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12、ダンスパーティですが
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ダンスパーティというのは、ゲームでも小説でも、よく一大イベントが起きるものだ。
例えば、婚約破棄されるとか。
例えば、断罪されるとか。
例えば……告白されるとか。
華やかなドレスに身を包み、贈られた装飾品で全身をキラキラさせた私がこの日遭遇したイベントは、ふたつ。
「コーデリア、僕は他の誰でもなく、貴方だけをお慕いしています。僕とまた婚約してくれますか」
約束の刺繍入りハンカチを大切そうに受け取って、ジャスティン様は私の前に膝をついた。
演劇の舞台みたいに、彼が輝いて見える。
――告白。
そんな単語が脳をよぎって、胸のうちで鼓動が騒ぐ。
まるで夢の中にいるみたいにふわふわした気持ちになった。
「僕の聖女様は、貴方です……」
少し気恥ずかしい感じに口元を緩くさせ、目元を愛し気に微笑ませて、真っ直ぐに私を見つめる瞳が神秘的なくらいキラキラしている。
「わ、わたくし……」
この手を取ってよいのかしら。
そんな一瞬の葛藤が、手を取られて甘やかな感情に流されていく。
「コーデリアは、僕のことを恋愛対象に思えませんか?」
「い、いいえ……」
「では、僕と恋愛してくださいますか?」
ドキドキする。
一生懸命な声色が、まっすぐに好意を伝えてくれる。
――他の誰でもない、私に!
ダンスミュージックがゆったりとムーディーに演奏される中、私たちは再びの婚約を約束したのだった。
……これが、ひとつ。
そしてもうひとつは――
「きゃあああ!!」
ダンスパーティ会場に、突然魔物の群れが現れたのだ。
天井からぼとりと落ちて。
床からにょきっと生えて。
壁から、あちらこちらから、ぬるり、しゅるり。
前触れもなくするりするりと現れた魔物の群れがぐるりと四方を囲む。
人々は悲鳴をあげてフロアの中央に集まり、震え上がった。
その魔物たちは、見た目はとても怖そうで……でも、統制が取れているみたいで、暴れ出したりはしなかった。
警備兵が剣を構えて威嚇する中、魔物たちの中からスススッと一人の小柄な黒ローブの人物が進み出る。
「あっ」
近くにいたマナちゃんが驚いたような声をあげて、警備兵をかきわけて前に出る。
「アヤ!」
「マナおねーちゃん!」
黒ローブの人物がフードを取り、声を発した。
その人物は黒髪黒目の女の子で、顔立ちはマナちゃんにとてもよく似ていた。
ちょっと気が強そうで、飾らない感じの表情がなんだか可愛い。
人にあまり懐いてない子猫みたいな雰囲気がある。
近寄ると「シャーっ」って言いそう。
「ごめん、そういえば告白しようと思ってたんだけど、あたし前に嘘を言ったわ」
マナちゃんがそう言って、私たちを振り返った。
「あたし、ほら。前に彼氏いるって言ったじゃん? あれ、嘘。本当はあたしにいるのは彼女なの。あたしの恋人、この子。妹なんだぁ」
「……」
マナちゃんの人差し指が黒ローブの彼女に向けられている。数秒間、息が詰まるほどの静寂が広いダンスパーティ会場を支配した。
「?????」
全員の頭の上に大量の?が並んだ。
例えば、婚約破棄されるとか。
例えば、断罪されるとか。
例えば……告白されるとか。
華やかなドレスに身を包み、贈られた装飾品で全身をキラキラさせた私がこの日遭遇したイベントは、ふたつ。
「コーデリア、僕は他の誰でもなく、貴方だけをお慕いしています。僕とまた婚約してくれますか」
約束の刺繍入りハンカチを大切そうに受け取って、ジャスティン様は私の前に膝をついた。
演劇の舞台みたいに、彼が輝いて見える。
――告白。
そんな単語が脳をよぎって、胸のうちで鼓動が騒ぐ。
まるで夢の中にいるみたいにふわふわした気持ちになった。
「僕の聖女様は、貴方です……」
少し気恥ずかしい感じに口元を緩くさせ、目元を愛し気に微笑ませて、真っ直ぐに私を見つめる瞳が神秘的なくらいキラキラしている。
「わ、わたくし……」
この手を取ってよいのかしら。
そんな一瞬の葛藤が、手を取られて甘やかな感情に流されていく。
「コーデリアは、僕のことを恋愛対象に思えませんか?」
「い、いいえ……」
「では、僕と恋愛してくださいますか?」
ドキドキする。
一生懸命な声色が、まっすぐに好意を伝えてくれる。
――他の誰でもない、私に!
ダンスミュージックがゆったりとムーディーに演奏される中、私たちは再びの婚約を約束したのだった。
……これが、ひとつ。
そしてもうひとつは――
「きゃあああ!!」
ダンスパーティ会場に、突然魔物の群れが現れたのだ。
天井からぼとりと落ちて。
床からにょきっと生えて。
壁から、あちらこちらから、ぬるり、しゅるり。
前触れもなくするりするりと現れた魔物の群れがぐるりと四方を囲む。
人々は悲鳴をあげてフロアの中央に集まり、震え上がった。
その魔物たちは、見た目はとても怖そうで……でも、統制が取れているみたいで、暴れ出したりはしなかった。
警備兵が剣を構えて威嚇する中、魔物たちの中からスススッと一人の小柄な黒ローブの人物が進み出る。
「あっ」
近くにいたマナちゃんが驚いたような声をあげて、警備兵をかきわけて前に出る。
「アヤ!」
「マナおねーちゃん!」
黒ローブの人物がフードを取り、声を発した。
その人物は黒髪黒目の女の子で、顔立ちはマナちゃんにとてもよく似ていた。
ちょっと気が強そうで、飾らない感じの表情がなんだか可愛い。
人にあまり懐いてない子猫みたいな雰囲気がある。
近寄ると「シャーっ」って言いそう。
「ごめん、そういえば告白しようと思ってたんだけど、あたし前に嘘を言ったわ」
マナちゃんがそう言って、私たちを振り返った。
「あたし、ほら。前に彼氏いるって言ったじゃん? あれ、嘘。本当はあたしにいるのは彼女なの。あたしの恋人、この子。妹なんだぁ」
「……」
マナちゃんの人差し指が黒ローブの彼女に向けられている。数秒間、息が詰まるほどの静寂が広いダンスパーティ会場を支配した。
「?????」
全員の頭の上に大量の?が並んだ。
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