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分かり合った二人

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 ニコニコニコニコ……

「………………」
(超気まずいんですけど……勿論その原因は怖い怖い超怖いシンシアが居る! ……からなんですが)

 主であるエリオットに関しては沸点が絶対零度だからな。

(沸点がなの!? 液体個体の状態は無いの!?)

 フローラさんにはまだ余裕があるようだな。まぁでも、エリオットに粉かけようとした女は基本排除してるな。子女達の噂話にも、エリオットに近付くと痛い目を見るというのが知れ渡っているようだし。

(ゲーム中では、シンシアさえ何とかすれば近付けると勘違いしたバカが、トラウマをびっちり刻み込まれて放り出された描写があったわね)

 トラウマを刻みつけるってのは分かるけど、びっちりって何?

(アンタは調べる手段があるんだから調べなさいよ……。えっとね、まず『お早う御座います』っていつもの挨拶と供に鞭でしばく)

 うお。

(で、『お早う御座います』って言葉に過剰反応するようになったら、次は『こんにちは』も刻むの)

 ちょ、まじ怖いんだけど。

(本番はここからよ。『朝の食事です』ってわざわざ宣言してからしばく。それが刻まれたら昼食)

 うえええ……。夜までコンプリートしたら餓死すんじゃねえの?

(違うわ。挨拶に関する調教も夜だけはしないの。……だから刻み込まれた令嬢は夜だけは開放されたかのように、好きなだけ食べて自由に振る舞うのよ)

 ……? じゃあ何が? 何処が怖いの?

(夜は夜会もあるでしょう? しかも一日で唯一まともに食べられる時間。そんな時間に外へ出したがる親が居るかしら? 呼ばれた夜会で一心不乱に飲み食いする令嬢を……)

 あ、あー。察した。

(それだけじゃないわ。夜に飽食の限りを尽くして寝入ったら、ブクブク太るわよね……。それまでに何も食べてないのだから飢餓スイッチみたいなものもオンになって……)

 うわ、真綿で首を絞めるって言うけど、もっときついな。肺に穴を開ける感じか?

(そっちも怖いわ!)

 ジロリ

(ヒッ!? 何も思ってません思ってません思ってません!)

「さて、フローラ嬢」

「はい! なんれしょうか!?」
(噛んだー!?)

「僕は少し楽しみにしてたのだけど、皆とお茶会した時に何かお菓子を持ち寄っていたんだって?」

「 !! あ、はい! 持ってきてますよ? エリオット様も甘いの大丈夫なのですか? 後でメイドさんにお渡しするつもりだったのですが」
(ほんとだよ? びびってても渡すものは渡すつもりだったよ??)

「では今ここで頂いても良いだろうか? 家に帰るとちょっと、ね」

(はふんっ! ウィンクするエリオット様がきらきらきらきらふへへ……はっ!? 殺気!?)
「え、えーっと、その……メイドさんも一緒にどうです? ……とか」

「「………………」」

「あ、あ、すみません! お仕事に口を出すような真似!」

「いやいや、素敵な提案だね! シンシア、君も席について一緒に頂こう」

「ですが……」

「命令……なんてさせないで欲しいな?」

「……分かりました」

 とは言ったもののシンシアさん、すっげー不機嫌になってフローラを睨んでいる。
 ただ、

(なんか丸くなった?)

 そう、殺気が消えたのだ。

「(クスクス)シア姉がそんな顔するのは久しぶりだね」

「坊っちゃま! 今その呼び方はずるいですわ!」

「……! ……? ……!?」

「ふふ、やっぱり混乱してるね。シア姉のこと、ちょっとは知ってるんだね」

「あ、はい。……公爵家の剣、のような方だと思ってました」

「んん。間違っては居ないけど、そこまで物騒でもない。それ以上に、僕の母となり姉となり見守り続けてくれた大事な女性である、ってところさ」

 とエリオットが茶目っ気たっぷりに話してみせると、シンシアが長いため息を吐く。

「……シンシア、さんが」

「シンシアで結構で御座います。身分を持ち合わせてはおりませんので」

「シンシアがエリオット様に寄ってくる女性を、次から次へと再起不能にしてたのって……ブラコン!?」

「再起不能!?」「ブラコンってなんですか!?」

 おお、それぞれ違う所に食いついた!

「再起不能……と言うのは、もし坊っちゃまの事を本当にお慕いされてる女性でしたなら、耐えられるレベルでのせっか……じゃない、説得をしたまでです」

「折檻って言おうとしたよね!? ……もう。ブラコンってのは当たってるよね? 何かにつけて世話を焼こうとするし……。もう良い歳なんだから、色々自分で出来るようになってるよ?」

「ですが……」

「ほら、そういう所。もうあの苦い思い出は引きずってないよ。大丈夫、信じてシア姉」

「………………」

「……あ、えっとこちら! おみやげのお菓子でございますわ! 女子寮で流行ってるものですが、まさか皆様の話題に登っていたとは思わず、同じものばかりとなって申し訳ありませんが……」

「いやいや、楽しみにしてたのだから嬉しいよ」

 キラッキラー!

(ほわぁ……光の中へ消え去りそうやー)

 ザンッ!

(ひぃっ!?)

「お切り分け……致しますね?」

「おおおお願いしまする」

 キョドってやんのー。

(恐怖に震えただけじゃボケェ!)

 そして無事、切り分けられたのはお菓子の方で、

(もしかしたら私が切り分けられていた未来があるかのような言い方しないで!?)

 勘の良い喪女さんだなぁ。言わなきゃ誰もわかんないのに。とにかく切り分けられた菓子が皆の前に置かれた。それにエリオットが手を付けるのをまって、フローラ、シンシアの順に手を付ける。

「なるほど。コレは僕等は口にしない味だねぇ」

 満足気な笑みを湛えながら、優雅に咀嚼するエリオット。

(むはぁ……絵になる!)

「(いつもながら)絵になりますわ……」

 不意に聞こえたつぶやきを拾った風呂オラさん! ガバッとシンシアを振り返る!

「(ハッ!?)……何か?」

 風呂オラさん、エリオットの様子を見ながら、彼に見えないようシンシアに向けて親指を立てる。

(分かり味が凄いっす! シンシアさん!)

 シンシアは一瞬驚いたものの、軽く目礼をするに留めた。

(彼女とは分かり合える気がする!)

 こうして風呂オラさんは少しずつ、危険地帯を無害なものへと作り変えることに勤しむのだった。さすが我らの姑息な喪女様である。

(突っ込んじゃ負けだ突っ込んじゃ負けだ突っ込んじゃ負けだ)

「所でフローラ嬢」

「はい、何でしょうか?」

「君の知識は何処から得たものなのかな?」

「ふぐむんっ!? こふこふっ」

「あああ!? 大丈夫かい?? フローラ嬢」

「だ、大丈夫、ですわ」
(助かってないわー!?)

「いやね、僕もジュール先生も、今日は居ないけどサイモンも、君の根底にある知識というのに興味があったんだよ。今日はその一端に触れて、ジュール先生なんかは徹夜で資料作り上げてるんじゃないかな?」

(ひいいいぃ!? 味方だと思ってたのに!? まさかのジュールショック!?)

 オイルショックみたいな言い方すんな。しかしそうか、3人共研究科肌なんだな。

(どうやって切り抜ければ良いのかしらー!?)
「ゆゆゆ……夢! そうですわ! 夢で見たのですわ!」

「夢……かい?」

「私、入学直前に大病を患いまして、長い間昏睡状態にありましたの。その間、とてもリアルな。そう、現実と見紛うばかりの世界にて、全く違った法則の中を生きていたのですわ! 子供時分から今の年齢位まで!」

 その後もまたもやのらりくらりと質問を躱しながら時を過ぎるのを待ったフローラさんは果たして、何とかエリオットの前を辞することを許されたのだった……シンシアさんに! 大事なことなのでもう一度言う、許可を出したのはシンシアさんだ!

 またしても魂の抜けかかったフローラは、今回はシンシアに送られていった。それにしても毎度誰かに迷惑をかける喪女だこと!

 一人残ったエリオットは何かをブツブツ呟いていた。

「ふむ、昏睡病……なるほど、あれなのか。罹患者の中には精神を病んだものも居たと聞く。その理由が別の世界の夢を実体験さながら見続けていたというのであれば、ふむ。治療の目処が着くやも知れないな」

 等と、フローラが聞いていたら卒倒しそうな内容であったのは本人には内緒にしておこう。面白そうだから!
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