42 / 67
1章 葉月と樹
樹・・・決める。
しおりを挟む
なにか…ある。
理香さんの腰を引き寄せると、理香さんはギョッとした顔で俺を見た。
やっぱり…
俺は理香さんの耳元に唇を寄せ
「いったい、誰に見せようとしてるんですか?」
「決まってるじゃないか…」と言って、理香さんは俺の頬にキスをした。
俺はハッとして
「由梨奈に見せるためですか…」
「あの角度から見たら、唇にキスしたように見えただろうな。」
慌てて、振り向こうとした俺を理香さんの手が止め
「ゆっくりだ。振り返るなら、ゆっくりとやれよ。」
俺は、その忠告に顔を歪めて軽く頷き、ゆっくりと後ろを振り返ると、青い着物の後姿が見えた。
小さく息を吐いた俺に、理香さんは
「なにがあった。あたしのキスの意図は読めても、お嬢様のキスはなぜ避けることさえできなかったんだ。」
「…それは…」
「プライバシーを守ってやるのはいい。だがな、お前が10年前の恋を終わらせると言うことは、あのお嬢様を自由にしてやる事だと思っているようだが…あのお嬢様には伝わっているようには、見えないぜ。」
「どういう意味ですか?」
「なぁ…あのお嬢様は、10年前のお前にまだ恋をしている。意味はわかるだろう。」
「俺という幻に…」
「そうだ。あの甘甘のお嬢様は、あの頃のお前を今のお前の中に、必死で探しているって感じだ。10年前に、ガキのお前についてゆけないと判断するのはしょうがない。あたしだってわかるさ。未来なんぞまったく見えねぇもんな。だがなぁ、先に自分の立場を確保し…お前がこの家から追い出されようとしているのを、ただ見ているだけで助けようとはしなかった。自分を金づるだと思っている家族ほうが大事だったというのか?なら惚れた男は、どうなんだよ。ふざけんなよ。付いて行けないのなら、その後の樹の立場を守ってやるのが、惚れた男への愛だろう。なのに、そのあとはしらんぷり…それはないだろう。ちゃんと教えてやれ。恋は生ものだ、ここぞという時に、手に入れないと、得ることはできないとな。」
理香さんの意見は過激だが…言えてる。
自分たちで終わらせた恋じゃない、だから恋は…そのときの思いは…そのままだと思っていた。だがそれから10年、自ら動かなかったのなら…もうすでにあの時に…、
終わっていた。
そうだ…終わっていた。
あらためて…そう思った。
「お前は、ちゃんと整理していた。だけど…優しすぎるお前は、自分とお嬢様の立場を重ねて、助けてやりたいと思う心が、まだ恋だと勘違いしていると…この理香さんはすぐにわかったよ。お前自身もわかっただろう。だからふたりで会っても、心は恋と言う熱に揺れなかっただろう?」
俺は静かに頷いた。
「だから、お前の唇にルージュが付いていても、心配はしていなかった。マヌケな野郎だとは思ったがな。でも、このままでは厄介だ、あのお嬢様はあたしが樹に恋人じゃないと鼻から思っていたからな。見せておかないと…あたしという女がすでにいるとな。もうお前にすがるのは止めさせる。あのお嬢さんのことを早く片付けたいんだよ。お前に葉月を守って欲しいんだ。ボンボンが葉月に興味を持っているし、葉月の秘密に気が付きそうでヤバイ。いやボンボンの後ろにいる婆さんに、葉月の事を気づかれたら…あの婆さんは必ず出てくる。葉月を利用しようとしてくるだろう。それだけじゃない、ウッドフォード国だ。セオドール陛下の考えが、はっきりとわからない状況の中だが、セオドール陛下がイーニアス殿下の息子、ワイアット王子との婚姻を認めるとは思えない。だが…どういう形でかはわからないが、いずれイーニアス殿下は動くことは目に見えている。そうなったら、あたしや大吾だけでは難しい、お前がいてくれなくちゃ…。だから…敢えてもう一度聞く。」
理香さんは厳しい顔で
「何があった。お前があのお嬢様のキスを避けきれないほど、動揺した出来事はなんだ。」
理香さんの厳しい顔に、俺は視線を逸らさず見つめた。
俺は10年前の恋に、きちんとけじめをつけたい。それは…由梨奈をこの久住から出してやる事だ。
だがそれは…10年前の俺にまだ恋をしている由梨奈に、俺ひとりが絡むと、うまく行かないだろう。
理香さんは、葉月ちゃんを守りたいから、葉月ちゃんの秘密を俺に言ったように、由梨奈を久住から、そして10年前の恋から出してやりたいのなら、由梨奈の病気の事を言って、理香さんに力を貸してもらうのが最善ではないだろうか。
そうだ…それしかない。だから…
