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第三章 kiss
樹の覚悟
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「私を追い出す?久住から?ふざけたことを…」
「俺は…本気です。」
婆様は俺を見据え
「私は、そう簡単に手を引かないわよ。」と言って、唇を噛んだ。
「望むところです。」
すべて、はったりだ。まだ婆様を追い出すだけの物は、俺の手の内にはない。だが…ここで引くわけには行かない、引けば…必ず…やられる。
はったりでどこまで、逃げ切れるかわからないが…今のところは、婆様に動揺させるだけのものはあったようだ。
だが…婆様は笑みを浮かべ
「その強気は、レディ・ウェンデイを手に入れているから…?やっぱり、松下さんじゃなかったのね。お前が付き合った女性らは、松下さんみたいな女性ばっかりだったから、すっかり騙されてしまったわ。」
そう言って、葉月ちゃんを見て
「樹は自分の容姿を最大限に使って…女を誑かし、権力を掴もうとする曲者なの。前にも弟の婚約者をそうやって手にいれ、久住も乗っ取ろうとしたの。レディ・ウェンデイ…あの容姿に誑かされてはいけませんわ。」
思わず、俺は葉月ちゃんを見た。
葉月ちゃんのへーゼルの瞳が、大きく見開き俺を見ている。
婆様の言葉を真に受けないでくれ。
周りから攻めて行くやり方は常套手段だが…くそっ!
落ち着け…そう、落ち着くんだ。
「私は…」
葉月ちゃん?
「私は久住さんに《もう会わない》と言われました。《会いたい》《離れたくない》と叫んだ私の声に、振り向きもしないで…。もし、あなたの仰るとおりなら…そんなことをする意味がわかりません。誑かすのなら、そこで…甘い言葉を囁けばいいのに…久住さんは行ってしまいました。あんなに叫んだのに…振り向いてもくれなくて…」
「…レディ・ウェンデイ。」
「私は高宮 葉月です。どうか、その名前では呼ばないでください。」
婆様が悔しそうに唇を噛むのが見え、なにか…言いたげに、俺を睨んだときだった。
だが…
ピンポン~♪
と軽快な音と、そして入って来たふたりに、俺を睨んでいた婆様の眼が、大きく見開いていき、唖然とした顔で、頭を何度も横に振り、言葉を探していたようだったが、ようやく、掠れた声で
「秋継…?松下さん?あなた達がどうして?……まさか…ふたりも…。」
「はい、そういうことです。」
「手を結んでいるのね。樹と…」
「…と言うより、葉月とですが。」
「…秋継、おまえまで…なにを考えているの。?」
「俺は…もう嫌なんだよ。婆様が権力を持ち続けたいが為に利用されるのは…嫌なんだよ!…久住を出る……。俺も、由梨奈も久住家を出る。」
「秋継…。樹なのね!樹!どこまで、私の前を塞ごうとするの!」
そう言って、俺に掴みかかろうとする婆様の手を握り
「婆様…俺はあなたが進みたい道を塞ぐつもりはありません。ですが…。」
俺は、秋継を、理香さんを、そして葉月ちゃんに視線を動かし、婆様の手を外した。
「俺の大事な人達を、踏み台にするのなら…俺は体を張ってでも、止めてみせます。」
「やれるかしら…」
「厳しいでしょうね。でも、俺が勝てなくても、この中の誰かが…婆様に勝てるかもしれない。」
その言葉に反応したように、理香さんが足を一歩前に進めるのが見え、俺は…口を開こうとする理香さんを眼で止めた。
言うつもりだ…婆様を脅かす何かを…
婆様を揺るがす何かを持っているような素振りは、前々から感じていたから、もし…その時は止めるつもりだった。
秋継が、何を言っても、何をしても…大事な血縁だ、徹底的に潰しにはかからないだろう。
だが、理香さんはダメだ。表立って婆様を脅せば…潰される。
だから…言わせてはいけない。もし…理香さんに何かあれば、葉月ちゃんも傷つく。
言わせないように理香さんを見据えた俺の眼を、睨むように見ていた理香さんだったが…口元に薄っすらと笑みを浮かべ俯いたが…すぐに顔を上げ、俺に中指を立て、ブスッとした顔で葉月ちゃんの下へと歩いていった。
クスッ…すみません、理香さん。今回は俺に仕切らせてください。
好きな女の前で、カッコいいところを見せたいので…。
「婆様、今のあなたは分が悪い。どうしますか?ここでカードを切って、あなたを潰してもいいですが。」
「…ここを出て行けというのね。いいわ。今日は引き上げるわ。」
そう言って、婆様は笑うと
「樹こそいいの?ここで私を潰さなかったことを後悔するかもよ。」
「そうかもしれません…ですが、あなたに翻弄され、傷ついた人たち…秋継と俺の両親。そして…由梨奈にもあなたが潰れるところを、見せたいので…今日はこれくらいで…」
ピンポン~♪
婆様は何も言わず…出て行った。
「始まった…。」
俺は、出て行った婆様の背中を見つめながら、そんな言葉を呟いていた。
「俺は…本気です。」
婆様は俺を見据え
「私は、そう簡単に手を引かないわよ。」と言って、唇を噛んだ。
「望むところです。」
すべて、はったりだ。まだ婆様を追い出すだけの物は、俺の手の内にはない。だが…ここで引くわけには行かない、引けば…必ず…やられる。
はったりでどこまで、逃げ切れるかわからないが…今のところは、婆様に動揺させるだけのものはあったようだ。
だが…婆様は笑みを浮かべ
「その強気は、レディ・ウェンデイを手に入れているから…?やっぱり、松下さんじゃなかったのね。お前が付き合った女性らは、松下さんみたいな女性ばっかりだったから、すっかり騙されてしまったわ。」
そう言って、葉月ちゃんを見て
「樹は自分の容姿を最大限に使って…女を誑かし、権力を掴もうとする曲者なの。前にも弟の婚約者をそうやって手にいれ、久住も乗っ取ろうとしたの。レディ・ウェンデイ…あの容姿に誑かされてはいけませんわ。」
思わず、俺は葉月ちゃんを見た。
葉月ちゃんのへーゼルの瞳が、大きく見開き俺を見ている。
婆様の言葉を真に受けないでくれ。
周りから攻めて行くやり方は常套手段だが…くそっ!
落ち着け…そう、落ち着くんだ。
「私は…」
葉月ちゃん?
「私は久住さんに《もう会わない》と言われました。《会いたい》《離れたくない》と叫んだ私の声に、振り向きもしないで…。もし、あなたの仰るとおりなら…そんなことをする意味がわかりません。誑かすのなら、そこで…甘い言葉を囁けばいいのに…久住さんは行ってしまいました。あんなに叫んだのに…振り向いてもくれなくて…」
「…レディ・ウェンデイ。」
「私は高宮 葉月です。どうか、その名前では呼ばないでください。」
婆様が悔しそうに唇を噛むのが見え、なにか…言いたげに、俺を睨んだときだった。
だが…
ピンポン~♪
と軽快な音と、そして入って来たふたりに、俺を睨んでいた婆様の眼が、大きく見開いていき、唖然とした顔で、頭を何度も横に振り、言葉を探していたようだったが、ようやく、掠れた声で
「秋継…?松下さん?あなた達がどうして?……まさか…ふたりも…。」
「はい、そういうことです。」
「手を結んでいるのね。樹と…」
「…と言うより、葉月とですが。」
「…秋継、おまえまで…なにを考えているの。?」
「俺は…もう嫌なんだよ。婆様が権力を持ち続けたいが為に利用されるのは…嫌なんだよ!…久住を出る……。俺も、由梨奈も久住家を出る。」
「秋継…。樹なのね!樹!どこまで、私の前を塞ごうとするの!」
そう言って、俺に掴みかかろうとする婆様の手を握り
「婆様…俺はあなたが進みたい道を塞ぐつもりはありません。ですが…。」
俺は、秋継を、理香さんを、そして葉月ちゃんに視線を動かし、婆様の手を外した。
「俺の大事な人達を、踏み台にするのなら…俺は体を張ってでも、止めてみせます。」
「やれるかしら…」
「厳しいでしょうね。でも、俺が勝てなくても、この中の誰かが…婆様に勝てるかもしれない。」
その言葉に反応したように、理香さんが足を一歩前に進めるのが見え、俺は…口を開こうとする理香さんを眼で止めた。
言うつもりだ…婆様を脅かす何かを…
婆様を揺るがす何かを持っているような素振りは、前々から感じていたから、もし…その時は止めるつもりだった。
秋継が、何を言っても、何をしても…大事な血縁だ、徹底的に潰しにはかからないだろう。
だが、理香さんはダメだ。表立って婆様を脅せば…潰される。
だから…言わせてはいけない。もし…理香さんに何かあれば、葉月ちゃんも傷つく。
言わせないように理香さんを見据えた俺の眼を、睨むように見ていた理香さんだったが…口元に薄っすらと笑みを浮かべ俯いたが…すぐに顔を上げ、俺に中指を立て、ブスッとした顔で葉月ちゃんの下へと歩いていった。
クスッ…すみません、理香さん。今回は俺に仕切らせてください。
好きな女の前で、カッコいいところを見せたいので…。
「婆様、今のあなたは分が悪い。どうしますか?ここでカードを切って、あなたを潰してもいいですが。」
「…ここを出て行けというのね。いいわ。今日は引き上げるわ。」
そう言って、婆様は笑うと
「樹こそいいの?ここで私を潰さなかったことを後悔するかもよ。」
「そうかもしれません…ですが、あなたに翻弄され、傷ついた人たち…秋継と俺の両親。そして…由梨奈にもあなたが潰れるところを、見せたいので…今日はこれくらいで…」
ピンポン~♪
婆様は何も言わず…出て行った。
「始まった…。」
俺は、出て行った婆様の背中を見つめながら、そんな言葉を呟いていた。
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理香さんが男前すぎて樹の立場がない・・・。
もう少ししたら、樹のカッコいいところを…と思ってます。(汗)
で、できるかなぁ…。がんばります!
*感想ありがとうございました。*