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このタイミングで再会できたのは、運命だ。
宝凰寺 颯斗は、目の前にいる彼女に特別な縁を感じていた。
颯斗が果絵と初めて会ったのは、十五歳の時。
場所は、病院。二人は入院仲間だった。
颯斗が怪我をして数週間の入院生活を送った時に、毎日のように会話していたのだ。
『お兄ちゃん、今日もリハビリするの?』
『あとで、するよ』
リハビリはきつい。
それを知っている果絵は、真剣な顔で励ましてくれる。
『お兄ちゃん、リハビリ頑張ってね。これ、どうぞ』
いつも果絵は病院の庭園の同じベンチで声をかけてきて、折り紙で折った鶴を渡してくれた。表面に手書きで『今日もがんばってね』『いつもがんばってて、えらいね』というメッセージが書いてある、可愛らしい折り鶴だ。
『折り鶴、今日もありがとう。お礼のキャンディをどうぞ』
お礼のキャンディを渡すと、果絵は嬉しそうに眼を輝かせる。
何日も折り鶴とキャンディの交換を日課にしているうちに、一緒にスマホで動画を見たり、ゲームをしたり、教科書を開いて勉強を教えたりして、二人は仲良くなっていった。
長い人生で考えるとほんの一瞬ともいえる、限られた期間の思い出だ。
『ずっと入院してた同じお部屋のお姉さんが、退院するの』
『そうなんだ。めでたいね』
『うん。よかった! でも、ちょっと寂しい』
『お祝いのパーティをしようか』
誰かが治って、いなくなる。それが、当たり前だった。
『あのね、隣の病室の子、退院したみたい。昨日手術って言ったのに、はやいね』
『……そうだね』
『お姉さんのときみたいに、ちゃんとお別れしてお祝いしたかったけどな』
『きっと、その子もちゃんとお別れしたかったと思うよ』
その期間は身体的には辛かったが、振り返るととても貴重で、甘酸っぱい思い出として残っている。
恋というほどの感情ではなかった。
ただ、儚くて、曖昧で、純粋で――特別な感じだった。
『颯斗お兄ちゃん、果絵ね。もうすぐ退院なの。でもね、退院した後、毎日お兄ちゃんのお見舞いに来るね』
小指を差し出して「ゆびきりげんまん」をしてくれる果絵の笑顔は、あたたかかった。
けれど、両親の方針で颯斗はゆびきりげんまんの翌日に別の病院に移されて、お別れを告げることすらできなかった。
スマホでメッセージの交換ができるよう、連絡先の交換をしておけばよかった……と、後悔したものだ。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
颯斗は宝凰寺家の次男として生まれたが、両親は家同士が決めた結婚をした夫婦で愛がなく、颯斗は母親が浮気して産んだ子ではないかと疑われていた。
目元が浮気相手に似ているらしく、母親は過剰に気にして、颯斗に前髪を長く伸ばして目元を隠させた。
「目が悪くなるよ」と学校の先生に言われても、母親が切ることを許さなかった。
宝凰寺グループの後を継ぐのは、兄と決まっている。
兄は颯斗を可愛がってくれていて、兄弟仲は良好だ。
だが、颯斗が優秀な成績を収めていると、周囲はどうしても兄と比較した。
「兄よりも颯斗が後継ぎにふさわしいのでは」と唱える声も聞かれるようになってくる。
両親が険悪な環境で育ったため、不穏な空気を敏感に察する能力に長けた颯斗は、後を継ぐ意思がないことを何かにつけてアピールするようになった。
そして、両親への反発を高めていた颯斗は、退院後に前髪も切り、はっきりと自分の意思を伝えるようになって、弁護士への道を歩き出した。
難関試験に挑むための勉学に励む机の上には思い出の折り鶴をいつも置いて、心の支えのようにして――見事、結果を出した。
ルックスと家柄に加えて弁護士の肩書きを手に入れた颯斗には、女性からのアプローチが当たり前のように多く寄せられる。
しかし、颯斗に寄ってくる女性たちは、颯斗を自分を飾るアクセサリーやトロフィーか何かだと思っているようで、どの相手も本格的に付き合う気にはなれなかった。
だから、颯斗は「一途に想っている相手がいる」ということにして、女性を遠ざけて仕事に打ち込んだ。
すると今度は「その相手は誰だろう」「この女性ではないか」と憶測が飛び交い、法律事務所で依頼を受けた顧客の女優とのゴシップが生まれる。
誤解を作らないように異性相手の時に特別に距離を保った接し方をするように心がけると、「冷たい」と言われるようになった。
そんな颯斗に、両親や兄は「そろそろ結婚しろ」とひっきりなしに勧めてくる。
兄などは「お前が嫌だと思うタイプを教えろ。それに当てはまらない女性を探す」「形式的に結婚するだけでもいいという相手を探したから会ってみろ」などと言う。
それを断っているうちに、父親は嫌がらせのように強引に縁談を押し付けてきた。
家柄はよく、モデルをしている美女だが、気性が荒くて暴言癖と手をあげる癖があり、SNSでもよく炎上している女性だ。
数日後に初対面の女性との見合いのセッティングまでされてしまい、断ろうとしていた矢先に、果絵と再会したのだ。
『果、絵……?』
『――え?』
宝凰寺 颯斗は、目の前にいる彼女に特別な縁を感じていた。
颯斗が果絵と初めて会ったのは、十五歳の時。
場所は、病院。二人は入院仲間だった。
颯斗が怪我をして数週間の入院生活を送った時に、毎日のように会話していたのだ。
『お兄ちゃん、今日もリハビリするの?』
『あとで、するよ』
リハビリはきつい。
それを知っている果絵は、真剣な顔で励ましてくれる。
『お兄ちゃん、リハビリ頑張ってね。これ、どうぞ』
いつも果絵は病院の庭園の同じベンチで声をかけてきて、折り紙で折った鶴を渡してくれた。表面に手書きで『今日もがんばってね』『いつもがんばってて、えらいね』というメッセージが書いてある、可愛らしい折り鶴だ。
『折り鶴、今日もありがとう。お礼のキャンディをどうぞ』
お礼のキャンディを渡すと、果絵は嬉しそうに眼を輝かせる。
何日も折り鶴とキャンディの交換を日課にしているうちに、一緒にスマホで動画を見たり、ゲームをしたり、教科書を開いて勉強を教えたりして、二人は仲良くなっていった。
長い人生で考えるとほんの一瞬ともいえる、限られた期間の思い出だ。
『ずっと入院してた同じお部屋のお姉さんが、退院するの』
『そうなんだ。めでたいね』
『うん。よかった! でも、ちょっと寂しい』
『お祝いのパーティをしようか』
誰かが治って、いなくなる。それが、当たり前だった。
『あのね、隣の病室の子、退院したみたい。昨日手術って言ったのに、はやいね』
『……そうだね』
『お姉さんのときみたいに、ちゃんとお別れしてお祝いしたかったけどな』
『きっと、その子もちゃんとお別れしたかったと思うよ』
その期間は身体的には辛かったが、振り返るととても貴重で、甘酸っぱい思い出として残っている。
恋というほどの感情ではなかった。
ただ、儚くて、曖昧で、純粋で――特別な感じだった。
『颯斗お兄ちゃん、果絵ね。もうすぐ退院なの。でもね、退院した後、毎日お兄ちゃんのお見舞いに来るね』
小指を差し出して「ゆびきりげんまん」をしてくれる果絵の笑顔は、あたたかかった。
けれど、両親の方針で颯斗はゆびきりげんまんの翌日に別の病院に移されて、お別れを告げることすらできなかった。
スマホでメッセージの交換ができるよう、連絡先の交換をしておけばよかった……と、後悔したものだ。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
颯斗は宝凰寺家の次男として生まれたが、両親は家同士が決めた結婚をした夫婦で愛がなく、颯斗は母親が浮気して産んだ子ではないかと疑われていた。
目元が浮気相手に似ているらしく、母親は過剰に気にして、颯斗に前髪を長く伸ばして目元を隠させた。
「目が悪くなるよ」と学校の先生に言われても、母親が切ることを許さなかった。
宝凰寺グループの後を継ぐのは、兄と決まっている。
兄は颯斗を可愛がってくれていて、兄弟仲は良好だ。
だが、颯斗が優秀な成績を収めていると、周囲はどうしても兄と比較した。
「兄よりも颯斗が後継ぎにふさわしいのでは」と唱える声も聞かれるようになってくる。
両親が険悪な環境で育ったため、不穏な空気を敏感に察する能力に長けた颯斗は、後を継ぐ意思がないことを何かにつけてアピールするようになった。
そして、両親への反発を高めていた颯斗は、退院後に前髪も切り、はっきりと自分の意思を伝えるようになって、弁護士への道を歩き出した。
難関試験に挑むための勉学に励む机の上には思い出の折り鶴をいつも置いて、心の支えのようにして――見事、結果を出した。
ルックスと家柄に加えて弁護士の肩書きを手に入れた颯斗には、女性からのアプローチが当たり前のように多く寄せられる。
しかし、颯斗に寄ってくる女性たちは、颯斗を自分を飾るアクセサリーやトロフィーか何かだと思っているようで、どの相手も本格的に付き合う気にはなれなかった。
だから、颯斗は「一途に想っている相手がいる」ということにして、女性を遠ざけて仕事に打ち込んだ。
すると今度は「その相手は誰だろう」「この女性ではないか」と憶測が飛び交い、法律事務所で依頼を受けた顧客の女優とのゴシップが生まれる。
誤解を作らないように異性相手の時に特別に距離を保った接し方をするように心がけると、「冷たい」と言われるようになった。
そんな颯斗に、両親や兄は「そろそろ結婚しろ」とひっきりなしに勧めてくる。
兄などは「お前が嫌だと思うタイプを教えろ。それに当てはまらない女性を探す」「形式的に結婚するだけでもいいという相手を探したから会ってみろ」などと言う。
それを断っているうちに、父親は嫌がらせのように強引に縁談を押し付けてきた。
家柄はよく、モデルをしている美女だが、気性が荒くて暴言癖と手をあげる癖があり、SNSでもよく炎上している女性だ。
数日後に初対面の女性との見合いのセッティングまでされてしまい、断ろうとしていた矢先に、果絵と再会したのだ。
『果、絵……?』
『――え?』
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