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大蒼洋上 マリシュナ号
先ほど、船艙で二人きりになった時にフーヴァルから聞いた話を、ホラスは胸の中で何度も反芻していた。
「あいつは、あんたに会えない欲求不満のあまり、自分の記憶を魔力に変えて無茶をやってきた。あんたのことを覚えてないのはそのせいだ」
返す言葉など、なかった。もっと早くに彼を見つけていたら──彼の居場所がわかった時点で駆けつけていたら。後悔が波のように押し寄せてきた。
「こういう話はガル……ゲラードの奴から聞くほうがいいんだろうが、あいつは気が利かねえからな」フーヴァルは首の後ろをガリガリと掻いた。「簡単に言うと、マタルの記憶は乾物みたいになっちまってるらしい」
ホラスは、今度も返答に詰まった。独特な表現を理解できた自信がなかったせいだ。
「つまり、完全に消えちまったわけじゃない。魔力が枯れてるのが一番の問題なんだ。乾物に水を注いでやりゃ、元に戻る。魔女と付き合ってたあんたなら、わかるよな?」
「わかる」ホラスは言った。
「そいつはいい」フーヴァルはフフンと鼻を鳴らした。「どれだけ注げば元に戻るのかは知らねえが、しばらくの間は船室で二人きりにしてやる。うまくやってくれ」
「だが、彼には記憶がないんだ」
フーヴァルは片眉をあげた。「はあ?」
「記憶がない相手に、そういうことを強いるつもりはない」
「おいおい……」フーヴァルは呆れきった表情を浮かべて、頭をかいた。「あのな、欲求不満の魔女ってのがどれほど危ないか、元審問官ならわかるだろ?」
「ああ」
「だったら、さっさと奴を潤してやれ。ヤることヤりゃ思い出すだろ」
ホラスは、この元海賊のあけすけな物言いにムッとした。「あなたに言われるまでもない。だが、魔女に無理強いするほうがもっと危険だ」
フーヴァルは手をこまねいて、ホラスを睨んだ。「だからって、危ねえ状況をただ長引かせるってのか」
「すまない」ホラスは言った。「マタルのことは……注意しておく。だが、あまりあからさまに急かさないでもらいたい。これ以上彼を傷つけたくない」
「傷つけ……ああそうかい」フーヴァルは言った。「あのな、俺だって仲間を傷つけたくてこんなこと言ってるわけじゃねえ。あんたのやり方は尊重してやるさ。だが、香り付きの蝋燭や絹の布団が手に入るまで待つつもりはねえからな」
「それは、もっともだ」
「そもそもよお」フーヴァルは、船艙の酒棚から、ろくに見もしないで瓶を抜き出した。「そういうモヤモヤした態度は感心しねえな」
「モヤモヤ?」
「保護者みてえな態度だよ。この数ヶ月あいつを見てきた俺としちゃ、侮辱だとすら思うね」
痛いところを突かれて、ホラスは小さく唸った。「それは……そうだな」
「あいつは、マルディラの監獄をたったひとりでぶっ壊したんだ。しかも、一人の死人もださなかった」
ホラスは目を見開いた。「その事件なら知っている。あれを、マタルが?」
フーヴァルは頷いた。「どうやら、あんたの記憶はよっぽど効くらしい」
「よくわかった」ホラスはため息をついた。「善処する」
フーヴァルは、俯くホラスの顔を覗き込むように首をかしげた。
「あんたはお堅そうだから、一応助言しておくけどよ、強引なのにグッとくる奴もいるんだぜ。俺としちゃ、マタルはそういう手合いだと思うね」
ホラスは思わず険悪な視線を返した。フーヴァルはケケケと笑った。
「おおコワ。余計なお世話か」
警鐘が鳴り響くなか、ホラスとマタルは船室を飛び出した。
「こっち!」
下甲板では、すでに大砲を使用するための準備が始まっていた。船艙から砲弾を運び出すものたちとぶつからないように注意しながら、最後の階段を上って上甲板に出る。マタルについて船尾楼甲板にまであがると、船尾に立って望遠鏡を覗いているフーヴァルの後ろ姿があった。隣にはゲラードと、一等航海士もいる。
彼らの視線の先には、まだうっすらとカルタニアの陸地の影が見える。その影とマリシュナ号のあいだに、小さな影が並んでいた。
「追跡されているのか?」
「ご名答」フーヴァルは言い、ホラスに望遠鏡を預けた。「覗いてみな」
慣れない魔道具を注意深く掲げ、筒を覗き込んでみる。すると、敵の姿が見えた。
