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1章 葉月と樹
樹・・・止血を頼む。
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俺は怪我をした右手を見て息を吐くと、前を歩く理香さんに
「理香さん、手を怪我したので、今日は車ではないんです。タクシーを呼びましょうか?」
俺の問いかけに、答えようとしていた理香さんを…今度は理香さん自身のスマホが遮るように曲を鳴らした。
「悪い…手下からの電話だ。」
「手下?」
手下?と言った俺に、理香さんはニヤリと笑うと…
「葉月の側にあたしの手下を置いているんだ。」と言って、スマホをとると
「おぅ、丸山。葉月になにかあったのか?」
《松下さん。10分ほど前に…目がキツイ男が葉月さんを訪ねて来たんです。》
「…そいつを葉月は知っているようだったか?」
《【弟久住さん】と、葉月さんは呼んでいたので、知っていると思います。その男を追い払うことも出来ましたが、悪い奴には思えませんでしたので、一応葉月さんの勤務が終わるまで待てと言って、追い出しました。》
「時間はあとどれくらいあるんだ。」
《約50分ぐらいかと…》
「そうか…出かしたぞ丸山。報酬にイロをつけておく。また頼むな。」
《松下さん、前もイロをつけると言って、100円でしたよね。ぬか喜びはさせないでくださいよ。》
「丸山…は、あたしに意見するんだ。エラくなったよな。」
《…エラ、エラくなんか、ないです!がんばります!》
電話をかけてきた相手は、慌てて電話を切ったようだが、理香さんは…もう切って聞こえるはずはないのに…
「いつもありがとうな。」と唇を動かし、笑みを作った。
だがスマホをバックに仕舞うと、表情は一変し、厳しい顔で
「お前の弟は目障りだ。」と言って俺を見た。
「場合によっちゃ、久住 秋継を潰す。ブラコンの樹。悪く思うなよ。」
「理香さん…」
そう言って、走り出した理香さんの背中に、俺は
「ダメです!理香さんが秋継に手を出したら、例え、指一本でも…婆様は傷害事件にするでしょう。そうなってしまったら、葉月ちゃんが悲しみます。理香さんの人生を狂わしたと言って、きっと泣きます。でも俺なら兄弟喧嘩で…済む。だから俺が…もしもの場合は俺が…」
「樹…。」
そう言って、俯いた理香さんは…息を吐くと
「お前のほうが冷静だなぁ。だが…お前が弟に手を上げても、あいつは…泣くよ。」
俺は、黙って理香さんを見た。
・
・
・
タクシーを使ったが、途中大きな交通事故の為に、道路は混んでいて、駅に着いたのは、弁護事務所を出て、おそらく30分後。
コンビニの前で、座り込む秋継を見たが、だが、俺と理香さんは動かなかった。
いや…秋継の動きよりも…もっと気になる、動きをする人影に気が付いたからだった。
「おまえも、気が付いたか?」
「はい。誰でしょうか?あの外国人の少年は…コンビニの中の葉月ちゃんを気にしているように見えますが、やはり…」
「あぁ、葉月を気にする外国人といったら、一番に頭に浮かぶのは…ウッドフォード国の人間だ。おそらく、そうだろう。それにあの赤毛…は」
「赤毛になにか?」
「あたしも写真でしか…それも5年程前の写真だから、はっきりとは言えないが、あの燃えるような赤毛は、ワイアット王子かも…。」
「イーニアス王兄殿下の…」
「あぁ、ワイアット王子自体は、どうでもいい。王子といっても、あんなガキなんかに舐められやしない。だが、あの頭の足りないと評判のワイアット王子が、葉月の前に現れた事が、少々気になる。
あのバカ王子が気づいたということは…
葉月ちゃんの父親であるセオドール陛下も、葉月ちゃんの動きを把握している、と言う可能性が大だ。どう動かれるのか…気になる。
そしてワイアット王子の父親であるイーニアス王兄殿下が、どこまであのバカ王子の動きを知っているのかも…あるいは黒幕なのかも…気になる。」
その時…
『いつまで逃げるんですか?Wendy』と流暢な日本語が、赤毛の少年の唇から出てきた。
・
・
・
「間違いないようですね。」
「バカ王子だ。」
・
・
・
『…あなたは誰?なぜ…私の…』
『おまえは…』
と、葉月ちゃんと秋継の戸惑う姿が見えた。そんな二人をワイアット王子は、クスクスと笑い声をあげてると、芝居がかったように、両手を広げ
『Wendy。僕は君の夫になるために、こんな島国にやってきたんだ。もっと、可愛い笑顔で迎えて欲しいなぁ。』
と、言いながら、葉月ちゃんへと足を動かし始めた。
・
・
・
「さて…動きますかね。悪いけど、怯え震えるヒロインを抱きしめに行く役はあたしな。だが、颯爽と悪人の前に現れ、ヒロインをその背に隠すヒーローは譲ってやるからな。」
「俺は…どちらかと言うと…」
「ダメ!」
俺と理香さんは、同時に笑みを浮かべた。
こんなときに…いやこんなときだからこそ、笑いたい。
他国の王家の人間に、まともにぶち当たれば…どう跳ね返されるかわからない。
いや、そのあとに来る報復にも、どうすれば良いのかわからない。
だが躊躇している場合ではない。
「こんなに早く、お前に血を流してもらう事に、なってしまうとは…。ガラスで傷ついた、その右手よりも、痛いかもしれないぞ。」
そう言って、俺の右手を見た理香さんは、苦しそうに
「心に付けられた傷は、多少の出血でも堪えるぞ。」
「血を流す事に恐れはないって、前に言ったでしょう。大丈夫です。」
「そうか…」
そう言って、空を見上げ
「…じゃぁ…行きますか。」
「でもまだ、プロローグの段階で倒れるわけには行かないので、止血を頼みますよ。」
「おっ、了解!」
俺と理香さんは、ワイアット王子が、秋継が、そして…葉月ちゃんがいる場所へと、歩き出した。
(守る。俺は君を守る。そのためなら…)
「理香さん、手を怪我したので、今日は車ではないんです。タクシーを呼びましょうか?」
俺の問いかけに、答えようとしていた理香さんを…今度は理香さん自身のスマホが遮るように曲を鳴らした。
「悪い…手下からの電話だ。」
「手下?」
手下?と言った俺に、理香さんはニヤリと笑うと…
「葉月の側にあたしの手下を置いているんだ。」と言って、スマホをとると
「おぅ、丸山。葉月になにかあったのか?」
《松下さん。10分ほど前に…目がキツイ男が葉月さんを訪ねて来たんです。》
「…そいつを葉月は知っているようだったか?」
《【弟久住さん】と、葉月さんは呼んでいたので、知っていると思います。その男を追い払うことも出来ましたが、悪い奴には思えませんでしたので、一応葉月さんの勤務が終わるまで待てと言って、追い出しました。》
「時間はあとどれくらいあるんだ。」
《約50分ぐらいかと…》
「そうか…出かしたぞ丸山。報酬にイロをつけておく。また頼むな。」
《松下さん、前もイロをつけると言って、100円でしたよね。ぬか喜びはさせないでくださいよ。》
「丸山…は、あたしに意見するんだ。エラくなったよな。」
《…エラ、エラくなんか、ないです!がんばります!》
電話をかけてきた相手は、慌てて電話を切ったようだが、理香さんは…もう切って聞こえるはずはないのに…
「いつもありがとうな。」と唇を動かし、笑みを作った。
だがスマホをバックに仕舞うと、表情は一変し、厳しい顔で
「お前の弟は目障りだ。」と言って俺を見た。
「場合によっちゃ、久住 秋継を潰す。ブラコンの樹。悪く思うなよ。」
「理香さん…」
そう言って、走り出した理香さんの背中に、俺は
「ダメです!理香さんが秋継に手を出したら、例え、指一本でも…婆様は傷害事件にするでしょう。そうなってしまったら、葉月ちゃんが悲しみます。理香さんの人生を狂わしたと言って、きっと泣きます。でも俺なら兄弟喧嘩で…済む。だから俺が…もしもの場合は俺が…」
「樹…。」
そう言って、俯いた理香さんは…息を吐くと
「お前のほうが冷静だなぁ。だが…お前が弟に手を上げても、あいつは…泣くよ。」
俺は、黙って理香さんを見た。
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タクシーを使ったが、途中大きな交通事故の為に、道路は混んでいて、駅に着いたのは、弁護事務所を出て、おそらく30分後。
コンビニの前で、座り込む秋継を見たが、だが、俺と理香さんは動かなかった。
いや…秋継の動きよりも…もっと気になる、動きをする人影に気が付いたからだった。
「おまえも、気が付いたか?」
「はい。誰でしょうか?あの外国人の少年は…コンビニの中の葉月ちゃんを気にしているように見えますが、やはり…」
「あぁ、葉月を気にする外国人といったら、一番に頭に浮かぶのは…ウッドフォード国の人間だ。おそらく、そうだろう。それにあの赤毛…は」
「赤毛になにか?」
「あたしも写真でしか…それも5年程前の写真だから、はっきりとは言えないが、あの燃えるような赤毛は、ワイアット王子かも…。」
「イーニアス王兄殿下の…」
「あぁ、ワイアット王子自体は、どうでもいい。王子といっても、あんなガキなんかに舐められやしない。だが、あの頭の足りないと評判のワイアット王子が、葉月の前に現れた事が、少々気になる。
あのバカ王子が気づいたということは…
葉月ちゃんの父親であるセオドール陛下も、葉月ちゃんの動きを把握している、と言う可能性が大だ。どう動かれるのか…気になる。
そしてワイアット王子の父親であるイーニアス王兄殿下が、どこまであのバカ王子の動きを知っているのかも…あるいは黒幕なのかも…気になる。」
その時…
『いつまで逃げるんですか?Wendy』と流暢な日本語が、赤毛の少年の唇から出てきた。
・
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「間違いないようですね。」
「バカ王子だ。」
・
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『…あなたは誰?なぜ…私の…』
『おまえは…』
と、葉月ちゃんと秋継の戸惑う姿が見えた。そんな二人をワイアット王子は、クスクスと笑い声をあげてると、芝居がかったように、両手を広げ
『Wendy。僕は君の夫になるために、こんな島国にやってきたんだ。もっと、可愛い笑顔で迎えて欲しいなぁ。』
と、言いながら、葉月ちゃんへと足を動かし始めた。
・
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「さて…動きますかね。悪いけど、怯え震えるヒロインを抱きしめに行く役はあたしな。だが、颯爽と悪人の前に現れ、ヒロインをその背に隠すヒーローは譲ってやるからな。」
「俺は…どちらかと言うと…」
「ダメ!」
俺と理香さんは、同時に笑みを浮かべた。
こんなときに…いやこんなときだからこそ、笑いたい。
他国の王家の人間に、まともにぶち当たれば…どう跳ね返されるかわからない。
いや、そのあとに来る報復にも、どうすれば良いのかわからない。
だが躊躇している場合ではない。
「こんなに早く、お前に血を流してもらう事に、なってしまうとは…。ガラスで傷ついた、その右手よりも、痛いかもしれないぞ。」
そう言って、俺の右手を見た理香さんは、苦しそうに
「心に付けられた傷は、多少の出血でも堪えるぞ。」
「血を流す事に恐れはないって、前に言ったでしょう。大丈夫です。」
「そうか…」
そう言って、空を見上げ
「…じゃぁ…行きますか。」
「でもまだ、プロローグの段階で倒れるわけには行かないので、止血を頼みますよ。」
「おっ、了解!」
俺と理香さんは、ワイアット王子が、秋継が、そして…葉月ちゃんがいる場所へと、歩き出した。
(守る。俺は君を守る。そのためなら…)
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