異世界生活物語

花屋の息子

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30世界地図と寝床の入れ替え

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 余談だが、この世界の食中毒は魔物と並んで死因の上位を占める。風呂文化どころか手を洗う事すらおざなりにされるのだから当然といえば当然だと思えるが、微生物などの知識がなければ、手に付いた土などが料理に入らなければ良いだろうと、その程度の手洗いでも許されてしまうのだ。
  しかし俺は元衛生大国日本出身だ。流石に石鹸やアルコール消毒を導入する事はできなくても、手を揉み洗いして濁りが無くなるまでこすり合わせ、綺麗な水でしっかりとすすぐ。
 衛生的なハンカチなどは無いので、魔法の風でエアータオルを忘れない。魔法が使えるようになるまでは自然乾燥に頼っていたんだけど、この一連の行動は家族にいぶかしがられた。
 だが、昨年の夏に腹痛で2日唸った姉を巻き込み、(もう一度ああなりたくなかったら真似をしろと言ったのは脅迫ではない)、手洗いを徹底したお陰か去年はウチでは腹痛を訴えなくなった事から家族には浸透した行動だ。
 夕飯を終えた俺はグッスリと眠り、その結果として久方ぶりに世界地図を描いてしまったのは、何とも情け無い話だ。トイレに行って措けば良かった。
 世界地図を見た母は、「たまには年相応な事もするのね」と少し嬉しそうだった。なんせ小さい時から手をかけない様にして来た事で、俺に対する子育ては拍子抜けしていたのだ。たまに掛けさせてくれる手間は母にとっては、親やってるって実感が湧くから嬉しいらしい。
 それでも俺子供だし仕方ないよね、とはならない。中身はそれなりのお年なのだから、はっきり言って子供のそれとは比べ物にならないくらいしょげていた。

「オネショするなんてエドもまだ子供ね」

 普段からかえない分こう言う時は、ちょいちょいからかってくる姉を言い返せない。オネショ自体も一年以上していなかったから結構ショックが大きい。
 幸いな事に新しいワラは沢山あるし、寝床を新調するには丁度いい時期での出来事だったのかもしれない。
 んな事あるか~、めっちゃくちゃ恥ずかしかった。30すぎのオネショなんて恥ずかしくない訳がない。それはもう顔から火が出るどころか火事かと思ったくらいだ。
 頭は30のそれでも体は子供なので、どんなに疲れていようがトイレに行くのだけは、何が何でも忘れないようにしようと心に誓った。
 それはそれとして、今のように布団を乾せば良いというものでもないのがこの世界の常識。ここのところ俺がやらかさないから、寝床のストックも作り置きが無いので、朝食後寝床作りとなった。
 これは女性や子供の仕事で、成人男性は手を出さない。
 理由は簡単で、大人の男が作ると固くなりすぎるから寝心地が悪いのだ。寝床はコンパクト牧草そのものといった感じなのだが、重量は三分の一の10キロ程度で、長方形の木枠に蔓を2本配置したところにギュウギュウとワラを詰めていく。それを踏み固めたりするのだから男の体重で踏んだ日には固まりすぎてしまう。女性が詰め込みや子供が踏んで作った物であれば、締りが少し甘い作りになるために寝床として丁度良い柔らかさに仕上がるのだ。

「丁度いいから全員の代えも作ってしまいましょ、そろそろ代えなきゃと思っていた頃だったし」
「そうだね、それじゃリースとエドはワラを持ってきておくれ」

 流石に子供の体重や力でコンパクト牧草を作るのは出来ないので、寝床作りではワラ運びのお手伝いが子供の仕事だ。子供が運んだワラを母たちが均一に箱の中に押し詰めていき、それを蔦で縛ったら完成だ。
 これを大人一人分にすると6個ほど。子供用で4個必要になるのだから、残り35個。腕の長さから言って、子供が運べるのはせいぜい5キロ分。納屋の裏につんであるワラを運んでバラバラにしてなかなかの作業量だ。途中からは母たちもワラを運ぶ、流石の子供の体力でも20個分も運べばクタクタなのだ。
 作ったから終わりではないのが寝床換えのきつい所で、古い寝床を外に出さなければならない。半年も使えばつぶれて小さくはなるが、それに反してそれなりに重くもなる訳で、大きさは6割くらいだが重さは1割り増しになっている。部屋の外にさえ出せば良いのだがそれでも重いのよ。
 出来上がった物は夕方に帰ってきた父たちが部屋へと運び込んでくれる。4個ヒョイヒョイと掴んでは持って行く父を見て、あと十年十五年で父のように成れるかは不安が残るが、成らなければこの過酷な世界で生きていけないのだから、そのあたりは日本の恵まれた生活が懐かしい。
 運び込んだ帰りに古い方を外に積み上げてはの繰り返し、一日仕事をした人間の体力ではない。
 この使い古しの寝床は燃やされて灰になって畑に撒かれるのだが、今回はこれを堆肥にしてみようと思って全部譲り受けた。自家用の畑の隅に明日にでも父に運んでもらったら積み上げておくだけなのだが、夏の暑さで良く醗酵してくれるだろう。 水分含んでるし・・・
 秋の刈り入れ後には全面とは行かないが畑に撒けるだろう。本来であれば屋根を付けたところでやりたいが、実績も無いのでこれで我慢だ。問題は切り反しが出来ないから表面は使い物にならない事くらいだろうか。それとも父に鋤で助けてもらうか。途中までの出来で判断するしかないのが苦しい所だ。
 この世界では堆肥の文化が無かったのが驚きだった。微生物の知識は浸透していないのだが、物は腐るし酒はあるから醗酵も存在する。しかしその醗酵を酒造り以外ではあまり活用していない。
 家畜もいないのだからチーズなども無いので、活用機会は限られているのだろうが、堆肥を使えばもう少し収量を上げる事は可能だろう。森で捨ててくる細い枝や葉も堆肥として活用できるかもしれない。このあたりはこちらの世界に来ても日本の「モッタイナイ」精神は健在だ。と言うか労働対価を増やしたいと言うのもあるのだ。
 さあ人口増加に役立ってみますかね。
 なんて言ってみても、堆肥入れたから即時収量が倍増する訳ではないのだが、それはそれだ。
 魔素依存で農耕を行っているとしか思えないほど、この世界の農地はph管理の初期段階、灰を撒く、下肥を与えるくらいしかやっていない。
 動物と言う物がすべてモンスターに分類されるのだから、家畜の出したものから堆肥を作る事など出来ないでいたのも、堆肥が発展しなかった原因として考えられる訳だが。
 は~ぁ雑草の種さえ入り込まなきゃ草性堆肥作り放題なんだがな~、あの量のタネが入り込むリスクは何が何でも避けなきゃ畑が壊滅するしで、こう言うのを痛し痒しって言うのかね?
 うまい事ワラ堆肥が完成すれば、今まで燃やしていた分のワラを堆肥に回して雑草から灰を取ればいいのだから、その方が堅実な策とも言えるのだが……。何よりこのワラから始めてみるとしますかね。
 何と言っても、地球時代にも300キロオーバーの堆肥なんて作った事がないので、いくら積み上げておくだけといっても、これを畑に撒くときのことを考えると一人でやる作業じゃないなと思う。
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