「あれは……」
「あんたの話の裏付けがとれたな」フーヴァルが言った。
三隻の船。漆黒の船体に、漆黒の帆を掲げている。主檣にはためく旗は、黒地に金の太陽。そして、船を動かしている船員たちとは別に、甲板に整列した一群がいた。彼らは黒衣に金の仮面を纏い、波に揺れる船の上で微動だにせず隊伍を保っている。
「キャトフォードで、僕を狙ったのと同じだ」ゲラードが言った。「あれが、金面兵……あんなに沢山いるなんて」
「おそらく、陸にはさらに大勢居るはずです」
「喫水が浅くて、足が速い。このままだと、沖に出る前に追いつかれる」一等航海士が言った。
「なあに、相手はただの人間だろ」フーヴァルはのんきな声を出す。
だが、ホラスには彼が表に現さない焦りが読めた。このまま追いつかれ、囲まれたら損害は免れない。船には多くの難民が乗っているのだ。
「俺に行かせて」
マタルが声を上げた。
「たった三隻ぐらい、お前の出る幕じゃねえ」フーヴァルは言った。「すっこんでろ。まだ本調子じゃねえんだろうが」
そのときマタルを見たフーヴァルの目に、ホラスは彼の本心を見た。
船艙で下卑た忠告をしてきたのも、急かすようなことを言ったのも、すべてはマタルのためなのだ。〈浪吼団〉の船長については、巷にあふれる悪評だけで本一冊書けるほどだとよく言われる。だが、それらを一笑に付すには、たったひとつの真実があれば十分だ。
フーヴァル・ゴーラムは、決して仲間を見捨てない。
「フーヴァル」ホラスは言った。「マタルを行かせてやって欲しい」
船長は眉を顰めた。「おい、俺がさっき言ったのはそういう意味じゃ──」
「わかっている」
そして、ホラスはマタルの方を向いた。「マタル、俺を抱えて飛ぶのは難しいか?」
マタルは驚いて、ぽかんと口を開けた。「あなたを? そりゃ、一人くらいどうってことはないけど……」
「単独で向かうのは危険だと、僕も思う」ゲラードが言った。「彼を連れて行くべきだ」
「でも、危ないよ」マタルは冷静に言った。「それに……こう言ったら悪いけど、人間のあなたになにができる?」
「君の魔法は強力だが、結界のように働くわけではない。意識の外にある死角からの狙い撃ちに対応するのは不得手だろう。違うか?」
マタルはぐっと声を詰まらせた。「なんで、それを──」
「俺が、君の目の届かない場所を見る」
彼は唇を噛んで、考え込んだ。
「でも、それじゃあなたが俺の盾になってしまう。それこそ危険だ」
「待って!」
その時、ひとりの魔女が船尾楼甲板に駆け上がってきた。
「クラウディ!」
彼女は、馬車の車輪ほどもある巨大な輪を引きずりながら運んできていた。それは、複雑に絡み合う結び目を無数に持つ、編み紐で作られた輪だった。
息を切らしながら、彼女は言った。
「持ってきた……これの出番だと思ってさ……!」
彼女は額の汗を拭って、輪をマタルではなく、ホラスに手渡した。全部で三本ある。
「これは?」
「姉さんと二人で作っておいた。帆の魔法だけじゃ、守るばっかりで戦えない……だから、こいつを、敵の主檣に……」
そこまで言うと、彼女の呼吸が激しくなった。過呼吸に陥ったのだ。
「クラウディ、落ち着いて──」ゲラードが彼女に駆け寄り、肩を抱く。「ドクのところへ連れて行く!」
「頼む」そして、フーヴァルが二人を見た。「一人が飛んで、一人が主檣にそいつをひっかける。できるな?」
「できる」ホラスは即答した。「君はどうだ?」
マタルは、まだ少しだけ迷っているようだった。けれど、そんな時間はないと考え直したのだろう。唇を引き結んで、頷いた。
「わかった。やるよ」
互いの胴体を索で結んで、マタルが後ろから、ホラスを抱きかかえる。こんな状況でなければ、上着の布越しに感じる彼の体温に感慨を抱きもしただろう。だが、ホラスはそれを胸の奥にしまい込んだ。こういうことには慣れている。昔から。
「準備はいい?」
「ああ」
「じゃ、行くよ!」
マタルが右の封鐶を外すと、九重薔薇を象った文身が現れ出て、マタルとホラスとを結びつけた。文身からなる翼は船の横幅ほどもある。それを限界まで拡げてから、マタルは踏み込んだ。体がぐっと沈み込む。そして、彼は甲板を蹴った。
もの凄い力で下に引っ張られる。慣れない感覚に歯を食いしばりながら見下ろすと、甲板が瞬く間に遠ざかるのが見えた。人影が、船が、警鐘の音までもが小さくなり、風の音しか聞こえなくなる。
「ついさっき会ったばかりなのに」マタルは言った。「俺に命を預けるのは……守りたいひとがいるから?」
いきなり核心に迫る質問をされて、ホラスは一瞬、躊躇った。だが頷いた。
「そうだ」
すると、ほんの一瞬、ガクンと高度が下がった。
「大丈夫か?」
「うん、平気」
ホラスは振り向いた。そういう声で『平気』と言うのは、平気じゃないときの彼の癖だ。マタルはホラスの方を見ず、遠くに視線を向けていた。
「涙ぐましいけど……報われないね」マタルは言った。
「報われない?」
どういう意味なのか、尋ねる暇はなかった。
「急降下する! 一番奥の船から狙って!」
「わかっ──」
「口、閉じて!」
そう言うが早いか、マタルが身体を傾け、軌道を変えた。
大気を裂くような音の中、身を引きちぎるような風の中で、さっきまで遠かった景色が近づき、眼前に迫ってくる。船の上では、カルタ語の命令が飛び交っていた。
「構えよ!」
黒い甲板に、黒い服を着た兵士たちが並び、黒い──筒のようなものを捧げ持っている。それは杖のように見えたが、先端に口がついていた。
まるで──小型の大砲。
悪寒が背筋を掴む。
「マタル! 避けろ!」
「撃て!」
ホラスが叫んだのと、命令が下されたのが同時だった。マタルは身体を回転させ、空中を横に転がるようにして、その場を離れた。
だが、避けきれなかった。
「ぐ……!」
マタルの翼には穴があいていた。拳くらいの大きさのものが、五カ所ほど。
「マタル!」
「銀の弾だ」マタルが唸った。「大砲よりは軽い。でも、早い──やられたよ」
「一度逃げて、立て直すべきだ」
ところが、マタルは笑った。茨の模様に縁取られた琥珀の瞳を爛々と輝かせて──その横顔は、昔どこかで目にした東方の獣──虎を思わせる。
「逃げる? 冗談だろ」彼は言った。「これくらい、なんてことない」
すると、穴があいた羽根はバラリと落ち、その代わりが瞬く間に生えた。新しい羽根はさらに大きく、力強い。
彼は強くなった。彼はデンズウィックを──ホラスのもとを離れ、各地を放浪しながら多くを学んだのだ。その旅が、彼の魂をさらに高めた。何を犠牲にしたとしても、別離の日々は、決して無駄ではなかった。
だが、強さだけでは、あの脅威をやり過ごすことはできない。
「マタル! よく見ろ」ホラスは言った。「彼らの動きがわかるか?」
マタルは空中を旋回しながら、船の上を観察した。「一斉に弾を込めてる」
「そうだ。あの武器は再装填するのに時間がかかるらしい。それならば、いちどいなして体勢を立て直している隙を狙おう」
「了解!」
マタルは言い、さきほどの船に再び狙いを定めた。
急降下──だが、今度はさっきよりも勢いを保ったまま、船首から船尾までを擦るように飛ぶ。撃ての声は、思った通り、時機を逸した。破裂音と熱の軌道を肌で感じられるほど近い。しかし、銀の礫は虚しく空を穿った。
マタルは宙返りをして向きを反転した。勢いを失い、海面にぼたぼたと落ちる弾を尻目に、主檣を目指す。
「いくよ!」
「ああ!」
ホラスは輪を構えた。
檣楼にいる二人の兵士が、石弩でこちらを狙っている。ホラスには彼らの顔が見えた。仮面の奥で、恐怖に見開かれている目が見えた。
「邪魔だ!」
マタルが叫ぶ。突風が吹き、二人の兵士は檣楼から転がり落ちた。
目の前に、主檣の柱頭が迫る。ホラスはここぞというところで手を放し──輪は見事、マストにかかった。
「成功だ! 上昇!」
「よっしゃ!」
マタルが快哉をあげて、大きく羽ばたく。
「あと二隻!」
次の船も、最初と同じ要領で輪をかけることができた。しかし急がなければ。ホラスとマタルが、なにかの呪いを船に施しているのは誰の目にもあきらかだ。術が発動する前に、あの輪を外されたり、破壊されたりしては元も子もない。
「あれで最後!」
その一隻は、すでにマリシュナに迫りつつあった。
マタルは、こんどは船尾から敵を攪乱して弾を撃たせてから、ひらりと身を躱して、再び主檣を目指した。
だが三度目は、そううまくはいかなかった。
二度の成功で油断していた。耳にすることはないと思っていた『撃て』の声を聞いたとき、ホラスの心臓は止まった。最初に撃ったのは半数だけ──あとの半数は、次の降下をまっていたのだ。
回避は──間に合わない。
ホラスは腕を伸ばし、最後の輪を、主檣にかけた。
甲板から轟音が轟き、霰のような弾がこちらに向かって飛んでくる。それはゆっくりと、緩慢に思えるほどの時間をかけて近づいてきた。
ホラスは身を捩り、マタルの身体を抱きしめた。
殴られたような痛みを、右足と、左の肩に感じた。麻痺しかけた頭の中で、妙に冷静な声が言った。
なんだ、この程度か。
その瞬間、主檣にかけた輪が、眩いばかりの炎をあげた。
輪から噴き出す白い炎が、主檣上部帆と、主檣帆を支える帆桁を瞬く間に包む。黒い帆は帆柱ごと炎に飲まれ、風に踊りながら燃え尽きようとしていた。先に輪を仕掛けた二隻の船にも、火柱があがっている。
成功だ。やってのけた。実に見事な魔法だ。
これであの船団がマリシュナ号に追いつくことはないだろう。
「ホラス」
呆然とした声に、顔を上げる。マタルの顔は、ほとんど蒼白になっていた。
「マタル……怪我はないか?」
彼は返事をしなかった。ただ、もういちど名前を呼んだ。
「ホラス──」
怪我はしていないようだ。彼はなめらかに滑空しながら、戦場を後にしている。だが、マリシュナ号に向かってはいない。まったく明後日の方向に飛んでいる。
「マタル、どうした?」
ホラス自身も負傷しはしたが、それほど大事には至っていないはずだと思った。ただ、妙に風が染みる。
その時、重たいものが落ちる音を聞いた。
音のした方を見ると、なにか、丸太のようなものが海に浮かんでいるのが見えた。
理由はわからないが、あれをよく見ておいた方がいい、と思った。
だが、うまくいかない。空が急に翳り、日の光がうしなわれたせいだ。まるで時ならぬ夜が訪れたかのように、世界が暗闇に包まれた。雷鳴が轟き、雲間に閃光が走る。
嵐だ。マタルが喚んだものだろうか。
でも、なぜ?
「ホラス……あなたの手──」マタルの声は震えていた。「あ……足も……!」
頭を巡らして、自分の左肩を見た。二の腕から先がなくなっていた。そして足は──見えないが、確かに。右足が妙に軽い。
そこでようやく、さっき海の上に見た丸太の正体が、自分の脚だったのだとわかった。
不思議なことに、痛みは感じなかった。そのかわり……今にも意識を失いそうだ。
切迫した囁きに意識を向ける。マタルはひどく狼狽していた。
「駄目だ、駄目……雷はだめだ……!」
いま雷を呼べば、耐性のあるマタルはともかく、ホラスは雷に打たれて丸焦げになってしまう──それを心配しているのだ。彼は抗っていたが、制御はできていない。彼の瞳は煮えたぎる黄金のような色に輝いていて、その背後に見える空には、こちらにのし掛かって来るように思えるほど低い黒雲が渦を捲いていた。
お前がそんなに慌てることはないのだと、笑ってやりたかった。だが、呂律が回りそうにない。
「マタル」
ホラスは言った。彼の名前なら、何度でも呼べる。たとえ舌を失ったとしても。
「マタル……大丈夫だ」
微笑むのは難しいことじゃない。ようやく会えたのだから。こうして互いに触れあって、空を飛んでいる──こんなに素晴らしい瞬間に、微笑まずにいる方が無理というものだ。
ホラスは言った。
「大丈夫だ」
稲光が、目を焼いた。
続く雷鳴が全ての音を飲み込む前に、ホラスは気を失った。
もしも、ホラスがあと少しだけ目を開けていることができたら、カルタニアの方角に広がる空の上に、異様な光景を見ただろう。
眠れる火山と呼ばれたウテロ山は目を覚まし、黒煙が火口からもうもうと立ち上っていた。漆黒の煙の向こう側で、今まで誰も目にしたことがないほど巨大な極光が踊っていた。無数の色を明滅させながら。
その日、無数の鳥が前触れなく地に落ち、魚たちは死体となって水面に浮かんだ。地上に生ける者すべてを脅かすような地震が無数に起こった。地面はひび割れ、泉が涸れた。雲より低いところを飛ぶ黒い流星が、雷を引き連れ、カルタニアからダイラの方角へ流れてゆくのをみたという者もいた。
その全てを、ホラスが見ることはなかった。
だが、彼がそれを見ようと、見まいと──このようにして、終焉は幕を開けたのだ。
大蒼洋上 マリシュナ号
先ほど、船艙で二人きりになった時にフーヴァルから聞いた話を、ホラスは胸の中で何度も反芻していた。
「あいつは、あんたに会えない欲求不満のあまり、自分の記憶を魔力に変えて無茶をやってきた。あんたのことを覚えてないのはそのせいだ」
返す言葉など、なかった。もっと早くに彼を見つけていたら──彼の居場所がわかった時点で駆けつけていたら。後悔が波のように押し寄せてきた。
「こういう話はガル……ゲラードの奴から聞くほうがいいんだろうが、あいつは気が利かねえからな」フーヴァルは首の後ろをガリガリと掻いた。「簡単に言うと、マタルの記憶は乾物みたいになっちまってるらしい」
ホラスは、今度も返答に詰まった。独特な表現を理解できた自信がなかったせいだ。
「つまり、完全に消えちまったわけじゃない。魔力が枯れてるのが一番の問題なんだ。乾物に水を注いでやりゃ、元に戻る。魔女と付き合ってたあんたなら、わかるよな?」
「わかる」ホラスは言った。
「そいつはいい」フーヴァルはフフンと鼻を鳴らした。「どれだけ注げば元に戻るのかは知らねえが、しばらくの間は船室で二人きりにしてやる。うまくやってくれ」
「だが、彼には記憶がないんだ」
フーヴァルは片眉をあげた。「はあ?」
「記憶がない相手に、そういうことを強いるつもりはない」
「おいおい……」フーヴァルは呆れきった表情を浮かべて、頭をかいた。「あのな、欲求不満の魔女ってのがどれほど危ないか、元審問官ならわかるだろ?」
「ああ」
「だったら、さっさと奴を潤してやれ。ヤることヤりゃ思い出すだろ」
ホラスは、この元海賊のあけすけな物言いにムッとした。「あなたに言われるまでもない。だが、魔女に無理強いするほうがもっと危険だ」
フーヴァルは手をこまねいて、ホラスを睨んだ。「だからって、危ねえ状況をただ長引かせるってのか」
「すまない」ホラスは言った。「マタルのことは……注意しておく。だが、あまりあからさまに急かさないでもらいたい。これ以上彼を傷つけたくない」
「傷つけ……ああそうかい」フーヴァルは言った。「あのな、俺だって仲間を傷つけたくてこんなこと言ってるわけじゃねえ。あんたのやり方は尊重してやるさ。だが、香り付きの蝋燭や絹の布団が手に入るまで待つつもりはねえからな」
「それは、もっともだ」
「そもそもよお」フーヴァルは、船艙の酒棚から、ろくに見もしないで瓶を抜き出した。「そういうモヤモヤした態度は感心しねえな」
「モヤモヤ?」
「保護者みてえな態度だよ。この数ヶ月あいつを見てきた俺としちゃ、侮辱だとすら思うね」
痛いところを突かれて、ホラスは小さく唸った。「それは……そうだな」
「あいつは、マルディラの監獄をたったひとりでぶっ壊したんだ。しかも、一人の死人もださなかった」
ホラスは目を見開いた。「その事件なら知っている。あれを、マタルが?」
フーヴァルは頷いた。「どうやら、あんたの記憶はよっぽど効くらしい」
「よくわかった」ホラスはため息をついた。「善処する」
フーヴァルは、俯くホラスの顔を覗き込むように首をかしげた。
「あんたはお堅そうだから、一応助言しておくけどよ、強引なのにグッとくる奴もいるんだぜ。俺としちゃ、マタルはそういう手合いだと思うね」
ホラスは思わず険悪な視線を返した。フーヴァルはケケケと笑った。
「おおコワ。余計なお世話か」
警鐘が鳴り響くなか、ホラスとマタルは船室を飛び出した。
「こっち!」
下甲板では、すでに大砲を使用するための準備が始まっていた。船艙から砲弾を運び出すものたちとぶつからないように注意しながら、最後の階段を上って上甲板に出る。マタルについて船尾楼甲板にまであがると、船尾に立って望遠鏡を覗いているフーヴァルの後ろ姿があった。隣にはゲラードと、一等航海士もいる。
彼らの視線の先には、まだうっすらとカルタニアの陸地の影が見える。その影とマリシュナ号のあいだに、小さな影が並んでいた。
「追跡されているのか?」
「ご名答」フーヴァルは言い、ホラスに望遠鏡を預けた。「覗いてみな」
慣れない魔道具を注意深く掲げ、筒を覗き込んでみる。すると、敵の姿が見えた。
「あれは……」
「あんたの話の裏付けがとれたな」フーヴァルが言った。
三隻の船。漆黒の船体に、漆黒の帆を掲げている。主檣にはためく旗は、黒地に金の太陽。そして、船を動かしている船員たちとは別に、甲板に整列した一群がいた。彼らは黒衣に金の仮面を纏い、波に揺れる船の上で微動だにせず隊伍を保っている。
「キャトフォードで、僕を狙ったのと同じだ」ゲラードが言った。「あれが、金面兵……あんなに沢山いるなんて」
「おそらく、陸にはさらに大勢居るはずです」
「喫水が浅くて、足が速い。このままだと、沖に出る前に追いつかれる」一等航海士が言った。
「なあに、相手はただの人間だろ」フーヴァルはのんきな声を出す。
だが、ホラスには彼が表に現さない焦りが読めた。このまま追いつかれ、囲まれたら損害は免れない。船には多くの難民が乗っているのだ。
「俺に行かせて」
マタルが声を上げた。
「たった三隻ぐらい、お前の出る幕じゃねえ」フーヴァルは言った。「すっこんでろ。まだ本調子じゃねえんだろうが」
そのときマタルを見たフーヴァルの目に、ホラスは彼の本心を見た。
船艙で下卑た忠告をしてきたのも、急かすようなことを言ったのも、すべてはマタルのためなのだ。〈浪吼団〉の船長については、巷にあふれる悪評だけで本一冊書けるほどだとよく言われる。だが、それらを一笑に付すには、たったひとつの真実があれば十分だ。
フーヴァル・ゴーラムは、決して仲間を見捨てない。
「フーヴァル」ホラスは言った。「マタルを行かせてやって欲しい」
船長は眉を顰めた。「おい、俺がさっき言ったのはそういう意味じゃ──」
「わかっている」
そして、ホラスはマタルの方を向いた。「マタル、俺を抱えて飛ぶのは難しいか?」
マタルは驚いて、ぽかんと口を開けた。「あなたを? そりゃ、一人くらいどうってことはないけど……」
「単独で向かうのは危険だと、僕も思う」ゲラードが言った。「彼を連れて行くべきだ」
「でも、危ないよ」マタルは冷静に言った。「それに……こう言ったら悪いけど、人間のあなたになにができる?」
「君の魔法は強力だが、結界のように働くわけではない。意識の外にある死角からの狙い撃ちに対応するのは不得手だろう。違うか?」
マタルはぐっと声を詰まらせた。「なんで、それを──」
「俺が、君の目の届かない場所を見る」
彼は唇を噛んで、考え込んだ。
「でも、それじゃあなたが俺の盾になってしまう。それこそ危険だ」
「待って!」
その時、ひとりの魔女が船尾楼甲板に駆け上がってきた。
「クラウディ!」
彼女は、馬車の車輪ほどもある巨大な輪を引きずりながら運んできていた。それは、複雑に絡み合う結び目を無数に持つ、編み紐で作られた輪だった。
息を切らしながら、彼女は言った。
「持ってきた……これの出番だと思ってさ……!」
彼女は額の汗を拭って、輪をマタルではなく、ホラスに手渡した。全部で三本ある。
「これは?」
「姉さんと二人で作っておいた。帆の魔法だけじゃ、守るばっかりで戦えない……だから、こいつを、敵の主檣に……」
そこまで言うと、彼女の呼吸が激しくなった。過呼吸に陥ったのだ。
「クラウディ、落ち着いて──」ゲラードが彼女に駆け寄り、肩を抱く。「ドクのところへ連れて行く!」
「頼む」そして、フーヴァルが二人を見た。「一人が飛んで、一人が主檣にそいつをひっかける。できるな?」
「できる」ホラスは即答した。「君はどうだ?」
マタルは、まだ少しだけ迷っているようだった。けれど、そんな時間はないと考え直したのだろう。唇を引き結んで、頷いた。
「わかった。やるよ」
互いの胴体を索で結んで、マタルが後ろから、ホラスを抱きかかえる。こんな状況でなければ、上着の布越しに感じる彼の体温に感慨を抱きもしただろう。だが、ホラスはそれを胸の奥にしまい込んだ。こういうことには慣れている。昔から。
「準備はいい?」
「ああ」
「じゃ、行くよ!」
マタルが右の封鐶を外すと、九重薔薇を象った文身が現れ出て、マタルとホラスとを結びつけた。文身からなる翼は船の横幅ほどもある。それを限界まで拡げてから、マタルは踏み込んだ。体がぐっと沈み込む。そして、彼は甲板を蹴った。
もの凄い力で下に引っ張られる。慣れない感覚に歯を食いしばりながら見下ろすと、甲板が瞬く間に遠ざかるのが見えた。人影が、船が、警鐘の音までもが小さくなり、風の音しか聞こえなくなる。
「ついさっき会ったばかりなのに」マタルは言った。「俺に命を預けるのは……守りたいひとがいるから?」
いきなり核心に迫る質問をされて、ホラスは一瞬、躊躇った。だが頷いた。
「そうだ」
すると、ほんの一瞬、ガクンと高度が下がった。
「大丈夫か?」
「うん、平気」
ホラスは振り向いた。そういう声で『平気』と言うのは、平気じゃないときの彼の癖だ。マタルはホラスの方を見ず、遠くに視線を向けていた。
「涙ぐましいけど……報われないね」マタルは言った。
「報われない?」
どういう意味なのか、尋ねる暇はなかった。
「急降下する! 一番奥の船から狙って!」
「わかっ──」
「口、閉じて!」
そう言うが早いか、マタルが身体を傾け、軌道を変えた。
大気を裂くような音の中、身を引きちぎるような風の中で、さっきまで遠かった景色が近づき、眼前に迫ってくる。船の上では、カルタ語の命令が飛び交っていた。
「構えよ!」
黒い甲板に、黒い服を着た兵士たちが並び、黒い──筒のようなものを捧げ持っている。それは杖のように見えたが、先端に口がついていた。
まるで──小型の大砲。
悪寒が背筋を掴む。
「マタル! 避けろ!」
「撃て!」
ホラスが叫んだのと、命令が下されたのが同時だった。マタルは身体を回転させ、空中を横に転がるようにして、その場を離れた。
だが、避けきれなかった。
「ぐ……!」
マタルの翼には穴があいていた。拳くらいの大きさのものが、五カ所ほど。
「マタル!」
「銀の弾だ」マタルが唸った。「大砲よりは軽い。でも、早い──やられたよ」
「一度逃げて、立て直すべきだ」
ところが、マタルは笑った。茨の模様に縁取られた琥珀の瞳を爛々と輝かせて──その横顔は、昔どこかで目にした東方の獣──虎を思わせる。
「逃げる? 冗談だろ」彼は言った。「これくらい、なんてことない」
すると、穴があいた羽根はバラリと落ち、その代わりが瞬く間に生えた。新しい羽根はさらに大きく、力強い。
彼は強くなった。彼はデンズウィックを──ホラスのもとを離れ、各地を放浪しながら多くを学んだのだ。その旅が、彼の魂をさらに高めた。何を犠牲にしたとしても、別離の日々は、決して無駄ではなかった。
だが、強さだけでは、あの脅威をやり過ごすことはできない。
「マタル! よく見ろ」ホラスは言った。「彼らの動きがわかるか?」
マタルは空中を旋回しながら、船の上を観察した。「一斉に弾を込めてる」
「そうだ。あの武器は再装填するのに時間がかかるらしい。それならば、いちどいなして体勢を立て直している隙を狙おう」
「了解!」
マタルは言い、さきほどの船に再び狙いを定めた。
急降下──だが、今度はさっきよりも勢いを保ったまま、船首から船尾までを擦るように飛ぶ。撃ての声は、思った通り、時機を逸した。破裂音と熱の軌道を肌で感じられるほど近い。しかし、銀の礫は虚しく空を穿った。
マタルは宙返りをして向きを反転した。勢いを失い、海面にぼたぼたと落ちる弾を尻目に、主檣を目指す。
「いくよ!」
「ああ!」
ホラスは輪を構えた。
檣楼にいる二人の兵士が、石弩でこちらを狙っている。ホラスには彼らの顔が見えた。仮面の奥で、恐怖に見開かれている目が見えた。
「邪魔だ!」
マタルが叫ぶ。突風が吹き、二人の兵士は檣楼から転がり落ちた。
目の前に、主檣の柱頭が迫る。ホラスはここぞというところで手を放し──輪は見事、マストにかかった。
「成功だ! 上昇!」
「よっしゃ!」
マタルが快哉をあげて、大きく羽ばたく。
「あと二隻!」
次の船も、最初と同じ要領で輪をかけることができた。しかし急がなければ。ホラスとマタルが、なにかの呪いを船に施しているのは誰の目にもあきらかだ。術が発動する前に、あの輪を外されたり、破壊されたりしては元も子もない。
「あれで最後!」
その一隻は、すでにマリシュナに迫りつつあった。
マタルは、こんどは船尾から敵を攪乱して弾を撃たせてから、ひらりと身を躱して、再び主檣を目指した。
だが三度目は、そううまくはいかなかった。
二度の成功で油断していた。耳にすることはないと思っていた『撃て』の声を聞いたとき、ホラスの心臓は止まった。最初に撃ったのは半数だけ──あとの半数は、次の降下をまっていたのだ。
回避は──間に合わない。
ホラスは腕を伸ばし、最後の輪を、主檣にかけた。
甲板から轟音が轟き、霰のような弾がこちらに向かって飛んでくる。それはゆっくりと、緩慢に思えるほどの時間をかけて近づいてきた。
ホラスは身を捩り、マタルの身体を抱きしめた。
殴られたような痛みを、右足と、左の肩に感じた。麻痺しかけた頭の中で、妙に冷静な声が言った。
なんだ、この程度か。
その瞬間、主檣にかけた輪が、眩いばかりの炎をあげた。
輪から噴き出す白い炎が、主檣上部帆と、主檣帆を支える帆桁を瞬く間に包む。黒い帆は帆柱ごと炎に飲まれ、風に踊りながら燃え尽きようとしていた。先に輪を仕掛けた二隻の船にも、火柱があがっている。
成功だ。やってのけた。実に見事な魔法だ。
これであの船団がマリシュナ号に追いつくことはないだろう。
「ホラス」
呆然とした声に、顔を上げる。マタルの顔は、ほとんど蒼白になっていた。
「マタル……怪我はないか?」
彼は返事をしなかった。ただ、もういちど名前を呼んだ。
「ホラス──」
怪我はしていないようだ。彼はなめらかに滑空しながら、戦場を後にしている。だが、マリシュナ号に向かってはいない。まったく明後日の方向に飛んでいる。
「マタル、どうした?」
ホラス自身も負傷しはしたが、それほど大事には至っていないはずだと思った。ただ、妙に風が染みる。
その時、重たいものが落ちる音を聞いた。
音のした方を見ると、なにか、丸太のようなものが海に浮かんでいるのが見えた。
理由はわからないが、あれをよく見ておいた方がいい、と思った。
だが、うまくいかない。空が急に翳り、日の光がうしなわれたせいだ。まるで時ならぬ夜が訪れたかのように、世界が暗闇に包まれた。雷鳴が轟き、雲間に閃光が走る。
嵐だ。マタルが喚んだものだろうか。
でも、なぜ?
「ホラス……あなたの手──」マタルの声は震えていた。「あ……足も……!」
頭を巡らして、自分の左肩を見た。二の腕から先がなくなっていた。そして足は──見えないが、確かに。右足が妙に軽い。
そこでようやく、さっき海の上に見た丸太の正体が、自分の脚だったのだとわかった。
不思議なことに、痛みは感じなかった。そのかわり……今にも意識を失いそうだ。
切迫した囁きに意識を向ける。マタルはひどく狼狽していた。
「駄目だ、駄目……雷はだめだ……!」
いま雷を呼べば、耐性のあるマタルはともかく、ホラスは雷に打たれて丸焦げになってしまう──それを心配しているのだ。彼は抗っていたが、制御はできていない。彼の瞳は煮えたぎる黄金のような色に輝いていて、その背後に見える空には、こちらにのし掛かって来るように思えるほど低い黒雲が渦を捲いていた。
お前がそんなに慌てることはないのだと、笑ってやりたかった。だが、呂律が回りそうにない。
「マタル」
ホラスは言った。彼の名前なら、何度でも呼べる。たとえ舌を失ったとしても。
「マタル……大丈夫だ」
微笑むのは難しいことじゃない。ようやく会えたのだから。こうして互いに触れあって、空を飛んでいる──こんなに素晴らしい瞬間に、微笑まずにいる方が無理というものだ。
ホラスは言った。
「大丈夫だ」
稲光が、目を焼いた。
続く雷鳴が全ての音を飲み込む前に、ホラスは気を失った。
もしも、ホラスがあと少しだけ目を開けていることができたら、カルタニアの方角に広がる空の上に、異様な光景を見ただろう。
眠れる火山と呼ばれたウテロ山は目を覚まし、黒煙が火口からもうもうと立ち上っていた。漆黒の煙の向こう側で、今まで誰も目にしたことがないほど巨大な極光が踊っていた。無数の色を明滅させながら。
その日、無数の鳥が前触れなく地に落ち、魚たちは死体となって水面に浮かんだ。地上に生ける者すべてを脅かすような地震が無数に起こった。地面はひび割れ、泉が涸れた。雲より低いところを飛ぶ黒い流星が、雷を引き連れ、カルタニアからダイラの方角へ流れてゆくのをみたという者もいた。
その全てを、ホラスが見ることはなかった。
だが、彼がそれを見ようと、見まいと──このようにして、終焉は幕を開けたのだ。
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