甘党魔女の溺愛ルートは乙女ゲーあるあるでいっぱいです!

朱音ゆうひ

文字の大きさ
上 下
15 / 77
1章、王太子は悪です

番外編2、魔女家当主キルケは、本日も親バカでした

しおりを挟む
 仮面をつけた夫婦とその娘が、パン屋のチラシを配っている。正体を隠す気がない商売根性がたくましい一家だ。
 
 『魔女家』ウィッチドール家の当主キルケは、会議室の議長席に座り、会議を始めた。

 会議室の黒板に、仮面の赤毛メイドが文字を書く。

『議題:キルケ様がマリンベリーお嬢様のお話を聞きたいだけの会』 

 前回はもうちょっと真面目な議題を書いていたが、メイドは会合の本質を見抜いていた。
 これはそういう会でしょう、と。

「諸君。集まってくれて感謝する。支給した帽子と仮面は、仮面舞踏会を真似してみたんだ。ここでの発言は持ち出し禁止、無礼講。外でのキミたちの今後に影響しない。バレバレだけどお互い気づかないフリをするのがお約束だよ。いいね?」

 前回とまったく同じルール説明をしつつ、キルケはメンバーを見渡した。

 本日集めたメンバーも、揃いの魔女帽子をかぶり、目元に仮面をつけている。

 全員、身分を気にせず忌憚ない意見を言って構わない、という会である。

「殿下、本日はありがとうございました」 
「俺は仮面の男だ。殿下ではないが、殿下だったら『お前たちが無事でなにより』と返すかもしれないな」

 パン屋一家とパーニス王子が親しげに会話している。
 親に連れられて参加している小さな兄妹は、パンを頬張りながらチラチラと王子を見ている。
 
「そーちょーさまだよね」
「俺は仮面の男……」
「そーちょーさま、ありがとうございました!」
「……まあ、そーちょーさまでいいか」

 両親が「この集まりはなんだろう」とかしこまる中、兄妹は「そーちょーさま」に愚痴っている。
 
「そーちょーさまが助けてくれたのに、ちがうっていうんだ」
「いーじすでんかじゃないのに~」

「待ってくれ。ボクは王子の話題が聞きたいわけじゃないんだ。うちの子の話を聞きたいんだよ」
 
 キルケは「うちの子」の話をしてくれそうなメンバーに話題を振った。

「いじめられていたところを、助けてくださったんです」

 パン屋の次女が魔法学校での出来事を教えてくれた。

「姉が亡くなって悲しいのは当たり前ですよ。でも、泣きべそかきながら登校するわけないじゃないですか。気持ちを前向きにしてがんばろうって思って登校したのに、『悲しそうじゃない』とか、『あの子が犯人だったりして』とか言われたんです。そこを助けてくださって……天使かなって思いました」

 薔薇色の巻き毛の令嬢も、「オホホホ」と高笑いをして発言する。
 
「わたくしもお金で爵位を買った商人貴族なので生粋の貴族のおうちの生徒に見下されていたのですが、お話を聞いて気分がよかったですわ~~! わたくしへの皆様の態度もマシになると思いますの」
 
 キルケも姉を亡くしているし、男だからと不遇だった過去もある。
 おおいに共感できる話だった。

「そうか。じゃ、そのいじめっ子はボクが圧力をかけて退学させよう。そして、うちの子は天使。そうじゃないかと思っていたところだったよ。うん、うん」

 いじめっ子の運命を決めつつ、キルケは養い子への愛情を深めた。
 
「そう、そういう話が聞きたかったんだ。いいぞ」

 満足度を高めるキルケに、そーちょー王子が追加の燃料をくれた。

「付箋が可愛かった。ちょっとした持ち物が可愛いのっていいよな。可愛いものが好きなんだな……プレゼントしたら喜ぶだろうか。あと、みんなのパンの好みを把握していてプレゼントする気配りができるんだ。しかも、俺に功績を譲ろうとする……」

 この王子の話は燃料度が高いのだが、うちの子の婚約者というポジションにいる男だけに複雑な親心になるキルケである。
 婚約は親公認で、王子自体も気に入っていて支持しているのだが、それはそうとして「うちの子が男のものになってしまう」というのは男親としてはモヤモヤポイントなのである。
 
 それと比べて。
「お姉様としてお慕いしています」
「わたくしはお友だちだと思っていますわ」
 同性である女子生徒からの好意的な声は、男親としてノーストレスで嬉しい。素晴らしいな!
 
「いいね、いいね。次から王子は出禁にしようかな」
「なぜ!?」
  
 キルケは情報を紙にまとめさせ、自室の壁に貼り付けて悦に浸った。

「賢者家の当主カリストに手紙も書こう。『おいカリスト。そっちから返事がないがボクは追加で貴重すぎるうちの子の話を書いてやろう。ありがたく思え。うちの子、天使だった。何を言ってるかわからないかもしれないが……』」

 お茶を給仕する赤毛のメイド・アンナは笑顔で「今日もやってますねー」と当主を見守り、部屋に帰ってから本当の主君であるパーニス王子に報告書を書いた。

『魔女家当主キルケは、本日も親バカでした』……と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

【完結】婚約破棄されたけど、なぜか冷酷公爵が猛アプローチしてきます

21時完結
恋愛
婚約者である王太子からの突然の婚約破棄。 「お前とは政略結婚だったが、本当に愛する人と結婚する」 そう言われた公爵令嬢のエリスは、社交界の前で屈辱を味わう。だが、そこで思いがけない人物が口を開いた。 「ならば、俺と結婚しよう」 冷酷と名高い公爵、アレクシスが突如彼女に求婚したのだ。戸惑うエリスだったが、彼の真剣な眼差しに流されるように婚約を承諾することに。 しかし、結婚後の彼はなぜか溺愛モード全開! 「お前は俺のものだ。他の男に微笑むな」 「昔からお前が欲しくてたまらなかった」 冷徹な仮面を外し、愛を隠そうとしない公爵に、エリスは困惑するばかり。 さらには、婚約破棄したはずの王太子が、彼女を取り戻そうと動き出して…? これは、婚約破棄から始まる、冷酷公爵の一途な溺愛物語。 「もう絶対に離さない」 ――愛を隠していた男の、猛攻が今始まる!

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

処理中です...