異世界生活物語

花屋の息子

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94領主

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 ロウソクを詰めた箱も包んだし、俺お手製のまげわっぱに入れた軟膏も追加献上品として作り、ロウソクは無香と甘系さわやか系の三種。軟膏は無香とミント系の二種類を用意してある。
 準備万端整えての足取りは軽いもので、口笛などを鳴らしてみたりも出来るほどだ。
 祖父の顔が若干呆れ顔だったのは言うまでも無いが、領主館の中に入れる見れる。前世で博物館でしか見る事が出来なかったようなモノが、リアルな生活感とともに見れるとなれば、西洋の歴史好きにはウキウキ感の方が優先度が高い訳で、御貴族様の服とはいかなるものか?城内の造りは?今後の糧とするために見れる限り見せて頂こう。
 領主館は相も変わらずガッチリとした構えをしている。二階建ての家などもそれほど見る事もないので、この館が際立って見えるのだった。

「エドワード殿、クライン殿。ようこそ」
「通らせてもらうぞ」

 守衛は今日来る客の事は聞かされているのが当たり前とは言え、俺の様な子供相手にまで敬意を払うなんて教育が行き届いているなと感心させられる。
 軽く会釈をして玄関を開けてもらうと、良さげな服を着た男が出迎えてくれた。

「ようこそお出でくださいました。主がお待ちでございます。こちらへどうぞ」

 もう少し歳を重ねバトラースーツを着れば立派な執事と言えたかもしれないが、庶民よりは上等な程度の服を着た祖父くらいの歳では、執事としては今一歩足りない感じがしてしまう。その物腰が執事そのものだっただけに、似合いのスーツの一着も着せてみたいななどと思ってしまうのだ。
 でも服飾は門外漢なんだよな~
 執事さんに案内されるままロビーを進むが、迎賓館のような大階段は見当たらない事から、二階はプライベートスペースなのかもしれない。
 そしてここも旧館と同じく絨毯などは敷かれていなかった。敷かれていればかっこいいのにと思うし、やはり領主の館としてはそう言った装飾が無ければ少し物足りなさを感じてしまう。
 内壁の造りは隙間の無い板壁。この辺りからして庶民の家とは造りが違うことが実感でき、家造りはこうで無ければなと思う所でもある。
 しかし唯一見習いたくないのはロビーの暗さであろうか。
 中央に廊下が配されている作りなので窓が作れ無いため、入り口を閉めると全体的に薄暗い。壁掛けの灯明がこのように朝から焚かれていたのでは「玄関扉を開けっ放しにしたら」と言いたくなる。
 暗い事と祖父に前を歩いて貰っているおかげでキョロキョロと目線を泳がす事ができるが、これが逆だったら間違いなく怒られている事だろう。
 ロビーから伸びる廊下の突き当りの部屋は観音開きの大きな扉だった。
 その大きな観音扉を執事さんが開けてくれる。そこはエリザさんの家を改良したような応接間で、そこには3名の男性が腰を下ろしていた。
 皮張りのベンチと大きな一枚板から作られたテーブル、棚には見た事が無い像やら鉱物が置かれ、最奥に座る領主の後ろにある大きな角?は、魔物のハンティングトロフィーと言ったところだろうか。
 領主さんの第一印象は冴えないおじいと言った感じで「よく来た」などと言って立ち上がり迎えてくれた。 
 これでは右側に座ったままのレオポルドさんの方が余程領主に見えてしまう。ついでに左側には団長が腰を下ろしている。あんたは立てよ。

「こちらにどうぞ」

 執事さんに促しを受けベンチに腰を下ろすと、その座り心地の良さはエリザさんのところのモノより上だと分かるフンワリ感を出していた。
 領主さんはウチの祖父と同じくらい言った所だろうか。下がった目と深い皺が刻まれた目尻から優しそうなおじいちゃんの印象を受ける。

「久しいなクライン。息子に職を譲ってから5年になるか?」
「はい。ご無沙汰をしてしまいました」
「そなたの息子も良く勤めていると聞く、うれしく思っているぞ」
「愚息ですので至らぬ事も多いかもしれませんが、ご容赦願います」
「しかし、そなたの孫は父や祖父の功に勝るとも劣らぬ働きで兵たちを助けて居ると聞く、その歳でその働き見事だ」
「勿体無い事ですが子供の思いつきにございます」

 いつもは飾らないお爺なしゃべり方しかしない祖父が、こんな改まった話し方も出来るんだなと思いながら、話を振られている訳でも無いので目線を泳がせ部屋を観察する。
 着ている物は一見普通に見えるが俺達が着ている物とはキメが違う。繊維感のある粗い織りで作られる村人の服とデザインが同じなだけに見分けづらいが、艶を消した絹織りのような滑らかな布地が使われたトップスに、最初に立った時だけしか見る事ができなかったが、レザーパンツは柔らかくなめされているのかシルクのズボンのようにふんわりとしていた。
 ゴテゴテしていないので解り辛いが、判らないならそれで良いと言われているような感じを受ける。
 着ている物を褒めるのは社交辞令の初歩だと聞いたような聞かないような、それならば上物のトップスを褒めた方が良いのか、チラ見せしたパンツを褒めた方が良いのか、はたまた後ろにあるハンタートロフィーを馬鹿正直に褒めるか。
 俺が聞いた範囲では人をコケにするような者は居ないと言う話だが、少なくとも眼力と言うか見る目を試す人はいる訳で、今回の場合ハンタートロフィーが最下位だと思う。パンツが次点でトップスが最高点なのだと思うのだ。
 これ以上の伏兵が隠れているのかもしれないし、実は後ろのハンタートロフィーが竜の牙か角であり、もっとも高価な可能性も捨てきれない。かと言って全て褒めるのは節操無しのお馬鹿さんですと言っているようなものなのだから、様子見でジャブを打つ事もできない中、的確な右ストレートを相手にぶち当てる離れ業が要求されているのだ。
 無理ゲーかよ!
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