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64上手に焼けました~
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手を入れた場所は灰山の上部なので全粉砕だけは避けられたようだが、後は欠けやヒビが無い事を祈るばかりである。
爪から響いた音は金属とも陶器とも取れないなんとも微妙な音だった。
逸る気持ちと連動するように手が動くのは、顔が必死の表情を浮かべなければ子供らしくて良いのだろうが、俺の表情は気難しい屋の陶芸家ばりに険しい表情になっていたと思う。
野焼きとは言え高温で焼かれた灰は、かまどのふわふわ灰とは大きく違って粒子が細かいせいか、重さに反してずしりとした手応えがある。
灰をかき分けても見えるものは焼く前より少し小さくなった灰色の塊で、音の正体は分からなかった。
掘り進めて行くと9割以上が欠ける事無く焼成されて、俺たちの前へと姿を現した。
「できたのか・・・?」
「エドワード君どうだい?」
「これでヒビが無ければ、大丈夫じゃないかと思うけど・・・」
チャプチャプと水の音をさせながら天秤棒で水を運んできてくれる男がいた。どこの世界にも気の利くヤツはいるものである。
誰も気付かなかったが洗い水が無ければ灰落としも出来ない事など、俺はすっかり頭から抜け落ちていたのだ。ウェイン義兄さんあんたはスゲぇよ。
その焼き物を洗うにしても、いきなり完品を水に入れる勇気は俺には無い、割れた器で耐水試験だとばかりに水をかける。
するとどうでしょう。金に茶に青のグラデーションが掛かったメタリックな色を帯びている美しい陶器が顔を覗かせた。その色合いからイメージは天目茶碗が一番近いものだが、何でこうなった?
そのまま考え込みそうになったが、ふと俺を中心に円陣が出来上がって出来たのか?と目で訴えられては、そのまま結果をお預けする訳にも行かない。無言のまま今度は完品を手に取り洗ってみる。
「これも綺麗な色ね」
「こんな色は初めて見るな」
「金のようじゃが」
水を弾きながら灰を脱ぐように現れるその肌は、もはや芸術作品と言えるレベル。造作の粗さは否めないが、この色を見て誰がガラクタと言えるだろう。灰の下から出た肌は先ほどと違い、赤に金とエメラルドグリーンを浮かべた色合いだった。
『さっきのと色が違うけど・・・元の粘土の違いか?』
「エドどうなんだ?」
「良いと思う」
「そうか。良いか。」
「「うぉ~~~」」
完成とともに歓声が巻き起こり掘り出し作業に弾みがつく。その後も色合いは皆違う物が出来上がった。テレビでは見た事があったが灰釉でこんな色合いが出るのは見た事がなかったし、釉薬掛けした訳でも無いので俺の頭は『?』が浮かびっぱなしだ。
これほど理屈が解からない以上は、ファンタジー補正と言ってしまうのが一番なのだろうが、なんか悔しいな。
凡人の頭だが一生懸命考えた結果、ひとつ思い当たる節に行き着く。金虫だ。金属成分で構成されるその骨格は、無から生み出されている訳ではないだろう。
虫の食事から摂取されているか、もしくはイノシシの様にヌタ回って体に付着させるか。深海にすむスケール何ちゃらとか言う貝のように、化学合成した排泄物を体に纏う者もいるだろう。
このすべてに言える事はそこにその成分が存在するからこそ、取り入れまたは付着できたと言う事だ。
この土中には金属成分が存在し、粘土内にあったのか灰に含まれていたのか、はたまた両方と言うことも考えられるが、それを高温焼成したために素地に付着して天目茶碗のような金属の肌を成形したと考えられる。
『灰を溶かした釉薬かければ、もっと違う焼き物もできたのかな?』
