだろう?
――イアンディールが責められるよね。当然。
「僕ね、マリンベリーちゃん」
「あっ、はい」
「君が僕を寂しがり屋だと同情してくれているのが嬉しいんだ。君みたいな子の優しさに付け入って甘えるのが大好物なのさ。それでね、こういう部屋に連れ込んで襲っちゃうんだ」
「結構クズなこと仰いますね……? それわざとですよね?」
「嫌だと言ってもやめてあげないよ」
「わざとですね?」
ソファに座ると、イアンディールは隣に並んで座り、私の肩を抱いた。
そして、耳元に口を寄せて囁いた。
「マリンベリーちゃん。ドアの外に人が集まってるよ」
「タチが悪いイタズラしようとしてますね?」
意図がはっきりして、脱力する。
「相思相愛になる必要なんてないのさ。どうせ誰も僕を愛したりはしないってわかってるから……」
自嘲するように言うのを見た感じ、演技半分、本音半分ってとこだろうか。
彼がイージス殿下と親しくなった理由がわかった気がする。似てるんだ。
「イアンディール。そういうの、よくないと思います」
「付き合ってよ」
「その結果どうなるか考えたら、やめた方がいいと思うんですよね」
でも、小声で続く言葉は、真剣だった。
「君の本命ってさ、どっちの殿下なの? どっちもそれほど好きじゃないの? 君が僕に『よくない』というなら僕だって君に言いたいことがあるよ」
「えっ」
「パーニス殿下もイージス殿下も、君に本気だよ。君はどうなのさ? 政略とか家のためにとか置いといて、どっちかの殿下に恋愛感情がある? それとも、どっちにもない? 義務だけの婚約と、一方的に好かれてるだけの関係?」
私にだけ聞こえる声量で言うから、どきりとする。
「義務だけとか、一方的ってことはないですが……」
「恋愛感情が二人に同じぐらいある?」
「乙女ゲームでもそんなヒロインはいないかと」
「オトメゲームは置いといて。今は君の話をしてるんだけど?」
真面目な恋愛話を仕掛けてくるなんて、不意打ちだ。
動揺していると、イアンディールは「ふふっ」と笑った。
そして、体重をかけて私をソファに押し倒した。
ギシッ、とソファが軋む音が――大きく聞こえる。
「ほんと可愛い。いっそ僕がめちゃくちゃにしたい。気を抜くと本気で襲っちゃそー……」
「あ……っ!?」
組み敷かれて、襲われてる。
そう思ったときには、ドアが蹴り開けられていた。
「何をやってるんだ!」
全部わざとだ。
アジトまで来て、こんなことを仕掛けるんだもの。
鍵もかけてなかったし、入ってきたメンバーに腕を掴まれ、私から引っぺがされたイアンディールは満足そうな顔だもの。
「やあ、たくさん来たね……げっ」
部屋の中に人がなだれ込んでくる。
「げっ」は父親が紛れてるのを見ての一言だ。父親の外務大臣のヴァラン伯爵が乗り込んでくるのは嫌だったらしい。
「大臣閣下を入れたの誰だ!? おかしいだろ」
「うちの息子に乱暴はするな! 金ならいくらでもやるぞ!」
「普通に愛されてるじゃないですかー!」
怒鳴り合い、押し合い、ああ大混乱。
「あの、ちょっと待ってください……」
私がネタバラシするより前に、部屋からイアンディールが引っ立てられていく。
入れ違いにパーニス殿下がやってきて、パタン、ガチャリとドアが閉じる。
あっという間だ。気付けば2人だ。
床にどさどさと置いた袋はなんですか?
トブレット・ベーカリーの袋ですね?
いっぱいありますね?
あと、今鍵を閉めました?
…………出して……?
「マリンベリーちゃん、 入り口の段差に気を付けてね」
「あ、はいっ」
イアンディールに案内されて、私は【フクロウ】のアジトに入った。
地下空間は広くて、天井の高い。
もうひとつの街みたい。
でも、ところどころが不自然な土の壁と魔法の結界で塞がれている。
じーっと見ていると、見覚えある2人組が近づいてきて膝をついた。
金髪のレオと茶髪のエド、だっけ?
レオが勢いよく頭を下げて、「地上では失礼しました!」と謝ってくる。
「あれは『壊れた』場所です……放置していると他の区域に水が押し寄せてきて、大変なことになってしまうんです」
エドが説明して、頭を下げる。
レオ、エドの2人が一緒になって頭を下げた姿勢で静止すると、イアンディールが2人を紹介してくれた。
「レオは他国から来て【フクロウ】に入った新人で、礼儀を叩きこまれてる最中なんだ。こっちのエドはレオの親戚で、教育係。あと、あっちの柱の陰にいるのは情報屋」
いろんなメンバーがいるんだなぁ。
「この部屋はお茶を楽しむ部屋。中へどうぞ。お姫様」
「いろんなお部屋があるんですね……」
お茶を楽しむお部屋は、テーブルセットだけではなくベッドまであった。
「寝泊りできるんだ、ここ。仮眠室とかヤリ部屋と呼ばれたりもしてる。鍵もかけられるんだよね」
「槍部屋?」
ガチャリとドアを閉めて、イアンディールは片手の人差し指を自分の唇に当てた。
そして、その人差し指をクイッとドアに向けた。
ドアは内側から鍵がかけられるみたいだけど、鍵はかかっていない。
「……?」
なんだろう。
「僕は今、鍵をかけたよ。君をこの部屋に閉じ込めちゃった」
「えっ」
どう見ても鍵はかかっていないけど?
「閉じ込めたの。マリンベリーちゃん。もっと嫌がって」
「え、えー……?」
目配せされている。
そういうフリをしろってこと?
もしかして、私が「閉じ込められるのは得意分野」と言ったので閉じ込めごっこしてる?
「だ……出してー?」
調子を合わせてみると、イアンディールはにっこりした。
「いい子、いい子」
子供扱いする調子だ。何考えてるんだろ。
首をかしげていると、ドアの外でゴトッと音がした。人がいる……。
ここは【フクロウ】のアジトだ。
当然、閉じ込められてもすぐ助けられるよね。鍵もかかってないし。
他の人に「閉じ込めた」という嘘が信じられちゃうとどうなるだろう?
――イアンディールが責められるよね。当然。
「僕ね、マリンベリーちゃん」
「あっ、はい」
「君が僕を寂しがり屋だと同情してくれているのが嬉しいんだ。君みたいな子の優しさに付け入って甘えるのが大好物なのさ。それでね、こういう部屋に連れ込んで襲っちゃうんだ」
「結構クズなこと仰いますね……? それわざとですよね?」
「嫌だと言ってもやめてあげないよ」
「わざとですね?」
ソファに座ると、イアンディールは隣に並んで座り、私の肩を抱いた。
そして、耳元に口を寄せて囁いた。
「マリンベリーちゃん。ドアの外に人が集まってるよ」
「タチが悪いイタズラしようとしてますね?」
意図がはっきりして、脱力する。
「相思相愛になる必要なんてないのさ。どうせ誰も僕を愛したりはしないってわかってるから……」
自嘲するように言うのを見た感じ、演技半分、本音半分ってとこだろうか。
彼がイージス殿下と親しくなった理由がわかった気がする。似てるんだ。
「イアンディール。そういうの、よくないと思います」
「付き合ってよ」
「その結果どうなるか考えたら、やめた方がいいと思うんですよね」
でも、小声で続く言葉は、真剣だった。
「君の本命ってさ、どっちの殿下なの? どっちもそれほど好きじゃないの? 君が僕に『よくない』というなら僕だって君に言いたいことがあるよ」
「えっ」
「パーニス殿下もイージス殿下も、君に本気だよ。君はどうなのさ? 政略とか家のためにとか置いといて、どっちかの殿下に恋愛感情がある? それとも、どっちにもない? 義務だけの婚約と、一方的に好かれてるだけの関係?」
私にだけ聞こえる声量で言うから、どきりとする。
「義務だけとか、一方的ってことはないですが……」
「恋愛感情が二人に同じぐらいある?」
「乙女ゲームでもそんなヒロインはいないかと」
「オトメゲームは置いといて。今は君の話をしてるんだけど?」
真面目な恋愛話を仕掛けてくるなんて、不意打ちだ。
動揺していると、イアンディールは「ふふっ」と笑った。
そして、体重をかけて私をソファに押し倒した。
ギシッ、とソファが軋む音が――大きく聞こえる。
「ほんと可愛い。いっそ僕がめちゃくちゃにしたい。気を抜くと本気で襲っちゃそー……」
「あ……っ!?」
組み敷かれて、襲われてる。
そう思ったときには、ドアが蹴り開けられていた。
「何をやってるんだ!」
全部わざとだ。
アジトまで来て、こんなことを仕掛けるんだもの。
鍵もかけてなかったし、入ってきたメンバーに腕を掴まれ、私から引っぺがされたイアンディールは満足そうな顔だもの。
「やあ、たくさん来たね……げっ」
部屋の中に人がなだれ込んでくる。
「げっ」は父親が紛れてるのを見ての一言だ。父親の外務大臣のヴァラン伯爵が乗り込んでくるのは嫌だったらしい。
「大臣閣下を入れたの誰だ!? おかしいだろ」
「うちの息子に乱暴はするな! 金ならいくらでもやるぞ!」
「普通に愛されてるじゃないですかー!」
怒鳴り合い、押し合い、ああ大混乱。
「あの、ちょっと待ってください……」
私がネタバラシするより前に、部屋からイアンディールが引っ立てられていく。
入れ違いにパーニス殿下がやってきて、パタン、ガチャリとドアが閉じる。
あっという間だ。気付けば2人だ。
床にどさどさと置いた袋はなんですか?
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