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59軟化習得
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「軟膏ってのは何なんだい?」
ルヒノラ婆さんは魔法云々を置いておけば完全なる一般人、それも南区画の住人なのでいまだクリームの情報は入ってはいないのだ。エドワード謹製薬である軟膏やハンドクリームの事は知りもしない。
「ウチの孫。今のエドワードと言うのだが、あやつが作り出した傷を埋めると、その傷が治る傷薬の事なんじゃが、回復魔法には酔いが付いて回るじゃろ?それが軟膏はちっとばかり時間がかかるが酔う事無く傷の手当が出来るんじゃ。御領兵団にも卸し始めたまともな品じゃぞ。御領兵のように魔物と戦う事が多い者にしてみれば酔いで持ち場を離れずに済むと言うので、戦闘備品として即納めが決まった優れモンじゃ」
「さっきの小さいのがそれを作ったって言うんかい?」
「それだけじゃないと言うのか、元々は水仕事で荒れた手に塗るハンドクリームとか言うものだったんじゃが、それを作り直したのが軟膏じゃな」
ルヒノラ婆さんの口はポカンと開いたままになってしまっていた。それもそうだ地球だろうがこちらの世界だろうが軍備品を保育園児が作りましたなんて言われても、「いや~オタクのご子息は優秀ですな」と返せるのはどこぞの・・・いや、いる訳無いよね。
「じいちゃん持って来たよ」
「これじゃ。もちろんわしらは何もしとらん。ハンドクリームとか言うのを見せられるまで、ただ油が欲しいとしか聞いておらんくらいじゃしな」
そう言いながらルヒノラ婆さんに軟膏を見せていた。
「・・・それにしてもじゃ。子供を魔物が出る傍に連れて来るのは感心出来んぞ」
「前に伐採に連れて行った時にも蟻に襲われたのじゃが、泣き叫ぶ訳でもなく冷静に撤退しておった。ワシとてこの位の時に同じ事をしろと言われて出来たかどうか。それに魔力も多い、何と言っても母様のお気に入りじゃからな」
ルヒノラ婆さんにも、ただの爺バカでこんな事を言っている訳ではいと伝わったのか、説教モードの顔から普通のおばあちゃんモードへと表情が変わっていた。
「あのエリザが認めたほどとは。面白い子だよね。坊・・・エドワードと言ったね。良いじゃろ軟化を教えてやろう。とは言ってもワシの教え方が悪いのか今まで出来るようになった者は一人もおらんが、それでも良いか?」
俺に断る理由はない。作業効率向上のためにもこれからのためにも、かの魔法は手に入れておかなければ。
「お願いします」
そう言って指示を仰いだが、一言で言おう。この人は教える事に向いていない。
出来たからやっていると言う感覚で魔法を使うタイプの人だからだ。パッシブブーストをしているミファと同じ人種なのだ。
「はぁ~やっぱり、坊でもダメだね」
5本目に魔法を掛けてルヒノラ婆さんの体力的にも午前中の魔法は限界を迎えた。火をつけた時のように、持続させているものでも無いからとも思ったが、単純に歳から来るもののようだ。
それにしてもさっぱり解かりません。煮ている訳でもなければ薬品処理している訳でも無い物が柔らかくなる訳無いじゃん。まあだからの魔法なのだろうけど。
俺の方の魔法習得は一向に進まないが、その間作業を遅らせるわけにも行かないので、硬い木を切り割している男衆は、コツコツと作業を続けている。
皆自分達にも出来なかったので誰一人として文句を言う人はいないが、俺の気持ちはどうしても申し訳無い物でいっぱいになるのだ。(みんなゴメンね)
ちなみに俺が試しているのは木本体ではなく、ルヒノラ婆さんの指示で切り落とされた枝の方。これでも問題は無いとの事だったのでこちらで試している。
「ルヒノラばあちゃん。ウチのばあちゃんは魔法使う時には頭の中に思い浮かべてやりなさいって言ってたけど、木が柔らかくなるのが想像できないんだよ。どうしたら良いの?」
「そうじゃの、ワシも昔々の事で何故出来るようになったのか覚えとらんし、今では先に見せたようにしか使っとらんからな」
どこぞの武芸者じゃないんだから、見取り稽古で技を盗めみたいな事言われても出来ないよね。かと言ってこれを逃すのは勿体無さ過ぎる魔法だし・・・
俺の魔力量がもっとあれば乱発して試すのもありだったのだが、そんな膨大な魔力は無い訳でその手は使えないけど、何としてもイメージの部分を解明するしかないのが悲しい所だ。
俺の中で思いついたのは、魔法をかけた時に起こった木のヘタリから、オートミールのように粥をイメージした型、杖で小口を叩く所から衝撃の型の二つだった。
交互に何となくの理屈を考えながら魔法を掛けるが、これといった手ごたえは感じられない。ほかに理屈に当たるものが思いつかない以上は、これで押すしかないのが頭が痛いところだ。・・・押す?・・・
もしかしてと思いおもむろに近くの枝に魔力をこめたデコピンを放った。
ズルっと土をこする音と共に細かい枝で地面に接地していた物が、その自重を支えられなくなり倒れ込むように横たえた。
「は、は、は。出来た~~~」
思わず大声を上げた事で皆の視線が俺に集まる。その視線は最初は大声によるモノだったが、俺の目の前でおひたしのようにヘタッた枝を見ると、驚愕のモノへと変化して行った。(これは出来ない訳だわ)
