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2章
48、西王母の試験
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妖狐は、十年前を思い出した。
まだ十歳にもなっていない息子の紫玄が、袖を引く。
「母上、あちらで父上が曲笛を吹いて待ってるよ」
息子に引っ張られるようにして日当たりのよい四阿に着けば、息子よりも三歳幼い娘がいる。紫玉だ。
先日、この娘あてに他国の公子から花釵の贈り物があった。縁談に発展させたいのだと思われる、好意の表明だ。
まだ幼いのに、気の早いこと。
そう思って読んだ手紙には、まだ子供の公子の直筆と思われる奇妙な文章が綴られていた。
忘れていた。
そういえば、あの内容を、夫に伝えた方がいいかもしれない、と思っていたのだ。
「陛下……」
呼びかけが途中で止まったのは、娘が甘えるようにぎゅうっと抱き着いてきたからだ。
小さい。暖かい。
「おかあさま、おかあさま」
愛しい。
「こうやってぎゅうってすると、しあわせになるんだよって、おとうさまがおしえてくれたの」
驚くほど、幸せな気分になる。
不思議。頬が濡れている。なぜだろう。
「おかあさま?」
――思い出した。
これは、後悔の記憶。
わたくしは、あの時、夫に伝えそびれたのだ。
『岳不群将軍には野心があり、主君を裏切ります。妖魔が出たという知らせは罠なので、釣られてはなりません』
あの時、白家の公子は警告していたのだ。
悲劇は、阻止できたかもしれなかったのに。
自分のせいで、夫は殺されたのだ。
* * *
夜の御花園で妖狐を見つめながら、紺紺は霞幽が教えてくれた知識を思い出していた。
都や皇宮は「霊的に良い立地」、龍脈の集まる場所を選んで建てられている。
そして、各建物の配置なども風水的に良い効果が出るよう、五行や四神の恩恵を計算して配置されている。
東にある延禧宮には青龍を祀り、植物と春を属性とする濫一族の姫が住む。
北にある鍾水宮には玄武を祀り、水と冬を属性とする黒一族の姫が住む。
西にある咸白宮には白虎を祀り、風と秋を属性とする白一族の姫が住む。
南にある承夏宮には朱雀を祀り、火を属性とする紅一族の姫が住む。
そして、中央の御花園。
ここは、東西南北から集まった龍脈の集まる場所だ。
陰陽五行で『麒麟を祀り、土を属性とする』場所に、龍穴がある。
この付近にはもともと御花園ではなく、『生まれたばかりの皇帝の御子たちが龍気の恩恵を受けて傑物に育つように』と御子殿(御子たちが済む御殿)があった。
しかし、御子殿は、後継争いをする御子たちと親族たちの負の感情が濃く渦巻き、陰謀、呪殺、毒殺の絶えない伏魔殿と化した。
見かねた風水師は、『人間の負の感情で龍穴から出てくる龍気を汚すと、世の中に邪悪な気が巡ってしまいます。人間を遠ざけて植物を置きましょう』と主君に奏上した。
そして『土、麒麟』に配置される施設は、御花園に変わったのだ。
『思うに、妖狐は龍穴に目をつけたのだろう。大地を巡る活力を自分のものにして強くなろうとしているのかもしれないし、清浄な自然の気に触れることで狂暴性を落ち着かせようとしている可能性もある』
霞幽の言葉を思い出しながら、紺紺は妖狐に呼びかけた。
「お母様。私は紫玉です。今は、紺紺と名乗っています。私には、お母様を傷つける意思はありません」
妖狐は、近くの茂みにその全身を隠した。
「……近づかないで」
「……っ、わかりました。近づきません、お母様」
妖狐が発した声が懐かしい母の声だったので、紺紺は泣きそうになった。
「お姿を見せていただくことは、できますか? お母様」
「わたくしに娘などいません。あなたは妖狐の娘などではありません。わたくしは、西王母様が地上に送った試験薬のようなもの。人の感情に左右される不安定で歪な鏡のような性質をしているのです。こんな姿……見せたくありません」
そう言って、母は自分が地上に来た経緯と人の心に左右される体質について教えてくれた。
……母も、自分が人ではないことを気にしながら人の社会で生きてきたのだ。
