異世界生活物語

花屋の息子

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12材木の調達、この世界?の結婚事情

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 多分6時頃だろう。人と大八車が揃ったので出発だ。流石に俺の足では邪魔になるので父が轢く大八車にちょこんと乗って積荷の斧を押さえる役だ。俺を含めてお荷物と言うんだけどな。
 土引きの道は荷車に乗るとデコボコがよく分かる。乗り心地は最悪で常に突き上げる衝撃が尻を打ち付けてくれる。                       
 2キロほどの道のりを行くと、町を囲う柵にお義理程度の門が付いた関所のような場所に着いた。
 柵の外はわずかに伐採がされているが200メートル無い程度で、その先は森森森。木が密集しているといった話ではなく、なぜここが安全な森なのか理解が出来ないほどに薄暗い密林が広がっていた。
 その口元にある切り株からは新芽が30㎝ほど吹き俺の心を和ませてくれる。森はこうやって再生していくんだね。

「エド。ここから先はどこに魔物がいるか解らない。気を抜くな」

 父の忠告が何時もの優しい口調から厳しい者に変わって、和んだ気持ちをどこかへ吹き飛ばしてしまった。

「切り株の新芽は魔物が近い印だ。木は魔物が出す魔力で勢い良く伸びるからな。この芽も前の伐採に入った地区のヤツラが刈ったはずだが、もうこんなにも伸びてしまっている」

 地球なら切り株から生えた新芽は木の世代交代のために大事にするが、この町が東を除いて森に囲まれているのは、この世界では森林破壊など起こり得ないからだった。
 切り株を見た時に衝撃を受けた。木を切ったら何十年も元に戻らない地球と違い、この世界では魔力での成長が存在する。それも年輪が見た事の無い幅で刻まれていたのだ。
 地球なら成長の良い木でも1㎝幅で、一般的にみれば5㎜程度だろう。それが直径40㎝の木に5本しか刻まれていない。脅威的なでは無く事実脅威なのだ。放置すれば簡単に町など飲み込まれる。

「エド。鉈はもう持てるな、皆が木を切って居る間、この辺りの芽を落としておいてくれ」

 普段は作業の終わりぐらいに芽を落とすらしいが、伐採作業に参加しない俺が居る今回は、ウロチョロさせない為にもちょうど良いと芽止めを仰せつかった?
 早速大人達は斧を打ち付け木の伐採に掛かるが、成長が良い割にしっかりしている木は簡単には切れず難儀している。まあチェーンソーじゃないしこの位は仕方ないかな、肉体強化系の魔法を常時使えれば難は無いのだが、それをやるといざという時に戦う体力が無くなるので魔法は使わないのが普通みたいだ。
 効率世界を知っているともどかしくて仕方が無い。
 俺の方は鉈の使い方に関しては山間部育ちの前世の記憶で問題無いが、そもそもの体力の問題でへばりそうだよ。
 それでも昼頃には、百程の切り株を処理して大人達に褒められた。代償にてはマメが出来たけどね。

「坊主良く泣き事も言わないで頑張ったな。エラいぞ。それに比べてお前らの情けね~事、疲れただなんだ言ってね~で、しっかりやれバカたれが」

 初心者組の青年達がおっちゃんAにボロクソに怒られながらの昼休憩となる。確かに作業中ちょいちょい後から「疲れた休憩」なんて聞こえてきたのだから、まだまだ一人前と認められるには時間がかかりそうだ。

「ウェイン、坊主の手を見てやれ」

 おっちゃんBに呼ばれた兄ちゃん。ウチの三軒向こうに住むウェイン君だ。コツコツ形の面倒見が良いお兄ちゃん的な頼りがいのある男である。

「あ~あこんなにして、エドワード頑張るのは良いけど頑張り過ぎるなよ。初めての奴らが怒られちゃうからな」
「へ~い、ってか結構痛いから早めに回復宜しくです」
「まあいいや。あいつらも何時までも大人に頼ってばかり居られないから、良い薬になるだろし」

 そんな事を言いながら俺の手に回復魔法を掛けてくれた。青年達には自活精神の強制植えつけとしか思えないが、甘ったれて居られるのは10歳を越えた辺りまでで、15歳前後には結婚する事を考えれば向こうで説教されている兄ちゃん達も、いい加減その自覚を持たなくてはいけない年ではあるのだ。
 ちなみにウェインはウチの父が娘婿にと狙っている男で、姉とは少しばかり歳が離れているが、ウチの場合は二代に渡って似た歳で結婚しているだけで、五つくらい男の方が上と言うのが世間的には多いらしい。

「いや~、次男で嫁が決まってる男は働きが違うもんな」っと取りあえず茶化せば、「まだ先の話だよ。畑もまだ一枚目だしな。あと五年くらいはかかるよ」とまじめ回答が帰ってきたりする。

 小学生の半ば辺りでもう将来の事を考えなければならないのも中学生辺りで結婚するのも、現代日本を知っている俺からすると何だか複雑な感じでしかないが、パラサイトしているおっさんおばさんよりまだましかな。
 俺の手が良く成ったところで昼メシになった。午後大人達は交代で各自の家まで丸太を運搬だ。
 俺は引き続き新芽刈になるのだが、当然魔物の影響を余り受けない街よりの切り株は、森からはなれた分伸びが悪いので、午前中より楽に作業を進められそうだ。
 昼メシはカイ麦製の分厚いクッキー?と肉の燻製にヒトア「ミニたまねぎ」を丸かじり、まあ外に持ち歩く弁当何てこんなもんさ。贅沢は言えないよ。
 でもね思ったよ。から揚げ弁当が食べたいって。良いじゃないか転生者だもの。
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