普通も魔法との違いが大きい事が使えなかった理由なのだ、だって魔法じゃないんだもん。
ルヒノラ婆さんは魔法云々を置いておけば完全なる一般人、それも南区画の住人なのでいまだクリームの情報は入ってはいないのだ。エドワード謹製薬である軟膏やハンドクリームの事は知りもしない。
「ウチの孫。今のエドワードと言うのだが、あやつが作り出した傷を埋めると、その傷が治る傷薬の事なんじゃが、回復魔法には酔いが付いて回るじゃろ?それが軟膏はちっとばかり時間がかかるが酔う事無く傷の手当が出来るんじゃ。御領兵団にも卸し始めたまともな品じゃぞ。御領兵のように魔物と戦う事が多い者にしてみれば酔いで持ち場を離れずに済むと言うので、戦闘備品として即納めが決まった優れモンじゃ」
「さっきの小さいのがそれを作ったって言うんかい?」
「それだけじゃないと言うのか、元々は水仕事で荒れた手に塗るハンドクリームとか言うものだったんじゃが、それを作り直したのが軟膏じゃな」
ルヒノラ婆さんの口はポカンと開いたままになってしまっていた。それもそうだ地球だろうがこちらの世界だろうが軍備品を保育園児が作りましたなんて言われても、「いや~オタクのご子息は優秀ですな」と返せるのはどこぞの・・・いや、いる訳無いよね。
「じいちゃん持って来たよ」
「これじゃ。もちろんわしらは何もしとらん。ハンドクリームとか言うのを見せられるまで、ただ油が欲しいとしか聞いておらんくらいじゃしな」
そう言いながらルヒノラ婆さんに軟膏を見せていた。
「・・・それにしてもじゃ。子供を魔物が出る傍に連れて来るのは感心出来んぞ」
「前に伐採に連れて行った時にも蟻に襲われたのじゃが、泣き叫ぶ訳でもなく冷静に撤退しておった。ワシとてこの位の時に同じ事をしろと言われて出来たかどうか。それに魔力も多い、何と言っても母様のお気に入りじゃからな」
ルヒノラ婆さんにも、ただの爺バカでこんな事を言っている訳ではいと伝わったのか、説教モードの顔から普通のおばあちゃんモードへと表情が変わっていた。
「あのエリザが認めたほどとは。面白い子だよね。坊・・・エドワードと言ったね。良いじゃろ軟化を教えてやろう。とは言ってもワシの教え方が悪いのか今まで出来るようになった者は一人もおらんが、それでも良いか?」
俺に断る理由はない。作業効率向上のためにもこれからのためにも、かの魔法は手に入れておかなければ。
「お願いします」
そう言って指示を仰いだが、一言で言おう。この人は教える事に向いていない。
出来たからやっていると言う感覚で魔法を使うタイプの人だからだ。パッシブブーストをしているミファと同じ人種なのだ。
「はぁ~やっぱり、坊でもダメだね」
5本目に魔法を掛けてルヒノラ婆さんの体力的にも午前中の魔法は限界を迎えた。火をつけた時のように、持続させているものでも無いからとも思ったが、単純に歳から来るもののようだ。
それにしてもさっぱり解かりません。煮ている訳でもなければ薬品処理している訳でも無い物が柔らかくなる訳無いじゃん。まあだからの魔法なのだろうけど。
俺の方の魔法習得は一向に進まないが、その間作業を遅らせるわけにも行かないので、硬い木を切り割している男衆は、コツコツと作業を続けている。
皆自分達にも出来なかったので誰一人として文句を言う人はいないが、俺の気持ちはどうしても申し訳無い物でいっぱいになるのだ。(みんなゴメンね)
ちなみに俺が試しているのは木本体ではなく、ルヒノラ婆さんの指示で切り落とされた枝の方。これでも問題は無いとの事だったのでこちらで試している。
「ルヒノラばあちゃん。ウチのばあちゃんは魔法使う時には頭の中に思い浮かべてやりなさいって言ってたけど、木が柔らかくなるのが想像できないんだよ。どうしたら良いの?」
「そうじゃの、ワシも昔々の事で何故出来るようになったのか覚えとらんし、今では先に見せたようにしか使っとらんからな」
どこぞの武芸者じゃないんだから、見取り稽古で技を盗めみたいな事言われても出来ないよね。かと言ってこれを逃すのは勿体無さ過ぎる魔法だし・・・
俺の魔力量がもっとあれば乱発して試すのもありだったのだが、そんな膨大な魔力は無い訳でその手は使えないけど、何としてもイメージの部分を解明するしかないのが悲しい所だ。
俺の中で思いついたのは、魔法をかけた時に起こった木のヘタリから、オートミールのように粥をイメージした型、杖で小口を叩く所から衝撃の型の二つだった。
交互に何となくの理屈を考えながら魔法を掛けるが、これといった手ごたえは感じられない。ほかに理屈に当たるものが思いつかない以上は、これで押すしかないのが頭が痛いところだ。・・・押す?・・・
もしかしてと思いおもむろに近くの枝に魔力をこめたデコピンを放った。
ズルっと土をこする音と共に細かい枝で地面に接地していた物が、その自重を支えられなくなり倒れ込むように横たえた。
「は、は、は。出来た~~~」
思わず大声を上げた事で皆の視線が俺に集まる。その視線は最初は大声によるモノだったが、俺の目の前でおひたしのようにヘタッた枝を見ると、驚愕のモノへと変化して行った。(これは出来ない訳だわ)
普通も魔法との違いが大きい事が使えなかった理由なのだ、だって魔法じゃないんだもん。
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