異世界生活物語

花屋の息子

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61技術の継承者

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 お察しの通り疲労困憊の子供を時間外労働させたにもかかわらず、魔力操作を行える者は二人しかいなかった。一人は義兄、もう一人はウチのオヤジだった。
 けして身内びいきで教えた訳では無い。単純に他の人が出来なかっただけ。
 もう少し片鱗でも見せてくれたら俺のヤル気も出ると言うものなのだが、染み付いた習慣というものは恐ろしく頭を硬くするようだ。
 魔力を放出しようとすると木を柔らかくしようと頭が働き、ありもしない魔法を使う方へと魔力が流れてしまうのだ。そのせいで純粋な魔力を放出する事ができずに失敗する。
 感覚的には1×0=0かな。
 日が落ちるまで訓練を繰り返して、他の大人たちはあきらめ切れていない表情で家路に就く事になった。
 居残りを決めようなどとする勇者がいなかった事が俺のせめてもの救いだった。そんな事をすれば夕飯抜きになっちゃうからね。
 翌日も朝から3人で軟化をかけまくって、昼過ぎにはすべて薪にするところまで完了した。
 二人はまだ放出魔力が多いせいか効率はそれほど高くないが、体力はある方なのでルヒノラ婆さんに比べれば働いてくれた。
 当のルヒノラ婆さんはお疲れモードらしく今日は来ていない。自分より効率が良いのがいるのだから、「こんな年寄りをいつまでも使うんじゃない!」と言われたらしい。このおっさん達どんだけ年寄りを扱き使うつもりだったんだ?
 さて昨日軟化をかけて薪にした物は未だ硬くなりきらず、ほのかに柔らかな感触が残っていた。木が靴底のゴムのような感触と言うのは少し新鮮で面白いものだ。
 ただしこれには問題もあって、この状態では積み上げる事が出来ないために、薪にした物は地面に散乱していた。まとめてしまえば茹でた素麺を乾燥させたようにクチャクチャに変形したまま固まってしまうので、魔素が戻って硬化し始めるまではまとめる訳にも行かない。この硬化具合だと明日の夕方くらいには硬くなってくるのだろうか。
 こんな時になんだが、この軟化を使えばカンナを作らなくても綺麗な木材加工が出来ると思う。
 それどころか粘土細工のようにして集成材だとか継ぎ手のような事にも使えそうで、これからの木材加工には大いに役立ってくれるだろう。魔力さまさまである。
 今日も昼過ぎからは問題親父どもの相手をして、ようやく新たに3人魔力操作が使える人を増やせた。
 今まで婆さんしか使えなかったうえ、危うくロストテクノロジーになりかけていたものを受け継ぐ事が出来た。そう思えば俺を入れて6人は上出来の人数だろう。
 後はみんなで教えあって頑張って下さい。

 伐採から一週間が過ぎた。ようやく焼成に漕ぎ着ける事ができたのだが、焼成に時間を取られる前にと、ここ数日は畑作業に忙殺されていた。
 伐採前には細やかな草取りをしていたとはいえ、カイバクの畑に生え揃った雑草のなんとたくましい事か。
 元々草を取りカイバクの畑を水田化する時期と被っていたので、よく忙しい時期によく伐採をしてくれたと思う。近所で草取りに精を出す皆にも本当に感謝だ。
  三角ホーを持っていなかった家には、俺が作った三角ホーを無償プレゼントしてその労をねぎらっておいた。
 丁度良い枝は大量に伐採現場から持ってくる事が出来たし、伐採時に討伐された蟻の触角を大量に貰い受け、軟化があるから木部の成形はいとも簡単に行えたのも、このプレゼントに一役買ってくれた。本当に軟化さまさまである。
 地球の水田と違いカイバクの畑の水田化は、あれほど厳密な水田という訳ではないので毎日のように水がなくなり、朝にまた水を掛けなおすというのを繰り返す。そのため当然ながら雑草の植生が変わる事も無く、細かな雑草を放置すれば大量の水分で一気に成長を始める雑草に畑を侵食されてしまうので、夏の水入れ前に行う草取りは皆がもっとも神経を使う作業なのだ。
 草取りを終えた畑を三角ホーでカリカリっと削る事で土の表面が柔らかくもなり、さらには発芽したての除去出来なかった草も、畑からは一掃される事で、水を張った直後に毎年行う泣きのもう一度除草が軽減できたようだ。そのお陰で一週間で焼成に漕ぎ着けられたと言えるだろう。
 さて今回は乾燥もしっかり出来ているので、流石に大丈夫だと信じたいものだ。
 とは言っても大量の薪と藁で一気に高温にしてはまた割れる心配があるから、少しづつ投入して夕方まで焼けば土器として使えるレべルにはなるだろう。なるよね?なって下さい。
 それっぽい事を言って、二交代で火の番をしてもらう事にした。俺はお飾り責任者っぽいポジションで、最初から最後まで指示を出しながら付き合うので、拘束時間のなんと長い事か。ぜひ児童福祉法を制定して頂きたい(笑)
 昼辺りまでは適量の藁と薪を投入しての焼き固め、その後ガンガンと薪を入れての本焼きとした。一度火入れをしたら後は出来上がりまで信じて燃やし続けるしかないので、最初の点火は俺がやらせてもらう事にした。
 流石に薪投入ともなれば子供を火のそばに近付ける訳にも行かないからね。俺も怖いし。

「それでは皆さん、火をつけます」

 もちろん着火は火魔法だ。円形に積まれた燃焼物の四方に順々に火を放っていく。
 どうか成功しますように。ついでに昨日完成させた俺のおもちゃもうまく行きますように。
 この期に及んでまだ企むエドワードだった。
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