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4、俺に一線を越えろというのか
しおりを挟む「殿下。何があったのか、魔術師レデンツ様からお伺いしましたわ。わたくしの言動で殿下のお心を乱してしまい、申し訳ございません」
「えっ、ああ、いいのだ。おかげで戦争も回避できるのだ」
ライアンは慌てて言葉を選んだ。
「無知は罪である。我が国は北方の苦境を知らず、戦争が起きるところであった。戦争が起きると、互いの民が最も被害を受ける。かけがえのない命を散らすところであった」
そう考えると、リミリアの前世だか未来予知だかの知識はとても素晴らしい。
ライアンがそう語ると、リミリアはうるうると瞳を潤ませた。
「ああ、殿下。あなたは本当に、民を守ろうとして前線で休戦を呼びかけ続けたライアン王子殿下なのですね……」
「なるほど、俺はそんな理由で前線に行ったのか。しかし思うのだが、そのゲームとやらは乙女の娯楽のために創られたという割りに随分と重い内容で、殺伐としているのだな」
「アールジュウハチでしたから」
「また知らない単語がでてきた」
「殿下と聖女は媚薬を盛られてはじめての関係を……」
「待ってくれ。そういう話はやめよう」
なにを言い出すのか。ライアンは赤くなった。異世界の乙女たちは俺の房事を楽しんでいるのか?
その先は聞いてはいけない気がしてならなかった。
「俺が愛しているのはリミリアだ。た、例え薬を盛られても、俺は他の女性に手を出したりしないと誓うっ……ぜったい。必ずだ……!」
視界の隅で側近二人が謎のハンドサインを送っている。
なんだあれ。
見ていると、二人は抱き合ってキスをする仕草をしてみせた。
な、なにい! 俺に一線を越えろというのか!
「……!!」
「殿下?」
ムードとか、あるだろう。段階とかあるだろう。
キスなんかしたら、歯止めが利かなくなって押し倒しちゃったりしそうではないか。
『いきなり強引に迫るなんて、ケダモノ!』と嫌がられたら生きていけないぞ!
でも、したい。
ライアンは悩みに悩んで、飢えて困り切った野獣のような眼を向けた。
「き、キスしたいが、構わぬか! 嫌ならしないっ……!! いや、する……!! 嫌がっても俺は、もう――、するっ!!」
「おおっ」
側近二人が盛り上がる中、ライアンとリミリアのシルエットがひとつに重なる。
ぐい、と顔を寄せてキスをした先は……頬だった。触れた瞬間、甘美な喜びが全身を駆け抜ける。
キスした。キスしてしまった!! 頬に。ちゅって。やってしまった!
「好きだ、リミリア」
リミリアは頬を上気させ、春花のように初々しく微笑んだ。
「わたくしもです……一生懸命でまっすぐなライアン殿下を、慕っております」
リミリアが神聖な祝福を授けるように額にキスをしてくれる。
う、うわあああああっ! 彼女が俺にキスを……!!
ライアンは幸せでいっぱいになった。感激のあまり、目と鼻から汁が出そうだ。
「へたれ」
「微笑ましくてよいではございませんか」
夕映えの中、側近二人がそうコメントしていた。
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