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3. 旅立ち
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夜が明けるまで、小川のほとりで過ごした。そこで気付いたことがある。死ななくても、腹は減るし寒さも感じる。だから、できれば快適な環境で過ごしたいし、必要な道具、食料なども調達しなければならない。
故郷の村を追い出された俺は、他の町や村へ行くしかない。ルーロ村以外に、人族の生き残りはいるのだろうか?妖精軍にほとんど滅ぼされたはずだが、俺の「禁呪」で復活した者もいるかもしれない。
人族の国に居場所がなければ、いっそ妖精の国へ行っても良い。俺の姿はどう見ても妖精だし、妖精の国と言っても、今はほとんど妖精の姿は無いはずなのだから。
それが、その時に俺の出した結論だった。
「壊れた俺」は妖精になってしまった。それなら、壊れたなりに生きていくしか無い。そこで、人間ではなく妖精になった俺は、飛び立ってみようと思った。
それで、背中の羽根を意識して羽ばたこうとしたのだが、…風を起こすこともできない。俺は妖精だ。飛べるはず。そう心に念じて、再び羽根を動かすイメージをしたのだが、やはりダメだ。
「壊れた俺」は妖精ですらなく、ポンコツの「似非妖精」なのかもしれない。水面に映った羽根に触れようと手を伸ばしたが、全く触れた感触がない。俺に生えた羽根って、一体何なんだろう?
妖精ならできて当然の飛行能力を見限った俺は、地に足をつけて、歩いて先に進むことにした。
歩いて橋を渡りきった。ここから先は、もう隣のサボーイ村に入ることになる。サボーイ村は、故郷のルーロ村よりも先に妖精軍に蹂躙されたと聞いている。多分、村内に生存者はいない。あるいは、もしかすると俺の「禁呪」で蘇った人たちもいるのだろうか?
………
クリスは知らなかったが、クリスが夜を明かした橋から1キロほど離れた丘の上に、エイミーがいた。彼女は密かにクリスを尾けて、彼の行動を密かに監視していたのだ。クリスの発言に一理あることと、クリスの行動によっては仲間や村人たちに危険が及びかねないためだった。
その一方で、仲間と村人に妖精王の遺体捜索を依頼していた。だがこの小さな村で、一時間経っても二時間経っても、遺体が見つかることは無かった。
彼女の記憶では、彼女のパーティーとの戦闘では妖精王が常に優勢で、最終的に彼女は妖精王に殺されたはずだった。その妖精王が姿を隠す理由は無い。
だから、妖精王の行方が分からず遺体が見つからないのであれば、神官の浄化魔法で妖精王が倒された可能性が高い。即ち、クリスの発言が正しいことになる。
エイミーは、クリスが橋を渡っているのを見ながら、
「…『クリス』か。彼の発言が正しいなら、彼を擁護しなかった私は罪を犯したかもしれない。」
と小さい声で呟いた。だが、それを聞いた者は無かった。
………
二日後の太陽が一番高くなった頃、俺はサボーイ村に着いた。と言っても、そこには人の姿も妖精の姿も無く、建物も無かった。あったのは、黒くなった石や炭ばかりだった。建物の礎石が焦げて黒くなり、燃えかすが炭になって残ったのだろう。
サボーイ村の住人は勇敢で、妖精軍の襲来でもほとんどの村人は逃げずに戦ったと聞いている。村人の姿が見えないのは、俺の「禁呪」でも蘇らなかったからだろうか?それとも、蘇った村人たちは後で焦土と化した村から離れて、どこかへ行ってしまったのだろうか。
このままでは食料や必要な物資が調達できない。どこかに、妖精軍に攻撃されずに、住民が逃げて無人になった家はないだろうか?そんな家があるとすれば…中心部から離れた場所にあるのだろうか?
