異世界生活物語

花屋の息子

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44そうは問屋が卸さない

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川に着いた俺は到着一番、そこにいた奥様たちに演説調の挨拶をする。

「え~、この度クリームを作ったエドワードです。あのクリームを作るのには問題があって、今すぐには作れません」

 ウン予想どうりの反応。空き缶とか無い世界でよかったよ。って言うか子供にその刺すような視線とともに、ガヤガヤ言うのはどうなんですか?

「問題さえ解決できれば作れますので協力して貰えますか?それさえ協力してもらえれば、すぐにでも作れますから」

 よかった。少し目線が落ち着いたようだ。どうせならこの世界にも「こちらを見て仲間になりたそうにしている」とか無いもんかね?

「何を協力すれば良いんだい?」
「一番の問題は鍋です。ある程度の大きさの鍋が無いと、作るのはもちろん最後の人まで行くのには、次のカイバクの収穫が終わる頃まで掛かりそうなので、そこで皆さんには赤金虫を少しづつ分けて貰いたいのです」

 もうこうなれば、一から鍋を作るのか一番早いからな。皆さんはクリームが、俺は鍋が手に入るとなれば、ウィンウィンの関係じゃないですか。

「それはかねの鍋じゃなきゃいかんのかい?」

 40を越えたくらいだろうご婦人が口を開いた。

「金の鍋以外に鍋があるんですか?」
「死んだ曾バア様のそのまたバア様が、まだここいらが森だった昔に泥をこねてこしらえた鍋を使っておったと、昔語りに話してくれてな」

 ・・・焼き物って有ったの?こちらに来てから、器は木製だったし鍋や何かは金属製で、焼き物の類いは見た事が無かった。かめなども無かったので、てっきり無い物だと思っていたよ。
 廃れたのかその辺りは分からないが、昔は使われていたのなら金属性に比べて使い勝手は悪くなるけど、ちゃんと鍋として使えるならそれでも良いか。

「初めて聞くわね。泥なんかで鍋を作っても、水を入れたら溶けちまうんじゃないのかい?」
「泥の鍋をそのまま使うんじゃないのさ。焼くと溶けない鍋になるらしいんだよ」

 うわ~焼き物一択の流れだな。それでも良いとは思ったけど、俺専用金属製品はお蔵入りかな。

「エド坊、それでもできるのかい?」

 スゲ~ウソ吐きたい。どこの家にとっても金属源は重要な物だから、詐欺って奪うのも違う気がするし、ここは焼き物で涙を飲もう。
 出来があまりにも悪かったら改めて、金属供出をお願いすればいいのだし。

「鍋であればそれでも出来ると思うけど、薪とかもかなりの量が必要になるけど大丈夫なの?」
「「「そんなのは旦那達に取りに行かせれば良いさね」」」

 皆で口をそろえて言う事かね。って言うか旦那さん達ご苦労様です。
女性達の行動は早かった
 もう廃れて久しい焼き物の事など知っている人が居なかったために、作り方はどうしたらいい?と井戸端会議の超拡大版が開かれて大変だった。
 本格的な登り窯など作る事はできないから、せいぜい薪とワラなど積み上げた中で焼く野焼きスタイルが限界だろう、縄文土器と同じ焼き方だ。
 釉薬などが溶けない温度にしかならないので、耐水性能と耐久力が悪く長期使用には向かないが、スタートから現代陶芸クラスの物を作るつもりでいる訳ではないので、ご愛嬌程度でもやむをえない。
 最も重要な粘土は、中央区にある館の堀を成す川原まで行けば手に入るようだ。行くのがメンドクサイので誰かに取って来てもらいたいが、砂が多いところなど取って来られても困るので、自分でも同行するしか無いだろう。
 薪は現在の備蓄を使うので再度伐採に行く訳ではないが、もちろんここで使ってしまうので前回の伐採よりも多くの量を、次回には取る事が求められるのだから、男性陣にはドンマイとしか言いようがないのだが。

「(あれ?これってまた俺も行くのかな?)」

 赤金虫は初夏だけしか採る事はできない訳だし、俺としては再度の伐採に付き合うのはメリットと言う意味での旨みが無い。言ってみれば足手まといの人間が行きたくも無いのに行かされるのは、意味があるのだろうか?。
 おおまかに粘土班5割、薪班3割、野焼き場所の整地に2割といった感じでばらけたので、俺は粘土班に同行した。鍋を作る程度の粘土を集めるのに多すぎると思うかもしれないが、焼き物を知らない人がその原料を集めるのだから、当然使えない物を採って来る人もいるであろう、かく言う俺も確実に取れる自信は無い。
 陶土として使える粘土は何となく解っても、適しているかどうかの判別がつくかと言われたら・・・。
 しかし掘ってみると、これでもかと言うほどNG土を掘り当ててくれるものだ。ただの土と砂だらけの土にと、陶土を知らない人が掘ったのだから仕方が無いとはいえ、そのほとんどが使い物にならない。
 川岸の土を掘り返している者などは砂だらけの土になるし、土手を掘っている物は土を集めている。
 知識として陶土を知っている方からすると、そんな所を掘ってもとは思うが、前世の知識をカミングアウトしていないので、注意も出来ないもどかしさがある。
 そんな中で中州に区切られた支流とでも言うのだろうか、足首までしか水深の無い川底を掘り起こしていた婆さんが、グニャリとした土を掘り当てた。
 少し粘土より荒い気もするが、今までの中で最も粘土らしい土だがあれでもまだ陶土にするには少し心もとない。
 大体の目星は付いた支流の方で、尚且つ流れがよどむ場所を探せば、それなりの物が取れそうかも。

「僕あの辺探して来るね」

 周囲に先ほどの婆さんを指差して、自分の探す場所を知らしておく。変に流されたのでは?と心配をかけない配慮だ。
 大人用の鋤は大きすぎて使い勝手が悪いが、何とか掘る事は出来る。こういう時は移植ゴテやリトルスコップのような小型の物が欲しいが、ガーデニングなどする訳でもない この世界では、あまり用途が無くて普及しないだろうな。せいぜい子供のおもちゃにしかなりそうに無い。
 いらん事を考えていたせいか、柔らかかった土がいきなり固くなった事を見落として、鋤が食い込んでびくともしない。縦にも横にも動かなくなってしまった。

「すいません~、抜いて貰って良いですか~」

 ここは無理せず大人に抜いてもらう事にする。と言っても婆さんなので腰やったらどうしようかとは思うが、鍛え方が違う事に期待しよう。

「くっちまったのかい、どれ」

 片手でヒョイと鋤をひっこ抜くこの人は、本当に婆さんなのか?見た目は白髪混じりでシワやシミも多いし間違いないだろうけど、俺の力ではビクともしなかったんだぜ。
 「鍛え方の問題です」と言われたら「そうですか」としか言えないが、驚愕すべき光景だ。
 抜いて貰った鋤を見れば食い込んだ理由が解った。粘土だ。
 灰色に青が射したような色合いの、空気に触れないと内部の酸素を消費しきった細菌が、酸化物からも酸素を取り込む事でこんな色になるらしいので、たしか還元反応とか言ったかな?手触りもヌッとした感じで間違いが無い。
 見当違いな所を掘っている皆さんには申し訳ないが、一人浮かれる訳にもいかないので、見つけた粘土をせっせとザルに詰めて、一人で休憩させてもらう。
 こんなんで良いのか???異世界チートの恩恵が、休憩だけなんて可笑しくねっ?
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