俺がそんな事を考えている後ろでは、さっそくに水を汲みに行く男班と洗い物をする女班に分かれて、焼きあがった物の洗浄作業が始められようとしていた。
「こんな綺麗なもん見た事ないわ」
「クリームも欲しいけどこれも良いわね」
「見惚れてねえで、洗ってくれよ」
「あんたは黙って水汲んでおいで」
伐採に薪割り高温との戦いの焼き上げと、散々妻のために働いたにもかかわらず寅さんの題名張りにこき使われる男たちは、なんと悲しいことか。
哀愁漂うのか、それともただ打ちひしがれているのか。水を汲みに行く男たちの背中が、なんともどんよりとしている。折角の成功の後だというのに。
しかしこの成功も喜んで良いのかが解らないところである。
その理由は、曾祖母であるエリザの元へ行った時に見た物が原因なのだ。
確かに調度品などが飾られてウチなどより余程立派な屋敷だったあの家にすら、今回出来上がった鍋ほどの物は飾られていなかった。
あのウチがせいぜい村長クラスと考えれば、領主館にはこれ以上のお宝が飾られていても不思議ではないが、ここに集まった人を見ても異世界であろうと地球であろうと美的感覚に大きな差があるとは思えない。
もしこの焼き物が領主家の御眼鏡に叶った時、これが再現できない時には、この鍋の所有者は誰になるだろう。
腐った貴族がいないとは言え、封建社会において5親等以上はなれた赤の他人と言ってもおかしくはない親戚が、本家で権力者でもある領主が欲するモノを譲らないなどと言って良いとは思えない。
相当額の金を払うなどと言われた日には、鍋なら金属製のものを用意してやると言われたら、断る理由は子供のように「これじゃなきゃヤダ」としか言えないではないか。実際子供だけど。
超綺麗だけど鍋だよ。一番綺麗な物は寸胴なんだよ。まさか飾らないよね。
ここに来て出来の良さに悩まされる事になるとは。それともこれで新たな文化を開花させる事が出来たと喜ぶべきか、悩みは尽きないものである。
今度は曜変天目の茶碗でも作って献上しようかな?
なにやら目的のために手段を選ばず、手段のために目的を忘れていく感じが否めなくなってきているが、もう「なったらなっただ」と腹を括るしかない訳で、出来てしまったこれを喜ぶのが先決だろう。
『野郎ども、宴だ』そう言いたい気分だ。酒は飲めないけれども。
爪から響いた音は金属とも陶器とも取れないなんとも微妙な音だった。
逸る気持ちと連動するように手が動くのは、顔が必死の表情を浮かべなければ子供らしくて良いのだろうが、俺の表情は気難しい屋の陶芸家ばりに険しい表情になっていたと思う。
野焼きとは言え高温で焼かれた灰は、かまどのふわふわ灰とは大きく違って粒子が細かいせいか、重さに反してずしりとした手応えがある。
灰をかき分けても見えるものは焼く前より少し小さくなった灰色の塊で、音の正体は分からなかった。
掘り進めて行くと9割以上が欠ける事無く焼成されて、俺たちの前へと姿を現した。
「できたのか・・・?」
「エドワード君どうだい?」
「これでヒビが無ければ、大丈夫じゃないかと思うけど・・・」
チャプチャプと水の音をさせながら天秤棒で水を運んできてくれる男がいた。どこの世界にも気の利くヤツはいるものである。
誰も気付かなかったが洗い水が無ければ灰落としも出来ない事など、俺はすっかり頭から抜け落ちていたのだ。ウェイン義兄さんあんたはスゲぇよ。
その焼き物を洗うにしても、いきなり完品を水に入れる勇気は俺には無い、割れた器で耐水試験だとばかりに水をかける。
するとどうでしょう。金に茶に青のグラデーションが掛かったメタリックな色を帯びている美しい陶器が顔を覗かせた。その色合いからイメージは天目茶碗が一番近いものだが、何でこうなった?
そのまま考え込みそうになったが、ふと俺を中心に円陣が出来上がって出来たのか?と目で訴えられては、そのまま結果をお預けする訳にも行かない。無言のまま今度は完品を手に取り洗ってみる。
「これも綺麗な色ね」
「こんな色は初めて見るな」
「金のようじゃが」
水を弾きながら灰を脱ぐように現れるその肌は、もはや芸術作品と言えるレベル。造作の粗さは否めないが、この色を見て誰がガラクタと言えるだろう。灰の下から出た肌は先ほどと違い、赤に金とエメラルドグリーンを浮かべた色合いだった。
『さっきのと色が違うけど・・・元の粘土の違いか?』
「エドどうなんだ?」
「良いと思う」
「そうか。良いか。」
「「うぉ~~~」」
完成とともに歓声が巻き起こり掘り出し作業に弾みがつく。その後も色合いは皆違う物が出来上がった。テレビでは見た事があったが灰釉でこんな色合いが出るのは見た事がなかったし、釉薬掛けした訳でも無いので俺の頭は『?』が浮かびっぱなしだ。
これほど理屈が解からない以上は、ファンタジー補正と言ってしまうのが一番なのだろうが、なんか悔しいな。
凡人の頭だが一生懸命考えた結果、ひとつ思い当たる節に行き着く。金虫だ。金属成分で構成されるその骨格は、無から生み出されている訳ではないだろう。
虫の食事から摂取されているか、もしくはイノシシの様にヌタ回って体に付着させるか。深海にすむスケール何ちゃらとか言う貝のように、化学合成した排泄物を体に纏う者もいるだろう。
このすべてに言える事はそこにその成分が存在するからこそ、取り入れまたは付着できたと言う事だ。
この土中には金属成分が存在し、粘土内にあったのか灰に含まれていたのか、はたまた両方と言うことも考えられるが、それを高温焼成したために素地に付着して天目茶碗のような金属の肌を成形したと考えられる。
『灰を溶かした釉薬かければ、もっと違う焼き物もできたのかな?』
俺がそんな事を考えている後ろでは、さっそくに水を汲みに行く男班と洗い物をする女班に分かれて、焼きあがった物の洗浄作業が始められようとしていた。
「こんな綺麗なもん見た事ないわ」
「クリームも欲しいけどこれも良いわね」
「見惚れてねえで、洗ってくれよ」
「あんたは黙って水汲んでおいで」
伐採に薪割り高温との戦いの焼き上げと、散々妻のために働いたにもかかわらず寅さんの題名張りにこき使われる男たちは、なんと悲しいことか。
哀愁漂うのか、それともただ打ちひしがれているのか。水を汲みに行く男たちの背中が、なんともどんよりとしている。折角の成功の後だというのに。
しかしこの成功も喜んで良いのかが解らないところである。
その理由は、曾祖母であるエリザの元へ行った時に見た物が原因なのだ。
確かに調度品などが飾られてウチなどより余程立派な屋敷だったあの家にすら、今回出来上がった鍋ほどの物は飾られていなかった。
あのウチがせいぜい村長クラスと考えれば、領主館にはこれ以上のお宝が飾られていても不思議ではないが、ここに集まった人を見ても異世界であろうと地球であろうと美的感覚に大きな差があるとは思えない。
もしこの焼き物が領主家の御眼鏡に叶った時、これが再現できない時には、この鍋の所有者は誰になるだろう。
腐った貴族がいないとは言え、封建社会において5親等以上はなれた赤の他人と言ってもおかしくはない親戚が、本家で権力者でもある領主が欲するモノを譲らないなどと言って良いとは思えない。
相当額の金を払うなどと言われた日には、鍋なら金属製のものを用意してやると言われたら、断る理由は子供のように「これじゃなきゃヤダ」としか言えないではないか。実際子供だけど。
超綺麗だけど鍋だよ。一番綺麗な物は寸胴なんだよ。まさか飾らないよね。
ここに来て出来の良さに悩まされる事になるとは。それともこれで新たな文化を開花させる事が出来たと喜ぶべきか、悩みは尽きないものである。
今度は曜変天目の茶碗でも作って献上しようかな?
なにやら目的のために手段を選ばず、手段のために目的を忘れていく感じが否めなくなってきているが、もう「なったらなっただ」と腹を括るしかない訳で、出来てしまったこれを喜ぶのが先決だろう。
『野郎ども、宴だ』そう言いたい気分だ。酒は飲めないけれども。
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