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1章 葉月と樹
葉月・・唖然。樹・・頭を下げる。
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「ようやく、姫を見つけた。さぁ、早く国へ帰って、僕と結婚しょう。」
・
・
・
「…弟久住さん、私…日本語しかわからないので…通訳してくれません。」
「高宮…。いまのは完全に日本語だぜ。」
「じゃぁ…『ようやく、姫を見つけた。さぁ、早く国へ帰って、僕と結婚しょう。』って、この外国人の少年が言ったように聞こえたのは…気のせいでは…ない?」
「あぁ、俺もそう聞こえた。」
「何をこそこそと言っているんですか?」
・
・
・
や…やばいかも…まだ少年だけど、こ、これは刺激を与えないように去るしかない。この際、弟久住さんに犠牲になってもらおう。それがいい。一応弟久住さんも男だもん、大丈夫。たぶん…大丈夫。
いつも、鈍いと言われる私の頭が…ここぞとばかりに、スーパーコンピュータ並みに判断をすると…私に笑顔を作り出させ
「じゃぁ、私はこれで…。ジョセフィーヌさんと約束があるので…」
「お、おい、高宮!逃げんなよ。こんな変な奴とふたりにするなよ!」
「で、でも、私は忙しいので!」
と、走り出した私の足をたった一言の言葉が止めた。
「また、逃げるんですか?」
「えっ?また…って、どういう意味?」
ゆっくりと、振り返った私に…その少年はにっこりと微笑むと
赤い髪をかきあげ、緑の瞳を細めながら
「いつまで逃げるんですか?Wendy」
・・・と言った。
「…あなたは誰?なぜ…私の…」
「おまえは…」
赤い髪の間から見える緑の瞳は、クスクスと笑うと
「Wendy。僕は君の夫になるために、こんな島国にやってきたんだ。もっと、可愛い笑顔で迎えて欲しいなぁ。」
****
翌朝、俺は理香さんの事務所を尋ねた。
俺が訪れるのは、仕事が終わった夕方だと、理香さんは思っていたんだろう。事務所で、理香さんを待っていた俺の姿を見て、驚いたように「仕事はどうした?」と聞いてきた。
俺は、右手を理香さんに見せると、どう顔を繕っていいものかわからず、ただ…ひとこと
「…これで、午前中は休みにしました。」
「喧嘩か?お前、結構できるもんなぁ、あたしのフックを手で受け止めたのはお前ぐらいだしなぁ。お前が怪我をするくらいなら、かなりの腕だなぁ。おい、誰とやったんだ?」
理香さんは俺の右手を見て、ニヤリと笑うと
「弁護士は必要か?もみ消すのは…得意だぞ。」
「喧嘩なんかしませんよ。一応、俺も久住の人間です、怪我をするほどの喧嘩などやったら、どんなことになるのか、わかっているつもりです。ましてや理香さんにもみ消しなど頼んだら、それをネタに強請られそうですしね。そんなハイリスクはしません。」
理香さんは嫌そうに小鼻に皺寄せ
「じゃぁ…どうした?」
「…ガラスで…」
「ガラス?」
「…ビールグラスで…」
「はぁ?」
「ビールグラスを手で潰しました!」
「…やっぱ、馬鹿だ。いや馬鹿力だ。」
右手の包帯に目をやり理香さんは…はぁ~と大きな溜め息をつき
「あたしは…熱血ドラマは嫌いじゃないよ。だが…樹、お前はそんなキャラじゃねぇーだろう。イメージが狂うぜ、まったく…。」
「…すみません。」
「…いろいろ、考えていたら、やっちまったんだなぁ。」
「はい。いろいろ考えて、いろいろ気が付きました。理香さんが言っていた、葉月ちゃんより俺のほうが鈍いという意味も…」
理香さんは、ハッとしたように、俺を見て
「そうか…お前には悪いと思ってる。だが…」
理香さんの声を遮るように、俺の胸元に入っていたスマホが、軽やかなメロディを奏でた。
そのメロディは、職場からだったが、俺はスマホを取るのを躊躇した。そんな俺に
「職場からか?出ろよ。」
「はい、すみません。」
俺はそう言って立ち上がり、理香さんの部屋から出ようとしたが、
『そうか…お前には悪いと思ってる。だが…』と言いかけた、理香さんの言葉の続きが気になって、「理香さん」と言いながら振り返って、言葉を失くした。
理香さんは、俺に背を向け、タバコをくわえ
「かなわぬ夢、揺れ続ける思い…か」
そう言って、やめようとしていたはずのタバコをくゆらせていたからだ。
吸わないと、堪らない思いにさせているのかと思うと、俺は理香さんに軽く頭を下げ、軽やかなメロディを奏でるスマホを片手に部屋を出た。
・
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「…弟久住さん、私…日本語しかわからないので…通訳してくれません。」
「高宮…。いまのは完全に日本語だぜ。」
「じゃぁ…『ようやく、姫を見つけた。さぁ、早く国へ帰って、僕と結婚しょう。』って、この外国人の少年が言ったように聞こえたのは…気のせいでは…ない?」
「あぁ、俺もそう聞こえた。」
「何をこそこそと言っているんですか?」
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や…やばいかも…まだ少年だけど、こ、これは刺激を与えないように去るしかない。この際、弟久住さんに犠牲になってもらおう。それがいい。一応弟久住さんも男だもん、大丈夫。たぶん…大丈夫。
いつも、鈍いと言われる私の頭が…ここぞとばかりに、スーパーコンピュータ並みに判断をすると…私に笑顔を作り出させ
「じゃぁ、私はこれで…。ジョセフィーヌさんと約束があるので…」
「お、おい、高宮!逃げんなよ。こんな変な奴とふたりにするなよ!」
「で、でも、私は忙しいので!」
と、走り出した私の足をたった一言の言葉が止めた。
「また、逃げるんですか?」
「えっ?また…って、どういう意味?」
ゆっくりと、振り返った私に…その少年はにっこりと微笑むと
赤い髪をかきあげ、緑の瞳を細めながら
「いつまで逃げるんですか?Wendy」
・・・と言った。
「…あなたは誰?なぜ…私の…」
「おまえは…」
赤い髪の間から見える緑の瞳は、クスクスと笑うと
「Wendy。僕は君の夫になるために、こんな島国にやってきたんだ。もっと、可愛い笑顔で迎えて欲しいなぁ。」
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翌朝、俺は理香さんの事務所を尋ねた。
俺が訪れるのは、仕事が終わった夕方だと、理香さんは思っていたんだろう。事務所で、理香さんを待っていた俺の姿を見て、驚いたように「仕事はどうした?」と聞いてきた。
俺は、右手を理香さんに見せると、どう顔を繕っていいものかわからず、ただ…ひとこと
「…これで、午前中は休みにしました。」
「喧嘩か?お前、結構できるもんなぁ、あたしのフックを手で受け止めたのはお前ぐらいだしなぁ。お前が怪我をするくらいなら、かなりの腕だなぁ。おい、誰とやったんだ?」
理香さんは俺の右手を見て、ニヤリと笑うと
「弁護士は必要か?もみ消すのは…得意だぞ。」
「喧嘩なんかしませんよ。一応、俺も久住の人間です、怪我をするほどの喧嘩などやったら、どんなことになるのか、わかっているつもりです。ましてや理香さんにもみ消しなど頼んだら、それをネタに強請られそうですしね。そんなハイリスクはしません。」
理香さんは嫌そうに小鼻に皺寄せ
「じゃぁ…どうした?」
「…ガラスで…」
「ガラス?」
「…ビールグラスで…」
「はぁ?」
「ビールグラスを手で潰しました!」
「…やっぱ、馬鹿だ。いや馬鹿力だ。」
右手の包帯に目をやり理香さんは…はぁ~と大きな溜め息をつき
「あたしは…熱血ドラマは嫌いじゃないよ。だが…樹、お前はそんなキャラじゃねぇーだろう。イメージが狂うぜ、まったく…。」
「…すみません。」
「…いろいろ、考えていたら、やっちまったんだなぁ。」
「はい。いろいろ考えて、いろいろ気が付きました。理香さんが言っていた、葉月ちゃんより俺のほうが鈍いという意味も…」
理香さんは、ハッとしたように、俺を見て
「そうか…お前には悪いと思ってる。だが…」
理香さんの声を遮るように、俺の胸元に入っていたスマホが、軽やかなメロディを奏でた。
そのメロディは、職場からだったが、俺はスマホを取るのを躊躇した。そんな俺に
「職場からか?出ろよ。」
「はい、すみません。」
俺はそう言って立ち上がり、理香さんの部屋から出ようとしたが、
『そうか…お前には悪いと思ってる。だが…』と言いかけた、理香さんの言葉の続きが気になって、「理香さん」と言いながら振り返って、言葉を失くした。
理香さんは、俺に背を向け、タバコをくわえ
「かなわぬ夢、揺れ続ける思い…か」
そう言って、やめようとしていたはずのタバコをくゆらせていたからだ。
吸わないと、堪らない思いにさせているのかと思うと、俺は理香さんに軽く頭を下げ、軽やかなメロディを奏でるスマホを片手に部屋を出た。
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