91 / 121
91世の中そんなに上手くはいかない?
しおりを挟む
肉屋などには骨から取れる除草剤の製造利権が広まっているので、どこの肉屋でもウチは脂を只で貰える事になっている。俺からの依頼だといえば問題なく持って行けと言う話になるよう戦士団から通達を出して貰うようにしておいた。
追加案件としては、今まで脂を運ぶ事で軟膏と引き換えていた軍からだが、廃棄分も含めて全量を戦士団に引き渡して貰う事も頼む事にした。
団の所まで配達するだけなので負担にはならないし、ばっくれようものなら軍から横領した大罪人の認定を受けてしまうので、面倒だからと配達をしないなどという事もありえない。多分。
わずかな金で人生懸けちゃう意味不明な人はいるからな~。
「それでその荷物は?それだけではないだろ?」
「ええ、買って貰う事は可能でしょうか?」
「難しいな。確かに明るいが、それは灯明でも困りはしない」
「明るい所で酒を飲むにには良いかなと思ったのですが?」
「お前は酒を飲まないから解らんだろうが、酒を飲むのは暗いくらいが良いんだ。あまり明るい所で飲むのは落ち着かんからな」
前世では酒を飲む時には明るい居酒屋が多かったから、大衆的にはそちらかと思ったが、この世界ではバー派の志向が好まれるようだ。それにしても暗い気がするけど。
「外であれば火を焚けば良い、この程度では照らせる範囲も限られるからな。そう言う訳だ。これはウチでは買えん」
「そ、そうですか」
まっ想定内だよ。ホントだよ。シクジリジャナイヨ。
ロウソクが煌々と照らされている冒険者ギルドをイメージしてきたから、売れるかなと思ったけれども世の中そこまで甘くは無かった。
「ウチでは買えんが、領主様であれば買うかも知れんな」
「それは・・・流石に・・・」
ウチは遡れば傍系に行き着くとは言え、その程度でしかない訳で、妙な売込みを掛ければタカリと勘違いされてしまうかもしれない。「宝くじが当たったんだって? 俺も遠縁の親戚だから」などと言う輩と同類扱いをされてしまうのは、色々と問題があるしイヤだ。
「なんだ?俺のところには売り込みに来た割には向こうには行き辛いか?」
「そうですね。それもとんでもなく」
「言うじゃないか」
「ウチは継承権はありませんけど傍系なんですよ。お声が掛かったなら別ですけど、そんなのが売り込みに行ったら色々とあるじゃないですか」
「最初から売ろうとしなければ良いだろ?数も少しはあるみたいだし、ウチの若手に先の長い仕事を持ってきてくれたんだ。行く気があるなら献上くらいは付き合ってやらんでもないが、ど」
「よろしくお願いします」
団長の言葉にかぶせ食い気味に返事をしてしまったが、ここらで権力者の顔を見るのは悪い事ではない。
戦争の暇も無いこの世界に措いては、俺の知識は悪用される事は無いし、領主は善政を敷いている人だから、良い印象を与えておけば念願の金属を下げて貰えるかもしれない。
苦節2年。2年は苦節じゃないって、十分苦節だわ。
ノコギリが自由に使えたら、ノミが有ったら、俺専用の金鍋が有ったら、数えたらきりが無いほど金属には思うところが多い訳で、それを融通して貰えたらどれだけ助かる事か。助かるよな?今と変わらなかったら泣いちゃうよ。
「すぐに会えると言う事ではない」か、そんなに今日の今日で会える訳無いよな。
領主の都合を聞き謁見の許可を取ったりと下準備が必要との事で、今日のところは引き上げて後日使いを貰う事になった。
「エドすげーな。領主様なんて年代わりの閲兵以外じゃ顔見る事も無い人だぞ。そんな人に会えるなんてすげーよ」
「ん?まぁあ」
「なんだ?うれしくないのかよ?」
「うれしいとかは~・・・・無いな。どっちかって言えば失敗しなきゃ良いなって方が大きいし」
それに団長の思惑もあるんだろう。「領主に会えるようにしてやったのだから今後も戦士団に仕事をいっぱい回せよ」と。
俺としても領軍には色々と世話になっていて、どこかで挨拶できればと思っていたので丁度良い機会ではあるのだが、何せ貴族などという人種に今まで会った事が無いのだから、「恥を掻かなければ良いな」などと考えるだけで緊張してくるのだ。
前世で表彰受けた時も緊張したな~なんって余計な事を思い出しても、この街の領主と会う事の方が大物相手なので全く落ち着かない。
「団長相手でも緊張しなかったみたいだから、そういうの無いと思ってたけど、エドでも緊張ってするんだな」
「当たり前だろ。緊張しないんじゃないんだよ」
「じゃあ何なんだ?」
「何だろうな?何となく?上手く言えないんだけど、普段はそんなに緊張するって事無いんだ」
「なんだそれ!!」
偉いと言われる人相手でも緊張する訳じゃないという事か?でも領主に会うのは緊張するんだから平民と貴族との差なのか?初めて緊張するかも知れない現状におれ自身が戸惑ってしまうが、団長に会うのとはやはり違うようだ。
「もしかすると改めてだからかな?」
「どう言う事だ?」
「ほら団長やファリアさんの時なんかは、俺のタイミングで会いに行ってるだろ?でも今度は領主様のタイミングなんだよ。緊張するかしないかは、向こうが待ち構えてるのか、それともそうじゃないのかによると思うかなってな」
「そ、そうか?どっちでも緊張すると思うけどな」
しかし献上品ともなれば、品質をもっと上げなければダメだな。現状ではロウソクの側面に若干のバリ痕が付いてしまっているので、この辺りも改善しなければ「この程度のモノか」と侮られてしまうかも。
俺の緊張はこういうところから来ているんだろうな。
追加案件としては、今まで脂を運ぶ事で軟膏と引き換えていた軍からだが、廃棄分も含めて全量を戦士団に引き渡して貰う事も頼む事にした。
団の所まで配達するだけなので負担にはならないし、ばっくれようものなら軍から横領した大罪人の認定を受けてしまうので、面倒だからと配達をしないなどという事もありえない。多分。
わずかな金で人生懸けちゃう意味不明な人はいるからな~。
「それでその荷物は?それだけではないだろ?」
「ええ、買って貰う事は可能でしょうか?」
「難しいな。確かに明るいが、それは灯明でも困りはしない」
「明るい所で酒を飲むにには良いかなと思ったのですが?」
「お前は酒を飲まないから解らんだろうが、酒を飲むのは暗いくらいが良いんだ。あまり明るい所で飲むのは落ち着かんからな」
前世では酒を飲む時には明るい居酒屋が多かったから、大衆的にはそちらかと思ったが、この世界ではバー派の志向が好まれるようだ。それにしても暗い気がするけど。
「外であれば火を焚けば良い、この程度では照らせる範囲も限られるからな。そう言う訳だ。これはウチでは買えん」
「そ、そうですか」
まっ想定内だよ。ホントだよ。シクジリジャナイヨ。
ロウソクが煌々と照らされている冒険者ギルドをイメージしてきたから、売れるかなと思ったけれども世の中そこまで甘くは無かった。
「ウチでは買えんが、領主様であれば買うかも知れんな」
「それは・・・流石に・・・」
ウチは遡れば傍系に行き着くとは言え、その程度でしかない訳で、妙な売込みを掛ければタカリと勘違いされてしまうかもしれない。「宝くじが当たったんだって? 俺も遠縁の親戚だから」などと言う輩と同類扱いをされてしまうのは、色々と問題があるしイヤだ。
「なんだ?俺のところには売り込みに来た割には向こうには行き辛いか?」
「そうですね。それもとんでもなく」
「言うじゃないか」
「ウチは継承権はありませんけど傍系なんですよ。お声が掛かったなら別ですけど、そんなのが売り込みに行ったら色々とあるじゃないですか」
「最初から売ろうとしなければ良いだろ?数も少しはあるみたいだし、ウチの若手に先の長い仕事を持ってきてくれたんだ。行く気があるなら献上くらいは付き合ってやらんでもないが、ど」
「よろしくお願いします」
団長の言葉にかぶせ食い気味に返事をしてしまったが、ここらで権力者の顔を見るのは悪い事ではない。
戦争の暇も無いこの世界に措いては、俺の知識は悪用される事は無いし、領主は善政を敷いている人だから、良い印象を与えておけば念願の金属を下げて貰えるかもしれない。
苦節2年。2年は苦節じゃないって、十分苦節だわ。
ノコギリが自由に使えたら、ノミが有ったら、俺専用の金鍋が有ったら、数えたらきりが無いほど金属には思うところが多い訳で、それを融通して貰えたらどれだけ助かる事か。助かるよな?今と変わらなかったら泣いちゃうよ。
「すぐに会えると言う事ではない」か、そんなに今日の今日で会える訳無いよな。
領主の都合を聞き謁見の許可を取ったりと下準備が必要との事で、今日のところは引き上げて後日使いを貰う事になった。
「エドすげーな。領主様なんて年代わりの閲兵以外じゃ顔見る事も無い人だぞ。そんな人に会えるなんてすげーよ」
「ん?まぁあ」
「なんだ?うれしくないのかよ?」
「うれしいとかは~・・・・無いな。どっちかって言えば失敗しなきゃ良いなって方が大きいし」
それに団長の思惑もあるんだろう。「領主に会えるようにしてやったのだから今後も戦士団に仕事をいっぱい回せよ」と。
俺としても領軍には色々と世話になっていて、どこかで挨拶できればと思っていたので丁度良い機会ではあるのだが、何せ貴族などという人種に今まで会った事が無いのだから、「恥を掻かなければ良いな」などと考えるだけで緊張してくるのだ。
前世で表彰受けた時も緊張したな~なんって余計な事を思い出しても、この街の領主と会う事の方が大物相手なので全く落ち着かない。
「団長相手でも緊張しなかったみたいだから、そういうの無いと思ってたけど、エドでも緊張ってするんだな」
「当たり前だろ。緊張しないんじゃないんだよ」
「じゃあ何なんだ?」
「何だろうな?何となく?上手く言えないんだけど、普段はそんなに緊張するって事無いんだ」
「なんだそれ!!」
偉いと言われる人相手でも緊張する訳じゃないという事か?でも領主に会うのは緊張するんだから平民と貴族との差なのか?初めて緊張するかも知れない現状におれ自身が戸惑ってしまうが、団長に会うのとはやはり違うようだ。
「もしかすると改めてだからかな?」
「どう言う事だ?」
「ほら団長やファリアさんの時なんかは、俺のタイミングで会いに行ってるだろ?でも今度は領主様のタイミングなんだよ。緊張するかしないかは、向こうが待ち構えてるのか、それともそうじゃないのかによると思うかなってな」
「そ、そうか?どっちでも緊張すると思うけどな」
しかし献上品ともなれば、品質をもっと上げなければダメだな。現状ではロウソクの側面に若干のバリ痕が付いてしまっているので、この辺りも改善しなければ「この程度のモノか」と侮られてしまうかも。
俺の緊張はこういうところから来ているんだろうな。
16
お気に入りに追加
1,424
あなたにおすすめの小説

【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます
ユユ
ファンタジー
“美少女だね”
“可愛いね”
“天使みたい”
知ってる。そう言われ続けてきたから。
だけど…
“なんだコレは。
こんなモノを私は妻にしなければならないのか”
召喚(誘拐)された世界では平凡だった。
私は言われた言葉を忘れたりはしない。
* さらっとファンタジー系程度
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ


憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~
愛山雄町
ファンタジー
エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。
彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。
彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。
しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。
そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。
しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。
更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。
彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。
マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。
彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。
■■■
あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる