46 / 67
1章 葉月と樹
樹・・・叫ぶ。葉月・・・下がる。
しおりを挟む
「…君が…好きだ。」
呟くようにしか言えない言葉に…
行き場のない言葉に…
俺はベランダから、一番煌く町の灯りに向かって叫んだ。
「俺は!君が好きだ!」
手すりにもたれ、町の煌く灯りから、天上の煌きに眼を移し、噛み締めるように言った。
「…好きなんだ。」
でも俺が側にいることで、葉月ちゃんを危険に晒すのなら…離れるしかない。
離れるしか…ないんだ。
秋継が何か感じたことで、足元が危うくなってしまったかもしれないのなら尚更だ。だが、離れるその前に、危険になるような芽は摘んでおきたい。
秋継は葉月ちゃんを見て、知っている人に似ていると言った…いったい誰に?
まさか、葉月ちゃんの両親に会ったことが…あるのか?
いや…葉月ちゃんの父親は、小国とはいえ王家の人間だ。いくら久住家でも、そう簡単に会えないだろう。でも昔からの知人なら、ありえるかも知れない。だが、もし会っていたとしても、葉月ちゃんの父親が、日本に留学していた頃は、まだ秋継が小学生ぐらいだ、知人と言える間柄になるとは到底思えない。
でも誰かに…連れられて…
そしてその誰かが、ウッドフォード国の王家と…旧知の間柄だったなら…
ひとりしかいない……婆様だ。
まだ、気づいていないようだったが、間違いなくあの婆様ならいずれ気づく。
くそっ!
焦るな、まず確かめよう。
俺は、もう一度花見中央駅辺りに眼をやり
「必ず守る。守ることが…」
だがそれから先の言葉は、もう…言えなかった。
溢れそうな思いを止める様に、俺は唇を噛むと、養父の部屋へと足を向けた。
養父なら、知っているはずだ。
ウッドフォード国の王家と…久住との関係を…
*****
唖然としていた私に、弟久住さんは呆れたように
「お前、俺が何を言っているのか、理解していないようだな。」
「…確かにウエンディと呼ぶ金髪で、青い眼の人がいたことは覚えていますけど、私を呼んでいたのか、違う人を呼んでいたのか…わからないから…だから…父とは限りません。」
「でもな、金髪の男が苦笑気味に【やっぱり、Wendyは言いづらい?でも、ウッドフォード国に行ったら、兄には葉月という発音は難しいから、Wendyで頼むよ。弥生。】と言ったんだぜ。」
「でも、わかりません!私の名前の葉月と、母の名前の弥生を言っていたその人が…その金髪の男性が弟久住さんの言っている通りだとしても…。そうだとしても…。でも!それがなぜ、ウッドフォード国の王妃になった久住家の人と、私が似ているんですか?!」
「それはお前の父親が…王家の人間だからだよ。」
えっ?おうけ?OK(おーけー)…?
「おまえ…下らない事を考えているだろう。顔が…変だ。」
「…もともと、こんな顔ですよ。」
「はぁぁ…お前って奴は…面倒な奴だなぁ。いいか、お前にとって高祖母(祖父母の祖母)久住 桂子は、お前の父親にとっては、曽祖母(祖父母の母)なんだ!と、俺は言ってるんだよ!」
「あの…系図が…よくわからないです。」
「ふぅ…要するに、ウッドフォード国王の王妃となった久住 桂子は、お前から見れば、4代前の婆ちゃんだと言ってるんだ。」
「えっ?じゃぁ…私の父親はもしかして王様?!……いやないです。それって人違いですよ。私の母親はごく普通の日本人。そのごく普通の日本人が、どこで王様になるような人と知り合うんですか?うち、めちゃめちゃ貧乏だったんですよ。まったく接点がないです。もう、冗談はやめてください。もし本当だったら、すっ~ごく薄いけど、弟久住さんと血の繋がりがあるってことじゃないですか!!ゲェ~ほんと!やめてください!」
「お前なぁ…。なんか論点がずれてきてるぞ。それって、俺と血の繋がりがあるって言うのが、嫌だと言っているだけじゃないか!…面白くねぇけど…いいよ……でもなぁ、ここは父親がウッドフォード国の王家の人間と言うところを気にするべきだろう?!大事なところだぜ。」
「はぁ…でも、ピンとこないんですよ。寧ろ、目の前の弟久住さんと、血縁だと言うほうがリアルなんで…。」
「なんだかお前と話していると、あんなに悩んで来たのがバカバカしく思えるぜ。」
・
・
・
本当だ、本当にバカバカしい話。
例え、弟久住さんの言っている通りだとしても、でも18年近く会っていない人を、父だとは思えない。きっと…向こうも私を娘だとは思っていないはず、18年も音沙汰無しなんだもの。
