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1章、王太子は悪です
番外編3、魔女家当主キルケは、コネをゲットして人質を取りました
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『魔女家』ウィッチドール家の当主キルケは、会議室の議長席に座り、会議を始めた。
会議室の黒板に、仮面の赤毛メイドが文字を書く。
『議題:キルケ様がマリンベリーお嬢様のお話を聞きたいだけの会。ただしパーニス殿下は嫉妬しちゃうからダメです』
メイドは当主の心がお見通しであった。
「諸君。集まってくれて感謝する。支給した帽子と仮面は、仮面舞踏会を真似してみたんだ。ここでの発言は持ち出し禁止、無礼講。外でのキミたちの今後に影響しない。バレバレだけどお互い気づかないフリをするのがお約束だよ。いいね?」
前回とまったく同じルール説明をしつつ、キルケはメンバーを見渡した。
本日集めたメンバーも、揃いの魔女帽子をかぶり、目元に仮面をつけている。
全員、身分を気にせず忌憚ない意見を言って構わない、という会である。
「お姉様が守ってあげるわ、って言ってくださったんです~~! 格好良かったですっ。それに、名前を呼び捨てにしてくださって。えへへへ」
パン屋の次女エリナが幸せそうに思い出を語る。
キルケはデレッと緩みそうな顔を魔女帽子で隠した。
「さすがうちの子。ちょっと目を離した隙に日々ボクの心を蕩けさせる武勇伝を増量してくれる。そこに痺れる、愛しちゃう」
もはや親バカを隠す気もないキルケである。
「倒れているところを助けて、魔化病を治してくださいました。なぜかそれを殿下がなさったことにしようとしたのですが……奥ゆかしいといいますか、殿下は愛されているのですね」
黒髪の獣人がキルケの男親心を弄ぶ。途中までよかったのにどうして最後に地雷フレーズを入れてしまったんだ。
「ボクはうちの子が男を愛している話は聞きたくないんだよ。そういうとこ大事だからわかってほしいよ獣人」
「えっ……、はっ……? す、……すみません? ですが……お二人の婚約はご当主様公認のはず」
「次!」
キルケは発言禁止札をセバスチャンに渡した。
しょんぼりと狼耳を伏せるセバスチャンを、隣に座るパーニス王子が「よしよし、気持ちはわかるぞ。俺も発言禁止なんだ」と慰めている。
「先生を助けたい、と言ってくれました。先生は死にたかったんだけど……い、以上」
賢者家の魔法使いであり、魔法学校の教師でもあるミディールが微妙にキルケに怯えがちに言ったとき、テーブルの上に小動物が飛び乗った。
「にゃーん」
「みゃあ」
「うにゃーぁ♪」
「猫連れてきたの誰だ!? ボ、ボクは猫が苦手だよっ……! 子どもの時にシャーって威嚇されて引っかかれてから怖いんだっ……」
キルケは天井付近まで浮遊してガクガクと震えた。
「この猫たち、マリンベリーお嬢様からごはんをもらって懐いていまして……」
赤毛のメイドが説明する。
「なるほど、猫に優しいんだなうちの子は。わかった。よし、次!」
もしうちの子が猫を拾って来たらどうしよう。ボクは「飼っていいよ」と言えるだろうか。
キルケは起こりうる未来を想定して内心で怯えつつ、床に座って土下座してる男子生徒に視線を向けた。
「さっきから床に座って土下座してる男子生徒は誰だい?」
男子生徒は、ダンケ・ラスキンと名乗った。
「退学したくないので許しを請いにきました」
なんと、前回「いじめっ子は退学させよう」と言って手配したうちの一人らしい。
退学したくない子は謝りにおいで、と救済措置を用意しておいたので、謝りにきたわけだ。
「俺はご令嬢に憧れてまして、彼女が『貴族は平民と違うの、偉いのよ!』と言っていた頃に気に入られたくて平民いじめをしたことがあって……でも、彼女が『いじめるのはだめ』という主義に変わったのなら、俺もやめます」
名前を聞いてみると、カラクリ神学博士の息子だった。
守護大樹の浄化計画でカラクリ神学博士に知恵を借りたいと思っていたところだったので、ちょうどいい。
「キミを許そう。お父さんに手紙を書くから、渡してくれるかな?」
キルケはこの日も情報を紙にまとめさせ、自室の壁に貼り付けて悦に浸った。
うちの子が可愛いペーパーも壁を埋めるほど増えてきた。
どんなに疲れた一日も、寝る前に壁を眺めるとニヤニヤできてしまう。
こんなに喜ばせてくれて、うちの子はなんて親孝行なのだろう。
「ボクは幸せな父親だよ。血のつながりはないけれど……そうだ、カリストに手紙を書くか。『カリスト。パーニス王子にボコボコにされたって本当かい。いい気味だね。ミディール君は守護大樹の浄化が完了するまで人質にしよう。教師の仕事はしてもらわないといけないから学校には通勤させるけど、無事に返してほしければ必死になって守護大樹を浄化するんだね。あ、あと、カラクリ神学博士にコネができたから働かせようと思う』……」
