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2、氷の王太子様はモフモフ尻尾をお持ちです
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ひと月後、私はパーティ会場で北方の外交団を迎えた。
獣人は、美しくて背が高い種族だった。
匂い立つような気品があって眼光鋭い美男子は、王太子のイシャード殿下。
しっとりとした艶のある藍色の髪に、アイスブルーの瞳をしている。凛々しい顔立ちで格好良い。
でも、『氷の王太子』と呼ばれているくらい厳しい方なのだとか。普通の人間の姿とそう変わらないのだけど、髪と同じ色をした狼の耳と、尻尾がある。
(あらっ? あの時の)
王太子イシャード殿下の肩には、見覚えのある猫がいた。
お城の木の枝で震えていた、あの猫だ。
(似ているだけ? ううん。たぶん、同じ猫さんよね?)
目がパチリと合うと、猫は「みゃあお!」と鳴いた。可愛い。
緊張をゆるめつつ、私はイシャード殿下に挨拶をした。
「お初にお目にかかります、アミーラと申します。好きです」
「ああ、はじめまし……ん?」
あっ。呪いが。
イシャード殿下が「今なにか変なことをきいた」という顔になる。
「妹は呪われているのです」
私の呪いを知るエミリオお兄様が慌てて説明してくれる。ありがたい。
「私、余計なことをしゃべらないほうがいいみたいですね。すみません。好きです。イシャード殿下をお慕いしています。ラブがキュンして止まりません」
イシャード殿下を見て話すたびに、するりと口から甘い言葉が出てくる。不思議。では、見なければいいのかしら。
「私、あなたのことを見ないようにしてみます。格好良すぎて、目がつぶれてしまいそうで……好きです!」
見ないようにしても、止まりません!
「オレは今、口説かれているのか?」
「あっ、いえ! ただ、愛しているのです! 世界で一番、あなたが好きです!」
エミリオお兄様が「わー」とか「もうだめだ」とか言っている。完全にやらかしている。
イシャード殿下をチラッとみると、ぴょこりと揺れる何かが目に入った。
……尻尾だ。
もっふもっふの、上質な毛並みの、狼の尻尾だ。色は髪と同じ藍色で、とても綺麗。
それが、ファッサファッサと揺れている。
嬉しそうだ。なんか、すっごく嬉しそうだ。
「か、可愛い……っ!? 好きです!」
「オレが可愛いだと?」
思わず本心をポロリとつぶやくと、イシャード殿下は驚いた様子で目を見開いた。
「お前のような人間は、初めてだ」
初々しい響きで感情を持て余すように言って、イシャード殿下は口元を手でおさえて、私から視線をそらした。目元がほんのりと赤い。照れている?
妹リリアンがやってきたのは、その時だった。
「遅くなりました。婚約者からの贈り物が届いて、お返事を書いていたものですから……まあ……」
リリアンの瞳がイシャード殿下を見て、ギラリとした。
肉食の獣が獲物を見つけたような顔。
「獣人の方って初めて見ましたけど、とても素敵なのですね。格好良い……!」
恍惚と頬を染めるリリアンは、婚約指輪を隠すようにしながらイシャード殿下に近付いた。
「殿下ぁ、わたくしとダンスはいかがでしょうか?」
さりげなくボディタッチをして、甘ったるい声を耳に吹きかけるようにして。
上目遣いをして。誘惑している。
イシャード殿下は眉を寄せ、冷ややかにリリアンの好意を跳ねのけた。
「お前には婚約者がいるのだろう? わが国は不貞をよしとしていない。相手がいるなら、その相手に誠実であるべきだ」
そして、エミリオお兄様の背中に隠れるようにしていた私へと視線を向けた。
「オレはアミーラ姫ともっとお話ししたい。よいだろうか」
「はい、好きです」
尻尾がピョコピョコと揺れている。
か、可愛い。殿下の尻尾、可愛い。
「私は殿下の尻尾が可愛くてたまりません。好きです、もふんってして、ぎゅうってしたいです。撫でくりまわしてヨシヨシしたいです!」
「なん……だと」
「これは呪いです、呪いなのです! 好きです!」
エミリオお兄様が慌てるが、イシャード殿下は意外にも機嫌を損ねることなく尻尾をこちらに向けてくれた。
「アミーラ姫、オレの尻尾が……そんなに気になるのか」
「は、はい。私はあなたの全てに夢中です。好きです!」
「なんと、そ、そうか。ご存じか? 尻尾を撫で撫でしていいのは、獣人の社会では恋人や親のように親密な者だけなのだ。特別なのだ」
「撫でたいです。好きです」
私は何を言っているの? もう笑うしかない。
ああ、目の前で尻尾が! フッサフッサの尻尾が、すごい元気に動いてる!
「好きです……ふ、触れてみたいです」
「……触れたいと申すか。……か、構わないぞ」
呪いは言葉だけのはずなのに、私の手が伸びてしまう。
指先が毛先に触れて、信じられないくらい柔らかい毛並みが「ふわぁっ」「さらっ」と私の心を揺さぶった。
す、すごい。気持ちいい……!
「……っ」
「で、でで、で、でん、」
殿下。尻尾が素晴らしいです!! 好きです!!
もう呪いの言葉どころではない。私は夢心地になって魅惑の尻尾を撫で撫でした。
指先でためらいがちに表面をなぞって。滑らかな感触にうっとりと、繰り返す。
「んっ……」
ああ、指を進めてみるとふかふか。毛の奥にある肌まで愛でるようにして、さらーっと撫でる。
「んんっ……――」
ふるりと尻尾が揺れる。誘惑されるように手のひら全体で大胆に触れて、わしゃっとした。
「ん、あっ……」
なんだか艶めかしい声がきこえる。でも、この魅惑のモフモフが私を夢中にさせて、手がとまらな~い。撫で、撫で。ふかふか。
「あ、あ、あ……っ」
私は、もともと動物が好きなのだ。たまらない!
あ~……、このモフモフ、大好き。
「大好き……っ、好きです」
うっとりと熱っぽく言うと、イシャード殿下は「ぐっ……」と唸るような声をこぼした。
はっ、と現実に意識を戻した私が顔色をうかがうと、精悍な顔を赤らめて口元に手をあて、恥じらうような表情を浮かべている。
「で、でんか」
好きです。
美男子の恥じらいの表情って、なんだか見てはいけないような色っぽさがある……。
私はドキドキして、視線をおろおろと彷徨わせた。
(私、いけないことをしてしまいました? 怒られます?)
エミリオお兄様にしがみつくと、お兄様は私を守るように抱きしめて背中をぽんぽんと叩いてくれた。
「大丈夫だよ。外交問題になっても、お兄様は味方するからね」
「お、お兄様ぁっ」
不安を胸に兄妹そろってイシャード殿下に視線を向けると。
「……ハァッ……、なんという、テクニック……っ」
イシャード殿下は、謎なことを仰った。
「とても気持ちがよかった。アミーラ姫のオレへの愛が心にじんじんと伝わってきたぞ」
「え、ええ……愛しているのです! 好きです!!」
ああ、私のお口がまた、勝手に。
これはもう、なんかダメですね?
「オレもアミーラ姫に愛を返そう。獣人族は、向けられた愛に真摯にこたえる種族なのだ」
「愛してください……好きです!」
エミリオお兄様が「どうしたらいいんだ? あれ? これ相思相愛なの?」と大困惑する中、気付けば私はイシャード殿下に抱きしめられていた。
肩にひっついている猫が「んなぁお~」と可愛らしくのんきに鳴いている。
ああ、可愛い。殿下も可愛いし、猫も可愛い。
「初対面でこんなに情熱的に愛を注がれたのは、初めてだ」
「呪いなんですけどね」
「好きです……」
獣人は、美しくて背が高い種族だった。
匂い立つような気品があって眼光鋭い美男子は、王太子のイシャード殿下。
しっとりとした艶のある藍色の髪に、アイスブルーの瞳をしている。凛々しい顔立ちで格好良い。
でも、『氷の王太子』と呼ばれているくらい厳しい方なのだとか。普通の人間の姿とそう変わらないのだけど、髪と同じ色をした狼の耳と、尻尾がある。
(あらっ? あの時の)
王太子イシャード殿下の肩には、見覚えのある猫がいた。
お城の木の枝で震えていた、あの猫だ。
(似ているだけ? ううん。たぶん、同じ猫さんよね?)
目がパチリと合うと、猫は「みゃあお!」と鳴いた。可愛い。
緊張をゆるめつつ、私はイシャード殿下に挨拶をした。
「お初にお目にかかります、アミーラと申します。好きです」
「ああ、はじめまし……ん?」
あっ。呪いが。
イシャード殿下が「今なにか変なことをきいた」という顔になる。
「妹は呪われているのです」
私の呪いを知るエミリオお兄様が慌てて説明してくれる。ありがたい。
「私、余計なことをしゃべらないほうがいいみたいですね。すみません。好きです。イシャード殿下をお慕いしています。ラブがキュンして止まりません」
イシャード殿下を見て話すたびに、するりと口から甘い言葉が出てくる。不思議。では、見なければいいのかしら。
「私、あなたのことを見ないようにしてみます。格好良すぎて、目がつぶれてしまいそうで……好きです!」
見ないようにしても、止まりません!
「オレは今、口説かれているのか?」
「あっ、いえ! ただ、愛しているのです! 世界で一番、あなたが好きです!」
エミリオお兄様が「わー」とか「もうだめだ」とか言っている。完全にやらかしている。
イシャード殿下をチラッとみると、ぴょこりと揺れる何かが目に入った。
……尻尾だ。
もっふもっふの、上質な毛並みの、狼の尻尾だ。色は髪と同じ藍色で、とても綺麗。
それが、ファッサファッサと揺れている。
嬉しそうだ。なんか、すっごく嬉しそうだ。
「か、可愛い……っ!? 好きです!」
「オレが可愛いだと?」
思わず本心をポロリとつぶやくと、イシャード殿下は驚いた様子で目を見開いた。
「お前のような人間は、初めてだ」
初々しい響きで感情を持て余すように言って、イシャード殿下は口元を手でおさえて、私から視線をそらした。目元がほんのりと赤い。照れている?
妹リリアンがやってきたのは、その時だった。
「遅くなりました。婚約者からの贈り物が届いて、お返事を書いていたものですから……まあ……」
リリアンの瞳がイシャード殿下を見て、ギラリとした。
肉食の獣が獲物を見つけたような顔。
「獣人の方って初めて見ましたけど、とても素敵なのですね。格好良い……!」
恍惚と頬を染めるリリアンは、婚約指輪を隠すようにしながらイシャード殿下に近付いた。
「殿下ぁ、わたくしとダンスはいかがでしょうか?」
さりげなくボディタッチをして、甘ったるい声を耳に吹きかけるようにして。
上目遣いをして。誘惑している。
イシャード殿下は眉を寄せ、冷ややかにリリアンの好意を跳ねのけた。
「お前には婚約者がいるのだろう? わが国は不貞をよしとしていない。相手がいるなら、その相手に誠実であるべきだ」
そして、エミリオお兄様の背中に隠れるようにしていた私へと視線を向けた。
「オレはアミーラ姫ともっとお話ししたい。よいだろうか」
「はい、好きです」
尻尾がピョコピョコと揺れている。
か、可愛い。殿下の尻尾、可愛い。
「私は殿下の尻尾が可愛くてたまりません。好きです、もふんってして、ぎゅうってしたいです。撫でくりまわしてヨシヨシしたいです!」
「なん……だと」
「これは呪いです、呪いなのです! 好きです!」
エミリオお兄様が慌てるが、イシャード殿下は意外にも機嫌を損ねることなく尻尾をこちらに向けてくれた。
「アミーラ姫、オレの尻尾が……そんなに気になるのか」
「は、はい。私はあなたの全てに夢中です。好きです!」
「なんと、そ、そうか。ご存じか? 尻尾を撫で撫でしていいのは、獣人の社会では恋人や親のように親密な者だけなのだ。特別なのだ」
「撫でたいです。好きです」
私は何を言っているの? もう笑うしかない。
ああ、目の前で尻尾が! フッサフッサの尻尾が、すごい元気に動いてる!
「好きです……ふ、触れてみたいです」
「……触れたいと申すか。……か、構わないぞ」
呪いは言葉だけのはずなのに、私の手が伸びてしまう。
指先が毛先に触れて、信じられないくらい柔らかい毛並みが「ふわぁっ」「さらっ」と私の心を揺さぶった。
す、すごい。気持ちいい……!
「……っ」
「で、でで、で、でん、」
殿下。尻尾が素晴らしいです!! 好きです!!
もう呪いの言葉どころではない。私は夢心地になって魅惑の尻尾を撫で撫でした。
指先でためらいがちに表面をなぞって。滑らかな感触にうっとりと、繰り返す。
「んっ……」
ああ、指を進めてみるとふかふか。毛の奥にある肌まで愛でるようにして、さらーっと撫でる。
「んんっ……――」
ふるりと尻尾が揺れる。誘惑されるように手のひら全体で大胆に触れて、わしゃっとした。
「ん、あっ……」
なんだか艶めかしい声がきこえる。でも、この魅惑のモフモフが私を夢中にさせて、手がとまらな~い。撫で、撫で。ふかふか。
「あ、あ、あ……っ」
私は、もともと動物が好きなのだ。たまらない!
あ~……、このモフモフ、大好き。
「大好き……っ、好きです」
うっとりと熱っぽく言うと、イシャード殿下は「ぐっ……」と唸るような声をこぼした。
はっ、と現実に意識を戻した私が顔色をうかがうと、精悍な顔を赤らめて口元に手をあて、恥じらうような表情を浮かべている。
「で、でんか」
好きです。
美男子の恥じらいの表情って、なんだか見てはいけないような色っぽさがある……。
私はドキドキして、視線をおろおろと彷徨わせた。
(私、いけないことをしてしまいました? 怒られます?)
エミリオお兄様にしがみつくと、お兄様は私を守るように抱きしめて背中をぽんぽんと叩いてくれた。
「大丈夫だよ。外交問題になっても、お兄様は味方するからね」
「お、お兄様ぁっ」
不安を胸に兄妹そろってイシャード殿下に視線を向けると。
「……ハァッ……、なんという、テクニック……っ」
イシャード殿下は、謎なことを仰った。
「とても気持ちがよかった。アミーラ姫のオレへの愛が心にじんじんと伝わってきたぞ」
「え、ええ……愛しているのです! 好きです!!」
ああ、私のお口がまた、勝手に。
これはもう、なんかダメですね?
「オレもアミーラ姫に愛を返そう。獣人族は、向けられた愛に真摯にこたえる種族なのだ」
「愛してください……好きです!」
エミリオお兄様が「どうしたらいいんだ? あれ? これ相思相愛なの?」と大困惑する中、気付けば私はイシャード殿下に抱きしめられていた。
肩にひっついている猫が「んなぁお~」と可愛らしくのんきに鳴いている。
ああ、可愛い。殿下も可愛いし、猫も可愛い。
「初対面でこんなに情熱的に愛を注がれたのは、初めてだ」
「呪いなんですけどね」
「好きです……」
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