そこで、中心部から離れて、まだ燃え尽きていない家を探した。すると、日が暮れる寸前にようやく一軒見つけた。ノックをしても、誰も出てこない。そこで、窓を探して、そこから入り込んだ。
家の中もどんどん暗くなって行く。真っ黒になる前に、急いでランプを見つけて灯を点した。
誰かが住んでいるのではないのだろうか?家の中を探し歩いたが、誰もいない。ある部屋で見つけた住人の日記には、
「妖精軍が攻めてくるそうなので、隣の村に逃げるつもりだ。」
と書かれていた。サボーイ村にも、それほど勇敢でもない人もいたのか。
すると、この家の住人はきっとルーロ村に避難したのだろう。ルーロ村に避難したのなら多分「禁呪」で蘇ったはずだし、近々この家に戻って来るかもしれない。
だが、こんな事態だ。一宿一飯と多少の借り物くらいは許されるだろう。狩りと釣りの道具、小さい調理器具、食料と衣料、それに毛布を貰って行くことにして、荷造りした。
その後、丸二日ぶりに食事をとって、身体を洗いベッドで眠った。俺にとっては心地良い家だったが、いつまでもここに留まると、この家の住人が帰って来るかも知れない。騒ぎにならないように、翌朝早い内に朝食を済ませ、この家を出ることにした。
こうして出発はしたが、あてがある訳では無かった。さて、何処へ行こうか?
とりあえずの目的地としては、やはり王都だろうか。なんといってもこの国の中心地だったし、学生時代を過ごした場所でもある。
王都の人々がどこへ行ったのか?俺の「禁呪」の影響で蘇った人たちはいるのか?集積された食糧や物資、あの荘厳な王城がどうなったのか?
王都のことを考えたら、急にいろいろ気になってきた。
今日も空は晴れ渡り、良い天気だ。道中、狩りや釣りをしながら、のんびり進もう。「似非妖精」になってしまったことを除けば、少し前と同じ「ソロの冒険者」に戻ったものだ。魔獣、猛獣、盗賊に気をつけて進めば良い。
ん、盗賊って、人族も妖精族もほとんどいなくなったはずの今でも、存在するのだろうか? それに、妖精王と一緒に進軍してきた妖精たちの一部は、まだその辺りに残っているかもしれない。
まあ、細かいことは気にしないで進もう。何とかなるだろう。
………
村の入り口では、王都の方向へ歩き出したクリスを木の陰から見ている者がいた。ルイーズだ。風魔法で飛翔できる彼女は、エイミーに頼まれてクリスとサボーイ村のようすを監視していたのだった。ルイーズはクリスに気付かれずにサボーイ村を離れると、エイミーの待つルーロ村へ向かって飛び立った。
故郷の村を追い出された俺は、他の町や村へ行くしかない。ルーロ村以外に、人族の生き残りはいるのだろうか?妖精軍にほとんど滅ぼされたはずだが、俺の「禁呪」で復活した者もいるかもしれない。
人族の国に居場所がなければ、いっそ妖精の国へ行っても良い。俺の姿はどう見ても妖精だし、妖精の国と言っても、今はほとんど妖精の姿は無いはずなのだから。
それが、その時に俺の出した結論だった。
「壊れた俺」は妖精になってしまった。それなら、壊れたなりに生きていくしか無い。そこで、人間ではなく妖精になった俺は、飛び立ってみようと思った。
それで、背中の羽根を意識して羽ばたこうとしたのだが、…風を起こすこともできない。俺は妖精だ。飛べるはず。そう心に念じて、再び羽根を動かすイメージをしたのだが、やはりダメだ。
「壊れた俺」は妖精ですらなく、ポンコツの「似非妖精」なのかもしれない。水面に映った羽根に触れようと手を伸ばしたが、全く触れた感触がない。俺に生えた羽根って、一体何なんだろう?
妖精ならできて当然の飛行能力を見限った俺は、地に足をつけて、歩いて先に進むことにした。
歩いて橋を渡りきった。ここから先は、もう隣のサボーイ村に入ることになる。サボーイ村は、故郷のルーロ村よりも先に妖精軍に蹂躙されたと聞いている。多分、村内に生存者はいない。あるいは、もしかすると俺の「禁呪」で蘇った人たちもいるのだろうか?
………
クリスは知らなかったが、クリスが夜を明かした橋から1キロほど離れた丘の上に、エイミーがいた。彼女は密かにクリスを尾けて、彼の行動を密かに監視していたのだ。クリスの発言に一理あることと、クリスの行動によっては仲間や村人たちに危険が及びかねないためだった。
その一方で、仲間と村人に妖精王の遺体捜索を依頼していた。だがこの小さな村で、一時間経っても二時間経っても、遺体が見つかることは無かった。
彼女の記憶では、彼女のパーティーとの戦闘では妖精王が常に優勢で、最終的に彼女は妖精王に殺されたはずだった。その妖精王が姿を隠す理由は無い。
だから、妖精王の行方が分からず遺体が見つからないのであれば、神官の浄化魔法で妖精王が倒された可能性が高い。即ち、クリスの発言が正しいことになる。
エイミーは、クリスが橋を渡っているのを見ながら、
「…『クリス』か。彼の発言が正しいなら、彼を擁護しなかった私は罪を犯したかもしれない。」
と小さい声で呟いた。だが、それを聞いた者は無かった。
………
二日後の太陽が一番高くなった頃、俺はサボーイ村に着いた。と言っても、そこには人の姿も妖精の姿も無く、建物も無かった。あったのは、黒くなった石や炭ばかりだった。建物の礎石が焦げて黒くなり、燃えかすが炭になって残ったのだろう。
サボーイ村の住人は勇敢で、妖精軍の襲来でもほとんどの村人は逃げずに戦ったと聞いている。村人の姿が見えないのは、俺の「禁呪」でも蘇らなかったからだろうか?それとも、蘇った村人たちは後で焦土と化した村から離れて、どこかへ行ってしまったのだろうか。
このままでは食料や必要な物資が調達できない。どこかに、妖精軍に攻撃されずに、住民が逃げて無人になった家はないだろうか?そんな家があるとすれば…中心部から離れた場所にあるのだろうか?
そこで、中心部から離れて、まだ燃え尽きていない家を探した。すると、日が暮れる寸前にようやく一軒見つけた。ノックをしても、誰も出てこない。そこで、窓を探して、そこから入り込んだ。
家の中もどんどん暗くなって行く。真っ黒になる前に、急いでランプを見つけて灯を点した。
誰かが住んでいるのではないのだろうか?家の中を探し歩いたが、誰もいない。ある部屋で見つけた住人の日記には、
「妖精軍が攻めてくるそうなので、隣の村に逃げるつもりだ。」
と書かれていた。サボーイ村にも、それほど勇敢でもない人もいたのか。
すると、この家の住人はきっとルーロ村に避難したのだろう。ルーロ村に避難したのなら多分「禁呪」で蘇ったはずだし、近々この家に戻って来るかもしれない。
だが、こんな事態だ。一宿一飯と多少の借り物くらいは許されるだろう。狩りと釣りの道具、小さい調理器具、食料と衣料、それに毛布を貰って行くことにして、荷造りした。
その後、丸二日ぶりに食事をとって、身体を洗いベッドで眠った。俺にとっては心地良い家だったが、いつまでもここに留まると、この家の住人が帰って来るかも知れない。騒ぎにならないように、翌朝早い内に朝食を済ませ、この家を出ることにした。
こうして出発はしたが、あてがある訳では無かった。さて、何処へ行こうか?
とりあえずの目的地としては、やはり王都だろうか。なんといってもこの国の中心地だったし、学生時代を過ごした場所でもある。
王都の人々がどこへ行ったのか?俺の「禁呪」の影響で蘇った人たちはいるのか?集積された食糧や物資、あの荘厳な王城がどうなったのか?
王都のことを考えたら、急にいろいろ気になってきた。
今日も空は晴れ渡り、良い天気だ。道中、狩りや釣りをしながら、のんびり進もう。「似非妖精」になってしまったことを除けば、少し前と同じ「ソロの冒険者」に戻ったものだ。魔獣、猛獣、盗賊に気をつけて進めば良い。
ん、盗賊って、人族も妖精族もほとんどいなくなったはずの今でも、存在するのだろうか? それに、妖精王と一緒に進軍してきた妖精たちの一部は、まだその辺りに残っているかもしれない。
まあ、細かいことは気にしないで進もう。何とかなるだろう。
………
村の入り口では、王都の方向へ歩き出したクリスを木の陰から見ている者がいた。ルイーズだ。風魔法で飛翔できる彼女は、エイミーに頼まれてクリスとサボーイ村のようすを監視していたのだった。ルイーズはクリスに気付かれずにサボーイ村を離れると、エイミーの待つルーロ村へ向かって飛び立った。
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