鼻の奥にツンと切なさがこみ上げる。
「……けれど、お母様」
「わたくしを、母と呼ぶのではありません」
「いいえ。私はあなたをお母様と呼びます。娘だと申し上げます。霞幽様に過去を拾う許可ももらいましたから」
「過去を拾う?」
「それは何だ」と不思議そうに問う声は、緊張感が薄くなった感じがした。
紺紺は「これだ」と思った。
どっかん、どっかんだ。
明るく言うんだ。
「どっかん、どっかん! お母様、これ、何だと思います?」
「……っ? わ、わからないわ」
母は、困惑している。紺紺は笑った。
「元気が出るおまじないです。石苞――お城から私を連れ出してくれた騎馬民族出自の兵士を、覚えていますか?」
母が聞いてくれるので、紺紺はお城を出てからのお話――これまでの日常で「楽しい、面白い」と思ったことばかりを語った。
「くすくす」
母の声が茂みから聞こえてくる。
笑ってくれてる。
「お母様も、『どっかん』って仰ってみてください。どっかん」
「……どっかん?」
「ハオリーハイ、お母様、どっかん!」
「ハオリーハイとは、なんですの? どっかん?」
「『いいね、素晴らしい』っていう西領の若者言葉です、どっかん!」
「そうなの、どっかん、ハオリーハイ……ふふっ、くすくす」
母の気配が明るくなっていく。
紺紺は泣きそうになりながら、笑った。
「霞幽様って、すっごく変なんです……あの方、ひどいんです、幸せにするって誓った相手を、殺したらいいんじゃないかって考えたりするんですよ? びっくりです」
口がどんどん軽くなる。止まらなくなっちゃいそう。
「霞幽様ったら、適当な感じで『いいんじゃないかな、好きにおし』って言って。無責任なんです。それに、嘘つき。『私は笑っているよ』って言ったり笑顔を作ったりするけど、ぜんっぜん笑ってないんです。あと、『結果のために手段は選ばない』って感じなんです。感情がないんです。でも、ないって言ってるけどあるような気もするんですよ」
ぺらぺらと喋っていると、木陰から桃が飛んでくる。
隠れて見守っていた霞幽の仕業に違いない。
「ほらっ、感情があるから桃を投げてくるんですよ。お母様もそう思いませんか? 二人で話したいって言ったのに、隠れてて……」
桃をひとくち齧ると、甘かった。
「……心配してくれてるんです。優しいんです。霞幽様って、そんな人です」
母は微笑ましそうな声で「仲が良いのね」と言ってくれた。
「……あなたに酷いことを言って、あんな風にお別れして、ごめんなさい。わたくしは酷いお母様です」
「お、お母様……いいんです。私、すぐわかりました。私のために、わざとあんな……ほ、本当は、私のことを、ちゃんと――」
「愛しているわ」
「――っ」
涙がこぼれた。
母は、愛してくれていた。
きっとそうだと信じていたけど、本人にはっきりと言ってもらえたら、嬉しくて涙があふれて、止められなかった。
「私も、愛しています、お母様」
……もう、怖くない。
お母様は、落ち着いていて、優しくて、理性的だ。
「お母様。私、お母様が望むなら、十年前の真相を世間に公表し、真の悪人を裁きます。お父様の名誉を回復します。克斯国を反逆者の王朝として歴史に記録します」
茂みの中からは、息を呑む気配が感じられた。
「お母様、おひとりで悩まないでください。暴虐の衝動任せにならないでください。ご自分を大切に、負の感情を吐く人間たちから距離を取っていただいて……私を信じてほしいのです」
それに、可能なら「母を人間に悪影響を受けて理性を失ったりしない性質に変えてあげたい」――と、付け足すと、母は「それは難しいでしょう」と疲れた様子の吐息をこぼした。
「清明節の後夜祭に、わたくしは自分で貴妃と黒家を滅ぼします」
「お母様!」
「彼女たちが、裁かれていなければ、ですが。裁かれていれば、わたくしは手を引きましょう」
「……!」
それまでに、彼らを裁くように。
……と言ってくれているのだ。
「ありがとうございます、お母様!」
お礼を言う紺紺の耳に、不穏な言葉が聞こえた。
「白 霞幽は、白虎の珠をわたくしに捧げなさい」
あれ? 命令されてる?
木陰から煌めく珠が投げられる。
あれ? 従っちゃってる? 大丈夫?
「白虎の珠は失われてはならぬ宝のはず。これを信用の担保として預かります。わたくしや娘を裏切れば、宝を破壊し、白家を滅ぼしますからね」
母はそう言い、命令をつけたした。
「霞幽よ、その娘に後ろを向かせて、わたくしが立ち去るまで抑えておきなさい」
すると、いつの間にか傍に来ていた霞幽に腕が掴まれる。
「霞……」
視界がぐりんっと回転させられる。後ろを向かされたのだ。
「抑えておきなさい」という指示に従う様子で後ろから羽交い絞めにされるので、紺紺は焦った。
「……娘をよろしくね」
母はそう言って、去って行った。遠ざかる気配を寂しく思いながら、紺紺は呟いた。
「地上の人間たちって、西王母様に試されてたんだ……」
西王母とは、天界の美しき最高仙女、女主人――とっても偉い女神様だ。小さな農村から国家の君主まで、広く信仰されている存在だ。
母という存在は――人間に影響を受けて暴走する妖狐は、西王母の試験だったのだ。
* * *
翌日、後宮は大騒ぎになった。
『紅淑妃』胡月妃がいなくなっていて、どこを探しても見つからないのだ。
しかも、その事件との関係性は不明だが、宮女も三人、行方不明になっていた。
まだ十歳にもなっていない息子の紫玄が、袖を引く。
「母上、あちらで父上が曲笛を吹いて待ってるよ」
息子に引っ張られるようにして日当たりのよい四阿に着けば、息子よりも三歳幼い娘がいる。紫玉だ。
先日、この娘あてに他国の公子から花釵の贈り物があった。縁談に発展させたいのだと思われる、好意の表明だ。
まだ幼いのに、気の早いこと。
そう思って読んだ手紙には、まだ子供の公子の直筆と思われる奇妙な文章が綴られていた。
忘れていた。
そういえば、あの内容を、夫に伝えた方がいいかもしれない、と思っていたのだ。
「陛下……」
呼びかけが途中で止まったのは、娘が甘えるようにぎゅうっと抱き着いてきたからだ。
小さい。暖かい。
「おかあさま、おかあさま」
愛しい。
「こうやってぎゅうってすると、しあわせになるんだよって、おとうさまがおしえてくれたの」
驚くほど、幸せな気分になる。
不思議。頬が濡れている。なぜだろう。
「おかあさま?」
――思い出した。
これは、後悔の記憶。
わたくしは、あの時、夫に伝えそびれたのだ。
『岳不群将軍には野心があり、主君を裏切ります。妖魔が出たという知らせは罠なので、釣られてはなりません』
あの時、白家の公子は警告していたのだ。
悲劇は、阻止できたかもしれなかったのに。
自分のせいで、夫は殺されたのだ。
* * *
夜の御花園で妖狐を見つめながら、紺紺は霞幽が教えてくれた知識を思い出していた。
都や皇宮は「霊的に良い立地」、龍脈の集まる場所を選んで建てられている。
そして、各建物の配置なども風水的に良い効果が出るよう、五行や四神の恩恵を計算して配置されている。
東にある延禧宮には青龍を祀り、植物と春を属性とする濫一族の姫が住む。
北にある鍾水宮には玄武を祀り、水と冬を属性とする黒一族の姫が住む。
西にある咸白宮には白虎を祀り、風と秋を属性とする白一族の姫が住む。
南にある承夏宮には朱雀を祀り、火を属性とする紅一族の姫が住む。
そして、中央の御花園。
ここは、東西南北から集まった龍脈の集まる場所だ。
陰陽五行で『麒麟を祀り、土を属性とする』場所に、龍穴がある。
この付近にはもともと御花園ではなく、『生まれたばかりの皇帝の御子たちが龍気の恩恵を受けて傑物に育つように』と御子殿(御子たちが済む御殿)があった。
しかし、御子殿は、後継争いをする御子たちと親族たちの負の感情が濃く渦巻き、陰謀、呪殺、毒殺の絶えない伏魔殿と化した。
見かねた風水師は、『人間の負の感情で龍穴から出てくる龍気を汚すと、世の中に邪悪な気が巡ってしまいます。人間を遠ざけて植物を置きましょう』と主君に奏上した。
そして『土、麒麟』に配置される施設は、御花園に変わったのだ。
『思うに、妖狐は龍穴に目をつけたのだろう。大地を巡る活力を自分のものにして強くなろうとしているのかもしれないし、清浄な自然の気に触れることで狂暴性を落ち着かせようとしている可能性もある』
霞幽の言葉を思い出しながら、紺紺は妖狐に呼びかけた。
「お母様。私は紫玉です。今は、紺紺と名乗っています。私には、お母様を傷つける意思はありません」
妖狐は、近くの茂みにその全身を隠した。
「……近づかないで」
「……っ、わかりました。近づきません、お母様」
妖狐が発した声が懐かしい母の声だったので、紺紺は泣きそうになった。
「お姿を見せていただくことは、できますか? お母様」
「わたくしに娘などいません。あなたは妖狐の娘などではありません。わたくしは、西王母様が地上に送った試験薬のようなもの。人の感情に左右される不安定で歪な鏡のような性質をしているのです。こんな姿……見せたくありません」
そう言って、母は自分が地上に来た経緯と人の心に左右される体質について教えてくれた。
……母も、自分が人ではないことを気にしながら人の社会で生きてきたのだ。
鼻の奥にツンと切なさがこみ上げる。
「……けれど、お母様」
「わたくしを、母と呼ぶのではありません」
「いいえ。私はあなたをお母様と呼びます。娘だと申し上げます。霞幽様に過去を拾う許可ももらいましたから」
「過去を拾う?」
「それは何だ」と不思議そうに問う声は、緊張感が薄くなった感じがした。
紺紺は「これだ」と思った。
どっかん、どっかんだ。
明るく言うんだ。
「どっかん、どっかん! お母様、これ、何だと思います?」
「……っ? わ、わからないわ」
母は、困惑している。紺紺は笑った。
「元気が出るおまじないです。石苞――お城から私を連れ出してくれた騎馬民族出自の兵士を、覚えていますか?」
母が聞いてくれるので、紺紺はお城を出てからのお話――これまでの日常で「楽しい、面白い」と思ったことばかりを語った。
「くすくす」
母の声が茂みから聞こえてくる。
笑ってくれてる。
「お母様も、『どっかん』って仰ってみてください。どっかん」
「……どっかん?」
「ハオリーハイ、お母様、どっかん!」
「ハオリーハイとは、なんですの? どっかん?」
「『いいね、素晴らしい』っていう西領の若者言葉です、どっかん!」
「そうなの、どっかん、ハオリーハイ……ふふっ、くすくす」
母の気配が明るくなっていく。
紺紺は泣きそうになりながら、笑った。
「霞幽様って、すっごく変なんです……あの方、ひどいんです、幸せにするって誓った相手を、殺したらいいんじゃないかって考えたりするんですよ? びっくりです」
口がどんどん軽くなる。止まらなくなっちゃいそう。
「霞幽様ったら、適当な感じで『いいんじゃないかな、好きにおし』って言って。無責任なんです。それに、嘘つき。『私は笑っているよ』って言ったり笑顔を作ったりするけど、ぜんっぜん笑ってないんです。あと、『結果のために手段は選ばない』って感じなんです。感情がないんです。でも、ないって言ってるけどあるような気もするんですよ」
ぺらぺらと喋っていると、木陰から桃が飛んでくる。
隠れて見守っていた霞幽の仕業に違いない。
「ほらっ、感情があるから桃を投げてくるんですよ。お母様もそう思いませんか? 二人で話したいって言ったのに、隠れてて……」
桃をひとくち齧ると、甘かった。
「……心配してくれてるんです。優しいんです。霞幽様って、そんな人です」
母は微笑ましそうな声で「仲が良いのね」と言ってくれた。
「……あなたに酷いことを言って、あんな風にお別れして、ごめんなさい。わたくしは酷いお母様です」
「お、お母様……いいんです。私、すぐわかりました。私のために、わざとあんな……ほ、本当は、私のことを、ちゃんと――」
「愛しているわ」
「――っ」
涙がこぼれた。
母は、愛してくれていた。
きっとそうだと信じていたけど、本人にはっきりと言ってもらえたら、嬉しくて涙があふれて、止められなかった。
「私も、愛しています、お母様」
……もう、怖くない。
お母様は、落ち着いていて、優しくて、理性的だ。
「お母様。私、お母様が望むなら、十年前の真相を世間に公表し、真の悪人を裁きます。お父様の名誉を回復します。克斯国を反逆者の王朝として歴史に記録します」
茂みの中からは、息を呑む気配が感じられた。
「お母様、おひとりで悩まないでください。暴虐の衝動任せにならないでください。ご自分を大切に、負の感情を吐く人間たちから距離を取っていただいて……私を信じてほしいのです」
それに、可能なら「母を人間に悪影響を受けて理性を失ったりしない性質に変えてあげたい」――と、付け足すと、母は「それは難しいでしょう」と疲れた様子の吐息をこぼした。
「清明節の後夜祭に、わたくしは自分で貴妃と黒家を滅ぼします」
「お母様!」
「彼女たちが、裁かれていなければ、ですが。裁かれていれば、わたくしは手を引きましょう」
「……!」
それまでに、彼らを裁くように。
……と言ってくれているのだ。
「ありがとうございます、お母様!」
お礼を言う紺紺の耳に、不穏な言葉が聞こえた。
「白 霞幽は、白虎の珠をわたくしに捧げなさい」
あれ? 命令されてる?
木陰から煌めく珠が投げられる。
あれ? 従っちゃってる? 大丈夫?
「白虎の珠は失われてはならぬ宝のはず。これを信用の担保として預かります。わたくしや娘を裏切れば、宝を破壊し、白家を滅ぼしますからね」
母はそう言い、命令をつけたした。
「霞幽よ、その娘に後ろを向かせて、わたくしが立ち去るまで抑えておきなさい」
すると、いつの間にか傍に来ていた霞幽に腕が掴まれる。
「霞……」
視界がぐりんっと回転させられる。後ろを向かされたのだ。
「抑えておきなさい」という指示に従う様子で後ろから羽交い絞めにされるので、紺紺は焦った。
「……娘をよろしくね」
母はそう言って、去って行った。遠ざかる気配を寂しく思いながら、紺紺は呟いた。
「地上の人間たちって、西王母様に試されてたんだ……」
西王母とは、天界の美しき最高仙女、女主人――とっても偉い女神様だ。小さな農村から国家の君主まで、広く信仰されている存在だ。
母という存在は――人間に影響を受けて暴走する妖狐は、西王母の試験だったのだ。
* * *
翌日、後宮は大騒ぎになった。
『紅淑妃』胡月妃がいなくなっていて、どこを探しても見つからないのだ。
しかも、その事件との関係性は不明だが、宮女も三人、行方不明になっていた。
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