30 / 77
1章、王太子は悪です
27、ウミガメが息継ぎしてます!
しおりを挟む
『五果の二十二枝』……5月22日。15時00分。
『アクアリウム・シーダンジョン』を攻略するパーニス班は、再び集団の中心となっていた。
一度「俺についてこい」と言ったからだろうか、生徒たちは「続きもお供します」とついてきたのである。
水槽は幅も高さもさまざま。
上から手を入れられるような小さな箱状のものもあれば、迷路を形成する壁状態の水槽もあり、柱のようになっている円柱状の水槽もある。
上部に十分な空きスペースがあり、箒で飛翔して飛び越えられる壁水槽もあれば、天井に上部がくっついている水槽もある。
ダンジョン内が薄暗くて、魔法の照明で水槽が照らされているものだから、雰囲気が抜群にいい。ずっと眺めていたくなる。
巨大なシードラゴンに似た魔物に死神の鎌を突き立て、ポイントが増えるのを確認したパーニスは、「ふう」とひと息ついて水槽に目をやった。
オレンジと白の縞模様の魚が可愛い。
水槽の外でシードラゴンが暴れて倒されたのに、「何かありました? 関係ありませんね」みたいな顔でのんびりと泳いでいる。真の強者とは、こういう生き物なのかもしれない。
魚に癒されていると、セバスチャンが知らせてきた。狼の尻尾をブンブン振っている。
「パーニス殿下、ウミガメが手を振ってます!」
「なんでだよ……ほんとだ」
なんてつぶらな目。
クロヴィスも目隠しの布を取り、ラベンダー色の瞳を見開いて「目が合いました」と興奮気味だ。その隣で、エリナはぴょんぴょんと飛び跳ねて上を指さしている。
「殿下! 別のウミガメが……息継ぎしてます!」
「息継ぎは必要だよな、わかる」
「息継ぎして潜ってきましたよ! キャー! ウミガメ同士でチュウしましたようっ……カップルですよー! キャー!」
前半のダンジョンより、ずっと雰囲気がいい。
「あら、ここは賑やかですのね」
サメとエイが競泳してる姿が見えて思わず水槽に張り付いていると、赤い巻き髪の令嬢がやってきた。箒に乗った彼女は、イージス班のアルティナだ。
「そこにいる魔物、もらっていきますわ~!」
隅にいたパンダ型の魔物に小石を投げて気を引き、アルティナは去っていった。後ろにぞろぞろと魔物がついていく姿は、引率の先生みたいだった。
「なんだあれ」
兄たちは何をやっているのだろう。
とても気になる。
パーニスが首をかしげていると、ふいに集団の中から不穏な会話が聞こえてきた。
「この水槽、上から入れそう。ダンテ先輩。入ってくださいよ」
「や、やめろよ。オレ泳げないんだ」
「償ってくれる、詫びてくれるって言ったじゃないですか。水槽に入ったら許してやりますよ」
「おい、本気でやめろよ。サメがいる水槽じゃんか!」
数人がかりで一人の男子生徒を持ち上げ、水槽に押し込もうとしている。
金髪碧眼の『ダンテ先輩』は、ダンテ・ラスキン――2年生で、カラクリ神学博士の息子じゃないか。
サメがいる水槽は危険だろう。
ふざけるにしても度を越えている。パーニスは止めに入った。
すると。
「ダンテ先輩は貴族だからと偉ぶって、平民いじめをしていたんです」
「それは過去のことだ。俺の憧れのマリンベリー嬢が『貴族が平民をいじめるのは高貴な者にふさわしくない』と言ったから、もうやめたんだ」
なんとこの男、話を聞いてみると、以前からマリンベリーに好意を抱いていたのだという。
彼女が「貴族は平民と違うの! 偉いのよ!」という(若干幼稚な)態度だったので、彼女に気に入られたくて平民に強く当たっていたのだとか。
「俺と気が合うねって言おうと思ってたのに、彼女、変わっちゃってさ」
そうか、マリンベリーに好意を。
彼女に気に入られたくて平民いじめを。
……。
「……ダンテは有罪っ」
「パーニス殿下ぁっ!」
思わず断言すると、男は泣きそうな顔をした。
そんな情けない顔をする男にマリンベリーが靡くものか。
「……情けない顔に免じて、助けてやろう。サメに食われたらシャレにならない。みんな、ダンテを水槽に沈めるのはやめてやれ。代わりに面白い話をしてもらう刑に処すから」
「ハ、ハードルが高い……」
ごくりと生唾を飲み、蒼褪めつつも、ダンケは荷物の中からスケッチブックとペンを取り出した。
そして、自分の胸もとでスケッチブックの真っ白なページを開いた。
何をするんだ、とみんなが寄って来て注目する。
この光景、下手したら観客席にも中継されているのでは?
