異世界生活物語

花屋の息子

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115棟上の日

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 地鎮祭に続いて建て目式もスルーとは、何だか日本人の心がどこかに行ってしまいそうだが、あの酸っぱい酒やオートミールを撒き散らすのは「なんか違う」と言う事で諦めた。
 建て始めるのが昼からにもかかわらず、人間重機たちの働きは丸太と陸上競技のバトンの差が無いかのような働きで、柱も一人でスポスポ建てるし梁を載せるのも肩車でちょちょいとこなす。よくあんな事が出来るもんだと思うが、俺が指示した通りにピタッとホゾをはめているのだから大したものだ。
 唯一問題だったのは貫通させないタイプのホゾ穴が、あまりにも精確過ぎて柱をはめたところ空気が中に残り上手くはまらなかった事だろうか。こんな事ってあるんだね。
 その様な事も有りながらもグラグラする様な雑さが見られないのは、彼らのやる気の表れだったのだろう。

「柱は建て終わりましたが、ココからはさらに重要です。大柱どうし動かないように斜めの柱を入れます。『筋交い』と名付けたこれは建てたモノが横に揺れるのを防ぐための柱で、これが入る事で一気に建物の硬さが上がります」
「今までそんな柱を立てた事無かったな。しかし何ぜそれで揺れなくなる?」
「見て貰うのが一番ですかね」

 そう言いながら体を左右にユラユラ。ジェスチャーで建物の揺れを表すには意味がある。

「僕が柱だとしてこのように何もなければ揺れる事が出来ますがホリーさんとカイトさんで僕の脇を抑えてください」

 当然子供の力では体を揺らす事などできる訳はない。地震は起きない前提だし台風も無い。多少の強い風や魔物の襲撃を想定したものだから、建物強度から見たイメージ試験は俺程度の力で十分な訳だ。

「揺れようとしてもこのように動けません。これが筋交いを入れた事の効果だと思ってください」
「おいお前ら俺を抑えてみろ」

ダスカーを若い衆が抑える。

「おお!!俺でも動くのはキツいな」
「ダスカーさんの場合梁にあたる部分が無い形ですからね。リーガさんとパーチさんで、肩を前と後ろから抑えてみて下さい。それで梁を架けたのと同じになると思いますから」

「これは動けね~やな」
「納得してもらえたみたいで良かったです。この大柱に加えて小柱があるんですから、その硬さはそれは間違いないでしょう。欲を出すとするならもう少しやりようはあるのですが、それはまた家を造る時に試すとして一応柱はこれで完成です」
「まだあったのか?」
「まあ。でもここで試すとさらに何日も掛かってしまいますからね。今回はここまでです。さぁ屋根まで張るんでゆっくりしていると暗くなってしまいますからドンドンやっていきましょう」

 屋根は柱に比べれば早い。あらかじめ目釘穴を開けてある所に少し大きな木釘を打ち込んで、釘兼楔として効かせればガッチリ固定されてうごかない。

 板の幅は野地板に使われる物に比べて大分幅が広く50センチはあるだろうか。それを一割5センチほど重ねている。
 屋根板の下に来る垂木からは縄が垂れ下がっていて、そこに炭が結び付けてある。板材に支えと同じ幅の印を付ける仕掛けだ。これで線を引いたところにあわせて上の支えには上中下と目釘定規を使って目釘穴があけてあり、それと同じ物を使って線の上に穴をあければ、屋根葺きが捗る寸法になっている。
 雪が降らないこの地方では屋根の傾斜は緩やかで問題ないので、鎧張りの重なりの倍ほどの角度を付けておけば傾斜が保たれる。それとあまり傾斜が無さ過ぎると目釘穴と合わなくなるからそこも考慮に入った角度だ。下から渡す板はライン生産のようにポンポン穴が開けられて、収魔石とサンドして硬化させた物を上に上げていく。
 一番最後この屋根の接合部である峰は雨漏りが起きる危険を回避するためと、重量によって柱を抑え付けて安定化させるための両方の効果を狙って皮を剥いた棟木、その長物を乗せて、でけた。
 数人で屋根板を踏み抜かないように慎重に桟の部分を探り探り慎重に峰まで移動して、〆の重量物が乗った事でギィーと締まる音を鳴らした。

「しっかし早いな」
「屋根を載せるのがこれほど楽なのも驚きだな。ワラで作る事はあっても板で作ることなどなかったからな」
「それも軟化があるからできる事だろ。一本の木からこんなに板が取れる事がおかしいのだ」

 ガイガイワヤワヤ賑やかな現場だ。ちなみにワラ葺きの屋根は本来数日掛かって葺くのが当たり前で、一時間強で屋根が葺けるのは驚異的な速さなのだ。
 
「お疲れ様でした。今日の作業はココまでにしましょう。明日は中に入れる詰め物を作ってもらうのと、外側の壁を張ってしまおうと思っています」
「やっと気を付けないとあぶねぇって言ってたやつだな?」
「ええそうです。何度も言いますが火を使いますからね。ココで失敗すると家が丸っと灰になってしまうかもしれませんから、くれぐれも慎重にお願いします」

 「それでは解散」の声で今日の作業は終わりだが、明日のクン炭焼きは二度目でも緊張するな。今から緊張しても仕方が無いけど。
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