甘党魔女の溺愛ルートは乙女ゲーあるあるでいっぱいです!

朱音ゆうひ

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1章、王太子は悪です

番外編1、魔女家当主キルケは、親バカになっちゃいました

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 『魔女家』ウィッチドール家の当主キルケは、会議室の議長席に座り、会議を始めた。
 会議室の黒板に、仮面の赤毛メイドが文字を書いている。

『議題:マリンベリーお嬢様の行動歴とその考察』 

「諸君。集まってくれて感謝する。支給した帽子と仮面は、仮面舞踏会を真似してみたんだ。ここでの発言は持ち出し禁止、無礼講。外でのキミたちの今後に影響しない。バレバレだけどお互い気づかないフリをするのがお約束だよ。いいね?」
  
 本日集めたメンバーは、揃いの魔女帽子をかぶり、目元には仮面をつけている。
 全員、身分を気にせず忌憚ない意見を言って構わない、という会なのだ。
 
「マリンベリーお嬢様は、お礼を仰いました。いつもありがとう、と……」
 
「いいことじゃないか」
「お礼が言えるのは人として大事なことだよな」

 と会議室のメンバーからコメントが返ってくる。
 仮面の赤毛メイドは黒板に発言を書きながら、情報を足した。
 
「メイドを罵らなかったんです! 私が変態っぽく縋りついてもちょっとびっくりしてるだけで怒ったりなさらなくて、可愛らしくて……」
 
 メイドは格好良い女性も好きだが、可愛い女性も好きだと普段から公言している。
 うっとりと頬を染めて身をくねくねさせている姿に、白銀の髪の仮面美男子からクレームが来た。
 
「おい。そこのメイドはクビにした方がいいんじゃないか、キルケ?」
「ボクもちょっと問題かなと思ったので、クビを検討しておこうと思う」
 
「ああっ、クビにしないでください! めっ」
 
 持ち出し禁止、無礼講。外でのキミたちの今後に影響しないとはなんだったのか。
 メイドは指をぱっちんと鳴らしてから、黒板に「私の発言はあくまで匿名の発言です」と書いて抗議した。

「チッ、そういえばそんなルールを設けたな」
「ついさっき決めたルールじゃないですか、お願いしますよ。あと王子様が舌打ちするのはお行儀が悪いと思います」
「俺は仮面の男だ。王子と呼ぶな」
    
 互いにルールを確認しつつ、会議は続く。
 魔女家当主キルケは会議室の隅で熱心に黒板を眺めている『王子』を見た。

 思えばマリンベリーの才能を見出したのはこのパーニス王子であった。
 振り返るたびに疑問なのだが、あの時、マリンベリーの魔法の才能は専用の測定器を使って調べてようやく「本当だ。魔力が高いね」とわかるような微妙なものだった。
 もっと言うなら、魔力があっても扱う才能があるかどうかは、教えてみないとわからなかった――教えてみたところ、才能はあったのだが。

 キルケでさえ気づかなかったのに、よく気づいたものだ。
 
「ご自分のことをご自分でなさり、我々には『1人で平気よ、今までごめんなさい』と言うのです」
 
「『ごめんなさい』は私も聞きましたよ。あと、魔法でドアを壊しませんでした!」
 
「孤児院に寄付なさったんですよ、子どもたちが喜んでいました」

「服装センスが変わったようです。あと、化粧もでしょうか。前よりも好みです」
「そこの男、名前は? 家名も聞いておきたい」
「ヒッ……ルールを思い出してください殿下!? 忌憚なく意見を言っていい場所ですからね!?」
 
 確かに、服装や化粧のセンスが変わったのは感じる――キルケは頬杖をついた。

「そこの銀髪仮面が何かしたんじゃないだろうね? 婚約は認めるが、嫁入り前のうちの子に不埒なことをしたら容赦しないよ。節度ある交際をしないと許さないよ」
「キルケ様、ルールがまったく機能してませんよ……というか、この会議を設けた事と言い、お嬢様を気にかけていらっしゃるんですね。興味が薄いと思っておりました」

 仮面の赤毛メイドが冷静に指摘してくる。
 
「別に興味が薄かったわけじゃない。あの子も怖がっていたし、女の子を育てるっていうのがよくわからなくて距離感を慎重にはかって接していただけだ。ほら、すぐ死んじゃう蝶々を籠に入れて愛でるような感じだよ。わかるだろ」
「ちょっとわかりません」 
 
 キルケの感性に会議室の半分が「わかります」と言い、半分は「ちょっとわからないっすね」と微妙な顔をしている。
 人の感性は様々だ。これは当然の結果と言えるだろう――キルケは気にせず会議を続けた。
 
「今までの行いを反省していて、『これからは変わる、暖かく成長を見守ってください』って言ってました。可愛らしくてモテてましたよ、王子様は嫉妬しちゃいますか?」
「あいつは可愛いから普通にしているとすぐモテるんだ。あと俺を王子と呼ぶな」
「ちょっと態度が悪いぐらいでいいんですよね……私、高飛車なお嬢様が好きなんですよ。格好良くて可愛いんです。初めて高笑いを聞いたときになんて可愛らしいんだろうって思いまして。あっ、でも――最近のお嬢様も、もちろん好きです」

 メイドが熱く語っている。格好良くて可愛いとはどういう概念だろう。
 キルケにはよくわからないが、養い子が褒められるのは正直――悪い気はしなかった。

「お金をくれました。臨時収入をありがたくいただいて病気の母に美味しい料理をご馳走してあげたら喜ばれました」
 
「失態に怒ることなく優しく労ってくださいました」

 会議室には、マリンベリーに対するポジティブな意見が溢れた。
 キルケは情報を紙にまとめさせ、自室の壁に貼り付けて悦に浸った。

「賢者家の当主カリストにこれの複写を送りつけてやろうか。手紙も書こう。守護大樹の件であちらの家にも協力してほしいし。『みんなに褒められているうちの子は、ボクを頼って甘えてくるんだ。頭を撫でてやったら喜んだんだ。魔化病の特効薬を開発したし、表彰されたし、王子と婚約もしたんだぜ。すごいだろう、可愛いだろう……』」

 お茶を給仕する赤毛のメイド・アンナは当主を見守り、部屋に帰ってから本当の主君であるパーニス王子に報告書を書いた。

『魔女家当主キルケは、親バカになっちゃいました』……と。
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