15 / 15
15
しおりを挟む
夏の佳き日、雨上がりの爽やかな快晴の朝に、私たちは結婚式を挙げた。
教会のバージンロードを新郎の颯斗さんと歩いて、誓いのキスをして――拍手が湧いて、祝福の声があがる。
純白のウェディングドレスに身を包んだ私を祝福してくれる参列客の中には、無事に就職したスーツ姿の弟や、奥さんと娘さんと三人家族の形を取り戻した鈴木店長の姿がある。
それに、芸能人や企業家やマスコミの姿もあって、「すごい人の妻になってしまった」と実感する。
「あ……」
彼と噂になっていた女優の姿に気付いて、息を呑んだ。
女優は幸せそうに夫と子供と寄り添っていた。
「あの家族も以前は揉めていたんだ。でも、今は元通りだよ。前よりも絆が深まっていると聞く」
颯斗さんは「後ろめたいことは何もない」という風にあっさりと紹介した。
仲睦まじそうな家族の姿は微笑ましくて、美しい絵画のようだった。
「果絵。帰ったら、契約書を直さないか?」
「契約書ですか。なくてもいいと思ってしまいますけど……」
「夫婦生活のルールを決めるのは大事だと結婚情報誌にも書いていた」
「読むんですか、結婚情報誌」
「俺はなんでも読むぞ」
颯斗さんが真面目な顔をして結婚情報誌を読む姿が目に浮かぶ。
想像しているのを察してか、彼は冗談めかして付け足した。
「子ども向けの絵本も読む。もし子どもができたら、読み聞かせには自信があるぞ」
「子ども、ですか。素敵ですね……」
颯斗さんが子どもを溺愛している姿を見たら、世の中の人はみんなびっくりするんじゃないかな。
……まだ授かってはいないけど。
「子は授かると嬉しいが、無理してまで欲しがるものでもない。俺は、君が幸せに笑っていてくれれば、それが一番だ」
「颯斗さんって、たまに心を読んでます?」
「果絵の考えを察したいといつも思ってはいる」
愛情に充ち溢れた蕩ける笑顔の彼を見て、「彼があんな顔をするなんて」という驚きの声が参列客から聞こえる。
もう、彼が「冷血」と呼ばれることはなくなるかもしれない。
彼にエスコートされて外に出ると、色とりどりの紙吹雪が本物の花と一緒に宙を舞って、クラッカーの音と拍手と声援とが、地上を賑やかに囃しててお祝いしてくれる。
「颯斗さん……私、今、幸せです。大好きです。ありがとうございます」
心を籠めて言うと、颯斗さんは私の頬にキスをして参列客をさらに沸かせた。
「愛してる、果絵! 俺も今、幸せでいっぱいだ――ありがとう」
よく晴れた青空に、純白の雲が悠々と流れている。
空の天気のように、人生も明るく輝かしい時もあれば、曇ったり大雨だったりする時もある。
あの雨の日に、落としたものを拾ってもらって傘を差し伸べてもらったみたいに、これから先の日々で雨が降った時には、助けあい、支えあって生きていこう。
失敗して泥まみれになっても、お互いに励まし合って、立ち上がって、再び歩き出せる関係でいよう。
私たちの新しい日々は、ここから始まるのだ。
幸せと誓いを胸に、私は新しい一歩を踏み出した。
――FIN.
教会のバージンロードを新郎の颯斗さんと歩いて、誓いのキスをして――拍手が湧いて、祝福の声があがる。
純白のウェディングドレスに身を包んだ私を祝福してくれる参列客の中には、無事に就職したスーツ姿の弟や、奥さんと娘さんと三人家族の形を取り戻した鈴木店長の姿がある。
それに、芸能人や企業家やマスコミの姿もあって、「すごい人の妻になってしまった」と実感する。
「あ……」
彼と噂になっていた女優の姿に気付いて、息を呑んだ。
女優は幸せそうに夫と子供と寄り添っていた。
「あの家族も以前は揉めていたんだ。でも、今は元通りだよ。前よりも絆が深まっていると聞く」
颯斗さんは「後ろめたいことは何もない」という風にあっさりと紹介した。
仲睦まじそうな家族の姿は微笑ましくて、美しい絵画のようだった。
「果絵。帰ったら、契約書を直さないか?」
「契約書ですか。なくてもいいと思ってしまいますけど……」
「夫婦生活のルールを決めるのは大事だと結婚情報誌にも書いていた」
「読むんですか、結婚情報誌」
「俺はなんでも読むぞ」
颯斗さんが真面目な顔をして結婚情報誌を読む姿が目に浮かぶ。
想像しているのを察してか、彼は冗談めかして付け足した。
「子ども向けの絵本も読む。もし子どもができたら、読み聞かせには自信があるぞ」
「子ども、ですか。素敵ですね……」
颯斗さんが子どもを溺愛している姿を見たら、世の中の人はみんなびっくりするんじゃないかな。
……まだ授かってはいないけど。
「子は授かると嬉しいが、無理してまで欲しがるものでもない。俺は、君が幸せに笑っていてくれれば、それが一番だ」
「颯斗さんって、たまに心を読んでます?」
「果絵の考えを察したいといつも思ってはいる」
愛情に充ち溢れた蕩ける笑顔の彼を見て、「彼があんな顔をするなんて」という驚きの声が参列客から聞こえる。
もう、彼が「冷血」と呼ばれることはなくなるかもしれない。
彼にエスコートされて外に出ると、色とりどりの紙吹雪が本物の花と一緒に宙を舞って、クラッカーの音と拍手と声援とが、地上を賑やかに囃しててお祝いしてくれる。
「颯斗さん……私、今、幸せです。大好きです。ありがとうございます」
心を籠めて言うと、颯斗さんは私の頬にキスをして参列客をさらに沸かせた。
「愛してる、果絵! 俺も今、幸せでいっぱいだ――ありがとう」
よく晴れた青空に、純白の雲が悠々と流れている。
空の天気のように、人生も明るく輝かしい時もあれば、曇ったり大雨だったりする時もある。
あの雨の日に、落としたものを拾ってもらって傘を差し伸べてもらったみたいに、これから先の日々で雨が降った時には、助けあい、支えあって生きていこう。
失敗して泥まみれになっても、お互いに励まし合って、立ち上がって、再び歩き出せる関係でいよう。
私たちの新しい日々は、ここから始まるのだ。
幸せと誓いを胸に、私は新しい一歩を踏み出した。
――FIN.
51
お気に入りに追加
156
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中

【完結】貧乏男爵家のガリ勉令嬢が幸せをつかむまでー平凡顔ですが勉強だけは負けませんー
華抹茶
恋愛
家は貧乏な男爵家の長女、ベティーナ・アルタマンは可愛い弟の学費を捻出するために良いところへ就職しなければならない。そのためには学院をいい成績で卒業することが必須なため、がむしゃらに勉強へ打ち込んできた。
学院始まって最初の試験で1位を取ったことで、入学試験1位、今回の試験で2位へ落ちたコンラート・ブランディスと関わるようになる。容姿端麗、頭脳明晰、家は上級貴族の侯爵家。ご令嬢がこぞって結婚したい大人気のモテ男。そんな人からライバル宣言されてしまって――
ライバルから恋心を抱いていく2人のお話です。12話で完結。(12月31日に完結します)
※以前投稿した、長文短編を加筆修正し分割した物になります。
※R5.2月 コンラート視点の話を追加しました。(全5話)

伯爵令嬢は身代わりに婚約者を奪われた、はずでした
佐崎咲
恋愛
「恨まないでよね、これは仕事なんだから」
アシェント伯爵の娘フリージアの身代わりとして連れて来られた少女、リディはそう笑った。
フリージアには幼い頃に決められた婚約者グレイがいた。
しかしフリージアがとある力を持っていることが発覚し、悪用を恐れた義兄に家に閉じ込められ、会わせてもらえなくなってしまった。
それでもいつか会えるようになると信じていたフリージアだが、リディが『フリージア』として嫁ぐと聞かされる。
このままではグレイをとられてしまう。
それでも窓辺から談笑する二人を見ているしかないフリージアだったが、何故かグレイの視線が時折こちらを向いていることに気づき――
============
三章からは明るい展開になります。
こちらを元に改稿、構成など見直したものを小説家になろう様に掲載しています。イチャイチャ成分プラスです。
※無断転載・複写はお断りいたします。

少し先の未来が見える侯爵令嬢〜婚約破棄されたはずなのに、いつの間にか王太子様に溺愛されてしまいました。
ウマノホネ
恋愛
侯爵令嬢ユリア・ローレンツは、まさに婚約破棄されようとしていた。しかし、彼女はすでにわかっていた。自分がこれから婚約破棄を宣告されることを。
なぜなら、彼女は少し先の未来をみることができるから。
妹が仕掛けた冤罪により皆から嫌われ、婚約破棄されてしまったユリア。
しかし、全てを諦めて無気力になっていた彼女は、王国一の美青年レオンハルト王太子の命を助けることによって、運命が激変してしまう。
この話は、災難続きでちょっと人生を諦めていた彼女が、一つの出来事をきっかけで、クールだったはずの王太子にいつの間にか溺愛されてしまうというお話です。
*小説家になろう様からの転載です。
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる
仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。
清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。
でも、違う見方をすれば合理的で革新的。
彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。
「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。
「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」
「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」
仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

再会したスパダリ社長は強引なプロポーズで私を離す気はないようです
星空永遠
恋愛
6年前、ホームレスだった藤堂樹と出会い、一緒に暮らしていた。しかし、ある日突然、藤堂は桜井千夏の前から姿を消した。それから6年ぶりに再会した藤堂は藤堂ブランド化粧品の社長になっていた!?結婚を前提に交際した二人は45階建てのタマワン最上階で再び同棲を始める。千夏が知らない世界を藤堂は教え、藤堂のスパダリ加減に沼っていく千夏。藤堂は千夏が好きすぎる故に溺愛を超える執着愛で毎日のように愛を囁き続けた。
2024年4月21日 公開
2024年4月21日 完結
☆ベリーズカフェ、魔法のiらんどにて同作品掲載中。

貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!
よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。
ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。
その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。
短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる