甘党魔女の溺愛ルートは乙女ゲーあるあるでいっぱいです!

朱音ゆうひ

文字の大きさ
上 下
18 / 77
1章、王太子は悪です

16、未熟者のマント、なびかせて

しおりを挟む
 『五果ごか五枝ごえ』……5月5日。
 夜、19時。

 魔女家当主のキルケ様に許可をもらい、私はパーニス殿下と守護大樹アルワースの近くに出かけた。
 2人きりではなく、キルケ様同伴である。
 
 守護大樹の近くには天幕が並び、魔女家傘下の魔法使いたちが忙しく魔法薬を作ったり守護大樹の周囲に魔法陣を作っていたりする。

「ボクは守護大樹を2つの方法で浄化することにした。1つめは、邪悪な気から守り清める浄化の魔法陣を敷設する方法。2つめは、特効薬の継続投与だ」
「キルケ様。 『賢者家』ウィスダムツリー侯爵家は、協力してくれてないみたいですね?」
「そうだね。忙しいんだってさ。どうも、渋られている」

 原作の乙女ゲームだと、 魔法使いの二大名家、『魔女家』ウィッチドール伯爵家、『賢者家』ウィスダムツリー侯爵家どちらかとコネクションがあれば、もう片方の家に協力を要請してくれて、二大名家が一緒に浄化作戦に取り掛かる。でも、 『賢者家』ウィスダムツリー侯爵家は手伝ってくれていない。

「マリンベリー。その件だが、賢者家に『ミディー先生の見舞いに行きたい』と申し出たところ、受け入れてもらえた。近々、一緒に見舞いに行こう」
「かしこまりました、パーニス殿下」
 
 パーニス殿下は私が指示しなくても自主的に動いてくれている。頼もしい。
 
 守護大樹は巨大で、高さは見上げているうちに後ろに倒れてしまいそうなほど。
 上の方は雲に隠れていて、視えない。
 
「我らが王国マギア・ウィンブルムを建国から長く見守ってくれている守護大樹、アルワースよ」
 
 パーニス殿下は未熟者のマントをひらりとなびかせ、守護大樹に呼びかけた。

「俺は王国のため、民のためにこの身を捧げる。兄、イージスはあなたを燃やすと言っているが、俺はあなたを守りたい。どうか、見守っていてほしい」

 乙女ゲーム『カラクリ大樹の追憶と闇王子』では、ヒロインちゃんは守護大樹に認められて聖女になる。

 ヒロインちゃんはその日、水色の耳長猫に誘われて守護大樹の近くに迷い込むのだ。
 そして、耳長猫を抱っこして「疲れちゃった」と守護大樹のそばで座り込む。これから魔法学校に入学するヒロインちゃんは、自分が王侯貴族たちに混ざってやっていけるのかが不安で、「自信がない」と弱音を吐く。
 
 すると、守護大樹アルワースは、少年の声で返事をするのだ。
 
『自信を持って。君は、全部の属性魔法が使えるとっても珍しい子だよ。なにより、家族想いで誰にでも優しい。他人の痛みを感じることができる……』

 けれど、現実世界、現在の守護大樹アルワースは。

「……守護大樹は、沈黙しているな」

 守護大樹は、答えてくれなかった。
 普通の木みたいに沈黙して、夜風にさやさやと枝葉を揺らすのみだった。

「マリンベリー。お前は『守護大樹が俺を聖女にする』と言っていたが」

 パーニス殿下はその場にしゃがみこみ、下から見上げるように私に問いかける。

「……」

 どうしよう?
 パーニス殿下には、「大丈夫」と言ってあげたい。
 
 自信を持って頑張ってください、と言いたい。
 
 努力は報われるものなのです。 
 あなたの正しい行い、善良な心根を理解してくれている存在は、あるのです。
 守護大樹に、あなたは認められています。
 ……そう言えたら、どんなにいいだろう。

「ご自覚がありませんか、パーニス殿下?」

 私は、また嘘をつくことにした。

「殿下は今、聖女になりました。私には違いがわかりますよ? 先ほどまでと比べて、身に纏う空気がなんだか清らかで、英雄~って感じです!」
「そうか? 自分ではよくわからない」

 パーニス殿下の視線が周囲に彷徨う。

 近くで私たちを見ていたキルケ様は、空気を読んでくれた。

「ボクにもわかるよ。なるほど、聖女……というか、聖人かな。頼もしいね」

 ……キルケ様、ありがとうございます!
 
 私は帰宅してからキルケ様をぎゅーっと抱きしめ、何度もお礼を告げたのだった。
 
   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
 

 『五果ごか六枝ごえ』……5月6日。

 放課後、イージス殿下が狩猟大会のグループメンバーを集めた。
 グループメンバーは、イージス殿下、イアンディール、アルティナさん、マリンベリーの4人だ。
 
「イージス班、全員が揃いましたね。皆さん、お忙しい中集まってくださってありがとうございます。さあ、作戦会議をしましょう」

 場所は、生徒会の会議室。
 生徒会の集まりじゃないけど、いいのだろうか。
 まあ、イージス殿下に物申す人はいないだろう。
  
「まずは、お互いのことを知りませんとね。当日は協力してがんばることになるのですから」

 ラベンダー色の髪を揺らし、イージス殿下はティーポットを手に取った。
 まさか、と見ていると、人数分のティーカップに紅茶を注いでくれる。
 しかも――お手製スコーン付きだ。
  
「お、美味しいです。殿下」
「ふふっ、そうでしょう。自信作です」

 イージス殿下はそう言って、自己紹介をした。

「私の名前は、イージス・マギライト・アルワース。生まれてから18年になります」

 みんなが「あれ?」と首をかしげた。

 セカンドネームの部分は、その人が一番得意な魔法属性、あるいは他者にアピールしたい魔法属性を名乗ることが多いのだ。

 例えば、光属性はアークライト。
 火属性はウォテア。
 水属性はフィア。
 風属性はウィンズ。
 地属性はランディ。

 イージス殿下は、18年間『イージス・アークライト・アルワース』という名前で知られてきた。
 アークライトは光属性。
 マギライトは――例え持っていてもわざわざ他者にアピールしたいと思う人がいないであろう、希少な属性。
 ……闇属性だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

処理中です...