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1章 葉月と樹
葉月・・・理解できなかった。
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「…おい。」
私の目の前に、差し出された紙袋。
「やる。」
「いらない。」
「やるって言ったらやる。」
「いらないって言ったら、いらない。」
「やる!」
「いらないって言ってるでしょう!い・ら・な・い。」
「ど、どうしろって言うんだよ。お、お、男の俺に…どうしろって言うんだよ。」
「…う~ん。」
「マジ、考えんなよ!」
・
・
・
睨みあう、弟久住さんと私に、盛大な溜め息を吐いて、丸山君が
「あの葉月さん、そしてお客さん。レジの前で…痴話げんかは営業妨害なんですが。」
「「痴話げんか?!」」
「「違う!」」
「ハァ~そこに食いつくんですか?!…そこはいいんです!とにかく迷惑!」
「だって!弟久住さんが…」
「なんで俺なんだよ。」
「いい加減にしてください!…いいんですか、葉月さん?」
「何が…丸山君…?」
「今月…二度続けて、葉月さん発注を間違えましたよね。その時、店長になって言いましたっけ?」
「あぁ!…ま、また発注ミスを起こしたら…」
丸山君は顔の前で、大きなバツを作り
「ブッー!正解はこう言ったんです!【今度、お店に迷惑をかけましたら、首にしてください。ですからどうか店長!!目を瞑っていただけませんか?】と言ってました。」
「で、で、です。」
「えっと…今は何時だ?もう…店長が入る時間じゃないかなぁ…。」
「…丸山君。」
「わかりましたよね。」
なかなか返事をしない私に、丸山君が右手で首を切る真似をした。
私は唾を飲みこむと、情けない声で
「は、はい。」と返事をすると、丸山君は頷きながら弟久住さんに目をやり
「お客様も葉月さんを首にしたくなければ…あと1時間で終わるので、どうぞ、お・み・せ・の・外で、お待ち頂けると助かります。」
「ぁ、はい。すみません…。」
「では、よろしくお願いします。」
「「……はい。」」
*****
いるのかなぁ…
裏口を伺いながら、顔を出すとぶーたれた声が聞こえてきた。
「…おつかれさん…」
「いたんですか…」
「あぁ…」
一時間後、コンビニの裏口に弟久住さんは待っていた。
いた。
どうして…いるの?
あっ?!そうだよ。そもそもなんで私がここにいるって知ってるの?
そう思ったら、またムカムカ、イライラしてきた。
「どうしてですか?!なんで私がここにいるって知っているんですか?!」
「知らべた…。」
「はぁ?!」
「ちょっと、話をしたかったんだよ。」
「…話しましたよね…今!じゃぁ、さようなら。」
「ちょっと、待て!」
えっ!腕を捕まれたよ。し、しつこい!なんなの。もうこうなったら、
私は大声を出すべく、大きく息を吸ったら、何をするか感づいた弟久住さんに、大きな手で口を塞がれた。
「待て!とにかく待て!話がしたいんだ。」
「わぁうあがおふぉえれぃう!」
「騒ぐなよ。頼むよ。手を離すから…大声を上げるなよ。」
弟久住さんの焦って青くなった顔と…捨てることなく、律儀に反対の手に持っている例の紙袋に…免じて、ゆっくりと頷いてやると、ホッとした顔で
「今日は…いや昨日から、は…づ…、高宮には悪いことをしたと、おも…おも、思ってる。だから…」
謝っているのか、これは?ハァ~謝りなれていない人の謝り方は…まどろっこしい、
「もう、いいですよ。悪いと思っているんなら、もういいです。」
「そ、そうか?!お前が良いなら、もう謝らないからなぁ。」
「いや、なに強気なその言い方!」
「…だって…もういいんだろう。だったら…」
「ハァ~もう帰ります。じゃぁ、さよなら。」
「あっ!ま、待て!」
「なんなんですか?!もういいって言ったじゃないですか。」
「もう少し、話せないか?お前の…親父について」
「お父さんの事?」
