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幕間のお話3

221、友よ。ここは修羅場だ。ワッハッハ/坊やは黙っておいでなさい

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「一日準備するゆえ、明日まで待つがよい。どうせ本日はいたずら小僧どもの後始末で騒がしい」

 トール爺さんはそう言って、食堂に行くようにと手を振った。

「食事がまだでしたね」
 
 ノルディーニュは、ひと仕事終えて満足したような顔である。神経質そうなこの青年が微笑んでいると、「よかったですね」と言いたくなる。こちらはこちらで、エリュタニアとは違った方向の「尽くし、支えたくなる」君主のオーラを持っている――ダイロスは、そう思った。
 だが、ルール違反をした『いたずら小僧』であることには違いがない。
  
 ノルディーニュと一緒に通路を戻ると、バチリ、ガチリ、と魔力や金属の衝突する激しい戦闘音が聞こえてくる。

「おお、友よ。ここは修羅場だ。ワッハッハ」

 アエロカエルスとソルスティスが抜き身の剣を持ち、刃同士を打ち合わせては「お前がそうだから正義が成らぬのだ!」とか「正義正義と押し付けるから仲間は減るのだ」とか揉めている。派閥内部で意見が割れてしまっている。これはだめな組織だ――ダイロスは、冷静にそう思った。

「彼ら、割といつもあんな感じなのだ。ダイロス殿は気にせず。さあさあ、食堂で飯でもいただこうではないか」
「友よ。情報はグレイ男爵に無事、持たせたぞ」
「素晴らしい」
   
 ルエトリーが後ろをついてくる。

「誰のせいでアエロカエルスとソルスティスが喧嘩していると思っているの? お待ちなさい!」

 怒っている、怒っている。
 ああ、この「悪い子はぜったいにわからせないと」という正義の気配。怒られたい――ダイロスは胸をきゅんと締め付けられるような気分になった。もはや完全に恋していた。

「ルエトリー殿。二人を叱らんでやってくだされ。実は、実は……わしがそそのかしたのですじゃ」
「そんなわけないでしょ」

 気を惹こうとしても、こちらを見てもくれない。
 恋とは切ないものである。気を惹くために不正義をしでかすか? いやいや、なにを考えているのだ百五十歳。血迷いすぎではないか。ダイロスは頭を振り、「これは早く老いねば」とあらためて老いる決意を固めた。

「ただでさえ人数が減っていて石もなくなっているのに、内輪揉めだなんて。勘弁してほしいわ」

 悲し気にいう声が、胸をきゅうきゅうと苦しくさせる。

「しかし、こんなときに石がなくてよかったではありませんかの。ルエトリー殿」
「なんですって」

 ダイロスは真面目な口調と表情を取り繕った。この美女ルエトリーに、なにがなんでも嫌われたくない、と思った。このダイロスという客人は少しは賢くて、物を考える知性があって、良い人間であるのだと思われなくなった。

「見た所、お船の方々はお歳はそれはもう取っておられるご様子ながらも、感情豊か。頭に血がのぼることもおありときた。となると、感情のまま、自分の欲や憤りのために石をうっかりと使ってしまう危険性もあるではありませんか。手元になくてよかったですのう」

 わざとらしく年寄りぶって言いながら、ダイロスは自分が彼女と比べてどれほど若輩であるかを意識した。
 
 ああ、このヒンヤリとしたルエトリーの眼といったら。
 価値観がまるっきり違っていて、自分の意見をわからせようとしても無駄だと感じているような、虫けらを見るような気配なのだ。

「坊やは黙っておいでなさい」

 ぴしゃりと告げて、ルエトリーは年長者の表情をした。

 無言でうなずき、その後の食事をもそもそといただきながら、ダイロスはふわふわとした酩酊したような心地で、はにかむような表情をたたえた。

「ダイロス殿。客人は、我々が来る前から『相互帰国協力』をしてきたのですよ」

 そんなダイロスに、ノルディーニュが教えてくれる。
 彼らが来たばかりの頃にいた先輩客人が、彼らに教えてくれたのだと。

「帰りたいと望む客人が帰ることができるように、遺跡の情報を紙や石に刻んで、迎えが来て帰る客人に託すのです。もし俺たちがあなたより先にいなくなって、誰か新しい客人があらわれたときには、今度はあなたがこの『相互帰国協力』の文化を新参客人に伝えてください」

 なるほど。
 こんな条件でどうやって帰れるというのか、と思っていたものだが、彼らは自分たちが帰るために種をせっせと撒き続けているというわけだ。

「……しかと、承りましたぞ」

 文化を継承する。全員で、可能性の種を撒く。
 そんなイメージを持つと、ダイロスの中に謎の幸福感、高揚感が芽生えた。

 大きな全体の一部として存在して、全体のために、なにか大切な役割を果たす大切な歯車である自分。
 自分という存在がいることにより、大切ななにかを存続させることができるという手応えのようなもの。
 生きる意味を感じたとか、やりがい、生き甲斐を見出したような感覚。
 
 自分が誇らしく、意味のある存在だと思える。

 ……それが幸福感につながったのだ。
 
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