甘党魔女の溺愛ルートは乙女ゲーあるあるでいっぱいです!

朱音ゆうひ

文字の大きさ
上 下
36 / 77
2章、第二王子は魔王ではありません

33、魔王のぬいぐるみが無くなりました

しおりを挟む
「魔王のぬいぐるみが無くなった?」

 雨が降りそそぐ昼下がりの出来事である。

 魔法学校2年生、『魔女家』の令嬢マリンベリーこと私は、その時、占星術の授業に出席していた。
 ピンク色の耳長猫ルビィがご主人様からの付箋メモをくわえてきて、魔王のぬいぐるみが無くなったことを知ったのだ。

「私語は厳禁」

 占星術師の先生は、毛先を紫に染めた白髪のアルメリク先生。年齢が近くて家柄のいいミディー先生をライバル視している平民出身の先生だ。

 授業で使う占い道具は大きな水晶玉。

「手をかざして魔力をそそいで見えたものについての考察をレポートにまとめなさい」
 
 先生の指示で、生徒たちがそれぞれの机に置いた水晶玉を覗いている。
 私の水晶玉には――あ、パーニス殿下が映ったかも?

「ちっ」

 興味津々で水晶玉を覗いていると、舌打ち混じりに肩を叩かれた。
 顔を上げると、すごく不機嫌そうに眉間にしわを寄せたアルメリク先生が私を見下ろしている。

「我らが貴き校長先生が早速、特権を振りかざされた。行きたまえ」
「えっ。わかりました」

 校長先生からの呼び出し? 一体、なんだろう?


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 校長室には、私の養い親であり魔女家当主でもあるキルケ様がいた。
 真っ黒の魔女帽子に黒髪、紺色の瞳をした、あいかわらず可愛らしいショタっぷりである。

「やあ、ボクの可愛い娘マリンベリー。占星術の授業中だったんだって? 何か視えたかい」
「殺人事件みたいな光景が見えたかもしれません」
「ふうむ、物騒だね。実は悪い知らせがあって、賢者家が封印していた魔王のぬいぐるみが無くなったんだ。今日は早退しておうちにいるように。マリンベリーは魔王に恨まれてる恐れもあるからね」

 キルケ様は私のミントブルーの髪を愛でるように撫でながら、養い親権限を振りかざした。
 家に帰ったら自室に軟禁されるかもしれない。
 
「でもキルケ様。占いのレポートが……」
「おうちでおやり。それと、この魔法学校は今日からボクが校長になる。今日は早退させるが、明日までにこれまでの百倍安全な魔法要塞をつくってやろう」
「校長先生に? それはおめでとうございます」

 ところで、早退とは。

「キルケ様の仰り方ですと、本日は危ないので帰宅させるということですよね。では、もちろん私だけが特別扱いではなくて生徒は全員早退して安全を期する、ということで合ってますよね?」
「他の生徒の心配をするなんて、ボクのマリンベリーはなんて優しいのだろう。では、そうしよう」
 
 魔女家に帰ると、案の定、自室に軽い軟禁状態となった。

   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆

「出して―……あ、出られる」
   
 魔法は使われていなくて、出ようと思えば部屋の外に出ることはできる。いいことだ。
 でも、部屋の外に出ようとすると、赤毛のメイド、アンナが脚にすがりついてくる。

「できるだけお部屋にいさせるようにと上司から言われているんですう。アッ、お嬢様のおみ足にしがみつくなんて、アンナは悪いメイドです。アンナは悪いメイドです。ハァハァ」
「わかったわアンナ。私はお部屋で過ごすから」
「ハーブティーとスコーンをお持ちしますね、お嬢様!」

 アンナはパチンと指を鳴らし、いそいそと部屋を出て行った。

 宿題を先に終わらせてから、私はチューリップ柄のレターセットを取り出した。羽つきペンで書く手紙の送り先は、お休み中のイアンディール先輩だ。
 
『イアンディール先輩へ

 学校をお休みなさっていますが、お元気ですか。次は、いつごろ登校できそうでしょうか。ランチ会のみんなも心配していました。

 今日は、お母様にお部屋にいるように言われてしまって、学校を早退して宿題をたくさんしました。

 ただ、私はずっとお部屋で大人しくしているのは苦手な方でして……。
 先輩も暇を持て余していたりしないかと思いまして。
 自分だったら、事件のその後とか、世の中の出来事が知りたいかなと思って、お手紙を書いてみることにしました。
 
 守護大樹は、あと数日あれば浄化が完了できる見込みだそうです。私も浄化完了の確認式とお祝いパーティに出る予定です。
 
 五果の二十三枝に起きた魔王関連の事件については、国王陛下や大臣たちが連日会議を躍らせています。

 イージス殿下は「魔王の人格が行ったことでも、自分の身体で罪を犯したことに違いない。無罪にはしないでほしい」と主張なさっています。
 国王陛下も「王として決して息子だからという私情で情状酌量をするわけではなく、息子だからこそ厳しくしないといけない」と頭を悩ませているご様子。

 現状、一番有力な落としどころは「イージス殿下が病気にかかったため、王太子の位をパーニス殿下に譲り、療養生活を送る」という案となっています。
 私は良い案ではないかと思うのですが、先輩はいかが思われますか?

 そうそう、それと、魔王のぬいぐるみが無くなったらしいのです。

 それもあって私はお部屋で安全第一な過ごし方をしているのですが、王都民に被害が出たりしなければいいなと思っています。
 あっ、魔法学校は、安全になりそうですよ。
 キルケ様が校長先生になって張り切っていらっしゃいました。
 
 「平和が一番」っていう言葉、前は「刺激が足りない」と感じていたときもあったのですけど、こういう世界にいると「わかるな~」って思っちゃいますね。
 先輩は、いかが思われますか?』
 
 宿泊施設の個室にいたとき、イアンディールが寂しそうだったのと、バッドエンドルートのスチルみたいな「車いす姿でイージス殿下といる」光景を再現されてしまったのが、やっぱり気になったので。
 
 ……気になると言えば、水晶占い。

「パーニス殿下が血まみれのエリナを抱きしめているのが視えた気がするんだけど」

 私の水晶には、とっても気になる光景が見えてしまっていたのである。
 血まみれのエリナが、ステンドグラスが綺麗な教会のような場所でパーニス殿下の腕の中、目を閉じる。

 あれって、エリナが死んじゃうってこと?

 頭をかしげていると、「俺がなんだって」と声がかけられる。

 振り返ると部屋の扉が開いていて、パーニス殿下がいた。

「……パーニス殿下!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

奪われる人生とはお別れします ~婚約破棄の後は幸せな日々が待っていました~

水空 葵
恋愛
婚約者だった王太子殿下は、最近聖女様にかかりっきりで私には見向きもしない。 それなのに妃教育と称して仕事を押し付けてくる。 しまいには建国パーティーの時に婚約解消を突き付けられてしまった。 王太子殿下、それから私の両親。今まで尽くしてきたのに、裏切るなんて許せません。 でも、これ以上奪われるのは嫌なので、さっさとお別れしましょう。 ※他サイト様でも連載中です。 ◇2024/2/5 HOTランキング1位に掲載されました。 ◇第17回 恋愛小説大賞で6位&奨励賞を頂きました。 本当にありがとうございます!

【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

彼女がいなくなった6年後の話

こん
恋愛
今日は、彼女が死んでから6年目である。 彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。 彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。 「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」 何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。 「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」 突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。 ※ガールズラブの要素は殆どありませんが、念の為入れています。最終的には男女です! ※なろう様にも掲載

【完】こじらせ女子は乙女ゲームの中で人知れず感じてきた生きづらさから解き放たれる

国府知里
恋愛
 ゲーム会社で完徹続きのシステムエンジニア・ナナエ。乙女ゲームを納品した帰り、バスの中で寝落ちしてしまう。目が覚めるとそこは乙女ゲームの世界だった! あろうことか、全攻略キャラの好感度がMAXになるという最強アイテムにバグが発生! 早く起きて社長に報告しないと……!  「ええっ、目覚めるためには、両想いにならないとゲームが終わらない~っ!?」  恋愛経験ゼロのこじらせ女子のナナエにはリアル乙女ゲームは高い壁! 右往左往しながらもゲームキャラクターたちと関わっていく中で、翻弄されながらも自分を見つめ直すナナエ。その都度開かれていく心の扉……。人と深くかかわることが苦手になってしまったナナエの過去。記憶の底に仕舞い込んでいた気持ち。人知れず感じてきた生きづらさ。ゲームの中でひとつずつ解き放たれていく……。 「わたし、今ならやり直せるかもしれない……!」  ~恋愛経験値ゼロレベルのこじらせ女子による乙女ゲームカタルシス&初恋物語~

処理中です...