とパーニスが考えていると。
「まーる描いて、ちょん」
ダンケはスケッチブックの右側に小さな丸を描いた。なんだ?
「もひとつ、まーる描いて、ちょん」
みんなが首をかしげていると、ダンケはスケッチブックの左側にも小さな丸を描いた。
なんだなんだ?
みんなが意図を掴みかねていると、ダンケは開き直ったような大声で言った。
「……おっぱい!」
後から聞く話によると、渾身のネタらしき芸に、観客席も「あれは何をしているんだ?」とざわついていたらしい。
観客席は、音声は中継されていないので、ミディー先生が「えー、あれは、おっぱいらしいです。以上……」と説明してくれたのだとか。
パーニスがおっぱいネタの余韻に遠い目をしていると、集団がどよどよと騒ぎだした。今度はなんだ。
「殿下! 大変です! 水槽が壊れました」
「は? なぜ?」
「カップルが痴話げんかを拗らせて魔法合戦を開始して壊したみたいです」
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
カップルは魔法の才能があふれていた。
女子生徒の名はエミリー。魔女家の傍系に当たる家柄の娘で、父親が宮廷魔法使いだ。
男子生徒の名はレーニス。賢者家の直系男子で、後継ぎ争いでも有力な青年だ。
二人の喧嘩の原因は、「君、王子様に見惚れていただろう!」「あなただってマリンベリー様にいつも目を奪われているくせに!」という相互嫉妬だった。最初は軽い冗談のようなノリで。相手が言い返してきて自分も言い返し、再び言い返されてヲ繰り返すうちに、少しずつ気分を害し合い、ムキになっていったという、よくあるパターンである。
二人は普段からお互いの魔法をぶつけ合い、じゃれ合っていた。
今回も魔法をいつものようにぶつけながら不毛極まりない議論をしていたのだが――「美しい痴話喧嘩。いいですね!」女性の声がした。
次いで、ぱちん、と指が鳴る音がして――水槽が壊れた。
一か所、二か所ではなく、ダンジョン中の水槽が、一斉に。
瞬きするほどの短時間で、水槽から溢れたおびただしい水があふれ出し、エミリーとレーニスは蒼褪めた。
手と手をつないで逃げ出し、危機を脱してから「自分たちではありません」と言ったが、目撃証言は皆「二人が痴話喧嘩で魔法をぶつけあって、水槽が壊れた」と言う。
二人は大事件を引き起こした咎で周囲からの評価を大いに下げる結果となった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
観客席では、「結界を用意していたのですが、生徒の魔法が思っていたより強かったですね。以上……」という解説が流れて、スタッフが右往左往の大騒ぎになった。
『アクアリウム・シーダンジョン』を攻略するパーニス班は、再び集団の中心となっていた。
一度「俺についてこい」と言ったからだろうか、生徒たちは「続きもお供します」とついてきたのである。
水槽は幅も高さもさまざま。
上から手を入れられるような小さな箱状のものもあれば、迷路を形成する壁状態の水槽もあり、柱のようになっている円柱状の水槽もある。
上部に十分な空きスペースがあり、箒で飛翔して飛び越えられる壁水槽もあれば、天井に上部がくっついている水槽もある。
ダンジョン内が薄暗くて、魔法の照明で水槽が照らされているものだから、雰囲気が抜群にいい。ずっと眺めていたくなる。
巨大なシードラゴンに似た魔物に死神の鎌を突き立て、ポイントが増えるのを確認したパーニスは、「ふう」とひと息ついて水槽に目をやった。
オレンジと白の縞模様の魚が可愛い。
水槽の外でシードラゴンが暴れて倒されたのに、「何かありました? 関係ありませんね」みたいな顔でのんびりと泳いでいる。真の強者とは、こういう生き物なのかもしれない。
魚に癒されていると、セバスチャンが知らせてきた。狼の尻尾をブンブン振っている。
「パーニス殿下、ウミガメが手を振ってます!」
「なんでだよ……ほんとだ」
なんてつぶらな目。
クロヴィスも目隠しの布を取り、ラベンダー色の瞳を見開いて「目が合いました」と興奮気味だ。その隣で、エリナはぴょんぴょんと飛び跳ねて上を指さしている。
「殿下! 別のウミガメが……息継ぎしてます!」
「息継ぎは必要だよな、わかる」
「息継ぎして潜ってきましたよ! キャー! ウミガメ同士でチュウしましたようっ……カップルですよー! キャー!」
前半のダンジョンより、ずっと雰囲気がいい。
「あら、ここは賑やかですのね」
サメとエイが競泳してる姿が見えて思わず水槽に張り付いていると、赤い巻き髪の令嬢がやってきた。箒に乗った彼女は、イージス班のアルティナだ。
「そこにいる魔物、もらっていきますわ~!」
隅にいたパンダ型の魔物に小石を投げて気を引き、アルティナは去っていった。後ろにぞろぞろと魔物がついていく姿は、引率の先生みたいだった。
「なんだあれ」
兄たちは何をやっているのだろう。
とても気になる。
パーニスが首をかしげていると、ふいに集団の中から不穏な会話が聞こえてきた。
「この水槽、上から入れそう。ダンテ先輩。入ってくださいよ」
「や、やめろよ。オレ泳げないんだ」
「償ってくれる、詫びてくれるって言ったじゃないですか。水槽に入ったら許してやりますよ」
「おい、本気でやめろよ。サメがいる水槽じゃんか!」
数人がかりで一人の男子生徒を持ち上げ、水槽に押し込もうとしている。
金髪碧眼の『ダンテ先輩』は、ダンテ・ラスキン――2年生で、カラクリ神学博士の息子じゃないか。
サメがいる水槽は危険だろう。
ふざけるにしても度を越えている。パーニスは止めに入った。
すると。
「ダンテ先輩は貴族だからと偉ぶって、平民いじめをしていたんです」
「それは過去のことだ。俺の憧れのマリンベリー嬢が『貴族が平民をいじめるのは高貴な者にふさわしくない』と言ったから、もうやめたんだ」
なんとこの男、話を聞いてみると、以前からマリンベリーに好意を抱いていたのだという。
彼女が「貴族は平民と違うの! 偉いのよ!」という(若干幼稚な)態度だったので、彼女に気に入られたくて平民に強く当たっていたのだとか。
「俺と気が合うねって言おうと思ってたのに、彼女、変わっちゃってさ」
そうか、マリンベリーに好意を。
彼女に気に入られたくて平民いじめを。
……。
「……ダンテは有罪っ」
「パーニス殿下ぁっ!」
思わず断言すると、男は泣きそうな顔をした。
そんな情けない顔をする男にマリンベリーが靡くものか。
「……情けない顔に免じて、助けてやろう。サメに食われたらシャレにならない。みんな、ダンテを水槽に沈めるのはやめてやれ。代わりに面白い話をしてもらう刑に処すから」
「ハ、ハードルが高い……」
ごくりと生唾を飲み、蒼褪めつつも、ダンケは荷物の中からスケッチブックとペンを取り出した。
そして、自分の胸もとでスケッチブックの真っ白なページを開いた。
何をするんだ、とみんなが寄って来て注目する。
この光景、下手したら観客席にも中継されているのでは?
とパーニスが考えていると。
「まーる描いて、ちょん」
ダンケはスケッチブックの右側に小さな丸を描いた。なんだ?
「もひとつ、まーる描いて、ちょん」
みんなが首をかしげていると、ダンケはスケッチブックの左側にも小さな丸を描いた。
なんだなんだ?
みんなが意図を掴みかねていると、ダンケは開き直ったような大声で言った。
「……おっぱい!」
後から聞く話によると、渾身のネタらしき芸に、観客席も「あれは何をしているんだ?」とざわついていたらしい。
観客席は、音声は中継されていないので、ミディー先生が「えー、あれは、おっぱいらしいです。以上……」と説明してくれたのだとか。
パーニスがおっぱいネタの余韻に遠い目をしていると、集団がどよどよと騒ぎだした。今度はなんだ。
「殿下! 大変です! 水槽が壊れました」
「は? なぜ?」
「カップルが痴話げんかを拗らせて魔法合戦を開始して壊したみたいです」
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
カップルは魔法の才能があふれていた。
女子生徒の名はエミリー。魔女家の傍系に当たる家柄の娘で、父親が宮廷魔法使いだ。
男子生徒の名はレーニス。賢者家の直系男子で、後継ぎ争いでも有力な青年だ。
二人の喧嘩の原因は、「君、王子様に見惚れていただろう!」「あなただってマリンベリー様にいつも目を奪われているくせに!」という相互嫉妬だった。最初は軽い冗談のようなノリで。相手が言い返してきて自分も言い返し、再び言い返されてヲ繰り返すうちに、少しずつ気分を害し合い、ムキになっていったという、よくあるパターンである。
二人は普段からお互いの魔法をぶつけ合い、じゃれ合っていた。
今回も魔法をいつものようにぶつけながら不毛極まりない議論をしていたのだが――「美しい痴話喧嘩。いいですね!」女性の声がした。
次いで、ぱちん、と指が鳴る音がして――水槽が壊れた。
一か所、二か所ではなく、ダンジョン中の水槽が、一斉に。
瞬きするほどの短時間で、水槽から溢れたおびただしい水があふれ出し、エミリーとレーニスは蒼褪めた。
手と手をつないで逃げ出し、危機を脱してから「自分たちではありません」と言ったが、目撃証言は皆「二人が痴話喧嘩で魔法をぶつけあって、水槽が壊れた」と言う。
二人は大事件を引き起こした咎で周囲からの評価を大いに下げる結果となった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
観客席では、「結界を用意していたのですが、生徒の魔法が思っていたより強かったですね。以上……」という解説が流れて、スタッフが右往左往の大騒ぎになった。
1
お気に入りに追加
203
あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます
宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。
さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。
中世ヨーロッパ風異世界転生。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

気だるげの公爵令息が変わった理由。
三月べに
恋愛
乙女ゲーの悪役令嬢に転生したリーンティア。王子の婚約者にはまだなっていない。避けたいけれど、貴族の義務だから縁談は避けきれないと、一応見合いのお茶会に参加し続けた。乙女ゲーのシナリオでは、その見合いお茶会の中で、王子に恋をしたから父に強くお願いして、王家も承諾して成立した婚約だったはず。
王子以外に婚約者を選ぶかどうかはさておき、他の見合い相手を見極めておこう。相性次第でしょ。
そう思っていた私の本日の見合い相手は、気だるげの公爵令息。面倒くさがり屋の無気力なキャラクターは、子どもの頃からもう気だるげだったのか。
「生きる楽しみを教えてくれ」
ドンと言い放つ少年に、何があったかと尋ねたくなった。別に暗い過去なかったよね、このキャラ。
「あなたのことは知らないので、私が楽しいと思った日々のことを挙げてみますね」
つらつらと楽しみを挙げたら、ぐったりした様子の公爵令息は、目を輝かせた。
そんな彼と、婚約が確定。彼も、変わった。私の隣に立てば、生き生きした笑みを浮かべる。
学園に入って、乙女ゲーのヒロインが立ちはだかった。
「アンタも転生者でしょ! ゲームシナリオを崩壊させてサイテー!! アンタが王子の婚約者じゃないから、フラグも立たないじゃない!!」
知っちゃこっちゃない。スルーしたが、腕を掴まれた。
「無視してんじゃないわよ!」
「頭をおかしくしたように喚く知らない人を見て見ぬふりしたいのは当然では」
「なんですって!? 推しだか何だか知らないけど! なんで無気力公爵令息があんなに変わっちゃったのよ!! どうでもいいから婚約破棄して、王子の婚約者になりなさい!! 軌道修正して!!」
そんなことで今更軌道修正するわけがなかろう……頭おかしい人だな、怖い。
「婚約破棄? ふざけるな。王子の婚約者になれって言うのも不敬罪だ」
ふわっと抱き上げてくれたのは、婚約者の公爵令息イサークだった。
(なろうにも、掲載)

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた
21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる