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 ダイラ 旧アルバ アドリス城 
 
 テオヒルとマルムンドの二つの川と、背後に聳え立つファガラッド山、その山裾に広がる森に抱かれて、アドリスはあった。 
 キャッスリーは、こうして実際の城を見てみてはじめて、ミドゥンがここを欲しがった理由に納得がいった。 
「ここはかつて、アルバの王の居城だった」ミドゥンがしみじみと言った。 
 王の城にふさわしい威容だった。小高い丘の頂上に築かれた城は、無数の稜堡りょうほを備えた城壁に囲まれている。聳え立つ塔も、何階にも積み重ねた天守もない、どっしりとした風格の城だ。実にアルバらしい。城の北側には切り立った崖がそびえ、南側は緩やかな斜面となって平地へと続いている。城門から伸びる大通りには石畳が敷かれ、街は裾野を彩るように栄えていた。 
 アドリスは、ウムラヒ山脈の南端から迫り出した山襞と、アルビナ海とに挟まれた天然の隘路だ。陸路と海路とが交わる地であり、加えて、ダイラ方面からアルバの奥地へと向かうための、最短にしてもっとも安全な街道の通過点でもある。 
 この地の守り神は山と、そして川だ。もしダイラからの援軍が来たとしても、『アルワリーの水蛇みずへび』とあだ名されたテオヒルの急流を渡るのはひと苦労だろう。テオヒル川にかかる唯一の橋はアドリスにある。ここを手に入れるということは、アルバの奥地へと通ずる橋の関所を手に入れるのと道義なのだ。 
 ガラベギン城を出発した〈大いなる功業クレサ・モール〉の兵たちは、アドリス砦を臨める森の中に潜んでいた。隊列を組んで打って出るような戦法は必要ない。ここでの戦略はただひとつ──待つことだ。 
「兄上」 
 出発の前に、ミドゥンの弟、スレヴィンが兄を見送りに来た。 
 兄弟は頷き交わすと、深い抱擁をした。ミドゥンは弟の背中を激励するように叩く。 
「後のことは、任せた」 
「本当はおめしたい」スレヴィンは言った。「全軍を率いて乗り込めば、勝つ見込みはあります」 
 ミドゥンは目を細めて弟を見た。 
「本気ではないだろうな。でなければ、お前に軍を任せるという判断を誤ったことになる」 
 スレヴィンの頬に、恥じ入るような赤い色が浮かんだ。 
「ここにいるのはたったの百。この小勢で千人に挑むのをとは言わない」彼は弟の背中を、もう一度叩いた。「心配するな。必ず成功する」 
「今からでも、俺が代わりに──」 
「駄目だ。行くのはわたしだ」ミドゥンはきっぱりと言い、抱擁を解いて弟の肩をぎゅっと握った。 
「スレヴィン。〈大いなる功業クレサ・モール〉を頼むぞ」 
 そして、兄弟は別れた。 
 ミドゥンは、キャッスリーただ独りを伴って城の近くへと進んだ。キャッスリーは荷車をひく馬の手綱を握って彼の後を歩いた。二人ともすり切れた服を身に纏い、荷馬車には山ほど薪を積んでいた。傍目には、炭焼きをしに行く樵夫きこりのように見えるだろう。もちろん、薪の下には例の箱がある。今はおとなしくしているようで、あの怖ろしい声を上げることはなかったが、馬は尋常ならざる気配を感じていたのだろう。それほど勾配のきつくない坂でもびっしょりと汗をかいて、終始落ち着かなげに嘶いていた。 
 二人と一頭は、苦労しながらファガラッドの山道を登った。途中行き会った人びとに素性を疑われることはないまでも、何人かに馬の心配をされることはあった。ミドゥンはその度に、樵夫らしいのんびりとしたアルバ訛りで礼を言った。途中何度か馬を休ませながら、山道を逸れて森の中に入った。このあたりの森には妖精シーが住むと言うから、言葉はほとんど発しなかった。ただ足を踏み外さないようにと気をつけてひたすらに歩いた。そうして数刻ほど進んだころ、二人はようやく、目指す場所に来た。 
 山の中腹に、木々が僅かに途切れた場所がある。そこから、山襞に抱かれるように築かれた城を見下ろすことができた。 