「…由梨奈を助けるために…力を貸してください。」と頭を下げた。
「樹…。お前は…優しすぎる。そこがお前のいい所だが…お前を好きな女にはキツイよな。そんな言葉を葉月が聞いたら…」
「葉月ちゃんが…聞いたらって…どういう意味ですか?」
「あぁ…今日はあたしは失敗ばっかりだ。」と言って空を仰ぎ
「なぁ…樹。」
「はい。」
「お前…葉月より鈍い。」
「えっ?!」
そう言って、理香さんは広間へと歩き出したが、振り返り
「明日、事務所に来てくれ。何時でもいいから…時間がわかるようだったら、連絡をくれ。その時に聞かせろ。あのお嬢様は29だろう…どんだけアマちゃんなんだよ。あたしはそういうのは嫌いなんだよ。10年前にもうすでに終わった恋なのに、いつまでも、いや、より美しくして飾り立てた恋にしてひとり酔って…マジ、ダサイ!酔うのなら酒だろう!」
と言って、俺に軽く手を上げ
「せっかく良い酒が揃ってんだ、飲みまくってから、引き上げる。明日…待ってるぞ。」
理香さん…あなたこそ、優しい。
俺に時間をくれたんでしょう。
でも、大丈夫です。なにが最善か、わかっています。
俺は…逃げない。もう逃げない。この10年逃げ続けていた恋に終止符を打ち、辛くて、悲しくてたまらないだけだったの恋を…幸せだった恋に変える。そういう思い出に変える。
そして背中を押してくれた葉月ちゃんに…
俺の初恋は10年前の17歳の頃なんだと…少し恥しいけど話すんだ。いや話せるようになるんだ。
理香さんの腰を引き寄せると、理香さんはギョッとした顔で俺を見た。
やっぱり…
俺は理香さんの耳元に唇を寄せ
「いったい、誰に見せようとしてるんですか?」
「決まってるじゃないか…」と言って、理香さんは俺の頬にキスをした。
俺はハッとして
「由梨奈に見せるためですか…」
「あの角度から見たら、唇にキスしたように見えただろうな。」
慌てて、振り向こうとした俺を理香さんの手が止め
「ゆっくりだ。振り返るなら、ゆっくりとやれよ。」
俺は、その忠告に顔を歪めて軽く頷き、ゆっくりと後ろを振り返ると、青い着物の後姿が見えた。
小さく息を吐いた俺に、理香さんは
「なにがあった。あたしのキスの意図は読めても、お嬢様のキスはなぜ避けることさえできなかったんだ。」
「…それは…」
「プライバシーを守ってやるのはいい。だがな、お前が10年前の恋を終わらせると言うことは、あのお嬢様を自由にしてやる事だと思っているようだが…あのお嬢様には伝わっているようには、見えないぜ。」
「どういう意味ですか?」
「なぁ…あのお嬢様は、10年前のお前にまだ恋をしている。意味はわかるだろう。」
「俺という幻に…」
「そうだ。あの甘甘のお嬢様は、あの頃のお前を今のお前の中に、必死で探しているって感じだ。10年前に、ガキのお前についてゆけないと判断するのはしょうがない。あたしだってわかるさ。未来なんぞまったく見えねぇもんな。だがなぁ、先に自分の立場を確保し…お前がこの家から追い出されようとしているのを、ただ見ているだけで助けようとはしなかった。自分を金づるだと思っている家族ほうが大事だったというのか?なら惚れた男は、どうなんだよ。ふざけんなよ。付いて行けないのなら、その後の樹の立場を守ってやるのが、惚れた男への愛だろう。なのに、そのあとはしらんぷり…それはないだろう。ちゃんと教えてやれ。恋は生ものだ、ここぞという時に、手に入れないと、得ることはできないとな。」
理香さんの意見は過激だが…言えてる。
自分たちで終わらせた恋じゃない、だから恋は…そのときの思いは…そのままだと思っていた。だがそれから10年、自ら動かなかったのなら…もうすでにあの時に…、
終わっていた。
そうだ…終わっていた。
あらためて…そう思った。
「お前は、ちゃんと整理していた。だけど…優しすぎるお前は、自分とお嬢様の立場を重ねて、助けてやりたいと思う心が、まだ恋だと勘違いしていると…この理香さんはすぐにわかったよ。お前自身もわかっただろう。だからふたりで会っても、心は恋と言う熱に揺れなかっただろう?」
俺は静かに頷いた。
