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1、贖罪のスピネル
24、兄が妹を守るのは当然なのではないでしょうか
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フィロシュネーが目を輝かせていると、警備兵の隙間を抜けて都市民がひとり、駆けてくる。ヒョロヒョロで禿頭のおじいさんだ。ローブを着ている。
「姫殿下、王女様! 敵国の手に落ちて、おいたわしや!」
しわがれた声が使命感に溢れる声を放つので、フィロシュネーは驚いた。
「このダイロスめがお助け申し上げますぞいっ!」
(助ける?)
「ぎゃっ」
「無礼者」
呼吸ひとつする間に、黒い影が動いていた。
瞬きしたあとには駆けてきたおじいさんが地面に押さえつけられている。
傍らにいたサイラスが動いたのだ、と気づいたのは一拍置いてからだった。
「せ……青国万歳! 青国に栄光あれッ!」
地面に押さえつけられた格好で、ダイロスと名乗り上げたおじいさんが叫んでいる。
体格の良いサイラスに押さえつけられた痩身の老体を少しだけ心配してしまったフィロシュネーは、おじいさんが健在らしき様子で安堵した。
(サイラス、あなた「無礼」って概念を知っていたのね)
次に思ったのは、そんな感想だった。
正直、突然の出来事を怖く感じるほどのショックはなかった。すぐ傍にミランダとサイラスがいるから守ってもらえるので大丈夫、という意識が強いのかもしれない。
怖いと思うどころか、「お年を重ねたお方は興奮するとお体に良くないと聞いたけど大丈夫かしら」と別の方向で心配してしまう始末。
無礼に対して怒りを覚えるかというと、そちらもあまり感じなかった。
(サイラスが「無礼」なんて言ったからかもしれないわね。ちょっとびっくりしたし……いい気分になったわ)
サイラスはフィロシュネーのことを心配してくれるし、守ってくれるし、無礼者に怒ってくれるのだ。それが感じられると、気分がいい。
「んふふ」
そんな場合ではないのに、口元がゆるゆると笑んでしまいそう。フィロシュネーは扇で口元を隠した。
「姫殿下、さぞ驚かれ、怖かったでしょう」
隣にいたミランダが片手でフィロシュネーの細い肩を抱き寄せるようにして、逆の手で細剣を抜いている。そんな中、ダイロスじいさんは憤然とした声を発した。
「姫殿下、姫殿下。加護を喜ぶ声もありますが、空国の領土としておこぼれに預かって嬉しいものですかな。姫殿下は青国の姫ではありませんかな。本来は青国だけが加護にあやかれたのに、空国の盗人どもが」
「なんだと!」
警備兵は、空国の兵士だ。当然、殺気立つ。
(あっ、大丈夫? ズバッと斬られてしまったりしません?)
フィロシュネーがはらはらしていると。
「お待ちを~~っ」
そんな現場に、金髪の少年がすばしっこく駆けてきた。
疾走は、常人離れして素早い。
ダイロスじいさんの隣で頭を地面に擦りつけるようにして声をあげる声はとても子供っぽくて、怯え切っている様子だった。
「ひええ、ひええ。ごめんなさあい! ぼくのじいちゃんがすみませんっ。愛国心をこじらせちゃってて……ボケもあるんですう! 許してくださあい!」
あどけない少年の声と。
「自分の国がなくなるのは嫌、と。姫殿下も思われませんかな!? 上がやる気な以上、流されるままほっとくと本当に青国という国がなくなっちゃうのですぞい?」
ダイロスじいさんの声が重なる。
「ええい! 黙れっ」
空国の兵士は剣を抜いて振りかざした。正義を執行するのだと思いつつ、フィロシュネーは「お待ちになって」と首をかしげた。
「やだぁ。わたくしの前で斬りますの? 野蛮です。嫌ですわ。あなたが断罪される側ですっ。罪状は、わたくしの前で剣を抜いたから!」
「し、し、しつれいしまし!」
「いいのよ。うふふ。お仕事お疲れ様です」
剣が納められると、フィロシュネーは微笑んだ。
お疲れ様、は空国の兵士に捧げた言葉でもあり、金髪の少年にも向けた言葉でもある。
少年には、見覚えがある。
具体的にいうと、青国の名家、アインベルグ侯爵家の令息だ。
フィロシュネーの兄、王太子アーサーの騎士でもある。
名は、シューエン。身をやつしているが、間違いなかった。
(これは、うーん。潜入か何かかしら? 変装しているのだし、そうよねシューエン? わたくしが助け船を出してあげるべきよね?)
「荒っぽいことは、なさらないで? あのね、そのおじいさんの処罰は、わたくしが後で決めます。よろしくて?」
フィロシュネーは優しい声色でミランダに訴えた。ハルシオンに自分を任されている彼女は、この場の空国勢の中で、それなりに発言力がある立場だと思われる。なにより、おねだりがしやすい距離感だ。そんなフィロシュネーの読み通り、ミランダは従ってくれた。
「御意に」
二者はまとめてどこかへと連れて行かれる。
「姫殿下、警備の不手際をお詫びします。怖い思いをさせてしまいました。ひとまずは、建物の中へ」
ミランダは気づかわしげに背に手をあてて、建物の中へと促してくれる。
声は優しかった。
しかし、遠くから賑やかな音と声が聞こえてくると、彼女の凛々しい眉がきゅっと寄った。
「募兵所は気概のある者を待っているッ! 志ある者は、募兵所へ!」
門の向こうで、そんな声がする。
視線を送ると、門の前をどん、どんと太鼓をたたいて、青や黒の布を振っている集団が通り過ぎていくのが見えた。
「募兵活動です。傭兵は元々青国には多いらしいですが、都市を練り歩いて呼びかける姿が不穏なので、我々は警戒しています」
ミランダがそっと耳打ちしてくれる。
(なるほど、青い布を振っていますし、空国の方々が警戒するのもわかる気がしますわ)
フィロシュネーは少し迷ってから声を返した。
「元々我が国では『おらこんな村で一生を終えるのイヤダ』って方々が、『黒の英雄』みたいに名をあげるのを夢見て、国に所属しない傭兵団に入ったりする文化があるのですわ」
「文化、ですか」
「ええ。文化です。夢と希望を与えてくれる『黒の英雄』がいるものですから。最終的にはどこかの国での立身出世を夢見てはいますが、基本的に傭兵は国家に所属しない『なんでも屋さん』なので、ミランダが心配するような集団ではないのです」
嘘は言っていない。
身分階級の厳しい青国で、農村出身の傭兵が叙勲されて貴族の仲間入り、というのは夢のある『成り上がり』話なのだ。
さて、噂される『黒の英雄』サイラス本人はというと、先ほどの二者を警備兵に渡したあと、都市民の中に知り合いらしき人物を見つけて、こちらには聞こえない会話を交わしている様子である。
ミランダの手を引き、フィロシュネーはそちらに近付いた。
「サイラス、守ってくださってありがとう」
お礼をする機会に気付いて、フィロシュネーは礼儀正しく感謝を告げた。
殊勝な態度で礼をするフィロシュネーに困惑気味になりつつ、サイラスは顎に手をあてた。
「御身をお守りするのは俺の仕事……、いえ」
視線がミランダを見て、設定を思い出したように「兄が妹を守るのは当然なのではないでしょうか?」と言い直している。
「当然なの?」
フィロシュネーは思わず呟いた。
「当然ではないのですか?」
「あ、いえ。いいのよ」
フィロシュネーの実の兄、王太子アーサーとは、あまり心温まる兄妹のコミュニケーションがないのだ。
フィロシュネーは新鮮な気持ちで『兄』を見た。
『兄』は大きく見えた。見えるというか、実際大きいのだけど。
地面に大きな影を落としていて、小柄なフィロシュネーからすると、頼もしい。とても。
「わたくしのお兄様は、強くて、妹に優しくて、お金を払わなくても守ってくださるのね」
ぽつりと言えば、なんだかとても胸がぽかぽかする。
「金を払ってくださるなら有難く受け取ります」
「お父様に請求してくださるぅ?」
ミランダの呆れたような視線が二人に注がれている。
どこが兄妹の会話なのか、という気配に、フィロシュネーはなんともいえない脱力笑顔を返した。
「おい、こいつ俺の銭袋を盗んだぞ! 拾ったなんて嘘を言って!」
そして、新たな揉め事の気配にびっくりするのだった。
さっきまであんなに雰囲気がよかったのに。
ありがとうをたくさん貰えて、気分がよかったのに。
フィロシュネーが視線を向けると、先ほど「落ちていた銭袋を拾ったんです」「諦めていた不毛の頭に毛が生えました!」と喜んでいた二人が取っ組み合いの喧嘩を始めている。
「どうして喧嘩なさっているの?」
「生活が不安定だと人は不満を覚えやすくなったり怒りっぽくなるものです。人心が荒れる、というやつですね」
「それでサイラスの心はいつも荒れているのね」
「姫の御心も荒んでしまわれたようで、おいたわしい限りです」
サイラスは本気か冗談かわからない温度感で肩をすくめて、「あちらは兵士にでも任せて中に入りましょう」と言う。
「おいみんな聞いてくれ! こいつが持ってる銭袋、俺のなんだ!」
「いやいや違う。それを落としたのはおいらさ」
「嘘なんかついて。それは私のよ」
しかも、周囲にいた民が便乗して次々と銭袋の所有権を主張し始めるではないか。
(さっきまで仲良くいっしょに手を振って喜んでいたじゃない)
フィロシュネーは義妹が石礫の雨に晒されたときを思い出して、思いついた。
(あっ、わたくし、この方々に真実を教えられるではないの?)
能力を示すのだ。そうすると、そうすると?
(サイラスがわたくしを見直すに違いありませんわっ!)
『すごいですね、ひめ! さすが せいじょさまです。さいらすは、そんけいします。ちゅうせいをちかいます。いぬとよんでください。わんっ』
脳内でふわふわしたサイラスのイメージが、たいそう気持ちのよいことを言ってくれている。
(んふふふふ! よくってよサイラス! よぉーしっ、やりますわっ!)
フィロシュネーは腹を決め、揉めている民たちに向けて言葉を選んだ。
「姫殿下、王女様! 敵国の手に落ちて、おいたわしや!」
しわがれた声が使命感に溢れる声を放つので、フィロシュネーは驚いた。
「このダイロスめがお助け申し上げますぞいっ!」
(助ける?)
「ぎゃっ」
「無礼者」
呼吸ひとつする間に、黒い影が動いていた。
瞬きしたあとには駆けてきたおじいさんが地面に押さえつけられている。
傍らにいたサイラスが動いたのだ、と気づいたのは一拍置いてからだった。
「せ……青国万歳! 青国に栄光あれッ!」
地面に押さえつけられた格好で、ダイロスと名乗り上げたおじいさんが叫んでいる。
体格の良いサイラスに押さえつけられた痩身の老体を少しだけ心配してしまったフィロシュネーは、おじいさんが健在らしき様子で安堵した。
(サイラス、あなた「無礼」って概念を知っていたのね)
次に思ったのは、そんな感想だった。
正直、突然の出来事を怖く感じるほどのショックはなかった。すぐ傍にミランダとサイラスがいるから守ってもらえるので大丈夫、という意識が強いのかもしれない。
怖いと思うどころか、「お年を重ねたお方は興奮するとお体に良くないと聞いたけど大丈夫かしら」と別の方向で心配してしまう始末。
無礼に対して怒りを覚えるかというと、そちらもあまり感じなかった。
(サイラスが「無礼」なんて言ったからかもしれないわね。ちょっとびっくりしたし……いい気分になったわ)
サイラスはフィロシュネーのことを心配してくれるし、守ってくれるし、無礼者に怒ってくれるのだ。それが感じられると、気分がいい。
「んふふ」
そんな場合ではないのに、口元がゆるゆると笑んでしまいそう。フィロシュネーは扇で口元を隠した。
「姫殿下、さぞ驚かれ、怖かったでしょう」
隣にいたミランダが片手でフィロシュネーの細い肩を抱き寄せるようにして、逆の手で細剣を抜いている。そんな中、ダイロスじいさんは憤然とした声を発した。
「姫殿下、姫殿下。加護を喜ぶ声もありますが、空国の領土としておこぼれに預かって嬉しいものですかな。姫殿下は青国の姫ではありませんかな。本来は青国だけが加護にあやかれたのに、空国の盗人どもが」
「なんだと!」
警備兵は、空国の兵士だ。当然、殺気立つ。
(あっ、大丈夫? ズバッと斬られてしまったりしません?)
フィロシュネーがはらはらしていると。
「お待ちを~~っ」
そんな現場に、金髪の少年がすばしっこく駆けてきた。
疾走は、常人離れして素早い。
ダイロスじいさんの隣で頭を地面に擦りつけるようにして声をあげる声はとても子供っぽくて、怯え切っている様子だった。
「ひええ、ひええ。ごめんなさあい! ぼくのじいちゃんがすみませんっ。愛国心をこじらせちゃってて……ボケもあるんですう! 許してくださあい!」
あどけない少年の声と。
「自分の国がなくなるのは嫌、と。姫殿下も思われませんかな!? 上がやる気な以上、流されるままほっとくと本当に青国という国がなくなっちゃうのですぞい?」
ダイロスじいさんの声が重なる。
「ええい! 黙れっ」
空国の兵士は剣を抜いて振りかざした。正義を執行するのだと思いつつ、フィロシュネーは「お待ちになって」と首をかしげた。
「やだぁ。わたくしの前で斬りますの? 野蛮です。嫌ですわ。あなたが断罪される側ですっ。罪状は、わたくしの前で剣を抜いたから!」
「し、し、しつれいしまし!」
「いいのよ。うふふ。お仕事お疲れ様です」
剣が納められると、フィロシュネーは微笑んだ。
お疲れ様、は空国の兵士に捧げた言葉でもあり、金髪の少年にも向けた言葉でもある。
少年には、見覚えがある。
具体的にいうと、青国の名家、アインベルグ侯爵家の令息だ。
フィロシュネーの兄、王太子アーサーの騎士でもある。
名は、シューエン。身をやつしているが、間違いなかった。
(これは、うーん。潜入か何かかしら? 変装しているのだし、そうよねシューエン? わたくしが助け船を出してあげるべきよね?)
「荒っぽいことは、なさらないで? あのね、そのおじいさんの処罰は、わたくしが後で決めます。よろしくて?」
フィロシュネーは優しい声色でミランダに訴えた。ハルシオンに自分を任されている彼女は、この場の空国勢の中で、それなりに発言力がある立場だと思われる。なにより、おねだりがしやすい距離感だ。そんなフィロシュネーの読み通り、ミランダは従ってくれた。
「御意に」
二者はまとめてどこかへと連れて行かれる。
「姫殿下、警備の不手際をお詫びします。怖い思いをさせてしまいました。ひとまずは、建物の中へ」
ミランダは気づかわしげに背に手をあてて、建物の中へと促してくれる。
声は優しかった。
しかし、遠くから賑やかな音と声が聞こえてくると、彼女の凛々しい眉がきゅっと寄った。
「募兵所は気概のある者を待っているッ! 志ある者は、募兵所へ!」
門の向こうで、そんな声がする。
視線を送ると、門の前をどん、どんと太鼓をたたいて、青や黒の布を振っている集団が通り過ぎていくのが見えた。
「募兵活動です。傭兵は元々青国には多いらしいですが、都市を練り歩いて呼びかける姿が不穏なので、我々は警戒しています」
ミランダがそっと耳打ちしてくれる。
(なるほど、青い布を振っていますし、空国の方々が警戒するのもわかる気がしますわ)
フィロシュネーは少し迷ってから声を返した。
「元々我が国では『おらこんな村で一生を終えるのイヤダ』って方々が、『黒の英雄』みたいに名をあげるのを夢見て、国に所属しない傭兵団に入ったりする文化があるのですわ」
「文化、ですか」
「ええ。文化です。夢と希望を与えてくれる『黒の英雄』がいるものですから。最終的にはどこかの国での立身出世を夢見てはいますが、基本的に傭兵は国家に所属しない『なんでも屋さん』なので、ミランダが心配するような集団ではないのです」
嘘は言っていない。
身分階級の厳しい青国で、農村出身の傭兵が叙勲されて貴族の仲間入り、というのは夢のある『成り上がり』話なのだ。
さて、噂される『黒の英雄』サイラス本人はというと、先ほどの二者を警備兵に渡したあと、都市民の中に知り合いらしき人物を見つけて、こちらには聞こえない会話を交わしている様子である。
ミランダの手を引き、フィロシュネーはそちらに近付いた。
「サイラス、守ってくださってありがとう」
お礼をする機会に気付いて、フィロシュネーは礼儀正しく感謝を告げた。
殊勝な態度で礼をするフィロシュネーに困惑気味になりつつ、サイラスは顎に手をあてた。
「御身をお守りするのは俺の仕事……、いえ」
視線がミランダを見て、設定を思い出したように「兄が妹を守るのは当然なのではないでしょうか?」と言い直している。
「当然なの?」
フィロシュネーは思わず呟いた。
「当然ではないのですか?」
「あ、いえ。いいのよ」
フィロシュネーの実の兄、王太子アーサーとは、あまり心温まる兄妹のコミュニケーションがないのだ。
フィロシュネーは新鮮な気持ちで『兄』を見た。
『兄』は大きく見えた。見えるというか、実際大きいのだけど。
地面に大きな影を落としていて、小柄なフィロシュネーからすると、頼もしい。とても。
「わたくしのお兄様は、強くて、妹に優しくて、お金を払わなくても守ってくださるのね」
ぽつりと言えば、なんだかとても胸がぽかぽかする。
「金を払ってくださるなら有難く受け取ります」
「お父様に請求してくださるぅ?」
ミランダの呆れたような視線が二人に注がれている。
どこが兄妹の会話なのか、という気配に、フィロシュネーはなんともいえない脱力笑顔を返した。
「おい、こいつ俺の銭袋を盗んだぞ! 拾ったなんて嘘を言って!」
そして、新たな揉め事の気配にびっくりするのだった。
さっきまであんなに雰囲気がよかったのに。
ありがとうをたくさん貰えて、気分がよかったのに。
フィロシュネーが視線を向けると、先ほど「落ちていた銭袋を拾ったんです」「諦めていた不毛の頭に毛が生えました!」と喜んでいた二人が取っ組み合いの喧嘩を始めている。
「どうして喧嘩なさっているの?」
「生活が不安定だと人は不満を覚えやすくなったり怒りっぽくなるものです。人心が荒れる、というやつですね」
「それでサイラスの心はいつも荒れているのね」
「姫の御心も荒んでしまわれたようで、おいたわしい限りです」
サイラスは本気か冗談かわからない温度感で肩をすくめて、「あちらは兵士にでも任せて中に入りましょう」と言う。
「おいみんな聞いてくれ! こいつが持ってる銭袋、俺のなんだ!」
「いやいや違う。それを落としたのはおいらさ」
「嘘なんかついて。それは私のよ」
しかも、周囲にいた民が便乗して次々と銭袋の所有権を主張し始めるではないか。
(さっきまで仲良くいっしょに手を振って喜んでいたじゃない)
フィロシュネーは義妹が石礫の雨に晒されたときを思い出して、思いついた。
(あっ、わたくし、この方々に真実を教えられるではないの?)
能力を示すのだ。そうすると、そうすると?
(サイラスがわたくしを見直すに違いありませんわっ!)
『すごいですね、ひめ! さすが せいじょさまです。さいらすは、そんけいします。ちゅうせいをちかいます。いぬとよんでください。わんっ』
脳内でふわふわしたサイラスのイメージが、たいそう気持ちのよいことを言ってくれている。
(んふふふふ! よくってよサイラス! よぉーしっ、やりますわっ!)
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