異世界生活物語

花屋の息子

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34肉屋騒動

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「さ、終わったからお肉屋さんに行くわよ~」

 待ちに待ったって言っても、作業していたから時間的には待ってもいないのだが、やっと懸案の主原料調達に行ける。器もある燃芯も作った。後は油だけだったのだから。

「ちょっと待ってて~今行く~」

 作業台の上にある燃芯の束を片付けて、散らばったゴミを下のゴミ箱に落としてスペースを確保した。これで脂身を持ってきても作業台に置けると言う訳だ。
 食べる物でも無いので地面に置いても問題は無いのだが、そこは気分の問題だと思う。

「お肉屋さ~ん、お肉屋さ~ん」

 テンション高めなヘンテコソングを歌いながら母のもとに駈けて行った。
 獣脂灯明の話はしていないので、母からすれば「またウチの子は変な事考えてるわね」って言いたげな顔をしていたが、そこはご愛嬌という事にしておこうじゃないか。

「今度は何を考えているのかしら?」

 ビンゴ。若干ジト目というモノをしながら「何でウチの子はこうも変な事を考え付くの?」と、実際に言われないだけましと思っておこう。

「ママ~僕を変人みたいな言い方しないでよ」
「まあ、危ない事でなければ良いけど、気を付けるのよ」

 そんな事を言われながら今日の夕食のメインになる肉を買いに、俺は脂身を貰いに向かった肉屋で相も変わらずテンションだだ下がりの店主が、イキの良さそうな若いアンちゃん達に絡まれていた。貧相なおっちゃんに若いのが3人とか、オヤジ狩りか?といった光景だ。

「…だとしても何でファングラビがそんな値段なんだよ」
「だからね~。何度も言うけど血抜きが悪すぎて肉は食べられないし、ズタズタに傷だらけで皮も駄目では買い取り自体出来ないんだよ。さっきも言ったけどそれは歯の値段なんだよ。本来なら解体費用を貰いたいくらいなんだがね」

 ファングラビを持ち込んだのは成り立ての戦士モドキだろう。持ち込まれた化け兎は何度も剣撃を繰り返されていて、どれもこれも浅く致命傷にならないような傷。
 ただいたずらに皮をズタボロにしただけの稚拙な攻撃で、やっと倒した感が漂う素人の俺が言える話ではないが、いくらなんでもお粗末な討伐体だった。
 血抜きが悪いと言っていたが、血抜きの悪い肉など誰が好き好んで食べると言うのか。昔鉄砲撃ちをしていた猟友会のおっちゃんに、玄人と素人の仕留めた肉を両方貰った事があったけど、素人の方は噛めば噛むほど臭みが広がるマズイ肉だった。
 この兄ちゃんのウサギもそんな肉だって事なんだろう。いつも肉屋に売られている量からしても、これを買う人間なんか居ないだろうから、これを食べるのはこの世界では魔物しか居ないだろう。

「そんな事言って、儲けるつもりなんだろ、まだ駆け出しだからって馬鹿にすんなよ」
「そうだぞ。いい加減な事言うんじゃねぞ」
「ちゃんと買い取れ」

 本当にオヤジ狩りにしか見えない光景に、マジの不安を覚える、どう見ても俺達が助っ人に入ってどうこうなる感じでも無い、おっちゃんピンチ、どうなる俺の脂身!!!
 無理なタカリの様に集団で騒いでいる前で、いつもと変わらないおっちゃんを目にすると、ここはなんと言うかスーパーおっちゃん降臨って感じで、バカ共一掃して欲しいなんて思ってしまう。が現実にはそんな事が起きるはずも無い。

「そんなに言うなら君たち、この肉食べて見ると良い」

 覇気こそ感じなかったが、カウンターに置かれた兎をガッと掴んで、奥の解体台で覇気が出てればカッコいいのにと思うほどの手さばきで、モモの部分の肉を剥ぐと、カマドで良い感じにローストしていく。
 あんちゃんズは俺達の兎がってブツクサ言っていたが、そんな事に付き合わされたこっちはたまったもんじゃない。大渋滞のレジでクレームを付けるバカや、小銭を出そうとしてチマチマ出していくが結局は足りなくて札を出すバカと同じ。後ろに並んでいる方からしたら、どちらも大迷惑なのだ。

「これってまだ掛かるよね?」
「そうね」

 母と二人ため息しか出てこない。一般的な戦士団はテンプレ冒険者と違って真面目な人間が多い。狩猟だけとか護衛だけとか得意分野しかやらない訳ではなく、オールマイティーに荒事をこなすために、荒くれ者のイメージを付けたく無いからなのだろう。
 町の兵士が警察なら、戦士団は自衛隊といったところだろうか、まあ㈱自衛隊といった方が良いのかもしれないが。
 しかしそんな中にも例外はあって、それが目の前のあんちゃんズだ。多分彼らは大規模戦士団には入れなかった者達だろう。大規模の所には教官に当たる人が居てにらみを利かせている。
 しかし個人パーティのような所には、そのような人はおらず無法を行なう者も居る。あまりな事をしなければ兵が出張る事も無いが、悪戯が過ぎるとしょっぴかれるし、戦士団のイメージを守るために大規模から粛清部隊が出て来る事もある。その辺りも逮捕や軍法裁判と言い換えればどちらの世界にも似たような物があるものだなと感じた。
 そうしているうちに肉が焼けたのだろう、皿に盛られたローストチキン状の兎肉が兄ちゃん達の前に置かれる。

「さ、食べてみなさい。食べれば買い取れない訳が解るから」

 肉屋のおっちゃんが出した肉は、はた目から見たら美味しそうに見えるが、俺にもダメな理由がわからないほど良い感じに美味そうだ。
 当然兎をズタボロにした兄ちゃんズにダメな理由がわかるはずもなく。「「こんなに美味そうなのにどこがダメなんだ」」お、ハモった。
 怒気を篭らせた声で二人が、おっちゃんに文句を言った声がハモった事に笑いそうになってしまった。

「いいから食べて見なさい」

 そう言いながら、おっちゃんが皿の上の肉を切り分けて串を突き刺した。
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