甘党魔女の溺愛ルートは乙女ゲーあるあるでいっぱいです!

朱音ゆうひ

文字の大きさ
上 下
38 / 77
2章、第二王子は魔王ではありません

35、いるじゃないですか

しおりを挟む
 その日の朝、私は前世の夢を見た。前世の私がゲームをしている夢だ。
 
 美麗なスチルが、最初は顔だけの部分アップで。次に全体が一望できる表示になって、スクリーンショットが2枚増える。
 「ここでセーブすると他ルート回収するときに楽だよ!」というセーブポイントがあるので、そこでセーブをしてストーリーを進める。
 
 マリンベリーがヤンデレ化した攻略対象に拉致監禁されて死ぬ。
 マリンベリーがヒロインちゃんを屋上から落とそうとして避けられて自分が死ぬ。
 マリンベリーが毒を飲んで死ぬ。
 マリンベリーが魔物になって死ぬ。
 マリンベリーが死体で発見される……。

 画面が暗転したタイミングで、真っ黒の画面に自分の顔が映る。

「……あ」

 その顔は、マリンベリーの顔だった。 

 ぱちりと目が覚めて鏡を見ると、ミントブルーの色をした長い髪とマジョリカ・オレンジの瞳の自分が眠そうな顔をしていた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
 
 
 魔法学校に登校してみると、魔女家作と思われる結界が張り巡らされていた。
 イメージとしては、学校がシャボン玉に包まれてるような感じ。

「おはようございます、マリンベリー様」
「あのう、生徒会メンバーになられたのですよね? おめでとうございます」
 
 生徒たちが話しかけてくる。
 いやいや待って。もう知れ渡ってるの?
 役職名はぜひ知らないでいてほしい~~。

「アッ、ありがとうございます。大役ですが、精いっぱいがんばりますね」

 挙動不審になりそうな自分を叱咤して淑女らしい笑みを顔面に貼りつけていると、パーニス殿下が私の頬にキスをして歓声を沸かせた。
 
「マリンベリーには、すでに十分いい仕事をしてもらってる。では、昼休みに迎えにくるからな」
 
 爽やかに去っていくパーニス殿下の姿が見えなくなってすぐ、私はクラスメートたちに囲まれた。

「キスですわー」
「癒し係ってどんな仕事……っ?」
「それはもうイチャイチャして殿下のお心を癒すお仕事ですわよね」
「キャー!」

 役職名は、ばっちりバレていた……。
 私が机に突っ伏しそうになるのをこらえていると、窓際から別の燃料が投下された。

「あっ。イージス殿下だ」

 えっ?

「ご体調が優れないと聞いていたけど顔色がよくて安心した」
「生徒会長が変わって心配していたけど、お元気そう」
 
 窓際に行ってみると、偶然こちらを見たイージス殿下と目が合った。

 いるじゃないですか。学校、通えるんですか?
 
 隣に来たアルティナが耳打ちしてくる。
「外務大臣が『学校を卒業させてあげませんか』と強く訴えたらしいのですわ」
「イアン先輩のお父様ね」
「イージス殿下をもともと支持なさっていた方ですし、イージス殿下の味方をしてくださるのですわね」
 その口ぶりからすると、アルティナもイージス殿下が学校に来れてよかったと思っているみたいだ。

「よかったね」
「ええ、よかったですわね」

 2人で話していると、イージス殿下はニコリと微笑み、手を振った。

「きゃーーーーー!」

 周囲からは、盛大な黄色い歓声が沸いた。
 
 
   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
 
 本日の占星術の授業は、タロットカード占いだ。

「いいかね。余計なことをせず言うとおりにカードを並べてめくるだけだ。そして、自分を占うのであれば自分を良く見つめたまえ。相手を占うときは、相手をよく観察し、相手のためを想うのだ」

 アルメリク先生は生徒たちの間をカツカツと靴音を立てて歩き回り、ぶつぶつと呪文みたいに占いの心得を唱えた。

「誰にでも当てはまる内容。自分にとって都合のいい情報。人はそれを『自分のことだ』と信じやすい。
 占い師は占いを告げることで、相手に影響を及ぼすことができる。
 何かをしないようにする、何かに気を付ける、何かに努める……そういった忠告を聞いた結果、人生が変わるのである。
 多くの人生を見てきた占い師は、霊感や霊視ではなくその人生経験と観察眼、分析能力により、相手のためになる助言ができる。それは技術であり、感性である」

 ためになる話だが、ちょっと眠くなる。

 ちなみに、私が手順通りにカードを並べてめくったカードは塔のカードだった。あまりいい意味じゃないよね。私はカードを見なかったことにした。

「マリンベリー、塔のカードが出ていましたわね。破壊とか悲劇という意味ですわね」
「そんなカード出てない」
「占いをなかったことにするのはいけませんわよ」

 もう一回カードを並べて引いてみると、また塔だった。

「……」
「諦めなさいな」
「うん……」

 レポートに塔のカードの解釈を書いて先生に持っていくと、先生はひっくり返ったカエルを見るような温度感で「気を付けたまえ」と言ってくれた。
 何をどのように気を付けたらいいのだろう……。
 
 お昼休みには、宣言通りパーニス殿下が迎えに来てくれた。

「お迎えですわー!」
「きゃー!」
  
 教室中がはしゃぐ中、「がんばってくださいね!」とアルティナに励まされながら私はパーニス殿下についていった。アルティナもランチ会のメンバーなので一緒にお昼ごはんを食べるのだけど、振り返るとかなり距離を空けてついてくる。

「がんばれと言われても、ただのお昼休み……アルティナ、その距離は何?」
「うふふ。お邪魔しちゃダメかと思いまして。わたくしは気にせず、殿下のお心を癒してくださいませ」

 にんまりとした笑みを浮かべるアルティナに、パーニス殿下は「良い心がけだ」とコメントしている。なんですか、その満足そうな顔は?
 
 噴水公園に行くとメンバーが集まっていた。
 
 地図を手に取り巻きと何か話しているイージス殿下。
 フェルトのぬいぐるみを背中に置いて腕立て伏せしているクロヴィス。
 人間姿でベンチの下で寝ているセバスチャン。
 パン屋のチラシをイージス殿下の取り巻きに配るエリナ。

「兄上は油断するとすぐ人を増やす」
「パーニス。生徒会に変な役職を作ったと聞きましたよ。私物化はいけません」
「俺が必要だと思うので新しい役職は必要なのです。そうだ、兄上。その件も含めて食後にひと勝負いかがです?」
「食前の運動でも構いませんよ」

 気付けば噴水前で兄弟が魔法と剣の両方を使っての決闘……というよりじゃれ合いみたいなのを始めている。
 
「がんばってくださーいイージス殿下ー!」
「パーニス殿下ってあんなに強かったんだ?」
「お前狩猟大会休んでたもんな。俺たちは殿下と一緒だったけど格好よかったよ」

 周囲には生徒たちが集まってきて、気づけば「みんなしてランチをしながら観戦する」という大ランチ会になっていた。
 
「なんで決闘してるんですか?」
「そりゃ、マリンベリー嬢を取り合ってるのさ」

 違いますよ!? 
 
「違いますよー‼」

 全力で否定する声が歓声にかき消されていく。
 
 そんな私にサンドイッチを差し出してくるのは、騎士団長令息のクロヴィスだった。
 クロヴィスは目隠しの布をしたままだけど、全身から心配そうというか、寂しそうなオーラを出していた。
   
「イアン先輩は今日もお休みです。お見舞いの手紙とクッキーを贈ったのですが、食べてくれているでしょうか。お返事もなくて……」

 そういえばイアンディールと仲が良いのだった。
 私もお見舞いの手紙を書いたのだと伝えると、「いっぱいお手紙が届いていてお返事を書く余裕がないのかもしれませんね」と笑う。
 健気な感じ。

「一緒にお見舞いに行きましょうか?」
「実は、お願いしたかったんです」

 クロヴィスはホッとした様子で言って、頭を下げた。

「それと、いつも走り込みを見守っていてくれてありがとうございます」

 私はドキッとした。
 パーニス殿下とクロヴィスが毎朝一緒に走っているのを上空から箒で見ていることを言われているのだ。

「……私が好きでやっているんです」
「励みになっています」

 はにかむように言われたので、私は「早起きしていてよかった」と思った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

気だるげの公爵令息が変わった理由。

三月べに
恋愛
 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したリーンティア。王子の婚約者にはまだなっていない。避けたいけれど、貴族の義務だから縁談は避けきれないと、一応見合いのお茶会に参加し続けた。乙女ゲーのシナリオでは、その見合いお茶会の中で、王子に恋をしたから父に強くお願いして、王家も承諾して成立した婚約だったはず。  王子以外に婚約者を選ぶかどうかはさておき、他の見合い相手を見極めておこう。相性次第でしょ。  そう思っていた私の本日の見合い相手は、気だるげの公爵令息。面倒くさがり屋の無気力なキャラクターは、子どもの頃からもう気だるげだったのか。 「生きる楽しみを教えてくれ」  ドンと言い放つ少年に、何があったかと尋ねたくなった。別に暗い過去なかったよね、このキャラ。 「あなたのことは知らないので、私が楽しいと思った日々のことを挙げてみますね」  つらつらと楽しみを挙げたら、ぐったりした様子の公爵令息は、目を輝かせた。  そんな彼と、婚約が確定。彼も、変わった。私の隣に立てば、生き生きした笑みを浮かべる。  学園に入って、乙女ゲーのヒロインが立ちはだかった。 「アンタも転生者でしょ! ゲームシナリオを崩壊させてサイテー!! アンタが王子の婚約者じゃないから、フラグも立たないじゃない!!」  知っちゃこっちゃない。スルーしたが、腕を掴まれた。 「無視してんじゃないわよ!」 「頭をおかしくしたように喚く知らない人を見て見ぬふりしたいのは当然では」 「なんですって!? 推しだか何だか知らないけど! なんで無気力公爵令息があんなに変わっちゃったのよ!! どうでもいいから婚約破棄して、王子の婚約者になりなさい!! 軌道修正して!!」  そんなことで今更軌道修正するわけがなかろう……頭おかしい人だな、怖い。 「婚約破棄? ふざけるな。王子の婚約者になれって言うのも不敬罪だ」  ふわっと抱き上げてくれたのは、婚約者の公爵令息イサークだった。 (なろうにも、掲載)

【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~

春風由実
恋愛
お城の庭園で大泣きしてしまった十二歳の私。 かつての記憶を取り戻し、自分が物語の序盤で早々に退場する悪しき公爵令嬢であることを思い出します。 私は目立たず密やかに穏やかに、そして出来るだけ長く生きたいのです。 それにこんなに泣き虫だから、王太子殿下の婚約者だなんて重たい役目は無理、無理、無理。 だから早々に逃げ出そうと決めていたのに。 どうして目の前にこの方が座っているのでしょうか? ※本編十七話、番外編四話の短いお話です。 ※こちらはさっと完結します。(2022.11.8完結) ※カクヨムにも掲載しています。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

処理中です...