「夜になるまで、ここで待つ」ミドゥンは、額の汗を拭った。 
「そうして立っていると、本当に樵夫に見えますね」キャッスリーは言った。 
 ミドゥンは気を悪くする風もない。「そうか? 一度樵夫の真似事をして活計たつきをたてようとしたこともあった」 
「あなたが?」キャッスリーは小さく笑った。 
 ミドゥンは、キャッスリーの隣に腰を下ろした。 
「この話が南でどう伝わっているかはわからないが」彼は言った。「八十年前の、ウォリックファースの叛乱を知っているか?」 
 キャッスリーは頷いたが、正直に言えば、ほとんど何も知らなかった。アルバの西の半島にあるウォリックファースという地名だけは聞いたことがある。アルバの叛乱は両手両脚の指では数え切れないほど頻発しているし、そのほとんどが失敗に終わっている。デンズウィックで平和のうちに生きてきた者にとっては、アルバの叛乱は、遠くの嵐のようなものなのだ。 
「八十年ほど前、フェリジアとの戦争に向けて、当時のダイラ王ウィラムがアルバ人部隊を編成しようとした。兵の大部分はウォリックファースから徴兵されることになっていた。領主のマクマホンが叛乱を企てているという噂が立っていたせいだ。戦える者を徴発してしまえば、叛乱を防げるからな」 
 ミドゥンは、革袋のなかのワインを少し飲み、キャッスリーにも手渡した。 
「叛乱の計画があったにせよ、なかったにせよ、ウォリックファースは反発した。するとすぐさまウィラム王の命を受けて、ウッドロー卿とガルヴェイス卿が叛乱の鎮圧にやってきた──皆殺しにせよという命令だった」 
 彼がついたため息は、うっすらと白く煙り、すぐに消えた。 
「彼らはウォリックファースを壊滅させた」彼は淡々と語った。「戦わない者は、ウォリックファースの沿岸のリナス島に避難していた。だが彼らも、島の洞窟に潜んでいるところを引きずり出されて殺された。〈大いなる功業クレサ・モール〉の兵たちは、その生き残りなのだ。我々は長いこと……人目を忍んで生きてきた」 
 ミドゥンの目を覗き込めるほど、キャッスリーは恐れ知らずではなかった。おそらく彼の目には今、暗い炎が燃えているはずだ。彼が生まれる前から、一族の血の中に燃え続けてきた怒りの炎が。 
「こんな山に、一時いっとき住んでいた」 
「あなたの家名がミドゥンなのは、その叛乱のせい……ですか?」 
 すると、彼の目がきらりと光った。それは埋み火のように、一陣の風にぱっと光ったかと思うと、また焦げ茶の瞳の中で静かな眠りについた。 
「わたしの家名がゴミ捨て場ミドゥンなのは、それよりもずっと昔の出来事のせいだ」 
 彼はいい、迫り来る薄闇に翳る砦を見下ろした。城下の家々の灯が瞬き、まるで地上に散らばった星のように見える。 
 彼はそれきり黙り込んでしまった。家名の件には触れられたくないようだったので、キャッスリーは話題を変えた。 
「正面から戦う道もあったのではないですか? そうすれば、敵はあなたの顔を見ながら死んでいくことになったでしょう。思い知らせてやれたはずでは?」 
 彼は首を振った。 
「余計な危険は犯したくない。戦闘になれば、城下にも戦火が及ぶ。街や城──民の命を少しもこぼつことなく手に入れることができるなら、その可能性は、わたしの怒りよりも優先されるべきだ。それに──」少しだけ声を落とした。「面と向かってに会うのは、これが初めてでね。他人に邪魔をされたくなかった」 
 冗談なのか本気なのか測りかねて、キャッスリーはミドゥンを見た。相変わらず、彼の顔には穏やかな表情があるばかりで、打ち明け話の後のばつの悪さを窺うことはできなかった。 
「わたしは……少し離れたところにいますから」 
 彼はゆっくりと頷いた。「ありがとう。キャッスリー」 
 
 今夜、月は昇らない。新月の夜を決行に選んだのは、暗闇に潜みやすくなるからだろうか。それともミドゥンが、『吸血鬼は新月の夜に凶暴さを増す』という噂を信じているからだろうか。いずれにせよ、冬が近づくこの北国で、夜は急襲よろしくやって来た。南に面した山腹からは、微かな星明かりのもと、アルバの南に広がる景色を一望することができた。 
 厳しい土地だ。起伏が多い大地には、畑に適した土も乏しい。谷には、蛇行しながら海に向かって伸びゆく川と、その川に沿って敷かれた道が寄り添って伸びているが、人通りはない。ここでは鳥獣や妖精シーたちへの分け前ばかりが豊富で、人々には切り立った高地か、その合間に横たわる谷間しか残されていない。 
 田舎とさえ呼べない、未開の地だと思っていた。価値あるものもなく、命をかけて奪い合うまでもない荒野だと。だが彼らはこの地のために、この地にあってしかるべき自由のために戦っているのだ。 
 今になってようやく、それが腑に落ちた。 
「そろそろ、はじめよう」 
 ミドゥンは言った。 
 約束通り、キャッスリーは箱が置かれた地面から充分に離れた場所で、捕虜の解放を見守ることにした。怯えて嘶く声で注意をひかないよう、馬はさらに遠くの木に繋いだ。 
 自分が何を目撃することになるのか、深くは考えないようにしようと思った。自分の任務は、見ること。そして、記録することだけだ。だが、冷静でいようとする心の裏側には、目の前で繰り広げられている物語に魅せられている自分がいた。舞台の上では決して再現できないであろう、この物語に。 
 ミドゥンがゆっくりと跪き、箱に手を置いた。 
「これなるは北部叛乱軍レバルズ総大将、ダンカン・ミドゥンと申す者。御願いの儀がございます。なにとぞお聞き届け下さいますよう」 
 しばらくの間、箱は沈黙していた。 
 その声をもう二度と聞きたくないという気持ちと、もう一度聞きたいと思う気持ちとが、キャッスリーの中でせめぎ合った。 
 やがて、心の準備も整わぬうちに、声がした。 
「ようやくか」 
 夜そのものが轟いたら、こういう音を出すのではないかと思うような音だった。彼の怒りと苛立ちと、それが引き起こすなんとも言えない居心地の悪さ。首をわずかに傾けるにも、骨がきしりそうなほどの緊張感。 
 だが、ミドゥンはたじろぐ様子もなかった。 
「この艱難かんなんの時に、どうしてもお力を借りる必要がございました。御身の意に背き、我が元に留め置いた責は果たす覚悟でおります」 
 箱はしばらく沈黙してから、言った。 
「余になにをさせようと申すのだ?」 
「敵を討ち滅ぼし、アドリス城を我らが手に戻していただきたいのです」ミドゥンは言った。「あれなるアドリス城に、御身の快癒かいゆをお助けする血がございます。敵の数は、およそ千。不足はございますまい」 
「不足はないが、雑兵の血ではな」声は低く笑った。「リーリングの総督府にて解き放てば、それで全てに片がつくであろうに。余も多少はやんごとなき血の味を思い出せるというものよ」 
 その笑い声に、キャッスリーの肌は粟立った。 
「ファーナムとの戦いは、我々自身の手で完遂すべきものなれば」ミドゥンはよどみなく言った。「今このときこそ、御身のお力を最も必要としております」 
「なるほど。見上げた心がけだ……二言にごんはないな」 
 その言葉に、ミドゥンは微笑んだ。「ございません。誉れ高き戦神ヴズダに誓って」 
「して、責を果たすとは?」声が尋ねる。「まさか、余を解放すればすべてを仕舞しまいにできると思っているわけではあるまいな」 
「無論です」 
 その言葉を言う前に、ミドゥンの喉が僅かに震えた。そんな風に、キャッスリーには見えた。 
「この血を、あなたに捧げます」 
 箱は再び沈黙した。ややあって、声が言う。 
「その血に、どれほどの価値がある」 
 ミドゥンは深く息を吸い込み、言った。 
「わたしは、アルバ王家の血を継ぐ初代総督──オロッカの末裔です」 
 キャッスリーは鋭く息を呑んだ。 
 まさか、彼がオロッカの末裔? 
 それならば、オロッカ家の者を再び総督の座に戻すという話は──彼に向けられたものだったのだ。 
「あの策略家の申し出はどうするのだ? このはかりごとが成ったあかつきには、総督の座につくのはそなたであろうに」 
「弟がおります。若輩ながら、充分に私の跡を継ぐことができます」 
 キャッスリーが驚愕に目を瞠る一方で、箱の住人は退屈したような声を出した。 
「はぁ……なるほど。そのようなところだろうと思ってはいた」 
 彼は言った。 
「君の血など必要ない。どれほど高貴な血であれ、今のわたしにとっては『多少はマシ』程度のものでしかないのだ」 
 幾分砕けた話し方になっているので、キャッスリーは思わずぽかんと口を開けてしまった。 
 ミドゥンは僅かに項垂れていた。口元には笑みがあったが、その背中には、なんとも言いがたい口惜しさが滲んでいるように見えた。 
「では、何を差し上げればよろしいでしょう」 
「さあて、何がよいかな」 
 声は面白がるように言った。不思議なことに、さっきまでこの辺りを支配していたなんとも言えない息苦しさは、徐々に薄れてきていた。 
「少しでも早く箱を開けてくれれば、それでよい」彼は言った。「君の手で魔方陣を損ない、一目散にここから逃げるがいい。言っておくが、次にその顔を見たら、アルバ王家の血を味見してみる誘惑に打ち勝てる保証はないぞ。こうして理性を保ったままお喋りに興じるのも一苦労というほどなのだからな」 
 ミドゥンは口元に笑みを浮かべた。「望むところでございます」 
 声は「ハッ」と笑った。 
「君のように生真面目な男の傍にいるのが最も苦痛だ」声は笑い混じりの声で言った。「誰かを思い出して、里心が疼いて仕方がなかった」 
「それは……身に余る光栄です」 
 声はフンと鼻を鳴らすような音を立てた。 
「夜が明けたら、供揃ともぞなえして城に入るがいい。正面から堂々とな」声は言った。「そして、かつての城主の帰還を触れ回らせよ。このアルバは長いこと、真の支配者を失って消沈していた。そろそろ活気を取り戻してもよかろう」 
「そういたします。時宜が熟せば」 
 ふむ、と声が言った。 
「クラーク──いや、もうキャッスリー君と呼んで差し支えなかろうな」 
 いきなり、声がこちらに向かってきたので、キャッスリーは危うく悲鳴を上げそうになった。 
「君には礼を言っておこう。それと、狡獪なあの男にも」声は低く笑った。「さあ! ひと思いにやってくれ」 
 ミドゥンは腰に帯びた鞘から斧を抜くと、それを箱の上で振りかぶった。 
「参ります」 
 キャッスリーは、固唾を呑んでその様子を見守った。 
「次は、お互いもう少し見栄えのする格好でまみえたいものだな、ダンカン・オロッカ」 
 ミドゥン──いや、オロッカの斧が振り下ろされ、箱は大きな音を立てた。 
 すぐさま離れろと言われたはずだ。それなのにオロッカは、小さな斧を箱に刺さったままにして、そこから数歩、後退っただけだ。 
「あんなところでぐずぐずしてたら危ないんじゃないのか……?」 
 と対面したいというオロッカの望みを知ってはいた。彼の血に興味はないという箱の住人の言葉を聞いてもいた。けれど、気が気ではなかった。 
 しばらく、箱には何の変化もなかった。もうすこし魔方陣を削らなければ出られないのだろうかと、キャッスリーが木の陰から身を乗り出したその時、ものすごい音を立てて、箱が粉々に砕け散った。破片がキャッスリーのところまで飛んでくるほどの衝撃で、それをもろに食らったオロッカは、当然ながら、地面の上に倒れ伏した。 
 不意に、あたりの空気が冷え込みはじめる。この場所にだけ極北の冬が訪れたように、空気が冴え、張り詰め、容赦ない寒気が骨にまで達した。瞬く間に木肌に霜が降りたのをみて、これが錯覚ではないことを痛感する。 
 そして、キャッスリーは彼を見た。 
 さっきまで箱があった場所に立っていたのは、夜を千も重ねたほど昏い、何者かの影だ。黒煙、あるいは黒い炎。周囲の闇を侵食するように蠢く輪郭を抜きにすれば、ひとりの男の立ち姿に見えなくもない。ただそこには、人間や、普通のナドカらしい凡庸さなど何処にもなかった。 
 影は、足下で気を失っているオロッカに気付くと、彼に向かって手を伸ばした。体がわずかに傾ぎ、巨大な口を開けて──それはまるで、獲物を貪ろうとする獣の姿のようだった。 
「だ、駄目だ──!」 
 キャッスリーは何も考えずに一歩踏み出し、足がもつれたせいでそのまま勢いづいて、オロッカのところまで駆け寄ってしまった。降り積もった落ち葉を撒き散らしながら、オロッカの身体の上に身を投げ出した。 
「駄目です! この人に手を出しちゃいけない!」 
 声を出せたことに、自分でも驚いた。そして驚きは瞬く間に恐怖に変わった。 
 自分にかがみ込んでいる獣の目を見てしまったから。 
 そこには瞳もなく、瞼もなかった。眼窩には青白く燃え立つものがおさまっていて、それはまさしく炎のように揺らぎ、ごうごうと音を立てているようにさえ見えた。 
 ──神話の世から生き続ける、人ならざる者の王──彼は、牙の並んだ口を大きく開けて、天を仰いだ。 
 巨大な影は、身も凍るような咆哮を上げたかと思うと、宙に伸び上がり、砦の方角へと飛び去った。暗黒の帚星ほうきぼしのような姿は瞬く間に闇夜に溶け……やがて、消えた。 
 キャッスリーはそれを見届けた。やがて吸血鬼らしからぬ大きなため息をつき、地面に伸びているオロッカを見つめて、首を振った。 
「失恋、ですか」 
 同情しようにもうまくいかない。たったいま対峙したものに、数週間はうなされることになりそうだ。 
「何にしても、相手が悪すぎますよ」 
 キャッスリーはよろよろと立ち上がると、アドリスの城を見下ろした。そして、そこで行われているであろう狩りのことを思い、身震いした。 
 
 後になって聞いたところによれば、生きて城から脱出した兵は五十人にも満たなかったという。兵たちはみな、待ち構えていたスレヴィン・オロッカの軍勢に捕らえられ、あるいは倒された。誰も彼も半狂乱で、中には自ら剣先に飛び込んでくるものも居たそうだ。 
 約束通り、翌朝、ダンカン・オロッカがアドリス城に入った。だが王としてではなく、あいかわらず、〈大いなる功業クレサ・モール〉のミドゥンとしてだ。彼は慎重だった。勢いづいたところを見せてエレノア女王を警戒させることを懸念していた。 
 アルバの内地に囚われた総督軍は孤立したまま、各地に潜む叛乱軍レバルズたちによって少しずつ勢力を削り取られていった。そして、この夜からひと月後、女王はエルマン公ジョン・ファーナムを罷免する法案を議会に提出した。アルバの平定にかかった損害と、彼と彼の一党が貪った暴利、アルバの民が被った被害を並べ立てると、議会はエルマン公の罷免を可決した。 
 アドリス砦を壊滅させた黒い獣の物語と、マイデンを救った海神マルドーホの物語は、その後何世代にも亘って語り継がれることになる。
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