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4、奪還のベリル
235、今度はわたくしに頼っていただく番ですの/ 俺は紅国の預言者です
しおりを挟む「ルーンフォークが乗っていた船はそのまま行方不明者の捜索を続けています。けれど、誰ひとりとして見つからないのだそうです」
ハルシオンは、フィロシュネーにとって頼もしい存在だった。彼が味方なので、わたくしはなにも怖くない、と思っていたものだ。
けれど、物憂げな表情で打ち明けるハルシオンには、「無条件に寄りかかり、甘えていてはいけない」と思わせる雰囲気があった。
「モンテローザ公爵にわたくしが言われたのですけど……陛下は神です、そうであれ、と」
フィロシュネーは言われた言葉を共有した。そっくりそのまま。
「あは、懐かしいな」
ハルシオンは目を細めた。
「出会ったばかりの頃を思い出しますよ。シュネーさんは、私を王道を説かれたのです」
大切な思い出を愛でるように語る声は、少し寂しそうだった。
「王族は、ただ偉いだけではない、リーダーシップを発揮して国の方向性をその指揮杖で示すのだ、権力を有する者には、本来は高い教養や道徳心、決断力、冷静さ、……たくさんの資質が求められる……」
確かに、そんなことを言った。フィロシュネーは懐かしく思い出した。
「シュネーさんは、王族らしい王族です。それに比べて私は――」
「あなたがわたくしの味方をしてくださるから、わたくしは、何も怖くない――なんだって、きっと思うがまま! わたくしは、そう思っていました!」
卑下しかけたハルシオンを遮るように、フィロシュネーは言い放った。
「わたくしはあの頃、わたくしは、あなたの威を借る子ぎつねさんのようだったのです。あなたは、わたくしのずるさを知らずに、色々と褒めてくださいました」
手を差し出せば、手が重ねられる。
前よりも痩せていて、ひんやりとした体温だ。
フィロシュネーはそっと治癒魔法を使った。ハルシオンに元気になってほしくて。
「今度はわたくしに頼っていただく番ですの。と、申し上げるには、わたくしは非力ですけれど……わたくしたち、契約をしましたわね? 契約がなくても、お互いのことがわかっていて、目的も同じで、立場も同じで……仲間です。同志です。友人です」
コンコン、と窓の方から音が聞こえる。なんだろう。
扉ならわかるけれど。なぜ窓?
「わたくしも捜索の手配をいたします。それに、ハルシオン様のために魔法使いも派遣しますわ。頼れる腹心呪術師が不在では、お困りのこともあるのではないかしら」
フィロシュネーが宣言したとき、再び窓がコンコン、と叩かれる音がした。
「……? まあ。何事ですの?」
見れば、窓の外に人がいる。
城の外で「余裕です」と発言した少年魔法使いだ。窓近くに伸びた木の枝に座り、あろうことか長い杖の先で窓を叩いている!
「え、ええっ? ぶ、無礼です。どうしてそんなことをなさるの」
我が国の魔法使いが、気心知れた友とはいえ隣国の王であるハルシオンの目の前でとんでもない無礼な振る舞いをしている!
フィロシュネーは目を疑った。
「あけてくださーい」
しかも、窓の外から呼びかけてくる!
すっぽりとローブのフードをかぶり、「中に入れてくださいよ」というように窓を叩いている。
窓を開けてあげると、少年魔法使いは軽やかな身のこなしでピョンッと部屋の中に跳びこんできた。
そして、どことなく聞き覚えがあるような、誰かに似ているような雰囲気で発言した。
「外に暗殺者がいましたよ。危ないですね」
「暗殺者っ!?」
少年の褐色の手が窓の外を指す。
ハルシオンと一緒に窓際に寄って三階の高さから見下ろすと、外の地面には黒服の男が倒れていた。気を失っているらしき男は、全身をがっちりと縛られている。
警備兵が集まり、男を連れて行く……。
「お、お手柄なのね。お疲れ様。ありがとう……あなた、お名前は?」
「俺は紅国の預言者です」
「はい?」
短く告げられて、フィロシュネーは目を瞬かせた。
「失礼。今なんておっしゃったの?」
「アロイスさんが報告書を届けたいと言っていたので持ってきました。では」
聞き返すフィロシュネーに構わず、少年魔法使いはくるりと背を向けて窓からぴょこんと降り、去って行った。風のように颯爽とした去り際だった。
「今、預言者と聞こえたような」
「ハルシオン様もそう聞こえました? わたくしもですの」
フィロシュネーは首をかしげつつ、アロイスからの報告書をひらいた。
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