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1章、王太子は悪です
25、魔法グミとフライドポテト
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『五果の二十二枝』……5月22日。
12時30分。『イリュージョンスカイ・ダンジョン』の頂上は、休憩場所にもなっている。座って休むためのテーブルや椅子があるし、お祭りで見かけるような屋台まである。
串に刺さっている焼いたお肉が美味しそう。
それに、果実飴も……!
「おーほっほっほ。我が家の商会が屋台展開させていただきましたの! 地域住民の方も協力してくださってますわ!」
アルティナが誇らしげにお店を紹介して「このお肉は柔らかいのですわっ」とお肉を勧めてくれた。
塔の頂上は、空中にたくさんの風鈴が浮遊して「りん、りん」と涼しい音を立てていた。風鈴に紛れて、カラフルな布でつくられた「てるてる坊主」も浮かんでいる。
「イリュージョンスカイ・ダンジョンを真っ先に攻略したのは、イージス殿下のグループです。解説のカリスト様、コメントをどうぞ」
「うむ。この調子で励むがよい、ガキども。一位になったら賢者家秘伝のぬいぐるみの魔法を教えてあげてもよい。以上」
「ああ、カリスト様はお心をぬいぐるみに移してますもんね。しかし秘伝の魔法の情報をこんなオープンにお話になるなんて相当浮かれておられるようで……以上!」
ミディー先生のアナウンスが聞こえる。
巨大スクリーンは今ごろ、私たちがアップで映し出されているのだろうか。
頂上で待機していた大会スタッフが「あちらにカメラがあるので」と教えてくれたので、私たちは全員で並んで手を振った。
「頂上は景色もいいし、昼食をここで摂ってから降りましょうか」
イージス殿下は風鈴に目を細めて休憩用のテーブルセットを示した。黄色いテーブルに赤い椅子。上は青空――座っているだけで明るい気分になれる場所だ。
「このテーブルをイージス班の拠点にします。それぞれ食料を調達するように」
「了解です、殿下! 僕はあの店の海鮮スープを調達してこようかな」
「わたくしは果実飴を人数分ゲットしてきますわ」
「ライバル班がいないから、のんびり選び放題だね」
私はいそいそと魔法グミ屋さんに近付いた。
グミ活女子の魂がうずうずする。
「わあぁ! 全部のグミに魔法がかかってるんですか?」
「普通のもあるよ」
緑色のカエルはケースから出すと生き物みたいにピョコピョコ跳ねてしまう。
黒いコウモリグミは捕まえてないとどこかに飛んで行ってしまう。
ネコ形グミは口の中で「にゃあ」と鳴く。
……変なグミがいっぱい!
「イージス殿下は、細くカットした揚げポテトがお好きでしたね」
どう見てもフライドポテトにしか見えないし味もソレ。
そんなポテトに「味付けに好みのスパイスを振りかけるのが楽しいんですよ」と言って、イージス殿下は粉末をかけている。ペロッと舐めてみると、ソースみたいな味がした。
「ポテトだけですと栄養が偏ってしまいますよ、イージス殿下」
「では、この野菜味の粉末をかけて……」
「いろんな粉末があるんですね」
「第一、私が栄養を気にしても意味がないと思いませんか、マリンベリーさん。どうせ死ぬ身です」
「むっ」
イージス殿下に未来はないから。
……そう言われると「ずるい」と思ってしまう。
ちょうどアルティナとイアンディールが屋台に行っていて、テーブルについているのが私とイージス殿下だけというのもあって、タイミング的にもずるい。
「イージス殿下。私、さっきのダンジョンで思い出したんですけど、プチ炎上したことがあるんです」
「プチエンジョウ?」
前世での単語は、殿下には伝わらないか。当たり前だよね。
どう伝えたらわかってもらえるだろう。
「えっと、……転校……事情があって、それまでのお友だちとお別れすることになって」
「うん?」
「もうすぐお別れだから、もうすぐお別れだから、って毎日何か呟くたびにチラチラしていたら、お友だちグループが『ウザい』『悲劇のヒロイン気取り』みたいに私のことを悪く言うようになりまして」
「ほう。つまり、マリンベリーは私に今『もうすぐお別れだとチラチラしていてウザい』と言いたいと」
「自分がそう言われたことがあって、確かにそうかもって思ったんですよ」
イージス殿下は気を悪くすることなくニコニコしながらポテトをつまんだ。ポテト好きだな!