関係ない、私には関係ない。父親がどんな人であろうが関係ない。
私には母だけだ。だから…そう、だから…
「だから…もし…そうであったとしても…」
「えっ?」
「もし、そうであったとしても、母を捨てた人を父だとは思いたくありません。」
「…高宮 」
「じゃぁ、帰ります。」
「ちょ、ちょ、待て!なに突然、スイッチが入ってんだよ。驚いたじゃないか。」
と言って慌てて、私の前を立ち塞がった弟久住さんは、大きく息を吐いて
「高宮。俺はお前なら、そう言うんじゃないかと思ったんだ。だから…来たんだ。」
「どういう意味ですか?」
「久住の婆様が…お前を調べるために動き出した。」
「はぁ?」
「なぜ、お前を調べようと思ったのかはわからないが、だが婆様がお前の出生を知れば、俺の婚約者を由梨奈から、お前に変えようとするだろう。」
「はっ?!はぁぁ~!!!」
「由梨奈の父親を特捜が内偵しているようだと、一部の財界人の間でそんな噂があがっているんだ。」
「由梨奈さんのお父さんに…ですか?」
「あぁ…名門の家系に拘る婆様が、例え逮捕されなくても、疑いをかけられたと言うことで、桐谷家を、いや由梨奈を切る可能性はある。ましてや、久住の血とウッドフォード国の王家の血をひくお前に気づけば…必ずだ。」
「…冗談ですよね?」
「…そう言ってやりたいが…」と言って、弟久住さんは私を見据えた。
「じょ、冗談じゃない!自分の結婚相手は自分の目で選んだ、す、好きな人とするんだもん!」
「兄貴か?」
「えっ?」
「久住 樹が好きなんだろう?」
弟久住さんはそう言って、一歩私に近づくと、また…
「久住 樹が好きなんだろう?だが、兄貴は、由梨奈にまだ惚れてる。」
その眼の鋭さに、言葉を返す事ができず、私は逃げるように一歩後ろへと下がった。
呟くようにしか言えない言葉に…
行き場のない言葉に…
俺はベランダから、一番煌く町の灯りに向かって叫んだ。
「俺は!君が好きだ!」
手すりにもたれ、町の煌く灯りから、天上の煌きに眼を移し、噛み締めるように言った。
「…好きなんだ。」
でも俺が側にいることで、葉月ちゃんを危険に晒すのなら…離れるしかない。
離れるしか…ないんだ。
秋継が何か感じたことで、足元が危うくなってしまったかもしれないのなら尚更だ。だが、離れるその前に、危険になるような芽は摘んでおきたい。
秋継は葉月ちゃんを見て、知っている人に似ていると言った…いったい誰に?
まさか、葉月ちゃんの両親に会ったことが…あるのか?
いや…葉月ちゃんの父親は、小国とはいえ王家の人間だ。いくら久住家でも、そう簡単に会えないだろう。でも昔からの知人なら、ありえるかも知れない。だが、もし会っていたとしても、葉月ちゃんの父親が、日本に留学していた頃は、まだ秋継が小学生ぐらいだ、知人と言える間柄になるとは到底思えない。
でも誰かに…連れられて…
そしてその誰かが、ウッドフォード国の王家と…旧知の間柄だったなら…
ひとりしかいない……婆様だ。
まだ、気づいていないようだったが、間違いなくあの婆様ならいずれ気づく。
くそっ!
焦るな、まず確かめよう。
俺は、もう一度花見中央駅辺りに眼をやり
「必ず守る。守ることが…」
だがそれから先の言葉は、もう…言えなかった。
溢れそうな思いを止める様に、俺は唇を噛むと、養父の部屋へと足を向けた。
養父なら、知っているはずだ。
ウッドフォード国の王家と…久住との関係を…
*****
唖然としていた私に、弟久住さんは呆れたように
「お前、俺が何を言っているのか、理解していないようだな。」
「…確かにウエンディと呼ぶ金髪で、青い眼の人がいたことは覚えていますけど、私を呼んでいたのか、違う人を呼んでいたのか…わからないから…だから…父とは限りません。」
「でもな、金髪の男が苦笑気味に【やっぱり、Wendyは言いづらい?でも、ウッドフォード国に行ったら、兄には葉月という発音は難しいから、Wendyで頼むよ。弥生。】と言ったんだぜ。」
「でも、わかりません!私の名前の葉月と、母の名前の弥生を言っていたその人が…その金髪の男性が弟久住さんの言っている通りだとしても…。そうだとしても…。でも!それがなぜ、ウッドフォード国の王妃になった久住家の人と、私が似ているんですか?!」
「それはお前の父親が…王家の人間だからだよ。」
えっ?おうけ?OK(おーけー)…?
「おまえ…下らない事を考えているだろう。顔が…変だ。」
「…もともと、こんな顔ですよ。」
「はぁぁ…お前って奴は…面倒な奴だなぁ。いいか、お前にとって高祖母(祖父母の祖母)久住 桂子は、お前の父親にとっては、曽祖母(祖父母の母)なんだ!と、俺は言ってるんだよ!」
「あの…系図が…よくわからないです。」
「ふぅ…要するに、ウッドフォード国王の王妃となった久住 桂子は、お前から見れば、4代前の婆ちゃんだと言ってるんだ。」
「えっ?じゃぁ…私の父親はもしかして王様?!……いやないです。それって人違いですよ。私の母親はごく普通の日本人。そのごく普通の日本人が、どこで王様になるような人と知り合うんですか?うち、めちゃめちゃ貧乏だったんですよ。まったく接点がないです。もう、冗談はやめてください。もし本当だったら、すっ~ごく薄いけど、弟久住さんと血の繋がりがあるってことじゃないですか!!ゲェ~ほんと!やめてください!」
「お前なぁ…。なんか論点がずれてきてるぞ。それって、俺と血の繋がりがあるって言うのが、嫌だと言っているだけじゃないか!…面白くねぇけど…いいよ……でもなぁ、ここは父親がウッドフォード国の王家の人間と言うところを気にするべきだろう?!大事なところだぜ。」
「はぁ…でも、ピンとこないんですよ。寧ろ、目の前の弟久住さんと、血縁だと言うほうがリアルなんで…。」
「なんだかお前と話していると、あんなに悩んで来たのがバカバカしく思えるぜ。」
・
・
・
本当だ、本当にバカバカしい話。
例え、弟久住さんの言っている通りだとしても、でも18年近く会っていない人を、父だとは思えない。きっと…向こうも私を娘だとは思っていないはず、18年も音沙汰無しなんだもの。
関係ない、私には関係ない。父親がどんな人であろうが関係ない。
私には母だけだ。だから…そう、だから…
「だから…もし…そうであったとしても…」
「えっ?」
「もし、そうであったとしても、母を捨てた人を父だとは思いたくありません。」
「…高宮 」
「じゃぁ、帰ります。」
「ちょ、ちょ、待て!なに突然、スイッチが入ってんだよ。驚いたじゃないか。」
と言って慌てて、私の前を立ち塞がった弟久住さんは、大きく息を吐いて
「高宮。俺はお前なら、そう言うんじゃないかと思ったんだ。だから…来たんだ。」
「どういう意味ですか?」
「久住の婆様が…お前を調べるために動き出した。」
「はぁ?」
「なぜ、お前を調べようと思ったのかはわからないが、だが婆様がお前の出生を知れば、俺の婚約者を由梨奈から、お前に変えようとするだろう。」
「はっ?!はぁぁ~!!!」
「由梨奈の父親を特捜が内偵しているようだと、一部の財界人の間でそんな噂があがっているんだ。」
「由梨奈さんのお父さんに…ですか?」
「あぁ…名門の家系に拘る婆様が、例え逮捕されなくても、疑いをかけられたと言うことで、桐谷家を、いや由梨奈を切る可能性はある。ましてや、久住の血とウッドフォード国の王家の血をひくお前に気づけば…必ずだ。」
「…冗談ですよね?」
「…そう言ってやりたいが…」と言って、弟久住さんは私を見据えた。
「じょ、冗談じゃない!自分の結婚相手は自分の目で選んだ、す、好きな人とするんだもん!」
「兄貴か?」
「えっ?」
「久住 樹が好きなんだろう?」
弟久住さんはそう言って、一歩私に近づくと、また…
「久住 樹が好きなんだろう?だが、兄貴は、由梨奈にまだ惚れてる。」
その眼の鋭さに、言葉を返す事ができず、私は逃げるように一歩後ろへと下がった。
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
皇太子殿下の秘密がバレた!隠し子発覚で離婚の危機〜夫人は妊娠中なのに不倫相手と二重生活していました
window
恋愛
皇太子マイロ・ルスワル・フェルサンヌ殿下と皇后ルナ・ホセファン・メンテイル夫人は仲が睦まじく日々幸福な結婚生活を送っていました。
お互いに深く愛し合っていて喧嘩もしたことがないくらいで国民からも評判のいい夫婦です。
先日、ルナ夫人は妊娠したことが分かりマイロ殿下と舞い上がるような気分で大変に喜びました。
しかしある日ルナ夫人はマイロ殿下のとんでもない秘密を知ってしまった。
それをマイロ殿下に問いただす覚悟を決める。
私はただ一度の暴言が許せない
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。
花婿が花嫁のベールを上げるまでは。
ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。
「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。
そして花嫁の父に向かって怒鳴った。
「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは!
この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。
そこから始まる物語。
作者独自の世界観です。
短編予定。
のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。
話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。
※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です!
※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。
ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。
今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、
ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。
よろしくお願いします。
※9/27 番外編を公開させていただきました。
※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。
※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。
※10/25 完結しました。
ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。
たくさんの方から感想をいただきました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる