異世界生活物語

花屋の息子

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88若者救済案

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「3日置いとくだけなら作っても良いんじゃないのか?」
「匂いとススが無いだけで買って貰えるかなんだよな」
「俺達は欲しいな」
「あ。忘れてた。あの家は灯明を燃やすには向かない造りにしてあるからな。ロウソクはまだいくつかあるから持って帰ってくれ」
「おい!」

 そうとは知らずに灯明を使い続けていたモーガン達からジト目で見られたが、たしかに新築の気密化屋内で油など燃やしたい訳は無い。
 今は気にならなくても染み付いた臭いとなって家の中に篭るだろうしスス汚れも目立つようになる。作る時にはロウソク前提にしていたのに、完成したらそちらの方まで気を回していなかった俺のミスだ。
 自分用として作ってあった20個を全て吐き出した俺は、売る為とは別にロウソクを作る事になるのだった。
 作るなどと言っても材料はあるのだから拘るべきは形だろう、一般的なロウソク型は明り取りと考えるならこの形は絶対で、現状の角形は雰囲気を楽しむようにしかならない。
 そしてこれを作った時と違うのは木型を簡単に作れると言う事。
 前はカマボコ板を組み合わせた箱型だったが、今回は半身ロウソクの形に削った厚板を二枚組み合わせ上に開けた穴から油を流し込む、鋳物とたい焼きのハイブリットなイメージの型を作った。
 軟化をかけた厚板を加工する時間はわずかなもので、一枚作れば元型に消し炭を塗れば板を切り出し版画のようにコピーを作れる。
 色が付かなかった部分を削るだけでロウソクの大量生産装置ができてしまう、どちらかと言えばぴったりと合わせるために、微調整している時間の方が圧倒的に掛かってしまい、慎重なのか不器用なだけかちょっと自分が情けなくなってしまった。

「リード、上の穴に油入れてってくれる?」
「ろうそくのカタってのが出来たのか?」
「ああ、穴をつないでいる溝があるだろ?そこまで入れたらいっぱいだから、穴にこれを挿して後は3日置いとけばロウソクになる」

 そう言って手渡したのはグラスファイバー・・・なんって言っても、ガラス繊維では無い。カイバクの葉を縦に裂いたものイネ科の繊維の方を、ロウソクの芯として使う事にした。
 入れて置けば3日後には仏壇で目にするようなロウソクの完成だ。これで完成を待つだけの事なので、リードに任せて軟膏の方の作業に戻る。
 現状肉屋から供給されている脂身はストックと民生品の需要拡大で消えているが、ここにロウソクが加わるとストックに回す事ができなくなるかもしれない。
 畑の方もまだまだ目が離せない状況では、モーガン達に狩りに行かせる訳にもいかないので、前のような騒動が起きれば確実にどれかの材料が足りなくなってしまう。

「このままじゃ脂が足りないな・・・」

 領軍からも提供され余裕ぶっこいていましたが、やはり足りなくなる時は来るもので、領軍ではまだ処分されている脂があるはずなのだから回収さえすれば良いのだが、それを行う人手の確保ができないでいるのだ。
 そんな俺に話しかけてきたのは、こんな時でも能天気な男だった。

「悩み事か?あんまり悩んでると禿げるぞ」
「ヘンリーに半分分けてあげたいよ」
「そんな事したら俺が禿げるじゃねえか」
「大丈夫だ。悩みが無い奴に半分渡しても一人分くらいにしかならないから」
「俺はもう十分一人分抱えてるんだよ。これ以上は禿げるわ」

 ヘンリーのどこに悩みの要素があるのだろう?オチャラケキャラではなく、正真正銘のオチャラケ君なのに。

「このまま行くと脂が足りなくなるんだ。領軍が倒している魔物や魔獣から取れている脂の量は、軟膏の代金代わりに受け取っている10袋よりもあるだろ?それに肉屋を回って回収できればクラリオンで使う分の軟膏とロウソクは、これから増えても材料不足になる事は無いかなってな」
「そんな事か?」

 ヘンリーの悩みについては話を聞くだけ無駄だが、俺の悩みは「そんな事」で片付けて欲しくはないな。
 どうせこいつの悩みなんて「どこどこの娘が俺にほれてるんじゃないか?」程度のものなのだから。

「そんな事って言うくらいなら良い案でもあるのか?」
「あるある。戦士隊の若いのは金がねぇんだわ。そこでだ。そういうヤツラに軍や肉屋を回って脂身を回収させるんだよ」
「そんなに出せないぞ。せいぜい袋一つ200ピリンってとこだぞ」
「一人5袋持って来れば1000ピリン十分じゃねえか。そんだけ出してくれりゃやる奴はかなり居るぞ」

 1000ピリンでやる気出すって稼ぎ少なくないか?ガタイは悪くないからしっかり食べてはいるのだろうが、戦士隊の給料がどんなものか気になってしまう。
 そう言えば親父の給金も聞いた事が無かったが、どんなものなんだろう?給料の話なんか聞き辛いしな~。
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