「楽しい場に水を差すのはいけなかったですね」
「うーん。そうですね」
もうすぐお別れなのは事実で、だから思い残すことがないようにしたい。
現在の時間を大切にしたい。特別に感じる。
そんな気持ちが、私にはわかる。
終わりを意識するからこそ、輝いて見えるものがある。
でも、終わりを意識したくないなと思っているときに「終わり、終わり」と意識させられたら、いやだ。
そこまで考えて、私は気づいた。
私は、イージス殿下が私たちを騙しているのではとどこかでずっと疑っていたけれど、今はそうじゃないんだ。
いつの間にか彼を信じている。
「……私、イージス殿下が悪い人じゃなくて、私たちと同じ生徒で、18歳の殿下なんだなって思えちゃいました」
敗北宣言みたいに打ち明けると、イージス殿下は甘酸っぱい雰囲気のはにかみを浮かべた。
ラベンダー色の長い髪が風に揺れて、長いまつげに彩られた白銀の瞳は潤んでいるように見えて、私は見てはいけないものを見てしまったような気分になった。
「ずっと、そう言って欲しかったんです」
小さなイージス殿下のつぶやきは、深い孤独を感じさせる響きで私の胸にまたひとつ、波紋を立てた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
私たちが屋台とテーブルを行き来して食べ物の山を築いていると、続々と他の班が頂上にやってくる。
後続は固まっていたようで、一気にみんなが到着するのでスタッフが忙しそうだ。
「みんな、おつかれ! 頂上に着いたぞー!」
パーニス殿下の声がする。
ワアアッと歓声があがっていて、盛り上がっている。
何があったのかわからないが、パーニス殿下は、集団の中心になっていた。
「ギミックがむかついたのでみんなで全部壊してきた!」
……そんな解決の仕方する? パワープレイすぎない?
休憩用のテーブルが、生徒たちで賑やかになっていく。屋台の前に行列ができていく。
「そっちの班は攻略が早かったんだな」
パーニス殿下は、隣のテーブルにやってきた。
「こっちはこれから昼食だ。魔物を結構倒してきたから、ポイントはそんなに差がないんじゃないかな?」
隣のテーブルでは、なぜか疲労の色が濃いクロヴィスが「声を出せというから出したのに」と恨めしそうな黒いオーラを出している。何があったんだろう……。
気にしつつ、私たちは昼食を終えた。
午後は、ここから地上へと降りるのだ。
『アクアリウム・シーダンジョン』の入り口でタイムスタンプを押して、再び箒に乗ったとき。
イージス殿下のささやき声が、私の耳朶をくすぐった。
「弟に先を越されたけど、君が好きです。どうしても伝えたくなって、気持ちが溢れて止められなくて、……ごめんね」
「……!」
ラベンダー色の髪が目の前で揺れて、イージス殿下の箒が飛翔する。
「さあ、後半は魔物も狩っていきますよ」
メンバーに呼びかける声は、楽しそうだった。
「はい、殿下。僕、実は戦闘が苦手だけど」
イアンディールが苦笑気味に言葉を返して、アルティナが「わたくしも!」と笑っている。
「その分、囮にはなれますわー!」
魔女帽子をしっかりとかぶり直し、耳長猫のルビィを抱っこしながら箒を浮かせて、私は気持ちを切り替えた。
「……楽しくやりましょう、殿下」
自分でも驚くほど優しい声が出て、先頭のイージス殿下が「うん」と手を振ってくれる。
『五果の二十二枝』……5月22日。
14時30分。
『アクアリウム・シーダンジョン』攻略は、こうして始まった。
12時30分。『イリュージョンスカイ・ダンジョン』の頂上は、休憩場所にもなっている。座って休むためのテーブルや椅子があるし、お祭りで見かけるような屋台まである。
串に刺さっている焼いたお肉が美味しそう。
それに、果実飴も……!
「おーほっほっほ。我が家の商会が屋台展開させていただきましたの! 地域住民の方も協力してくださってますわ!」
アルティナが誇らしげにお店を紹介して「このお肉は柔らかいのですわっ」とお肉を勧めてくれた。
塔の頂上は、空中にたくさんの風鈴が浮遊して「りん、りん」と涼しい音を立てていた。風鈴に紛れて、カラフルな布でつくられた「てるてる坊主」も浮かんでいる。
「イリュージョンスカイ・ダンジョンを真っ先に攻略したのは、イージス殿下のグループです。解説のカリスト様、コメントをどうぞ」
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「ああ、カリスト様はお心をぬいぐるみに移してますもんね。しかし秘伝の魔法の情報をこんなオープンにお話になるなんて相当浮かれておられるようで……以上!」
ミディー先生のアナウンスが聞こえる。
巨大スクリーンは今ごろ、私たちがアップで映し出されているのだろうか。
頂上で待機していた大会スタッフが「あちらにカメラがあるので」と教えてくれたので、私たちは全員で並んで手を振った。
「頂上は景色もいいし、昼食をここで摂ってから降りましょうか」
イージス殿下は風鈴に目を細めて休憩用のテーブルセットを示した。黄色いテーブルに赤い椅子。上は青空――座っているだけで明るい気分になれる場所だ。
「このテーブルをイージス班の拠点にします。それぞれ食料を調達するように」
「了解です、殿下! 僕はあの店の海鮮スープを調達してこようかな」
「わたくしは果実飴を人数分ゲットしてきますわ」
「ライバル班がいないから、のんびり選び放題だね」
私はいそいそと魔法グミ屋さんに近付いた。
グミ活女子の魂がうずうずする。
「わあぁ! 全部のグミに魔法がかかってるんですか?」
「普通のもあるよ」
緑色のカエルはケースから出すと生き物みたいにピョコピョコ跳ねてしまう。
黒いコウモリグミは捕まえてないとどこかに飛んで行ってしまう。
ネコ形グミは口の中で「にゃあ」と鳴く。
……変なグミがいっぱい!
「イージス殿下は、細くカットした揚げポテトがお好きでしたね」
どう見てもフライドポテトにしか見えないし味もソレ。
そんなポテトに「味付けに好みのスパイスを振りかけるのが楽しいんですよ」と言って、イージス殿下は粉末をかけている。ペロッと舐めてみると、ソースみたいな味がした。
「ポテトだけですと栄養が偏ってしまいますよ、イージス殿下」
「では、この野菜味の粉末をかけて……」
「いろんな粉末があるんですね」
「第一、私が栄養を気にしても意味がないと思いませんか、マリンベリーさん。どうせ死ぬ身です」
「むっ」
イージス殿下に未来はないから。
……そう言われると「ずるい」と思ってしまう。
ちょうどアルティナとイアンディールが屋台に行っていて、テーブルについているのが私とイージス殿下だけというのもあって、タイミング的にもずるい。
「イージス殿下。私、さっきのダンジョンで思い出したんですけど、プチ炎上したことがあるんです」
「プチエンジョウ?」
前世での単語は、殿下には伝わらないか。当たり前だよね。
どう伝えたらわかってもらえるだろう。
「えっと、……転校……事情があって、それまでのお友だちとお別れすることになって」
「うん?」
「もうすぐお別れだから、もうすぐお別れだから、って毎日何か呟くたびにチラチラしていたら、お友だちグループが『ウザい』『悲劇のヒロイン気取り』みたいに私のことを悪く言うようになりまして」
「ほう。つまり、マリンベリーは私に今『もうすぐお別れだとチラチラしていてウザい』と言いたいと」
「自分がそう言われたことがあって、確かにそうかもって思ったんですよ」
イージス殿下は気を悪くすることなくニコニコしながらポテトをつまんだ。ポテト好きだな!
「楽しい場に水を差すのはいけなかったですね」
「うーん。そうですね」
もうすぐお別れなのは事実で、だから思い残すことがないようにしたい。
現在の時間を大切にしたい。特別に感じる。
そんな気持ちが、私にはわかる。
終わりを意識するからこそ、輝いて見えるものがある。
でも、終わりを意識したくないなと思っているときに「終わり、終わり」と意識させられたら、いやだ。
そこまで考えて、私は気づいた。
私は、イージス殿下が私たちを騙しているのではとどこかでずっと疑っていたけれど、今はそうじゃないんだ。
いつの間にか彼を信じている。
「……私、イージス殿下が悪い人じゃなくて、私たちと同じ生徒で、18歳の殿下なんだなって思えちゃいました」
敗北宣言みたいに打ち明けると、イージス殿下は甘酸っぱい雰囲気のはにかみを浮かべた。
ラベンダー色の長い髪が風に揺れて、長いまつげに彩られた白銀の瞳は潤んでいるように見えて、私は見てはいけないものを見てしまったような気分になった。
「ずっと、そう言って欲しかったんです」
小さなイージス殿下のつぶやきは、深い孤独を感じさせる響きで私の胸にまたひとつ、波紋を立てた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
私たちが屋台とテーブルを行き来して食べ物の山を築いていると、続々と他の班が頂上にやってくる。
後続は固まっていたようで、一気にみんなが到着するのでスタッフが忙しそうだ。
「みんな、おつかれ! 頂上に着いたぞー!」
パーニス殿下の声がする。
ワアアッと歓声があがっていて、盛り上がっている。
何があったのかわからないが、パーニス殿下は、集団の中心になっていた。
「ギミックがむかついたのでみんなで全部壊してきた!」
……そんな解決の仕方する? パワープレイすぎない?
休憩用のテーブルが、生徒たちで賑やかになっていく。屋台の前に行列ができていく。
「そっちの班は攻略が早かったんだな」
パーニス殿下は、隣のテーブルにやってきた。
「こっちはこれから昼食だ。魔物を結構倒してきたから、ポイントはそんなに差がないんじゃないかな?」
隣のテーブルでは、なぜか疲労の色が濃いクロヴィスが「声を出せというから出したのに」と恨めしそうな黒いオーラを出している。何があったんだろう……。
気にしつつ、私たちは昼食を終えた。
午後は、ここから地上へと降りるのだ。
『アクアリウム・シーダンジョン』の入り口でタイムスタンプを押して、再び箒に乗ったとき。
イージス殿下のささやき声が、私の耳朶をくすぐった。
「弟に先を越されたけど、君が好きです。どうしても伝えたくなって、気持ちが溢れて止められなくて、……ごめんね」
「……!」
ラベンダー色の髪が目の前で揺れて、イージス殿下の箒が飛翔する。
「さあ、後半は魔物も狩っていきますよ」
メンバーに呼びかける声は、楽しそうだった。
「はい、殿下。僕、実は戦闘が苦手だけど」
イアンディールが苦笑気味に言葉を返して、アルティナが「わたくしも!」と笑っている。
「その分、囮にはなれますわー!」
魔女帽子をしっかりとかぶり直し、耳長猫のルビィを抱っこしながら箒を浮かせて、私は気持ちを切り替えた。
「……楽しくやりましょう、殿下」
自分でも驚くほど優しい声が出て、先頭のイージス殿下が「うん」と手を振ってくれる。
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