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4、奪還のベリル

272、わたくし、逆行《ループ》モノの恋愛物語はたくさん読みました!

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(待って。シュネー? ……『迎えは別の扉じゃないと開かない』って?)

 フィロシュネーはルーンフォークの話を聞いて自分が少し前に抱いた疑問を思い出した。

 『なぜ、グレイ男爵の祖先は青国の都市グランパークスで行方不明になったのに、他国で発見されたの?』

(……ああ~~!) 
 思い出した瞬間、脳内で二つの情報がつながった。

「わたくし、答えがわかりましたわ。グレイ男爵の祖先は、入った扉と別の扉を開けてもらい、助けてもらった……都市グランパークスの付近と紅国のどこかにも扉がある、ということですわね!」

 そして、紅国の預言者を名乗るシューエンからの手紙はルーンフォークの足跡調査呪術の結果を裏付けるものだ。
 
『僕は一年前に、カサンドラが二人の王を海に落とし、シェイドが海中で暗殺しようと追いかけたのを見ました。シェイドは人魚に邪魔されたと言って悔しがっていました』
 
 フィロシュネーは室内の全員に手紙を見せて、ここまでの情報をまとめた。
 
「そして、この石版ですわ。以前、洞窟でサイラスが発見した石版……ハルシオン様が届けてくださった石版です……この石版には、お兄様の筆跡で文字が刻まれています。『山で待ってる』という文言ですわ!」 

 フィロシュネーはどきどきした。
 その高揚に共感するように、預言者ダーウッドが口を開く。

「私は似たような石版を知人から借りておりました。知人は、遺跡で見つけたと言っていました……」

 ダーウッドは、自分が所有する石版を取り出して見せた。そして、説明した。
 
「この石版に文字が刻まれたであろう時代の文明では知り得ないような、後の時代の天災や大陸史が書かれています。また、この絵でございますが、山が三つ描かれているのですな」

 全員が身を乗り出し、石版に見入った。
 
 山は、三つ。
 北に一つ、東に一つ、西に一つ、描かれている。
 
 西の山は海の中にあり、東の山には鳥がいる。
 矢印のような線が、西の山から東の山へと引かれている。
  
 フィロシュネーは全員の顔を順に見てから、自分の考えを言葉にした。
 
「ルーンフォーク卿は、おっしゃいましたわね。『離れた時間や遠い閉鎖空間と扉がつながっている』と」

 ルーンフォークが首を縦に振る。
 魔法や呪術でも、フィロシュネーが把握している限り、現代の人間にそんなことはできない。しかし、そんな技術があるのだとしたら?

「あ、あのう……『扉をくぐったお兄様たちが、過去の時代にいらっしゃる』という可能性が、あったりしません?」
  
 現在から過去に行く、なんて、冗談のように現実味の薄い話だ。
 けれど、それが「あり得る」と感じる素養が、フィロシュネーにはある。
 なぜなら。

「わたくし、時間が戻って人生をやり直す『逆行ループ』モノの恋愛物語はたくさん読みました! わたくしたちの国には、いつからか『過去に戻る』という概念がありますわよね!」

 『逆行ループ』モノは、「過去に戻って、再び同じ時間をやり直す」という物語の型だ。
 なにせ未来の知識があるので、これから起きることを知っている強みを活かして主人公が大活躍する。そして、未来をどんどん変えていく。
 
 お約束テンプレの話の道筋は安心感があって人気があり、似たような本がたくさん制作されているのだ。
 
「グレイ男爵の祖先のように扉をくぐって帰ってきた方が昔から何人もいて、ご自分の驚異的な体験を物語になさったりした結果、そういう概念が根付いた可能性もあるのでは?」
  
 ハルシオンは「面白い推理ですね」と頷いてくれた。
 否定しないハルシオンに感謝しつつ、フィロシュネーは、石版に描かれた山と文字を見た。
 
(……点と点がつながって、ひとつの大きな真実を作り上げていくみたい)
 
「人知を超えた超技術ですが、そう考えると石版の謎が解けますし」

 フィロシュネーは指先で石版の矢印をなぞった。
 
「お兄様は、『山で待っている』と伝えてくださっていますわ。この矢印は、西にある海中の山から東の山に向いています。東の山に描かれた鳥は、神鳥様ではないかしら?」

 ひとつのことに思い当たると、その瞬間に次が思いつく。
 連鎖的に思い浮かぶ答えに高揚感を高めつつ、フィロシュネーは結論に達した。
 
「都市グランパークスの近くにあるレクシオ山で待っている、とおっしゃっているのだわ!」
 
 レクシオ山に、扉があるのだ。
 それを探して月隠の夜に開けるのだ。

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