異世界生活物語

花屋の息子

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93お偉いさんの不意打ち

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 まさか俺が不意打ちされるとは、これほどの装備をした人が近衛という事も無いだろうし、それなりの地位である事は多分間違い無いと思う。案内のため前を歩いているのだから当たり前だが、後ろからの視線が気になって仕方ない。
 玄関から食堂に至る数メートルのなんと長い事か、その間俺は、この人からどうのように見られているのだろうか、わざわざ訪ねて来るくらいだから興味が無いと言う事も無いとは思うが気になって仕方が無い。
 ギーと軋む戸を開け「さっさ、どうぞこちらへ」などと、平常の笑顔で接客している俺は二重人格者か?などと思うほどに手汗がにじむし鼓動は早くなっている。
 その男は勧められた席に座った所で静かに口を開いた。

「君は口と心を離して動けるのだな。しかしそう緊張せずとも良い私はただの使い番だよ」
「ふぇ?」

 あれ?装備からしてもしかしたら領主さんか、そのレベルの人かと思ったんだけど違ったようだ。恥ずかし。

「なんだいリースに呼ばれて来てみれば珍しい男がいるじゃないか」
「ハンナさんご無沙汰してしまって」
「10年くらいになるかね?レオポルド」
「そうですなポールドラングに詰めてからこちらには戻っておりませんでしたから」
「え、あの~ばあちゃん。こちらの人は?」
「何だい知らずに話していたのかい?レオポルド、アンタも名乗り位したらどうだい?」

 そう言われて「ははは」じゃないよ。ばあちゃんと親しげに話せる人でこのタイミングで俺を訪ねてくる人で、貴族感がある人だけど領主さんじゃない人。???誰だよこの人。
 余計に誰だか分からなくなったし、何だか損した気分なのは俺だけなのだろうか?俺の勘違いだったけど詐欺にでもあった気分だ。

「エドワード君、あらためて私はレオポルド・フラウンと言う。先日まで外務官としてポールドラングに居たのだが、晴れてお役御免となって戻ってきたのだ」
「エドワードです」
「今日こちらに訪ねたのは御館様がエドワード君にお会いになると伝えるためでね。明後日、明けの半時までに登城せよ。との事だ。しかし君くらいの歳で登城など聞いた事がないが、まさかこれほど繁盛していようとは」

 明けの半時とは太陽が昇り上りきるまでの半分、今の時期だと大体8時辺りだから、朝食取ったらすぐにでも出掛けなければ間に合わない結構早い時間だ。
 俺に会うためだけに丸まる半日潰す訳にもいかないから仕方が無いが、もう少し遅くても良いじゃないかなどと思ってしまう。

「分かりました。明後日登城します」
「付き添いはクライン殿が見えられますかな?」
「そうさね、ウチの人が行く事になるだろうよ」
「ではお二人で見えられると伝えておきます」

 そう言いながらレオポルドさんは、ばあちゃんが淹れたハーブティーを少し驚きながら美味しそうにすすって
「ポールドラングはココと違い面白い土地でありました。巨大な石でできた山にも登って参りましたが、流石にこの街までは見えませんでした」などと、ポールドラングの土産話を祖母にしていた。
 その後も二時間ほどお茶を飲みながら話しが続き、終始笑顔で帰っていった。うん、ばあちゃんのハーブティーは今日も美味い。

「疲れた」
「だらしが無い」

 いやだってメッセンジャーなら元外交官なんか使わなくても良いじゃないか。俺子供だよ平民だよ。ぺーぺーの兵に「いついつ来いって伝えてくるように」で済むじゃん。
 レオポルドさんの前役職や年から考えても、メッセンジャーに使われるような立場でない事は誰が見てもあきらかなもので、100%俺のところに使いで来る立場の人間ではないじゃない。どこの世界において大使や参事官みたいな職の人を子供に派遣するよ?
 そして来た人間がどっちの話がメインか解からない状態で土産話するよ?

「それよりもロウソクだったかね、それは大丈夫なんだろうね」
「うん。種類もいくつか用意してるしバッチリ。数を作れるように型も作ってあるから気に入って貰って定期的にってなっても大丈夫だよ」
「それなら良いんだけどね」
「ねぇそれよりも着てくのはこの服で良いの?」

 ウチに限った事ではないが平民が着ている服などは作業着であり普段着でもある。さりとてフォーマルに当たる服がある訳でも無いのだが、前世で言う燕尾服的なポジションの服で無くとも良いのかと気にはなってしまうのだ。

「しっかりホツレの無いのを洗ってあるから気にしなくて良いよ」
「それなら良いんだけど」

 材料は別としても、全て手織りのため服は高価なものなのだから簡単には新調する訳にはいかないし、特に子供服などは成長を見越して大きく作るものだから中1の制服を思い出す。裾や袖口は10センチ弱くらい折り返してある。
 俺の服にしてもまだまだ新調するには新しすぎるレベルで、折代は2~3センチも残っているのだから今すぐ新しくしようとはならない訳だ。
 夕方帰ってきた祖父に話しをしたが「まあ俺だよね」的な反応だった。

「レオポルドか懐かしい名前が出たものだ」
「しかしあれほどハッタリが効く者も居ません。外務官としては最適でしょうな」

 どうやら俺が疲れを感じたのは可笑しな事ではなかったようだ。
 オーラというか貫禄というか表現の難しいモノを纏っている人だった。良い意味での役者なのだろう、そんな人が派遣されてくれば、交渉相手も自分が重要視してもらっているような特別感をよりいっそう感じる事だろう。
 俺はこのタイミングでは感じたくなかったけど。
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