「だから、お前の唇にルージュが付いていても、心配はしていなかった。マヌケな野郎だとは思ったがな。でも、このままでは厄介だ、あのお嬢様はあたしが樹に恋人じゃないと鼻から思っていたからな。見せておかないと…あたしという女がすでにいるとな。もうお前にすがるのは止めさせる。あのお嬢さんのことを早く片付けたいんだよ。お前に葉月を守って欲しいんだ。ボンボンが葉月に興味を持っているし、葉月の秘密に気が付きそうでヤバイ。いやボンボンの後ろにいる婆さんに、葉月の事を気づかれたら…あの婆さんは必ず出てくる。葉月を利用しようとしてくるだろう。それだけじゃない、ウッドフォード国だ。セオドール陛下の考えが、はっきりとわからない状況の中だが、セオドール陛下がイーニアス殿下の息子、ワイアット王子との婚姻を認めるとは思えない。だが…どういう形でかはわからないが、いずれイーニアス殿下は動くことは目に見えている。そうなったら、あたしや大吾だけでは難しい、お前がいてくれなくちゃ…。だから…敢えてもう一度聞く。」
理香さんは厳しい顔で
「何があった。お前があのお嬢様のキスを避けきれないほど、動揺した出来事はなんだ。」
理香さんの厳しい顔に、俺は視線を逸らさず見つめた。
俺は10年前の恋に、きちんとけじめをつけたい。それは…由梨奈をこの久住から出してやる事だ。
だがそれは…10年前の俺にまだ恋をしている由梨奈に、俺ひとりが絡むと、うまく行かないだろう。
理香さんは、葉月ちゃんを守りたいから、葉月ちゃんの秘密を俺に言ったように、由梨奈を久住から、そして10年前の恋から出してやりたいのなら、由梨奈の病気の事を言って、理香さんに力を貸してもらうのが最善ではないだろうか。
そうだ…それしかない。だから…
「…由梨奈を助けるために…力を貸してください。」と頭を下げた。
「樹…。お前は…優しすぎる。そこがお前のいい所だが…お前を好きな女にはキツイよな。そんな言葉を葉月が聞いたら…」
「葉月ちゃんが…聞いたらって…どういう意味ですか?」
「あぁ…今日はあたしは失敗ばっかりだ。」と言って空を仰ぎ
「なぁ…樹。」
「はい。」
「お前…葉月より鈍い。」
「えっ?!」
そう言って、理香さんは広間へと歩き出したが、振り返り
「明日、事務所に来てくれ。何時でもいいから…時間がわかるようだったら、連絡をくれ。その時に聞かせろ。あのお嬢様は29だろう…どんだけアマちゃんなんだよ。あたしはそういうのは嫌いなんだよ。10年前にもうすでに終わった恋なのに、いつまでも、いや、より美しくして飾り立てた恋にしてひとり酔って…マジ、ダサイ!酔うのなら酒だろう!」
と言って、俺に軽く手を上げ
「せっかく良い酒が揃ってんだ、飲みまくってから、引き上げる。明日…待ってるぞ。」
理香さん…あなたこそ、優しい。
俺に時間をくれたんでしょう。
でも、大丈夫です。なにが最善か、わかっています。
俺は…逃げない。もう逃げない。この10年逃げ続けていた恋に終止符を打ち、辛くて、悲しくてたまらないだけだったの恋を…幸せだった恋に変える。そういう思い出に変える。
そして背中を押してくれた葉月ちゃんに…
俺の初恋は10年前の17歳の頃なんだと…少し恥しいけど話すんだ。いや話せるようになるんだ。
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
貴妃エレーナ
無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」
後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。
「急に、どうされたのですか?」
「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」
「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」
そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。
どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。
けれど、もう安心してほしい。
私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。
だから…
「陛下…!大変です、内乱が…」
え…?
ーーーーーーーーーーーーー
ここは、どこ?
さっきまで内乱が…
「エレーナ?」
陛下…?
でも若いわ。
バッと自分の顔を触る。
するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。
懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる