109 / 384
2、協奏のキャストライト
106、おまけ:褒められた後の騎士団さん、台無し
しおりを挟む「褒められたぞ!」
「練習の成果が出たな……!」
氷雪騎士団が盛り上がっている。
「やっぱこの角度が格好いいよな」
「俺の『博愛!』いい声だっただろ」
(うーん。せっかく決まったのに、ゆるゆるっとした雰囲気になってしまったわね。でも、こういうところもわたくしの騎士団の良さといえるかしら)
微笑ましいといえば微笑ましいけれど、王族の騎士団としては、品格がやはりイマイチ。
フィロシュネーは氷雪騎士団の統率を任せているシューエンを見た。
シューエンは、「よしよし」と腕を組んで満足そうにしている。
「さっきのはアーサー陛下がご覧になっても大満足なのでは? 僕の育てた騎士団、誇らしい! さあフィロシュネー殿下、あいつらのボロが出てしまう前に建物の中にお戻り下さい」
「もう出てるんじゃないかしら」
「まだまだこれからでございますからして」
(そんなこと言われると気になるじゃない)
フィロシュネーは騎士団から離れるフリをして物陰に隠れた。
「俺たち、こんなに格好いいし王妹殿下の騎士団って一流のステータスなのに、なんでモテないんだろうな」
ひとりの騎士がボソッと言う。
すると、周りにいる騎士たちが「なに言ってんだこいつ」という眼になった。
「お前は自分の剣に『性剣エクスカリバー』って書いてるからモテないんだぞ。字も間違ってるし」
言われた騎士の剣の鞘には、確かに変な文字が!
「むっ。お前だって、支給された盾に『俺のママ♡』って書いてるだろ、マザコン野郎」
「ママがオレを守ってくれるって思ったら勇気が出るだろうがぁ!」
支給品になにをやっているの!
ツッコミをこらえて見守っていると、会話はどんどんしょうもないノリになっていく!
「この前来た新人だってお前が歓迎会で『よく来たな、まずはオレのウサたんパンツをみてくれ、こいつをどう思う?』とか言ってポロンッてするから翌日には辞めていったんですよ。ウケるとおもったんですか?」
「あー、その新人。ポロンで終わらなかったんですよ。ポロンのあとに『この騎士団に入ったおかげで俺は彼女が三十人もできて毎日つれーわー、取り合いされてマジつれーわー』な絡みがあって」
「しかもそのあと、『キミ、なんで騎士団入ったの? エリート志向? モテたくて? 金目当て? ねえねえなんで?』って五人くらいに囲まれてたんだ」
「かわいそうになあ。心に傷負ったんじゃないか?」
(や、やだぁ……これが、わたくしの騎士団? 品性に欠けますわ)
「くらえ~、俺の性剣!」
「ぐわぁーーッ、ママーー!!」
……低俗!!
「姫殿下」
「あっ、ダーウッド」
青い小鳥の姿をしたダーウッドが肩に留まる。小鳥のさえずりは、怒りを感じさせた。
「全員クビにするようにアーサー陛下に奏上しましょうかな」
クビは厳しすぎるのではないかしら。
フィロシュネーは迷いつつ、シューエンを呼んだ。
「ひあっ!? フィ、フィロシュネー殿下!! で、で、ですから、僕は申し上げたのでございまして。あの、彼らにも仕事モードと休憩モードというものがございまして。ずっと気を張っているというのも、人間なかなかできぬと言いますか」
フィロシュネーはむすりとした。
「もうすこし品位や礼節について教育するように。わたくしの騎士であることがわかる格好をしているときは、下ネタではしゃいだりしてはダメ。騎士の制服を着ているときは、常に民の目があると思ってキリッとなさっていてください」
「そ、それはもちろん」
「王族の騎士団は国家の名誉を背負っていますの。あなたたちの立派な鎧も剣も盾も、民の血税で立派な品をそろえられています。それは民を守るためという理由があるからですの」
「承知しております! はい!」
「民の耳目がある場では特に気を付けるのよ……いい? 新人騎士も辞めたあとで言いふらすお口があるのだから、身内だからと気を緩め過ぎたらだめよ」
フィロシュネーは真剣に言い聞かせて、辞めていった新人に『慰謝料』という名目の『口止め料』を届けさせた。
「さて、お兄様が到着する前に、紅国にはたっぷり恩を売って差し上げます。『もう終わりましたわよお兄様』と申し上げましょうね」
ミストドラゴンの密猟団を捕まえること。
ドラゴンの石を回収し、解呪の魔導具と一緒にサイラスに渡すこと。
ドラゴンの石を流通させている商会を調査し、取り締まること。
情報共有したハルシオンとフィロシュネーは、そんな計画を立てたのだ。
0
お気に入りに追加
278
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる