異世界生活物語

花屋の息子

文字の大きさ
上 下
64 / 121

64上手に焼けました~

しおりを挟む
 手を入れた場所は灰山の上部なので全粉砕だけは避けられたようだが、後は欠けやヒビが無い事を祈るばかりである。
 爪から響いた音は金属とも陶器とも取れないなんとも微妙な音だった。
 逸る気持ちと連動するように手が動くのは、顔が必死の表情を浮かべなければ子供らしくて良いのだろうが、俺の表情は気難しい屋の陶芸家ばりに険しい表情になっていたと思う。
 野焼きとは言え高温で焼かれた灰は、かまどのふわふわ灰とは大きく違って粒子が細かいせいか、重さに反してずしりとした手応えがある。
 灰をかき分けても見えるものは焼く前より少し小さくなった灰色の塊で、音の正体は分からなかった。
 掘り進めて行くと9割以上が欠ける事無く焼成されて、俺たちの前へと姿を現した。

「できたのか・・・?」
「エドワード君どうだい?」
「これでヒビが無ければ、大丈夫じゃないかと思うけど・・・」

 チャプチャプと水の音をさせながら天秤棒で水を運んできてくれる男がいた。どこの世界にも気の利くヤツはいるものである。
 誰も気付かなかったが洗い水が無ければ灰落としも出来ない事など、俺はすっかり頭から抜け落ちていたのだ。ウェイン義兄さんあんたはスゲぇよ。
 その焼き物を洗うにしても、いきなり完品を水に入れる勇気は俺には無い、割れた器で耐水試験だとばかりに水をかける。
 するとどうでしょう。金に茶に青のグラデーションが掛かったメタリックな色を帯びている美しい陶器が顔を覗かせた。その色合いからイメージは天目茶碗が一番近いものだが、何でこうなった?
 そのまま考え込みそうになったが、ふと俺を中心に円陣が出来上がって出来たのか?と目で訴えられては、そのまま結果をお預けする訳にも行かない。無言のまま今度は完品を手に取り洗ってみる。

「これも綺麗な色ね」
「こんな色は初めて見るな」
かねのようじゃが」

 水を弾きながら灰を脱ぐように現れるその肌は、もはや芸術作品と言えるレベル。造作の粗さは否めないが、この色を見て誰がガラクタと言えるだろう。灰の下から出た肌は先ほどと違い、赤に金とエメラルドグリーンを浮かべた色合いだった。
『さっきのと色が違うけど・・・元の粘土の違いか?』

「エドどうなんだ?」
「良いと思う」
「そうか。良いか。」
「「うぉ~~~」」

 完成とともに歓声が巻き起こり掘り出し作業に弾みがつく。その後も色合いは皆違う物が出来上がった。テレビでは見た事があったが灰釉でこんな色合いが出るのは見た事がなかったし、釉薬掛けした訳でも無いので俺の頭は『?』が浮かびっぱなしだ。
 これほど理屈が解からない以上は、ファンタジー補正と言ってしまうのが一番なのだろうが、なんか悔しいな。
 凡人の頭だが一生懸命考えた結果、ひとつ思い当たる節に行き着く。金虫だ。金属成分で構成されるその骨格は、無から生み出されている訳ではないだろう。
 虫の食事から摂取されているか、もしくはイノシシの様にヌタ回って体に付着させるか。深海にすむスケール何ちゃらとか言う貝のように、化学合成した排泄物を体に纏う者もいるだろう。
 このすべてに言える事はそこにその成分が存在するからこそ、取り入れまたは付着できたと言う事だ。
 この土中には金属成分が存在し、粘土内にあったのか灰に含まれていたのか、はたまた両方と言うことも考えられるが、それを高温焼成したために素地に付着して天目茶碗のような金属の肌を成形したと考えられる。
『灰を溶かした釉薬かければ、もっと違う焼き物もできたのかな?』
 俺がそんな事を考えている後ろでは、さっそくに水を汲みに行く男班と洗い物をする女班に分かれて、焼きあがった物の洗浄作業が始められようとしていた。

「こんな綺麗なもん見た事ないわ」
「クリームも欲しいけどこれも良いわね」
「見惚れてねえで、洗ってくれよ」
「あんたは黙って水汲んでおいで」

 伐採に薪割り高温との戦いの焼き上げと、散々妻のために働いたにもかかわらず寅さんの題名張りにこき使われる男たちは、なんと悲しいことか。
 哀愁漂うのか、それともただ打ちひしがれているのか。水を汲みに行く男たちの背中が、なんともどんよりとしている。折角の成功の後だというのに。
 しかしこの成功も喜んで良いのかが解らないところである。
 その理由は、曾祖母であるエリザの元へ行った時に見た物が原因なのだ。
 確かに調度品などが飾られてウチなどより余程立派な屋敷だったあの家にすら、今回出来上がった鍋ほどの物は飾られていなかった。
 あのウチがせいぜい村長クラスと考えれば、領主館にはこれ以上のお宝が飾られていても不思議ではないが、ここに集まった人を見ても異世界であろうと地球であろうと美的感覚に大きな差があるとは思えない。
 もしこの焼き物が領主家の御眼鏡に叶った時、これが再現できない時には、この鍋の所有者は誰になるだろう。
 腐った貴族がいないとは言え、封建社会において5親等以上はなれた赤の他人と言ってもおかしくはない親戚が、本家で権力者でもある領主が欲するモノを譲らないなどと言って良いとは思えない。
 相当額の金を払うなどと言われた日には、鍋なら金属製のものを用意してやると言われたら、断る理由は子供のように「これじゃなきゃヤダ」としか言えないではないか。実際子供だけど。
 超綺麗だけど鍋だよ。一番綺麗な物は寸胴なんだよ。まさか飾らないよね。
 ここに来て出来の良さに悩まされる事になるとは。それともこれで新たな文化を開花させる事が出来たと喜ぶべきか、悩みは尽きないものである。
 今度は曜変天目の茶碗でも作って献上しようかな?
 なにやら目的のために手段を選ばず、手段のために目的を忘れていく感じが否めなくなってきているが、もう「なったらなっただ」と腹を括るしかない訳で、出来てしまったこれを喜ぶのが先決だろう。
『野郎ども、宴だ』そう言いたい気分だ。酒は飲めないけれども。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

異世界で「出会い掲示板」はじめました。

佐々木さざめき
ファンタジー
 ある日突然、ファンタジーな世界に転移してしまった!  噂のチートも何もない!  だから俺は出来る事をはじめたんだ。  それが、出会い掲示板!  俺は普通に運営してるだけなのに、ポイントシステムの導入や、郵便システムなんかで、どうやら革命を起こしてるらしい。  あんたも異世界で出会いを見つけてみないか?  なに。近くの酒場に行って探してみればいい。  出会い掲示板【ファインド・ラブ】  それが異世界出会い掲示板の名前さ!

その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~

たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!! 猫刄 紅羽 年齢:18 性別:男 身長:146cm 容姿:幼女 声変わり:まだ 利き手:左 死因:神のミス 神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。 しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。 更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!? そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか... 的な感じです。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮)

土岡太郎
ファンタジー
 自分の先祖の立派な生き方に憧れていた高校生の少女が、ある日子供助けて死んでしまう。 死んだ先で出会った別の世界の女神はなぜか彼女を気に入っていて、自分の世界で立派な女性として活躍ができるようにしてくれるという。ただし、女神は努力してこそ認められるという考え方なので最初から無双できるほどの能力を与えてくれなかった。少女は憧れの先祖のような立派な人になれるように異世界で愉快で頼れる仲間達と頑張る物語。 でも女神のお気に入りなので無双します。 *10/17  第一話から修正と改訂を初めています。よければ、読み直してみてください。 *R-15としていますが、読む人によってはそう感じるかもしないと思いそうしています。  あと少しパロディもあります。  小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様でも投稿しています。 YouTubeで、ゆっくりを使った音読を始めました。 良ければ、視聴してみてください。 【ゆっくり音読自作小説】女神のお気に入り少女、異世界で奮闘する。(仮) https://youtu.be/cWCv2HSzbgU それに伴って、プロローグから修正をはじめました。 ツイッター始めました。 https://twitter.com/tero_oo

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

処理中です...