甘党魔女の溺愛ルートは乙女ゲーあるあるでいっぱいです!

朱音ゆうひ

文字の大きさ
上 下
42 / 77
2章、第二王子は魔王ではありません

39、救世の聖女と3誰マン先生

しおりを挟む
「誰の役にも立てない、誰からも必要とされない、誰も救えない。そんな『3誰マン』がミディー先生なんだ。フフフ……死にたい……以上。ぐすっ」
「せ、先生。元気を出して」
 
 ミディー先生はネガティヴだ。
 原作では明るく朗らかなお兄さん先生だったのになあ……。
 『3誰マン』なんて初めて聞いたよ。前世でも聞いたことがないよ。

「ウィッチドール伯爵令嬢……ミディー先生が救えなかったイージス殿下を救ってくれてありがとう。本当は先生が救ってあげたかったけど、先生は無力だ……もっと力があれば……以上……」
「先生。こっちを見て。壁に藁人形立てかけて五寸釘打ち込もうとしないで」
「ハッ。教え子に嫉妬するなんて……ミディー先生は……もう、死ぬしか」
「やめて先生。どうしてそうなるの。ちょっと落ち着こう先生」
 
 ミディー先生のハートは繊細だ。
 どうしてこうなっちゃったんだろう。
 
 しかし、しばらく話しているとミディー先生は少しずつ落ち着いてくれた。
 コツは、「自分が悪い」と思わせないこと。それと「自分が頼られていて、役に立っている」と思わせることだ。
 私はコツを掴んだ。

「ミディー先生、日記帳はイージス殿下のイタズラだったんです。私、みんなに噂されていて、誤解を解きたくて見せたんです。ごめんなさい。困ってるんですけど、今後頼らせていただいていいですか? あと、守護大樹の浄化に先生がすごく貢献しているって聞きました。学校の先生のお仕事もあるのに、浄化のお仕事もしてくださって、さすがミディー先生ですね。すごい! はぁはぁ」

 最後の「はぁはぁ」は、息切れだ。早口に力いっぱい言ったので。
 
「マリンベリーくんは……困っていたのか。イージスくんにイタズラされちゃったんだね。そっかぁ。恋愛の噂は貴族令嬢の名誉にかかわるよね。ミディー先生が今度イージスくんを叱っておくよ。男子はすぐ悪ノリするから、また何かあったらミディー先生を頼ってね。守護大樹の浄化はカリスト様が張り切っていてね。ミディー先生はカリスト様に先日、『猫の手も必要な時なので、生きていてくれて助かる』と言ってもらえたよ。以上!」
 
 ああ、嬉しそうな早口。息切れしてない。先生すごい。
 
 ミディー先生は、日記帳と一緒にグミをくれた。
 ちょっと仲良くなれた気がする。

「わあぁっ、ありがとうございますミディー先生。私、グミ好きなんです! 嬉しい……!」
「フフッ、ミディー先生は可愛い教え子のことをお見通しだよ♪」

 ミディー先生はパチンとウィンクをして、そっと言葉を足した。

「あのとき、先生を助けたいと言ってくれたよね。ありがとう。嬉しかったんだ……」
 
 先生が元気になってる。よかった~~!
 
 
   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
 
 
 王立魔法学校がお休みの、五果三十枝、5月30日。
 
 私は守護大樹アルワースの浄化完了の確認式とお祝いパーティに出席した。
 守護大樹は、無事に浄化できたのである。

 場所は、守護大樹アルワースの前。相変わらず巨大な木だ。
 
 浄化完了の確認式は、午前中に行われた。
 国王陛下とパーニス殿下が並んで守護大樹の前に進み、魔女家当主のキルケ様と賢者家当主のカリスト様が「完了しております」と保証するという簡単な儀式だ。
 
 賢者家に協力してもらったのが原作の乙女ゲームよりも遅かったので心配していたけど、間に合ってよかった。
 キルケ様に教えてもらった話によると、実は賢者家当主のカリスト様がパーニス殿下にせっつかれ、とても頑張ってくれたのだとか。

「カリスト、よくやったぞ。褒めてつかわす」
「パーニス殿下。光栄です。以上!」
    
 歴史と大恩ある大樹を燃やさずに済んだので、集まっているみんなの表情は明るい。

 明るい時間帯なのでわかりにくいけど、大樹もほんのりと枝の先端が光を帯びている気がする……。
 
「守護大樹アルワースよ。いつも我が国を見守ってくれるそなたを失わずに済み、よかった。ところで、話したいことがあるのだ」
 
 国王陛下が語り掛けると、守護大樹は枝からふわふわとした光を発した。そして、可愛い子どもの声で返事をした。この守護大樹、話かけると1000回中1回くらいの割合で喋ってくれるのである。
 無反応の999回は、「話すほどじゃない」とか「気分じゃない」とか「余裕がない」という理由らしい。

「わしを呼んだかの。最近ずっと具合が悪くて意識が朦朧としていたのだが、今日は気分がいい」

 以前は喋ってくれなかったが、今日は喋ってくれた。 
 守護大樹が応答してくれたので、「おおっ」とどよめきが生まれている。
 
 ちなみにこの守護大樹、一人称が「わし」。可愛い子どもボイスのおじいちゃんっぽい喋り方である。
  
 国王陛下は表情を安堵に染めつつ、大樹に手をついて頭を垂れた。
 前世で私、そういうポーズが「反省のポーズ」と呼ばれてたのを見たことある。
 
「つい最近、息子イージスが魔王の心を宿していたことがわかった。父親なのに気づくことができず、我が身の至らなさを反省するばかりである……」

「それは大変じゃないか。魔王は今どこに?」

 守護大樹は真剣な口調になった。やはり魔王の話題となるとふざけていられないらしい。

「魔王は息子の体からぬいぐるみへと移したのだが、気づいたら消えていたと報告されている」

 パーニス殿下が説明すると、守護大樹は「見つけたらわしのもとに連れてきてくれ」と言葉を返した。そして、ふわりと枝を揺らして光の粉をきらきらと降らせた。

「わあ!」

 昼前の青空にたくさんの光の粉が舞って、キラキラしている。
 しかも、その光の粉がふわふわしながらこっちに集まってくるような。

 気のせい?
 いや、気のせいじゃない。
 だって、みんなが私を見てるもん。

「聖女マリンベリー」
「へっ?」

 守護大樹が突然、私の名前を呼んだ。しかも「聖女」とな。
 待って。私、全属性魔法使いじゃないよ? それに、性格も……。

「救世の聖女に任じるので、壊れた国を直してほしい」

 あれ?
 なんか私の知らないゲームが始まった気がする……。

「魔女家の令嬢が聖女に選ばれたぞ!」
「さすがボクの娘。守護大樹様は見る眼があるね。浄化してよかった」

 現場は大歓声に包まれた。

「魔女家は『救世の聖女』を全力でサポートするよ! うちの子だからね!」
「賢者家は賢者の家系ぞ。負けるものか。ミディール、あの娘は魔法学校での教え子だろう。我が家を売り込んでこい。以上」

 キルケ様が「我が家が最強! 我が家の時代!」とドヤ顔をすると、カリスト様が張り合うようにミディー先生を押し付けてきた。

「教え子が聖女になるなんて。ミディー先生もびっくりだよ。……でも、『3誰マン』を必要としてくれた君はすごく優しい子だと思っていたから、言われてみれば聖女の呼び名にふさわしいよね。聖女様、これからは賢者家も総力をあげて国土復建のお手伝いをするよ。以上」

 パーニス殿下がこっちを見ている。

 そういえば私、以前キルケ様と一緒に……。

『ご自覚がありませんか、パーニス殿下? 殿下は今、聖女になりました。私には違いがわかりますよ? 先ほどまでと比べて、身に纏う空気がなんだか清らかで、英雄~って感じです!』

『ボクにもわかるよ。なるほど、聖女……というか、聖人かな。頼もしいね』
 
 き、気まずい。

「パ、パーニス殿下っ。びっくりですね。聖女って2人もなれるものなのですね、うふふ」
 
 こうして、私は『救世の聖女』になった。以上……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

転生侍女は完全無欠のばあやを目指す

ロゼーナ
恋愛
十歳のターニャは、前の「私」の記憶を思い出した。そして自分が乙女ゲーム『月と太陽のリリー』に登場する、ヒロインでも悪役令嬢でもなく、サポートキャラであることに気付く。侍女として生涯仕えることになるヒロインにも、ゲームでは悪役令嬢となってしまう少女にも、この世界では不幸になってほしくない。ゲームには存在しなかった大団円エンドを目指しつつ、自分の夢である「完全無欠のばあやになること」だって、絶対に叶えてみせる! *三十話前後で完結予定、最終話まで毎日二話ずつ更新します。 (本作は『小説家になろう』『カクヨム』にも投稿しています)

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

処理中です...