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車の中でスマホを確認すると、鈴木店長からメッセージの返信が届いていた。
鈴木店長は『どうしてそんなことを知ってるんだ?』と、尋ねている。
なので、私はメッセージで経緯を伝えた。
結婚したこと。
そのコネクションで、店長が断られた依頼を受けてもらえること。
奥さんだと思っているSNSについて、さっそく調べてくれたこと。
『本当に!?』
鈴木店長が驚いている。
『鈴木店長。空いている日に一緒に相談に行きませんか、予約を用意できます』
メッセージを送ったタイミングで、隣に座っていた颯斗さんが私の頭を自分の肩に寄せるようにした。
「俺といるのに他の男とやり取りするな。嫉妬する」
「またそういうことを仰る……」
「パーティは嫌じゃなかったか?」
そっと空気を震わせる彼の声には、気遣いが感じられた。
「楽しかったです。颯斗さんのお知り合いだけあって、皆さん素敵な方々でした」
「君に気に入ってもらえてよかった」
切れ長の目を細くして微笑する颯斗さんは、優しそうに見えた。
彼に一途な想いを注がれている人が羨ましい。どんな女性なのだろう。
ゴシップの通り、既婚の女優? 想いは通じ合っている? 片想い?
……結婚について周りを騙していて、いいのだろうか?
詮索しない方がいい。
気にしない方がいい。
もっとビジネスライクな方がいい。
あれこれと考えているうちに、うとうとと瞼が重くなる。
「寝ていいぞ」
眠そうな気配を察したのか、颯斗さんは甘やかすように言って、私の頭をゆっくりと撫でた。
それが気持ちよくて、頼もしくて安心する感じがして――私はそのまま彼の肩に寄りかかり、眠ってしまった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――後日。
ブックカフェがお休みの日の午前中に、私は鈴木店長と法律事務所を訪れた。
「果絵さん。ありがたいけど身売りはよくないよ。そりゃあ、冷血サイコパスな弁護士先生も男だから、色香で仕事を受けてくれることもあるのかもしれないし、ありがたいけどさ……」
「ちょ、ちょっと鈴木店長、身売りとか色香とか。お互いにとってメリットがあったんです……どっちかというと私の側に一方的に好条件すぎる契約結婚なんですよ?」
法律事務所は都心の一等地にあり、洗練されたデザインのビルに入っている。
中に入ると高い天井にシャンデリアが輝いていて、内装は上品だ。
「予約している……宝凰寺です」
予約の名前は、私になっている。
姓が変わったことにまだ慣れないけど、受付で名前を告げた。新人っぽい雰囲気の男性スタッフが対応してくれる。
「宝凰寺様ですね……、あっ、噂の勇者様」
「勇者様?」
「あ、失礼しました! 決して、冷血サイコパス魔王を射止めたから勇者とかそういう意味ではないんですよ! ――ひっ……宝凰寺先生……」
興味深いことを激白した男性スタッフは、私の背後を見て、声をあげた。
視線を向けると、颯斗さんが迎えにきていた。職場だし、注目されてるし、今の私はお客さんの立場だし――と呼び方を変えてみる。
「宝凰寺先生。本日はお世話になります」
「他人行儀だな?」
「あの、ちょっといいです? 凄く、余計なお節介かもしれませんが……」
内緒話をしたい、と仕草でアピールすると、彼は「なんだ?」と長身をかがめて耳を寄せてくれた。
「職場での人間関係大丈夫ですか? 冷血サイコパス魔王って呼ばれてるんですか?」
「……受付の彼とは後で話すことにしよう」
颯斗さんは黒い笑顔で受付スタッフを見た。受付スタッフは「失言でしたっ!」と声をあげて何度も頭を下げている。
「あの、本当に念のため言うんですけど……颯斗さん。パワハラとかは、ダメですよ……?」
「してない。行くぞ」
颯斗さんは短く話を切り上げて、相談室に案内してくれた。
「あの冷血な先生があんなに甘い表情を……?」
「愛情とかあったんだ?」
事務スタッフさんだけじゃなく、仕切りから顔を出したお客さんも噂している。そういう人物評で有名らしい……。
鈴木店長は『どうしてそんなことを知ってるんだ?』と、尋ねている。
なので、私はメッセージで経緯を伝えた。
結婚したこと。
そのコネクションで、店長が断られた依頼を受けてもらえること。
奥さんだと思っているSNSについて、さっそく調べてくれたこと。
『本当に!?』
鈴木店長が驚いている。
『鈴木店長。空いている日に一緒に相談に行きませんか、予約を用意できます』
メッセージを送ったタイミングで、隣に座っていた颯斗さんが私の頭を自分の肩に寄せるようにした。
「俺といるのに他の男とやり取りするな。嫉妬する」
「またそういうことを仰る……」
「パーティは嫌じゃなかったか?」
そっと空気を震わせる彼の声には、気遣いが感じられた。
「楽しかったです。颯斗さんのお知り合いだけあって、皆さん素敵な方々でした」
「君に気に入ってもらえてよかった」
切れ長の目を細くして微笑する颯斗さんは、優しそうに見えた。
彼に一途な想いを注がれている人が羨ましい。どんな女性なのだろう。
ゴシップの通り、既婚の女優? 想いは通じ合っている? 片想い?
……結婚について周りを騙していて、いいのだろうか?
詮索しない方がいい。
気にしない方がいい。
もっとビジネスライクな方がいい。
あれこれと考えているうちに、うとうとと瞼が重くなる。
「寝ていいぞ」
眠そうな気配を察したのか、颯斗さんは甘やかすように言って、私の頭をゆっくりと撫でた。
それが気持ちよくて、頼もしくて安心する感じがして――私はそのまま彼の肩に寄りかかり、眠ってしまった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――後日。
ブックカフェがお休みの日の午前中に、私は鈴木店長と法律事務所を訪れた。
「果絵さん。ありがたいけど身売りはよくないよ。そりゃあ、冷血サイコパスな弁護士先生も男だから、色香で仕事を受けてくれることもあるのかもしれないし、ありがたいけどさ……」
「ちょ、ちょっと鈴木店長、身売りとか色香とか。お互いにとってメリットがあったんです……どっちかというと私の側に一方的に好条件すぎる契約結婚なんですよ?」
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中に入ると高い天井にシャンデリアが輝いていて、内装は上品だ。
「予約している……宝凰寺です」
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「宝凰寺様ですね……、あっ、噂の勇者様」
「勇者様?」
「あ、失礼しました! 決して、冷血サイコパス魔王を射止めたから勇者とかそういう意味ではないんですよ! ――ひっ……宝凰寺先生……」
興味深いことを激白した男性スタッフは、私の背後を見て、声をあげた。
視線を向けると、颯斗さんが迎えにきていた。職場だし、注目されてるし、今の私はお客さんの立場だし――と呼び方を変えてみる。
「宝凰寺先生。本日はお世話になります」
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「あの、ちょっといいです? 凄く、余計なお節介かもしれませんが……」
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「してない。行くぞ」
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「あの冷血な先生があんなに甘い表情を……?」
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