異世界生活物語

花屋の息子

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114軟化と枡は使いよう

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 土台との完璧な密着は普通に考えれば精密機械加工ができない現状では不可能だ。しかしその不可能を可能にする方法がある。それは型による加工だ。

「この小枡を使います。と言ってもこのままでは無理なので、パーチさん小刀貸してもらえます」

 パーチから小刀を借りると口の部分を片刃に削った。刃を付けるのは内にしようか外にしようかは迷ったが、木材は圧縮した方が中で膨張して密着性が高まる事を思い出し内側を削る事にしたものだ。

「これをどうするんだ?」
「先ほど作ってもらった柱にこれを押し当てるんです

 軟化を掛けて枡を押し当てると余分な部分が鉋を掛けたように削れ落ちる。これで継ぎ手部分は完成だ。この枡は土台にも目印の傷を付けるため通し番号でも振っておこう。

「小枡も大きさは完璧に同じには出来ませんけど、少なくとも勘で削るよりは穴の大きさを揃えられると思いますので、仕上がりが良くなると思いますよ」
「なるほどな」

 家を建ててくれた棟梁との雑談で、「木はいじめちゃいけねんだ。はまらねぇ時にはナグリでコンコンとな」と教えてもらった。部材がはまらない時には削るのではなく金槌でその部分を軽く叩き潰してはめてやるとの事、それが時間とともに穴の中で広がってぴったり強固に接着するようなのだ。
 大工さんありがとう。異世界に来る事になって言われた事が役にたったよ。

「使う枡は端材で十分ですから、それを使いましょう」
「これと同じ物を作ればいいってことだな?」
「小さすぎて削りすぎにならないように気を付けて下さいって、これそこまで力がいる訳でも無いですから底板をはめる必要は無かったですね。皆さんが作る物は底板無いモノにして下さい」

 本当の事を言えば、これとて一つの枡を使い回せるほど正確な仕事が出来るようになって欲しい訳で、彼らの仕事は少しばかり甘いのだが最初から完璧な人間などいないのだ。それを補えるだけの事をこちらが考えてあげれば良いだけ、茶会の参謀さん曰くフォロー案は複数用意している事こそが重要なのだ。

「坊の旦那。こんな感じでいいか?」
「凸部分ギリギリ、はい大丈夫です。それでは・・ぐぃっと、これだけ綺麗にはまったら文句なしです。後はこの煤で柱と枠を割るように同じ印をして完成です」

 向こう時代の悪い癖だ。概要の説明をしたら一番最後のところは個別に同じ事を説明して回る・・・生まれ変わってもこのあたりの事は変わらないな。
 同一の指示を出してゲームの駒のようには現実の人間は動いてはくれない。「こうやって」といったところで、途中で微調整をしなければズレが大きくなるためにやりだした癖なのだが、俺の100点には及ばなくともそれなりの腕を持った職人にこの程度の事を一人ひとり個別指導する必要は無かったな。



「出来上がった方からはめてみて下さい。あまりキツイ様なら無理しないように、緩ければやり直しです。先ほどやった様に少し削れる程度ではまったら自分の印を煤で書き込んでください。半分づつになるように・・・半分づつなので割り印ってよびましょう」
「ほ~う、割り印か、これなら誰のやった物か判って良いな」

 勘合貿易にも使われた古典的な方法だが、契約書などの重要文章に措いて不正が無い事を証明するなどと、未だに使われ続けているのだから有用性は疑うべくも無い。

「誰がやった仕事か分かるよりも、柱と枠と穴がいっしょだって事が大事なんですよ。ココにいる人たちでテキトーな仕事をする人はいないでしょ?でも全く同じ仕事ができる人もいないんです。それなのに僕は同じ仕事をして欲しいと言う。ならこうやれば同じ仕事になるって訳です」

 枠は軟化によって歪みの無い綺麗な板から作られているのだから上下に厚みの違いなど無い訳で、印さえそろえておけば自動的にスッポリはまる事を指している。
 上下とも同じ加工するのは手間が掛かるが、それとて軟化も無しにコツコツ削っている事を考えれば、遊園地のゴーカートとf1レース並みに速度が違う、その証拠に夕暮れ時を迎える頃には主柱副柱全てが凸部分に枠を取り付けた面白い形に加工がなされ、いよいよ棟上と言う所まで作業が進んだのだった。

「それではお疲れ様でした。柱を建てるのは明日の昼からになりますが、それまでに親方衆には屋根板を仕上げて置いてもらいたです。ココは一気に行きますからね」
「何だ?慎重すぎるくらい慎重なお前さんがえらく急ぐが何かあるんか?」
「そうっすね、エド君にしてはそんな事を言うなんてどうしたんっすか?」
「もし雨にでも降られたら厄介ですし風で揺れても繋ぎば傷みますから、それを防ぐには一気にやってしまうしかないんです。柱が建って屋根が乗ってさえしまえば、一応一つの固まりになって落ち着きますから」
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