「高宮、お前は父親の事は知らないって言っていたよな。」
「はい。」
「俺さ、お前の親父を知ってる。」
「…知っている?どうしてですか?」
「俺、会ったことがあるんだよ。お前の両親とそして…お前に。」
「会った…?」
「あぁ、当時6歳だった俺は、婆様に連れられてどこかのホテルに行ったんだ。あの頃から婆様は俺をいろんなところに連れて行っては、いろんな人に会わせていたんだけど、毎回爺さんや婆さんばっかで、退屈で堪らなかったんだ。だけど…あの日、小さな女の子を連れた若い男女だったことや…男の方が金髪で青い瞳だったから、今でも覚えている。」
「でも…それって、それって私だとは言えないわ。」
弟久住さんは、静かに頭を横に振り
「俺、思い出したんだよ。久住では、俺より下の子供なんていなかったから、小さな女の子が珍しくて、その子にちょっかいを出していたら泣き出してな。だけど、その子の母親がにっこり笑って【ごめんね。葉月は泣き虫なのよ。】と言ってたんだよ。いや、それだけじゃないんだ。金髪の男が苦笑気味に【やっぱり、Wendyは言いづらい?でも、ウッドフォード国に行ったら、兄には葉月という発音は難しいから、Wendyで頼むよ。弥生。】と…言ったことをな。」
『ウェンディ』
覚えているのはその声と鮮やかな色。
それは金色と…青い色。
ただ…息が苦しくて、頭を横に振った。
でも、私以上に弟久住さんは、苦しそうに声を絞り出し
「昨日に高宮に会った時、誰かに似ていると思ったのは…その時会った女の子に似ていると言っているわけじゃないんだ。そのホテルに行く前に、スゲェーご機嫌な婆様から見せられた古い一枚の写真に…今のお前がそっくりなんだよ。」
「写真?」
「あぁ、そうだ。」
そう言って、弟久住さんは唇を舐め、
「その写真の女性は…久住 桂子。後にウッドフォード国の王妃になったと聞いた。」
何を言われたのか…さっぱり理解できなかった。
私の目の前に、差し出された紙袋。
「やる。」
「いらない。」
「やるって言ったらやる。」
「いらないって言ったら、いらない。」
「やる!」
「いらないって言ってるでしょう!い・ら・な・い。」
「ど、どうしろって言うんだよ。お、お、男の俺に…どうしろって言うんだよ。」
「…う~ん。」
「マジ、考えんなよ!」
・
・
・
睨みあう、弟久住さんと私に、盛大な溜め息を吐いて、丸山君が
「あの葉月さん、そしてお客さん。レジの前で…痴話げんかは営業妨害なんですが。」
「「痴話げんか?!」」
「「違う!」」
「ハァ~そこに食いつくんですか?!…そこはいいんです!とにかく迷惑!」
「だって!弟久住さんが…」
「なんで俺なんだよ。」
「いい加減にしてください!…いいんですか、葉月さん?」
「何が…丸山君…?」
「今月…二度続けて、葉月さん発注を間違えましたよね。その時、店長になって言いましたっけ?」
「あぁ!…ま、また発注ミスを起こしたら…」
丸山君は顔の前で、大きなバツを作り
「ブッー!正解はこう言ったんです!【今度、お店に迷惑をかけましたら、首にしてください。ですからどうか店長!!目を瞑っていただけませんか?】と言ってました。」
「で、で、です。」
「えっと…今は何時だ?もう…店長が入る時間じゃないかなぁ…。」
「…丸山君。」
「わかりましたよね。」
なかなか返事をしない私に、丸山君が右手で首を切る真似をした。
私は唾を飲みこむと、情けない声で
「は、はい。」と返事をすると、丸山君は頷きながら弟久住さんに目をやり
「お客様も葉月さんを首にしたくなければ…あと1時間で終わるので、どうぞ、お・み・せ・の・外で、お待ち頂けると助かります。」
「ぁ、はい。すみません…。」
「では、よろしくお願いします。」
「「……はい。」」
*****
いるのかなぁ…
裏口を伺いながら、顔を出すとぶーたれた声が聞こえてきた。
「…おつかれさん…」
「いたんですか…」
「あぁ…」
一時間後、コンビニの裏口に弟久住さんは待っていた。
いた。
どうして…いるの?
あっ?!そうだよ。そもそもなんで私がここにいるって知ってるの?
そう思ったら、またムカムカ、イライラしてきた。
「どうしてですか?!なんで私がここにいるって知っているんですか?!」
「知らべた…。」
「はぁ?!」
「ちょっと、話をしたかったんだよ。」
「…話しましたよね…今!じゃぁ、さようなら。」
「ちょっと、待て!」
えっ!腕を捕まれたよ。し、しつこい!なんなの。もうこうなったら、
私は大声を出すべく、大きく息を吸ったら、何をするか感づいた弟久住さんに、大きな手で口を塞がれた。
「待て!とにかく待て!話がしたいんだ。」
「わぁうあがおふぉえれぃう!」
「騒ぐなよ。頼むよ。手を離すから…大声を上げるなよ。」
弟久住さんの焦って青くなった顔と…捨てることなく、律儀に反対の手に持っている例の紙袋に…免じて、ゆっくりと頷いてやると、ホッとした顔で
「今日は…いや昨日から、は…づ…、高宮には悪いことをしたと、おも…おも、思ってる。だから…」
謝っているのか、これは?ハァ~謝りなれていない人の謝り方は…まどろっこしい、
「もう、いいですよ。悪いと思っているんなら、もういいです。」
「そ、そうか?!お前が良いなら、もう謝らないからなぁ。」
「いや、なに強気なその言い方!」
「…だって…もういいんだろう。だったら…」
「ハァ~もう帰ります。じゃぁ、さよなら。」
「あっ!ま、待て!」
「なんなんですか?!もういいって言ったじゃないですか。」
「もう少し、話せないか?お前の…親父について」
「お父さんの事?」
「高宮、お前は父親の事は知らないって言っていたよな。」
「はい。」
「俺さ、お前の親父を知ってる。」
「…知っている?どうしてですか?」
「俺、会ったことがあるんだよ。お前の両親とそして…お前に。」
「会った…?」
「あぁ、当時6歳だった俺は、婆様に連れられてどこかのホテルに行ったんだ。あの頃から婆様は俺をいろんなところに連れて行っては、いろんな人に会わせていたんだけど、毎回爺さんや婆さんばっかで、退屈で堪らなかったんだ。だけど…あの日、小さな女の子を連れた若い男女だったことや…男の方が金髪で青い瞳だったから、今でも覚えている。」
「でも…それって、それって私だとは言えないわ。」
弟久住さんは、静かに頭を横に振り
「俺、思い出したんだよ。久住では、俺より下の子供なんていなかったから、小さな女の子が珍しくて、その子にちょっかいを出していたら泣き出してな。だけど、その子の母親がにっこり笑って【ごめんね。葉月は泣き虫なのよ。】と言ってたんだよ。いや、それだけじゃないんだ。金髪の男が苦笑気味に【やっぱり、Wendyは言いづらい?でも、ウッドフォード国に行ったら、兄には葉月という発音は難しいから、Wendyで頼むよ。弥生。】と…言ったことをな。」
『ウェンディ』
覚えているのはその声と鮮やかな色。
それは金色と…青い色。
ただ…息が苦しくて、頭を横に振った。
でも、私以上に弟久住さんは、苦しそうに声を絞り出し
「昨日に高宮に会った時、誰かに似ていると思ったのは…その時会った女の子に似ていると言っているわけじゃないんだ。そのホテルに行く前に、スゲェーご機嫌な婆様から見せられた古い一枚の写真に…今のお前がそっくりなんだよ。」
「写真?」
「あぁ、そうだ。」
そう言って、弟久住さんは唇を舐め、
「その写真の女性は…久住 桂子。後にウッドフォード国の王妃になったと聞いた。」
何を言われたのか…さっぱり理解できなかった。
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