異世界生活物語

花屋の息子

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107 予定外想定外

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 翌朝、俺は恐ろしい者を見た。
 別にお化けではない。
 しかし、それはお化けであった方が幾分か俺の心は安らいだかもしれない。

「え~と、どう言う事ですか?」
「エド坊、いやエド師匠。今日からお世話になります」
「何で10人も居るんですか!?」
「何でって、俺らは梃子持ちだからな、一人一人づつの梃子がいるのよ」

 解説しよう。
 エドが弟子入りを認めたのは、いわゆる親方と呼ばれる人達で、当然親方と呼ばれる以上は弟子や子分なりがいる。
 そして領主からの依頼と言う事で、俺の元に材木を運んだ一団は大親方率いる親方衆だったのだ。
 そこから弟子入りを認めてしまったため、その下に付いていた人間も自動的に付いてきてしまうと言う事になったのだ。
 会社的に言えば課長さんの移籍を認めたら、課員一同も移籍してきたと言う事だろうか。
 ちなみに梃子と言うのは下働きや雑用をこなす部下の事である。語源は梃の原理かららしい。

「それにしても、いきなり10人もなんてどうすれば良ですか。寝る所に食べる物も5人だから何とかなるかなって思ってたのに」
「すまねぇな。お前さんの事だから解ってるもんだとばかり」

 たしかに普通に考えれば土木建築業は一人でやるような作業は少なく大勢でやるものなのだが、だから戦士団工兵隊って事なのだろうと思っていたのだが、俺の予測は甘く工兵小隊長みたいな人を引き抜いてしまったのだった。隊員一人だけど。

「と、とりあえず梃子の皆さんは今すぐには無理です。エドが知らずに軽はずみな返事をしてしまって申し訳ありません」
「そう言われてもな、親方たちに付いてくって事になっちまってるからな」
「しかし寝る所もないんだぜ」
「なんとかなんねぇのか?、いままでの仕事もきちんとした所で寝れた訳じゃねぇんだ。今からかかれば雨風くれぇ凌げる物んはつくれんじゃねぇか?」

 そりゃ作れるか作れないかで言うならば作れるけど、それは新建築タイプではなく旧建築タイプのモノでしかない訳で、今更あのタイプの家を作ったところで・・・

「ウェイン。大丈夫だ。いい案が浮かんだ」
「エドの良い案ってのが気になるんだけど?」
「え~と今さらですけどおはようございます。エドワードです。少し予定とは違う所も有りましたが今日からよろしくお願いします」
「イヤイヤ。ちょっと待ってエド、大丈夫じゃないから。住む所がなきゃどうにもならないだろ!?」
「大丈夫だって、ずっと住むんじゃ問題だらけだけど取り合えず住むだけなら良い案があるんだよ。それに住まなくなったら資材庫兼作業小屋に使える優れ物だよ。もちろんまた家に戻す事も出来るんだよ」

 ウチのメンバーは「オイオイ大丈夫かよ」と顔に描いてあるような顔をしているが、土建隊の10人は合体ロボットを始めて見た子供のように眼がランランとしている。
 それも無理からぬ事で、一般的に住宅は住宅として建てられ使われる。納屋も納屋としてだけ。
 この二つの決定的な違いは壁と床の存在だろう。
 納屋には収納小部屋的な部屋はあるが住居として使えるような部屋は配置されない、なぜならば作業するのにも物を入れるにも壁があちらこちらにあったのでは邪魔だからだ。誰が荷物を持ったまま廊下など歩きたいものかという話し。
 なので梁を支える柱が数本立つ以外はがらんどうな造りをしていて、床の変わりに搗きつき固めた土で土間のようなものを形成して作られている。
 そのため家として使うのであればその二つの設置は絶対だし、逆に納屋であれば邪魔になるのだから取っ払う必要が出てそれは手間以外何ものでもない。

「坊の旦那、簡単に言ってやすが、壁や床をどうにかするのは結構手間なんでやすよ?」
「坊の旦那って、まあ良いですけど。普通に作ったら後でいじるのも面倒ですけど所詮一時的に寝るだけと考えるなら簡単な方法があるんです。逆にずっと使う訳には行かない方法なので一時的以外には使えないですけどね」

 コンセプトとしたら”飯場〟と呼ばれるものが元となっている。概要としたら大きめの納屋を建てて床代わりに成型だけした木材を直接引き、中を壁代わりのパーテーションで区切って終わりと言うかなり雑な造りだ。
 あくまで原隊に戻らず親方と共にと言う彼らを野宿させる訳にも行かないし、家を作るまでの緊急措置と考えればこれしかなかった。やり方は雑だが手抜きする場所以外は習いたがっていた家造りに通じるものがあるのだから、準備運動代わりと思ってもらえば良いだろう。

「エド本当に大丈夫なのか?」
「もちろん。それにいきなり新しい家よりそれで少し成れてからの方が、僕の作り方を感じて貰えるかなってのもあるので。・・・まあ予定通り?」
「絶対予定通りじゃないだろ」

 しかし・・・この世界の道具の進化の遅さは何とかならんのかね。使えるかどうか見るために彼らの持っている道具を見せて貰ったが、斧と分厚い二等辺三角形のショートソードにハンマーだったのだ。
 もう少しいろいろあるだろ。逆にこの装備でよく家作ってるなと感心させられるレベルの装備。これで軟化無しで材木を加工するのは大変だったろうな。
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