異世界生活物語

花屋の息子

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39実用実験

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 ここからは実証実験だ。油に小枝で穴を開けると固まる前に油を染込ませた芯を差し込んだ。この格好だけ見ると箱入りロウソクといった雰囲気を醸し出しているが、あくまで中身は元獣脂だ。
 大量の煤を上げるため使い物にならないとして廃棄された脂身なので、流石に納屋の中で火をつけて大量の煤など上げた日には、大人の誰かから大目玉を喰らいそうなので庭先に出る。
 魔法で火をつけても良いが、ここは自然の火を使った方が風情があるってもんだ。カマドにはまだ燻っている火があるので、それを持ってくる。
 納屋の片隅にほこりを被った木の皿に土を塗った火皿に燃えカスを移して、小枝と一緒に持って戻る。発明品第二号エドワード式ロウソク?の着火式だ。
 小枝に移した火を芯に移すとチロチロと燃え始めた。そこでひとつの疑問が生まれた。
 ”煤が出ないのだ”。
 あれほど「大量の煤が」と言われたのにもかかわらず、黒煙どころか白煙すら上げずに完全燃焼している。
 そっと息を吹きかけて再度着火してみるが、結果は同じで煤を上げることなくロウソクのような、落ち着いた炎が俺の癒しが必要ないピュアな心でも癒してくれるのだ。
 再度息を吹きかけて、今度は魔法で着火してみるが別段変化は起きない。
 もしかしたら魔法に反応するかと思ったのだが、まあそれなら魔法が得意で無い人は無煙に気付いた事だろうし。
 ここから出る結論としたら、湯に溶け出た濁りの中に不完全燃焼を起こす物質が含まれてたと言う事になる。
 やっぱり食べて大丈夫なんですか?この世界の肉。まあ健康を害した人もいないし何より美味しいので食べるんですけど、それでも何とも疑問が残る水溶性物質は、これからの研究材料として心にとめておく必要がありそうだ。

「は~、こんな時にラット実験でも出来れば有害無害くらいは、すぐ解るんだけどな」

 思いついた事があるので、安全確認が出来れば舐めてみたい所だが、いくらなんでも墨汁を薄めたようなスープを舐める勇気を持った人がいるだろうか? いくらなんでもそれはない。これは今後の課題だとすることにしよう。
 さて骨粉だがいきなり畑に撒くのは危険過ぎる。俺の実験に家族の食料保障を天秤に掛ける事になるのはやりすぎだ。ここは他の所で実験するとしようではないか。
 一番先に思いつくのは農大時代にやった鉢植え試験の再試だ。
 いくつかの鉢植えを用意して、何もしない区画、試験Aをする区画、Bをする区画、A+B両方を併用する区画と、本来ならさらにCDE・・・と試験内用がプラスして行くのだが、まあこんな感じに区画ごとに試験をして結果を記録していく方法だ。
 もっともこの世界に来てからというもの、プラスチックは元より素焼きの鉢すら見ていない。鉢植えと言う概念が無いのか、それとも高級品扱いで庶民の手に届かないだけか。
 無い物ねだりをしても仕方が無いので、今回は俺式ロウソクに使ったものと同じ木枠で囲ったトロ箱鉢で行くのだが。後は父からいくつか、カイバクの苗を貰ってそれの生育試験をしてみよう。
 フフフッ海賊王・・・じゃなかった異世界版化学肥料の父に俺はなる。
 誰だ無理だろって言ったヤツは。
 そんな小っ恥ずかしい宣言をしてみたものの、俺のやってることって完全有機栽培じゃね???、これって有機栽培のオヤジになっちゃう感じか?
 黒いスープと骨粉ペーストは分けて取って置く事にした。勝手に使う事にはなるが納屋にあった桶にスープを入れて、ロウソク用の枡にはペーストを入れておく。
 油の時のスープを捨ててしまったのは少し勿体無い事をしたのかも知れないが、あれもカイバクを育てる時にでも使えば、実験データを取る事が出来たのだから。
 鍋や匙を洗いながらそんな事を思った。汲み置きの水でざっと洗ったら、どんな成分が含まれているのか解らないので、もう一度井戸に行って洗い直す。
 外に出ると日は、ほぼ真上まで来ていてもう少しでお昼になるだろう時間。太陽がジリジリと照らして夏の暑さもひとしおだ。
 周囲の畑に広がるカイバクも順調に日の光を浴びて大きくなっている。そろそろ肥を撒く頃合だろう。平年の今頃なら子供達も総出で草取りに励む頃だが、今年は毎日のように三角ホーで地面をカリカリカリカリ掻き起しているお陰で、株の間に生えた雑草を取るだけで済んでいる。
 畑のカイバクも平年に比べると青く大きい気がするが、雑草に養分が吸われていないからだろう。
 井戸に着きまずは水をガブ飲みするが、この暑い中熱気の篭る納屋の中で鍋を煮立たせていたのだから、喉が渇いていて当然だった。前世の知識がある俺が熱中症の一歩手前だったのだ。あれほど夏のニュースでやっていたのに、「水を飲むことすら忘れていた!」と反省のポーズで井戸の淵に手を置いてしまう。

「こんなポーズを取るのも小学校ぶりだな」

 あらかた汚れを落としてきたので、洗うと言ってもすすぐに近いかもしれない。

「よし綺麗になった」

 これなら母に小言を言われる事も無いだろう。ついでなので持てる量ではあるが水も汲んで帰る。
 エッチラオッチラ。汲んで来なければ良かった。家から井戸までの距離自体は100mも無いのだが、いくら持てる量とは言ってもやはり重かった。

「ママ、お鍋ありがとう」
「もう良いのね、あらお水も汲んで来てくれたのね、ありがとう」
「早くママのスープが飲みたかったの」

 腹黒いと言われようがゴマすりは忘れないさ。只でさえ慎ましい食事が慎ましさを増してしまったのだからな。
 生まれてこの方、大飢饉に当たっていないのか、食事の量に不満が残る事は無かった。
 まあ異世界知識があろうが俺は別段天才とかではないのだ。起きてしまったら飢饉を解除する手段なんてものはそうポンポン思いつくものでもない。その辺りは起こらない事を祈るばかりだ。

「じゃあ、早速お昼からスープを作るわね」
「やった~」
「エドは畑に行ってパパ達を呼んできてくれる」
「は~い」
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