上 下
257 / 384
4、奪還のベリル

254、騎士道観覧会3~以下の問題文を読んで、好みの道を選んでください。

しおりを挟む
 西側と東側で、二つの騎士小隊が同時に第二関門への挑戦を始めている。

 迷路の中がどうなっているのかは観覧席からは見えないが、司会進行役と内部の魔法使い、呪術師が連携して盛り上げてくれる。

「最初の分岐路に先に到着したのは、東側の竜騎士小隊です! なお、問題は西も東も同じで、出題順のみが違う状態となっております。公平です!」
 
 内部にいる青国の魔法使いが魔法を使い、ステージの上空に内部映像がゆらりと映し出される。

「おおっ、見えた……!」

 観客の目に映ったのは、マーブル模様の壁に囲まれた迷路の中で、竜騎士の小隊が話し合っている風景だ。
 左右に道が分かれていて、真ん中に木製の立て札が立っている。魔法使いが気を利かせた様子で、立て札に近付いて文字を見せてくれた。
 
『以下の問題文を読んで、好みの道を選んでください。

 ――問題文――
 合格するのが難しい試験があり、それに合格することは大変な名誉です。
 現在の自分の実力では合格できる可能性は万にひとつもないでしょう。一年間、真面目に努力すれば、あるいは来年はもうすこし実力がついて合格の見込みが出てくるかもしれません。
 
 今年の試験が迫った、ある日。
 あなたは、魔導具を手に入れました。離れた場所にいる教師が答案を見て答えを教えることができる魔導具です。
 
 左の道……魔導具を使わず、今年、実力でチャレンジして恐らく不合格になるが、地道に実力を磨いて来年の合格を目指す。
 右の道……よしよし、しめしめ。魔導具を使って、今年合格する』

 フィロシュネーは侍女ジーナが差し出してくれたオレンジと紫の二色グラデーションのジュースを飲みながら、「右ですわよね」とハルシオンを見た。
 青と赤の二色グラデーションのカクテルを飲んでいたハルシオンは、「どちらでもいいのでは」と首をかしげる。

「使えるものがあるのなら、なんでも使って目的を達成するべきだ。戦場では命のやり取りをするのだぞ。次はない!」 
 東側の騎士小隊の竜騎士たちは、右の道を選んだ。
  
「東側の騎士小隊は、右の道を進んだようです! おっと、ここで西側の呪術師から映像が届きましたよ。騎士小隊が分岐路に到着したようです!」
 
 映像が切り替わる。
 
 『目の前に、腹が痛いと言って苦しんでいる人がいます。
  縁もゆかりもありませんが、近くにいる家族が言うには、日頃の生活が不摂生で体に変調をきたしたと思われる、というのです。

  左の道……医者を呼び、医者の到着まで自分にできる応急措置をする。
  右の道……生活態度が悪いからそうなるのだぞ、今度は改めよ、と説教をする』

「簡単な問題ではないか。相手は苦しんでいるのだ。まずは助けよ」
  西側の騎士小隊は、迷いなく左の道を選んだ。
 
 司会進行役は、目まぐるしく変わる映像をあたふたと解説している。
「おっと、この映像はどっち側のでしょう。あ、東ですね? 簡単な問題です!」
 
 『子どもたちが、珍しいカメを囲んでいじめています。
  カメはただ珍しいだけで、毒も持っておらず、狂暴性もありません。
 
  左の道……いじめを止める。
  右の道……いっしょにいじめる』

 竜騎士たちがどちらを選んだのかを確認する前に、映像が変わる。
 
「おーい、どっちを選んだのかは見届けさせてくれよおー!」
 観覧席から不満の声があがっている――

 フィロシュネーは考えた。
「フェリシエン・ブラックタロンさん?」

 呼びつけてみると、フェリシエンはこの世が終わるような陰鬱な顔でやってきた。
 周囲も「用事があるなら臣下を経由して伝えればいいのに」という目だ。

「なんでしょうかな。青王陛下」

 一応、敬意を払ってくれるらしい。フィロシュネーは意外に思いながら確認した。

「ああいった大規模な呪術の仕掛けは、ブラックタロン家が管理なさっているのよね?」
「まあ、そうですな」

 思っていた通りだ。よかった!
 フィロシュネーはにっこりとした。

「わたくし、思うのだけど。あのコロコロと切り替えている映像、半分ずつ分けて、西側の映像を西側に、東側の映像を東側に、ずーっと映しっぱなしにしてはいかがかしら」

 伝えたいことが言えているかしら。
 言葉って、難しい――フィロシュネーは身振り手振りをまじえて、「二つの映像を並べて、同時に、ずーっと映すの」ともう一度言った。

「ほう。やってみましょう」
 フェリシエンは頷き、すぐに映像を言ったとおりにしてくれた。

 ステージ上空、西側の映像では、リュート・アインベルグ侯爵公子が問題文を読んでいる。
  
 『あなたは友人といっしょに旅路を歩いています。二人そろって空腹です。
  あるとき、あなたは空腹に耐えかねて、もう歩けないと言って座り込みました。友人はあなたのために食べ物を探しにいき、木の実を見つけてきて、あなたに食べさせてくれました。
  元気になって再び旅路を進んでいると、友人が疲労を訴えて座り込んでしまいました。

  左の道……食べ物を探しにいき、友人に与える。
  右の道……お荷物な友人を置いて先に行く』

 ステージ上空、東側の映像では、ジーク・バルトが問題文を読んでいる。

 『あなたは道を歩いていて指輪を拾いました。とても美しく、高価な宝石の指輪です。
  近くには、目に包帯を巻き、杖をついた老婦人がいます。
  あなたには、「亡くなった夫の形見の指輪を落としてしまったみたい」と悲しむ老婦人の声が聞こえました。

  左の道……指輪が落ちていました、と言って老婦人に指輪を渡す。
  右の道……指輪を自分のものにしてその場を去る』

 これには、司会進行役も大喜びだった。
「やった! いいですね。両小隊の動向が同時に映っています!」

 観客と司会進行役が「西側はあっちを選んだ、東側がこっちを選んだ」とワイワイ見ているうちに、西側の騎士小隊が第二関門を突破した。

「先に第二関門を突破したのは、西側の騎士小隊です!」

 ワアアアアアッ! と歓声が湧く。

「オリヴィア嬢。お待たせしました。途中、あなたの応援の声が届いたように思います。励まされました」

 リュート・アインベルグ侯爵が婚約者であるオリヴィア・ペンブルック男爵令嬢をお姫様抱っこで中央エリアから救助すると、観覧席は割れんばかりの拍手をして、おおいに盛り上がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました

群青みどり
恋愛
 国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。  どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。  そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた! 「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」  こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!  このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。  婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎ 「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」  麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる── ※タイトル変更しました

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

処理中です...