お茶を給仕する赤毛のメイド・アンナは笑顔で「えげつない……」と当主を見守り、部屋に帰ってから本当の主君であるパーニス王子に報告書を書いた。
『魔女家当主キルケは、コネをゲットして人質を取りました』……と。
会議室の黒板に、仮面の赤毛メイドが文字を書く。
『議題:キルケ様がマリンベリーお嬢様のお話を聞きたいだけの会。ただしパーニス殿下は嫉妬しちゃうからダメです』
メイドは当主の心がお見通しであった。
「諸君。集まってくれて感謝する。支給した帽子と仮面は、仮面舞踏会を真似してみたんだ。ここでの発言は持ち出し禁止、無礼講。外でのキミたちの今後に影響しない。バレバレだけどお互い気づかないフリをするのがお約束だよ。いいね?」
前回とまったく同じルール説明をしつつ、キルケはメンバーを見渡した。
本日集めたメンバーも、揃いの魔女帽子をかぶり、目元に仮面をつけている。
全員、身分を気にせず忌憚ない意見を言って構わない、という会である。
「お姉様が守ってあげるわ、って言ってくださったんです~~! 格好良かったですっ。それに、名前を呼び捨てにしてくださって。えへへへ」
パン屋の次女エリナが幸せそうに思い出を語る。
キルケはデレッと緩みそうな顔を魔女帽子で隠した。
「さすがうちの子。ちょっと目を離した隙に日々ボクの心を蕩けさせる武勇伝を増量してくれる。そこに痺れる、愛しちゃう」
もはや親バカを隠す気もないキルケである。
「倒れているところを助けて、魔化病を治してくださいました。なぜかそれを殿下がなさったことにしようとしたのですが……奥ゆかしいといいますか、殿下は愛されているのですね」
黒髪の獣人がキルケの男親心を弄ぶ。途中までよかったのにどうして最後に地雷フレーズを入れてしまったんだ。
「ボクはうちの子が男を愛している話は聞きたくないんだよ。そういうとこ大事だからわかってほしいよ獣人」
「えっ……、はっ……? す、……すみません? ですが……お二人の婚約はご当主様公認のはず」
「次!」
キルケは発言禁止札をセバスチャンに渡した。
しょんぼりと狼耳を伏せるセバスチャンを、隣に座るパーニス王子が「よしよし、気持ちはわかるぞ。俺も発言禁止なんだ」と慰めている。
「先生を助けたい、と言ってくれました。先生は死にたかったんだけど……い、以上」
賢者家の魔法使いであり、魔法学校の教師でもあるミディールが微妙にキルケに怯えがちに言ったとき、テーブルの上に小動物が飛び乗った。
「にゃーん」
「みゃあ」
「うにゃーぁ♪」
「猫連れてきたの誰だ!? ボ、ボクは猫が苦手だよっ……! 子どもの時にシャーって威嚇されて引っかかれてから怖いんだっ……」
キルケは天井付近まで浮遊してガクガクと震えた。
「この猫たち、マリンベリーお嬢様からごはんをもらって懐いていまして……」
赤毛のメイドが説明する。
「なるほど、猫に優しいんだなうちの子は。わかった。よし、次!」
もしうちの子が猫を拾って来たらどうしよう。ボクは「飼っていいよ」と言えるだろうか。
キルケは起こりうる未来を想定して内心で怯えつつ、床に座って土下座してる男子生徒に視線を向けた。
「さっきから床に座って土下座してる男子生徒は誰だい?」
男子生徒は、ダンケ・ラスキンと名乗った。
「退学したくないので許しを請いにきました」
なんと、前回「いじめっ子は退学させよう」と言って手配したうちの一人らしい。
退学したくない子は謝りにおいで、と救済措置を用意しておいたので、謝りにきたわけだ。
「俺はご令嬢に憧れてまして、彼女が『貴族は平民と違うの、偉いのよ!』と言っていた頃に気に入られたくて平民いじめをしたことがあって……でも、彼女が『いじめるのはだめ』という主義に変わったのなら、俺もやめます」
名前を聞いてみると、カラクリ神学博士の息子だった。
守護大樹の浄化計画でカラクリ神学博士に知恵を借りたいと思っていたところだったので、ちょうどいい。
「キミを許そう。お父さんに手紙を書くから、渡してくれるかな?」
キルケはこの日も情報を紙にまとめさせ、自室の壁に貼り付けて悦に浸った。
うちの子が可愛いペーパーも壁を埋めるほど増えてきた。
どんなに疲れた一日も、寝る前に壁を眺めるとニヤニヤできてしまう。
こんなに喜ばせてくれて、うちの子はなんて親孝行なのだろう。
「ボクは幸せな父親だよ。血のつながりはないけれど……そうだ、カリストに手紙を書くか。『カリスト。パーニス王子にボコボコにされたって本当かい。いい気味だね。ミディール君は守護大樹の浄化が完了するまで人質にしよう。教師の仕事はしてもらわないといけないから学校には通勤させるけど、無事に返してほしければ必死になって守護大樹を浄化するんだね。あ、あと、カラクリ神学博士にコネができたから働かせようと思う』……」
お茶を給仕する赤毛のメイド・アンナは笑顔で「えげつない……」と当主を見守り、部屋に帰ってから本当の主君であるパーニス王子に報告書を書いた。
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